特定非営利活動法人グリーンシティ福岡 志賀 壮史


はじめに

 参加型まちづくり等の現場で行われるワークショップや各種会議の進行を行う技術や在り方のことを「ファシリテーション」と呼ぶ。
 公園・緑地や公共施設等、多様な主体が関心を寄せる空間を計画・設計ないし管理・活用する場面では、市民、行政、企業、NPO等の多様な主体が参加し対話することが求められる。そのための「ファシリテーション」について整理し、発信していくことには意味があると考える。
 著者は過去の考察1)で、ファシリテーションの基礎技術を「しつらえる」「場を読む」「問いかける」「待つ」「受けとめる」「整理する」「任せる」の7項目に整理した。このうち、二つ目の「場を読む」については、「出席者や会場全体の雰囲気をくみ取る」くらいのおぼろげな共通認識はあるものの、具体的に踏み込んだ記述や資料は少ない。
 本項では、既往文献及び著者自身の経験をもとに、「場を読む」行為が具体的にどのようなものか、整理と考察を行った。

1.既往文献における「場を読む」行為

 吉田2)は、会議進行の技術を解説する中で、出席者を「よく観察する」ことについて言及している。出席者の意思表示は必ずしも言葉のみで行われるわけではないため、顔やからだ全体の表現を見ることが求められる、と述べる。
 しかし、ここで具体に読み解くメッセージとして挙げられているのは「休憩をとるのがいいのか、窓を開けて空気を入れ換えた方がいいのか、あるいは特定の人に発言のチャンスがかたよることに対するさまざまなメッセージ」である。これらは、話し合いの中身(コンテンツ)というよりも進め方(プロセス)に関するものだという点に注意しておきたい。意見への賛否や最終的な結論を推し量るというよりも、話し合いが効率的かつ公平に進むよう環境を整える意味合いで述べられていると言える。
 中野3)はファシリテーターに必要な心得の一つとして「一番大事な『場』を読む力。常に個と全体に気配りを!」を挙げている。具体的には「その場の一人ひとりに起こっていることやその総和としてのグループ全体の雰囲気に敏感であること。(中略)そのプロセスの中で起こってくる参加者一人ひとりの状態を丁寧に把握することはなかなか難しい。」と、出席者一人ひとりを見つめつつ、同時に全体の様子を把握する必要性とその難しさを指摘している。その上で、2人組やさらに多くのスタッフと連携して進行する「コ・ファシリテーション」を提案している。
 出席者の数だけそれぞれの体調や感情、話し合いに対するモチベーションや学びの状態があり、さらにその集合としてグループ全体のムードや盛り上がりがある。「個」のレベルと「全体」のレベルの両方に目を向ける必要があるという指摘は意識しておきたい。
 堀
4)も、言外のメッセージを読む必要性を述べ、口調、表情、態度の三つに注目することを提案している。1)声の高さや大きさ・抑揚といった口調、2)視線の方向や頬・鼻腔・口元などの表情、3)姿勢や腕組みなどの態度。これらの三つの非言語メッセージを知ることで、相手をより理解することにつながると述べている。
 その背景として「人間のコミュニケーションのうち、言葉が占める割合はたった7%だと言われています。残りが何かといえば、38%が声の調子や抑揚などの音声によるもので、55%は表情や態度などのいわゆるボディランゲージなのです。」とメラビアンの法則にある数字を引用しているが、同法則は、どちらともとれるメッセージを受け取った時に人は何を根拠に判断するか?という趣旨の実験結果であることから、上記のようにコミュニケーション全般にあてはめるのは拡大解釈と言える。
 しかしながら、「会議の進行に満足しているか、内容に納得しているか、ファシリテーターを信頼しているか。メンバーが共通して抱いている意識は、場の空気となって空間を覆っています。」と述べるように、出席者の本音と乖離したまま話し合いが進んでいくことは大きな問題につながりかねない。口調、表情、態度など、言外のメッセージを丁寧に受けとめることが、出席者の本音を理解するための具体的な方法であるとの指摘である。

 

2.現場での「場を読む」経験から

 著者がファシリテーターとして行ってきた行為で「場を読む」ことに関係すると考えられるものを以下に挙げる。ワークショップや会議の事前に行うこと、進行中に行うこと、終わった後に行うこと、の順でおおむね時系列に整理した。

 <事前:話し合いの経緯と過去の雰囲気>
 そのワークショップや会議が開かれるに至った経緯は、集まる出席者のやる気や感情に直接影響する。明るく前向きな場合もあれば、既に多くの誤解や行き違いがありマイナスのスタート位置から始まる場合もある。また、既に何度か話し合いが行われているのであれば、その際の雰囲気を事前にヒアリングしておくことが有効である。

 <事前:出席者の属性と主催者との関係性> 出席者の年齢層や性別等によって、お題の出し方や進行のスピード感は異なってくる。経験者が多く、素早く合意形成していきたいのか、子どもも含めてあらゆる年代の出席者がいるため、ゆっくり情報共有していきたいのか等である。また、特に行政主催の話し合いでは、出席者(市民)と主催者(行政)がどのような関係性にあるか注意しておきたい。

 <事前:出席者以外の外部の声> 近隣住民や利害関係者、時には議会など、その話し合いに対して意見や期待を持っていながら、なんらかの理由で出席していない者。さらに社会的に弱い立場の人や子どもたち、時には自然環境など、届きにくい声。これらに対してどのような位置づけにあたるか意識しておくことも重要である。

 <進行中:出席者の体調や感情、やる気> 会場に集まった時の出席者の様子や雑談から、元気か、お腹が減っていないか、寝不足でないか、喜んで出席しているかイヤイヤ来ているのか、などを把握する。話し合いが進むにつれ、次第にくたびれて集中力・やる気が落ちてくる、ということもあるため、常に目を配っておきたい。

 <進行中:出席者の持つ情報量や経験> 詳しい人や経験者から自発的に情報提供してくれることも多いが、周りに遠慮して発言を控えていることもある。話し合いの時間配分にも影響するため、そのお題に対して、個々の出席者がどれくらいの情報量や経験を持っているかを把握したい。

 <進行中:出席者の言外のメッセージ> 出席者の表情や目線、姿勢などから、実際に出てきた発言以外の思いや感情を推し量る。本音では反対だが言い出しにくい、本当は質問があるけれど手を挙げにくい、ある人の長話にイライラしているけど注意しにくい、といった部分に目を向ける。

 <進行中:出席者同士の関係性> 雑談の様子や発言中の他の出席者の様子から、出席者同士の関係性を見る。気心の知れた友人同士なのか、日頃反目し合っているのか、一目置かれた存在なのか、逆に軽く見られがちな立場なのか。発言がどのように他の出席者に受けとめられているか。

 <進行中:話の盛り上がり具合> グループによる話し合いは、徐々に盛り上がってピークを迎え、次第に落ち着いていくことが普通である。今の状態が盛り上がる前なのか、ちょうどピークなのか、その後の落ち着きつつある状態なのかを把握することは、グループ作業や自由討議の時間配分の判断に不可欠である。

 <進行中:現状と到達すべき成果、残り時間> 現在の出席者や得られた成果と、そのワークショップや会議が到達すべき成果(結論や合意)、さらに残り時間を比較する。半分の時間が経った時に、まだほとんど進んでいない場合とおおむね話し終えている場合では、その後の進め方は全く異なる。

 <事後:話し合い後の表情や雑談> ワークショップや会議が成功したか、次回や実際の行動につながるかは、終了後の出席者の表情や帰り際の言動に表れる。そそくさと言葉少なに帰ってしまうのか、いつまでも感想や意見を交換しているのか。会議が終わってようやく本音が出てくる場合も見られる。

 

3.考察

 既往文献及び著者自身の現場経験から、いくつもの「場を読む」ことに関連する行為が得られた。
 中でも共通しているのは「出席者の言外のメッセージを読み解く」ことである。話し合いの進め方に関する要望の場合もあれば、本音や感情といった話し合いの中身に直結する場合もある。出席者の意思表示は必ずしも発話や言葉だけで行われるわけではないという認識を持った上で、口調や表情、態度、全体の雰囲気などから出席者からのメッセージを読み解き、話し合いの場にフィードバックしていくことが求められる。
 同様に重要と考えるのが「時間(ないしプロセス)」の概念である。話し合いの中で出席者同士がどのように影響しあい、盛り上がり、関係性ができつつあるか?現時点で到達した成果と今日の目標、残り時間との兼ね合いはどうか?といったことである。瞬間ごとの雰囲気や出来事だけでは「場を読む」ことはできない。「個」から「全体」まで見渡しながら、その変化に意識を向けておきたい。


参考文献

1)志賀壮史(2012)『参加型まちづくりにおけるファシリテーション技術に関する考察』日本造園学会九州支部・口頭発表

2)吉田新一郎著(2000)『会議の技法』中公新書

3)中野民夫著(2003)『ファシリテーション革命』岩波アクティブ新書

4)堀公俊著(2004)『ファシリテーション入門』日本経済新聞社