特定非営利活動法人グリーンシティ福岡  牛嶋麻里子
特定非営利活動法人グリーンシティ福岡   志賀壮史 

 2010年の「国際生物多様性年」およびCOP10開催を経て、「生物多様性」への社会的な関心が高まっている。都市部の生物多様性保全のための実践的な啓発活動として平成21〜22年度に行われた「市民参加型エコアップ活動(福岡市環境局)」について、その概要と特に活動の運営面で得られた知見について報告する。

1.市民参加型エコアップ活動の概要

 ここで言うエコアップ活動とは、身近な自然地の調査・観察活動や生きものの生息環境の改善活動を通して、「生きもののにぎわい(=生物多様性)」について意識の向上を図り、「生きもののすみか」を育む市民活動のきっかけを作ることを目的とした体験活動である。

活動では、現場体験を通じて学ぶこと、専門家や大人だけでなく小さな子どもや家族連れでも活動できること、遠くの大自然の希少種ではなく、身近な場所で身近な種を対象にすることを方針とした。

 

 2.具体的な活動内容

 活動地とした東平尾公園は、福岡空港の東側丘陵地に位置する総合運動公園である。1976年に開園し、面積は88.1ha。公園全体に森が広がり、その中に「博多の森球技場(レベルファイブスタジアム)」、「博多の森陸上競技場」などの施設が点在する。この公園内のため池と園路に挟まれる樹林地を活動地とし、ため池沿いの笹伐り、中低木の除間伐およびビートルベッドづくり、園路沿いのカントリーヘッジづくりを実施し、多様な環境を創出することを目的とした。
 参加者は、市政だよりや広報チラシで知った家族連れがほとんどだった。

表1:H21〜22年度の活動日および参加者数

  年 月 日 参加者数
H21年度 第1回 平成21年11月22日 18人
第2回 平成21年12月13日 23人
第3回 平成22年 2月28日 29人
H22年度 第1回 平成22年11月13日 20人
第2回 平成22年12月12日 26人
第3回 平成21年 2月26日 20人

活動は各回9:30〜12:30の、休日の午前中3時間のプログラムで構成した。説明や解説、振り返りの時間、間の休憩などが含まれるため、実際の作業時間は各回2時間ほどである。  〈情報共有〉参加者の多くは、子どもや初心者であるため、作業の前には作業の内容や目的、2回目以降は前回までの作業内容などを共有する時間を設けた。説明には紙芝居のようにイラストや分かりやすい言葉を用いた。
また、作業前に道具の説明を行い、安全で効果的な作業の方法や道具の使い方を伝えた。各回の作業終了後には、ただの作業ではなく、生きものの住処を守る活動であることを確認するため振り返りの時間を設けた。

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図2:情報共有の様子

〈調査・観察〉毎年第1回目の活動では「生きものをみつけてみよう!」をテーマに、生きものやその痕跡を探索した。見つけた生きものや痕跡には、ビオトープや森林の生態について知識を持つ指導者や、専門家をゲストに迎え解説をお願いした。身近な森に様々な生きものがいることに気づくことから活動を始めるようにした。
また、平成22年度はフデリンドウを保全対象種に設定して、マーキングし継続的に観察を続けた。

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図3:見つけた生きものの解説の様子

〈保全作業〉毎年第2回と第3回は観察結果を踏まえた保全作業を行った。参加者のレベルや興味に合った作業、無理の無い作業、短時間でも成果が分かりやすい活動になるよう心がけ、以下の3つの活動にそれぞれスタッフを配置し作業を進めた。
①竹伐り班:第1回でマーキングしたフデリンドウ保全のため、枯れ竹を伐採し、日当たりが良く乾燥しすぎない場所を創出した。伐竹の一部は、ハキリバチ等の産卵場所となる竹のすだれを作って設置した。
②木漏れ日班:明るい森のエリアを創出するために常緑樹の除間伐を行った。また倒木や枯木、厚く積もった落葉を利用して、昆虫や小動物のすみかとなるビートルベッドを作成した。
③カントリーヘッジ班:カントリーヘッジとは、伐木や周辺の落ち枝を作った自然素材の柵のことである。表土の流亡がみられた遊歩道沿いにカントリーヘッジを作り、表土の保全を図るとともに、ヘッジには厚みを持たせ、最後に落葉をかけ生きもののすみかとなりやすいようにした。

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図4:子ども達が小さい木を伐る様子


3.エコアップ活動の成果と得られたもの

 全6回の活動を通じて、のべ130名(内、市職員・NPOスタッフ43名)の参加が得られた。参加者からは「楽しかった」等の感想も多く聞かれた。また、平成22年度は昨年度からのリピーターが複数あり、エコアップ活動の意義や効果を知ってもらうことが出来たと考える。観察や保全作業を通じて、次のような成果を上げることができた。参加者やスタッフが東平尾公園で姿ないし鳴き声を確認できた生き物は野鳥21種類、また、昆虫・その他の小動物14種類。さらに、生きものの痕跡として、セミの抜け殻、フクロウ類の食痕などを確認し、多くの生きものの存在や、それらの関係性を目にすることができた。以下に、保全作業を通じて得られた成果を示す。
 ①竹伐り班:フデリンドウ保全を目的に約150㎡の範囲にわたって枯れ竹の伐採と搬出作業を行い、乾燥し過ぎないように配慮しつつ日当たりの改善を行った。
 ②木漏れ日班:毎回約200〜400㎡の範囲で常緑中低木の間伐を行い、林内の光環境の改善を図った。また「カミキリムシマンション(枯木を集積)」や「ビートルベッド(堆肥ヤード)」など、ビオトープ装置の製作・整備を行った。
 ③カントリーヘッジ班:周辺の落ち枝や伐採木を使って、遊歩道沿いに長さ約40.5mのカントリーヘッジを作った。初心者や子どもでも、「生きもののすみか」づくりや、環境改善に貢献できることが示された。
 また、このように子どもたちが多い活動における作業運営のコツとして、得られたものを挙げる。
 〈噛み砕いて指示する〉作業の指示をする際には「あの辺りを明るくしよう」ではなく、実際にそれぞれの木を指しながら「○○くんは、あの木とあの木を伐って、枝はここに運んでね。」と、具体的に作業を説明すると伝わりやすい。
 〈情報の提供・共有〉スムーズな作業と安全性の確保、さらにモチベーションの維持のため、道具の使い方や活動場所の注意点、作業意図などについて、十分な情報提供・共有を行う。
 〈こまめに言葉がけする〉特に小さな子どもには、飽きないように、少しずつ、こまめに声かけを続けることも大切。「太い枝を持って来よう」「落ち葉を集めてかけよう」など、順を追って、ひとつずつ声をかけるなど、飽きさせない工夫をするとよい。
 〈大人として扱う〉また、小学校高学年くらいからは、大人として、ちょっとした責任のある仕事を任せるようにすると、積極的に関わってくれる。

 

4.今後の課題

 今後の課題として、参加者を増やすことが挙げられる。「森の中での保全作業」が一般になじみが薄いためか、参加者数は事前に設定した定員を下回ることが多かった。効果的な広報とリピーターの獲得、作業の楽しさややりがいの周知に努めていきたい。
 また、生きもののすみかづくりに関して定量的な評価やモニタリングを行っていく必要がある。フデリンドウの開花状況や林床植生の回復状況、設置したビオトープ装置に定着した昆虫類などの調査等、科学的な視点で活動を評価していくことが求められる。
 このような活動を通じて、今後、より多くの市民が「生きもののにぎわい(=生物多様性)」についての意識を向上させ、生きもののすみかである自然を大切に育む社会が形成されるよう取り組みを継続していきたいと考える。

※本報告は、福岡市環境局による「平成21年度市民参加型エコアップ活動等企画・運営委託」及び「平成22年度市民参加型エコアップ活動等企画・運営委託」をまとめたものである。