他のメルマガ・コラムに比べてマニアック過ぎると大変好評(!)の「安全管理のコラム」ですが,この路線で邁進する所存であります。
 今月は「なぜなぜ分析」について。トヨタ自動車が行なっていることで有名です。「なぜ?」を5回くりかえして,事故やヒヤリハットの原因を深掘りするというもので,英語でも「5Why」と呼ばれています。

 「なぜなぜ分析」でよく紹介されるのはある生産工場で「機械が止まった」という事例です。

  なぜ?(1回目)→「機械に強すぎる力がかかった」
  なぜ?(2回目)→「軸の潤滑が十分でなかった」
  なぜ?(3回目)→「ポンプが潤滑油を汲み上げてなかった」
  なぜ?(4回目)→「ポンプの部材が摩耗してガタガタだった」
  なぜ?(5回目)→「金属の切り粉が潤滑油に入っていた」
  では対策は?→「潤滑油系にろ過器を設置する」

というものです。1回目から4回目のなぜ?の段階で対策を考えてしまうと,部材やポンプの交換など安易な対症療法になり近いうちに再発してしまいます。なぜ?を5回くりかえしたことで「ろ過器の設置」という,より長持ちする対策にたどり着くことができた,というものです。

 里山保全活動や自然体験の最中の事故やヒヤリハットについても「なぜ?」を複数回くりかえして,原因を深掘りすることは効果的だと思います。けれど,うーん,あんまりうまくいかないこともあります。

 うまくいかないこともある理由の一つは,野外活動での事故やヒヤリハットはいろんな要素や原因が重なって起きるから,ではないかと思っています。例えば「ナタで左手を切った」事例に対しては,

 なぜ?(1回目)→「初心者がナタを使った」,「指導者が見過ごした」,
          「(使わない予定の)ナタを見える場所に置いた」,
          「直前の雨で材が濡れていた」,「時間不足で急いでいた」,,,

…など,いろんな原因が考えられ,続く2回目のなぜ?では,それぞれの原因にさらに複数の原因が考えられ…とツリー状に枝葉が広がっていきます。上記の機械が止まった事例のように一列に因果関係が並ばないのでややこしいですね。団扇のホネや葉っぱの葉脈のように広がっていくもんだとあきらめた上で,紙やホワイトボードに書き出しながら整理するのがよいと思います。

 うまくいかないこともあるもう一つの理由は,わりとヒューマンエラー(人によるミス)だからではないでしょうか。上記の「初心者がナタを使った」「指導者が見過ごした」などに対して「なぜ初心者なのに使ったのか?」「なぜそれを見過ごしたのか?」と本人に問いかけるのも,問いかけられるのも両方キツイ(笑)。起こしたミスへの向き合い方や,活動へのモチベーションは人によって違います。言い訳したり,自己嫌悪に陥ったりということもあるでしょうし,そんな状態でなぜ?をくりかえすのもなかなかできません…。
 ヒューマンエラーにたどり着いた場合,無理に「なぜ?」をくりかえさずに「対策」に移った方がよい場合も多いと感じています。対策の方向性も「A.どうすればそのヒューマンエラーが起きないか?」「B.そのヒューマンエラーが起きても大丈夫にするには?」の二つあります。

 「初心者がナタを使った」
   →×「なぜ,初心者なのにナタを使ったのか?」
   →A「どうすれば,初心者が(誤って)ナタを使わなくなるか?」
   →A「どうすれば,ナタの経験を積むことができるか?」
   →B「経験不足でナタを使っても,手を切らずに済むには?」

 「指導者が見過ごした」
   →×「なぜ,見過ごしたのか?」
   →A「どうすれば,見過ごさないか?」
   →B「指導者が見過ごしても,手を切らずに済むには?」

 「ナタを見える場所に置いた」
   →×「なぜ,見える場所に置いたのか?」
   →A「どうすれば,見える場所に置かないようになるか?」
   →B「見える場所に置いても,手を切らずに済むには?」

 「なぜなぜ分析」はすぐれた手法ですが「なぜ?」という問いは人の責任を追及しがちです。人は必ずエラーを起こしますし,機械の部品のように交換するものでもありません。そのエラーを減らす or 見過ごさない or 起きても大丈夫にする仕組みを作っていけたらいいと思います。