日本造園学会九州支部「森林セラピーにおけるガイド養成カリキュラムに関する考察 ―篠栗町森の案内人養成講座を事例に―」

特定非営利活動法人グリーンシティ福岡 浅田 真知子
篠栗町産業観光課森林セラピー事業担当 吉村 久美子
特定非営利活動法人グリーンシティ福岡 志賀 壮史 

近年、森林浴の効果を科学的に実証した「森林セラピー1)」への取り組みが各地で広まっている。NPO法人森林セラピーソサエティが認定する基地は、平成23年4月現在、全国で44か所に上る。福岡県ではうきは市、八女市黒木町、篠栗町の3市町が基地登録されており、自治体で養成されたガイドが各地で森林セラピープログラムを提供している。ここでは篠栗町の「篠栗町森林セラピー事業業務委託」を受けNPO法人グリーンシティ福岡が実施した、「森の案内人」の養成事例を報告する。

 

 

1.篠栗町における森林セラピー

 森林セラピーとは、医学的なエビデンスに裏付けされた森林浴効果をいい、森林環境を利用して心身の健康維持や増進をはかり、疾病の予防を目指すものである2)。篠栗町は、生理実験や専門家による検証を経て平成21年3月に基地登録され、平成22年9月のグランドオープンに向け準備が進められた。森林セラピー事業の基本構想策定や、事業運営のための会議やワークショップ、森林セラピープログラムを提供する「森の案内人」の養成講座が実施された。

 

 2.篠栗町「森の案内人養成講座」の計画

(1)計画の前提
 「森林セラピーは自然観察や自然体験活動、登山等とどう違うかわからない」という質問を受けることがある。森林セラピープログラムでは、参加者がリラックスできる場を用意することや、五感を使って森林を楽しむよう誘うことが求められており、自然に関する知識の提供が主目的とはされていない。この違いを明確にしておく必要があると考えた。
 またプログラム実施においては、お客様との接し方やコミュニケーション方法に充分配慮する必要がある。森林セラピーソサエティが認定する「森林セラピスト」には、相手を尊重し理解する態度や共感を伝える話し方、心理的距離を縮める位置取りなどのスキルが求められており3)、講座受講者にもお客様との接し方に留意してもらいたいと考えた。

(2)講座運営の方針
 先述の課題から、下記4点の方針を基に講座全体の運営を行った。 
■初期に全体像を伝える
 森林セラピーは新しい取り組みであり、受講者は「案内人」としてすべきことをイメージし難い。講座初期にセラピープログラムに実際に参加することで、目指す案内人像をイメージしてもらった。
■「お客様を迎える」という意識付けをする
 自らの学びのため受講を希望した等、人前でガイドするという認識が弱い人もいた。講座初期に「人前で話してみる」実習を行い、お客様を迎える人材となることを意識してもらった。
■多くの現場経験を積む
 仲間内での実習や関係者・一般参加者を迎えてのモニターツアーの機会を設け、実践を行った。言わば「安心して失敗できる場」を設けることで、繰り返し経験を積める仕組みとした。
■モチベーションを保つ
 正式にお客様を迎えるまでの1年以上の間、モチベーションを保つ必要がある。受講者同士が親しくなれるようコミュニケーションの機会を設けたり、実践時に大きな失敗や問題が起こらないよう事前の資料提供や準備を入念に行った。

(3)講座の具体的内容
 以上をもとに、下記の内容で講座を企画した。講座は約1年に渡って実施し、平成21年8月から平成22年3月までを「養成講座」、平成22年5月から8月までをモニターツアー及びその下見や準備のための事前講座と、知識や技術向上のための技術講座を行う「フォローアップ講座」とした。
■平成21年度カリキュラム
平成21年度は、第5回以外はすべて3時間の内容とし、フィールドでの体験や実習を中心に実施した。森の体験を森林セラピーにどのように活かせるかや、良いガイドの方法等について受講者同士でディスカッションを行う時間を充分に設けた。なお8回の講座のうち、6回以上の受講を「森の案内人」認定の条件とした。
■平成22年度カリキュラム
平成22年度は関係者および一般から参加者を募って全4回のモニターツアー(うち1回は宿泊)を実施し、事前講座は3時間、モニターツアーは準備とフィードバックを含めて5時間で実施した。案内人全員が1回以上はガイドの実践を担当し、多くの経験を積むことを目的とした。なお安全や地元の歴史等について補足として技術講座を計4回実施した。
 平成21年度・22年度ともに、実習や実践の後は受講者同士で良かった点、改善点などを話し合うフィードバックの時間を設けた。学びを言語化するとともに、受講者同士で風通しのよい意見交換を行う習慣が根付くよう意識して運営した。

表-1 平成21年度森の案内人養成講座概要

第1回(必須) ・「森林セラピー」って何?・ガイドでの自己紹介等の実習
第2回 ・森林セラピーガイド体験(篠栗九大の森)
第3回(必須) ・ノルディックウォーキング体験<小島成久氏/ノルディックウォーキングインストラクター>
第4回(必須) ・植物観察会(篠栗九大の森)<薛孝夫氏/九州大学福岡演習林長>
第5回  ・先進地視察(福岡県うきは市/福岡県八女市黒木町)
第6回  ・篠栗の歴史、文化財について
・ガイドのコツとホスピタリティ
第7回(選択必須) ・森林セラピーロードでのガイド実践 
第8回(選択必須) ・森林セラピーロードでのガイド実践・修了式

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

表-2 平成22年度森の案内人フォローアップ講座概要

第1回 事前講座@
モニターツアー@
第2回 事前講座A
技術講座@霊場について/緊急対応について
モニターツアーA
第3回 事前講座B
技術講座A救急箱と熱中症対策/ストレッチと呼吸法
モニターツアーB
第4回 事前講座C
モニターツアーC(1泊2日、プログラム実施は2回)
グランドオープン準備 技術講座B安全講習と救急法/グランドオープン準備
技術講座C セラピーロード整備

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3.成果

■「森の案内人」の養成
当初の受講申込者数52人に対し、平成22年度の講座を終え案内人として活動をはじめた人数は30人であった。30人のうち半数以上がグランドオープン時点で実際にガイドを任せられる力量を持ち、それ以外もサポートとして充分な対応ができる人材となった。
 またモニターツアーのお客様アンケート結果では、回 を追うごとに満足度が上がった。グランドオープン直前である第4回のアンケートではガイドへの満足度を80点以上と回答した人は94%であり、ゆっくりとした散策のペースやにこやかな応対、五感を使った体験等が良い点として挙げられた。
■案内人の自主的な活動
 案内人のモチベーションは高く、案内人同士でのより密な情報交換やスキルアップを目指しWEB上の掲示板の設置、自主的な勉強会の企画等がなされた。フィールドの自然や歴史・文化に関する勉強が主な目的であり、実施してみたい体験のアイデアや知識等の共有等も行われた。案内人のルール作りや、情報共有の仕組みが必要という声も上がり、現在の自主運営組織「森の風・篠栗」が立ち上がるきっかけとなった。
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写真-1 体験のアイデア「ねころんで」

 また、篠栗町は古くから八十八ヶ所霊場があるお遍路の町として知られている。それを活かし、霊場での写経・瞑想とタイアップするなど、案内人発案のイベントが特別企画のプログラムとして実施され好評を得ている。 

4.考察

 以上から、篠栗町での「森の案内人」養成において、当カリキュラムは一定の成果があったと言える。他の森林セラピー基地における「ガイド養成」では、短期間で多くの知識を学ぶカリキュラムとなっているケースが多い。ガイドの経験がある等、参加者層が絞られている場合は知識の提供のみでも妥当と考えられるが、今回の篠栗町では、人前に立った経験が少ない人も多く、年齢層も20代から70代と幅広かった。参加者層や経験度が多様な場合には、体験や実践、受講者間のディスカッションを通じて学び、チーム作りを行っていく、ワークショップ形式の講座が効果的であると考える。
 なお、NPO法人森林セラピーソサエティは、参考文献に示したテキスト及び検定試験により、「森林セラピスト」「森林セラピーガイド」の資格認定を行っている。今後は、これらの人材と、各基地が独自に認定している案内人等のガイドが相互に協力し合い、より質の高い森林セラピープログラムを提供していくことが求められる。

注釈および参考文献
1) 「森林セラピー」はNPO法人森林セラピーソサエティの登録商標。基地登録や資格認定等を同団体が行っている。
2) NPO法人森林セラピーソサエティ(2009):森林セラピー森林セラピスト(森林健康指導士)養成・検定テキスト
3)NPO法人森林セラピーソサエティ(2010):森林セラピー検定副読本 ヘルスケア編