市民の板書術

グリーンシティ福岡は人と自然をむすぶ「対話」と「体験」の場づくりを行います。特に「対話」の場づくりである会議やワークショップの運営では「ファシリテーショングラフィック(板書)」を活用しています。
理事の志賀が,NPOや市民活動だけでなく,職場の会議や町内会,住民参加のワークショップなどの場面を想定して,板書の技術や考え方をまとめていきます。

市民の板書術(22)「漢字が書けないんです」2019.03.

板書の講座で「漢字が書けないんです」とお悩みをいただくことがあります。
告白すると私こそ子どもの頃から漢字が苦手なので,この件に関してはどうにも自信がありません…(笑)。

板書で漢字が書けなかったことで一番の失敗談は,大学院生だった2000年頃のこと。住民参加のまちづくりでご高名なE先生をお招きしてのパネルディスカションです。聴衆は100名か200名くらい。私は模造紙を何枚か貼り合わせて板書をしていました。終盤までいい感じに書けていたと思います。ディスカッションの最後はE先生のまとめ。よりによって住民参加のまちづくりにちなんだオリジナルの四字熟語をいくつも挙げてその意図を説明していくというものでした。板書役の私はあやふやな漢字を書いたり,思い出せない字がちょいちょい出てきたりで,E先生や他のパネラー,聴衆からも「○○の字だよ」とか「○○ヘンに○○」とかヘルプが入り…。E先生の名人芸的なクロージングは全く趣旨の違う場になったのでした。あれはヤバイ。ヤバかった。漢字で書くほかない状況だったので,えーっと,…ヤバかったなあ!

とは言え普段は,とりあえず「ひらがなかカタカナで書いておく」が漢字が書けない時の基本の対処法だと思います。悩んで手を止めたり,スマホで漢字を検索するよりは,話し合いに付いていくことを優先したいからです。

予防策の一つは,事前に出てきそうな漢字を予習しておくことです。その会議やワークショップで「これだけは漢字で書けないとマズイ」という大切なキーワードや人のお名前等があれば,確認・練習しておくとよいと思います。
また,会議が終わった後,その日あやふやだったり思い出せなかったりした漢字をメモ帳かPCに残したりしてもよいですね。ちょっと学校の予習復習のようなノリですが,漢字が苦手な人にはオススメです。

自分で気づかずに書き間違いをしていることもあります。違う字を書いたり,横棒が一本少なかったりとかです。けれど,話し合いの内容や進行に影響しないことも多く,誰も気づかなかったり,気づいたとしても指摘されないことがほとんどではないでしょうか。
漢字の間違いを指摘された時はラッキーです。話し合いに協力的な出席者がいるということですし,自分にとっても同じ間違いを繰り返さずに済むということでもあります。言い訳せずに感謝して訂正します。また,休憩時間や会議後に「あの字,間違えてるよ」と教えてくれる優しい方もあります。基本的にファシリテーショングラフィックは出席者が見てない状態での加筆や修正はしないものですが,単純な書き間違いの場合は「見え消し(取り消し線など)」して訂正しておくとよいと思います。

もちろん漢字が書けるに越したことはありませんし,大切なキーワードや人のお名前などは正しい表記を努めます。が,ほとんどの場合,多少書けなかったり間違ったりしても問題にはなりません。場合によっては「とりあえずひらがなやカタカナで書いておくこと」が,良い意味で板書の「権威」を下げ,意見やアイデアを出しやすい雰囲気を生み出す場合もあります。

市民の板書術(21)「フサホロホロチョウ理論」2019.02.

少人数の話し合いで「動物の名前」をたくさん挙げる場面がありました。グラフィッカは「ゾウ」「ウサギ」「カブトムシ」といった発言を箇条書きで書いていきます。そんな中,一人の参加者が「フサホロホロチョウ!」と言いました。グラフィッカは「なんだ?その面白げな名前は?冗談かな?まさかそんな動物がいるの?」と面白がったり悩んだりしてるうちに,つい他の発言を書き漏らしてしまったそうです。

フサホロホロチョウは,キジ目ホロホロチョウ科に属する実在する鳥です。アフリカ中央部などの乾燥した地域に生息し,草や虫やトカゲとかいろいろ食べます。首から上はコンドルやハゲワシみたいで,体の前半分はコバルトブルーと黒と白のストライプでフサフサ,後ろ半分は黒地に白のドット柄。大人になると目が真っ赤になります。食用に飼育されることもありますし,危険を感じたら走って逃げるので「アフリカの派手なニワトリ」といった感じです。

話し合い中の発言で知らない単語が出てきたらどうするか?例えば専門用語。一般的でない用語が出てくることがあるでしょう。もしくは地名。地元の人しか知らない字名などです。他にも関係者のお名前や地域の伝統行事の呼称,その団体の過去の出来事などいろんな場合が考えられます。
そんな「知らない単語」が出てきた時にやるといいことがあります。

1. とにかく聞こえたままを口に出して繰り返す。
聞き間違いがないか確認できます。また,きっとそのそぶりで「あぁ,この人は知らないんだな」と出席者に伝わりますし,それはよいことだと思います。場合によっては補足説明をする出席者もあるかもしれません。

2. 他の出席者の表情を確認する。
他の出席者がその単語を知っているのか,知らないのか,表情を見渡して確認します。板書役以外は全員が知ってそうな場合,一部の人が首をひねって知らない様子を示している場合,全体的にキョトンとしてほとんどの出席者が知らなそうな場合等,いろいろあると思います。その様子次第で,対応も少し変わります。

3-1. ほぼ全員がわかっている様子で,かつ他の発言もどんどん出てきて忙しい場合。
とにかく聞こえたままをひらがなでもカタカナでも書いておき,次の発言に備えるのがオススメです。書いておけば,後で余裕ができた時に確認できますし,板書役からの質問で議論をスピードダウンさせるのももったいない話です。

3-2. ほぼ全員がわかっている様子だが,他の発言も少なくそれほど忙しくない場合。
一旦,ひらがなかカタカナで書きとめます。その意味や漢字での書き方などを出席者全体から教えてもらいながら,正しく書き加えます。教える&教えられることで出席者との関係性が強められることも多いですし,その単語の説明をやりとりする中で新しい意見や発見が得られることがあるためです。

3-3. わかっていない様子の人が複数もしくは大勢いる
こちらもとりあえず書くのですが,引き続き発言者に補足をお願いし,その説明や語句の定義などを少し小さめの文字(色を替えてもよいでしょう)で書き加えます。出席者が知らない状態で話し合いを進めることも難しいので,情報共有のためにもその単語の確認を行います。

この,知らない単語が出てきたときの対応は「フサホロホロチョウ理論」と呼ばれています(たぶん3人くらいに)。

むしろ,地域の課題を掘り下げる会議や団体のミッションを言語化する会議では「知らないこと」が話し合いを促進することもあると思います。ただし,スピード重視で忙しい会議なのであれば,その分野や経緯を理解している進行及び板書役が適任と言えます。

 

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市民の板書術(20)「色覚異常とプロッキー」2019.01.

ファシリテーショングラフィックで使うプロッキー等の水性マーカーには,8色や10色,12色といったパッケージがあります。使いこなせばそれこそ色んなカラフルな表現をすることも可能です。
 ちょっと気に留めておきたいのが,日本では男性の20人に1人,女性の500人に1人は「色覚異常」だという事実。学校の教室に1人ずつくらいいる計算になります。「色盲」「色弱」「赤緑色盲」とも呼ばれていました。「盲」や「異常」という表現が差別的ということで,2017年頃から「色覚多様性」とも呼ばれるようになりました。ここでは現時点でもっとも一般的な呼称と思われる「色覚異常」としておきます。

 色の見え方に関するバリアフリーについては,東京大学の伊藤啓先生と東京慈恵会医科大学の岡部正隆先生らが,2002年から公開されている「色覚バリアフリープレゼンテーション法(旧名称:色盲の人にもわかるバリアフリープレゼンテーション法)」のサイトがとてもわかりやすいのでご覧ください。
http://cudo.jp/cbf/

 では,水性マーカーで模造紙に書く場合はどんなことに気をつけたらよいでしょう?色覚異常を持つ知人が協力してくれて,実際に試し書きをしながらプロッキーの色の見分けについて話を伺いました。

「赤と緑の違いはわかる」
 赤緑色覚異常と呼ばれることもあるくらいなので,「赤」と「緑」の色使いには注意しないといけない,とずっと思ってきましたが,実は両者の違いは十分わかるとのこと。同じ系統には見えるものの,「赤」の方が濃く、「緑」の方が明る見えるそうです。マーカーではありませんが,細い赤(例えば赤いボールペンなど)は,むしろ黒に見えて困ることがあるそうです。筆記具では全般的に「赤」のインクは濃く強く作られているのかもしれません。

「青と紫の見分けはつかない」
 「青」と「紫」の見分けはかなり難しいということでした。プロッキーでは「青」や「紫」は「黒」ほど沈まず,しかし強く目立つ色なので見出しに使うことがあります。「青」と「紫」の違いだけで大見出し/小見出し等の階層を表現するような使い方をしないよう気をつけたいですね。

「緑と茶は一緒。橙色もかなり近い」
 「緑」や「茶」は,「黒・青・紫」ほど強く重たくないけれど,書いた文字がはっきり見えるので,とりあえず使う&たくさんの文字を書くことがあります。しかし両者の違いがわかりにくいので「緑」と「茶」で発言の種類を仕分けしたりしないようにしたいものです。そう言えば私も質疑応答の場面で,質問を「緑」,回答を「茶」で交互に書いたりしていました…。反省。

「ソフトピンクへの変更は英断」
 三菱鉛筆(株)は色覚異常への対応として2010年に「桃色」を廃止して,新しく「ソフトピンク」を開発して差し替えました。以前の「桃色」は色覚異常の人にとって「水色」との区別がつかないものでしたが,現行の「ソフトピンク」は違いがわかりやすくなっています。変更は英断でした。ただし「ソフトピンク」は,15色セットに入っている「灰色」との見分けがつかないのでご注意を。

 人によって型や程度が異なるので,上記が全ての色覚異常の人にあてはまるわけではありません。ただ,色の違いだけで意見の仕分けや重み付けをすることは避けた方がよいですし,それはきっと他の多くの人にとっても見やすくなることだとも思います。
 色覚異常の人は,周りの状況や会話の文脈,過去の記憶を手掛かりにしながら,それがどんな色か推測しながら会話に参加していることがあります。時にはそれが負担やストレスになることもあるでしょう。
 会議や話し合いの場面で,出席者が本題以外に頭を使ったり,不要なストレスや疎外感を感じなくて済むような書き方・色の使い方をしていきたいものです。

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※左側がコピー用紙にプロッキーで書いてスキャンしたもの。
 右側がphotoshopの「色の校正」機能で「P型(1型)色覚」を再現したもの。

ファシリテーショングラフィックの連載を再開。

以前からグリーンシティ福岡の会員や近しい方にお送りしていたファシリテーショングラフィックについての連載を再開しました。締め切りがないとつい先延ばしにしてしまうので,グリーンシティのメールマガジンと同時に書く予定です。第1回から第19回についてはいずれまとめて発表したいと思います。