平成18年度造園学会九州支部(長崎大会)で 

口頭発表を3件、行いました。発表要旨を掲載します。 

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 メダカ池周辺の草本種の経年変化と管理の影響についての考察

鹿田 智子 特定非営利活動法人グリーンシティ福岡
濱田 雅史 福岡市環境局環境都市推進部環境推進課
河野 徹  福岡市環境局施設部臨海工場

 


1.はじめに
 平成13年度、福岡市東区のクリーンパーク臨海(清掃工場を中心と
したリサイクルプラザ、パークゴルフ場などのある公共施設)内にメ
ダカ池(通称:臨海ビオトープ)を造成した。
 このメダカ池周辺には、福岡市内の畦畔の表土約30cmを掘り取っ
て移設し、水辺から草地までの一体的な生物の生育・生息空間を創出
した。
 また、この施設は一般に開放され、社会科見学の子どもたちや家族
連れなど、多くの市民が訪れる公共施設である。よって、来訪者が安
全に楽しく利用できる施設として、また身近な自然について学べる教
材として、水辺のビオトープとしての働きを維持していくことが求め
られた。
 施工後の平成14年4月から1年間、月1回のモニタリング調査を行っ
た結果、畦畔や空き地等で身近に見られる119種の草本種を確認した。
また、今後何も手を加えず放置すれば、外来種などの特定の種が優先
し、草本種の多様性が失われていくことが予想された。

 そこで、継続したモニタリング調査を行いながら、自然の変化に委
ねながらも生物の生育・生息空間として、必要最小限の手入れを行い、
施設の目的にかなうよう維持していくこととした。(「メダカ池周辺
の維持管理を目的とした草本種のモニタリング調査」平成15年度日本
造園学会九州支部口頭発表)
 その後、平成15〜17年度の3年間、継続したモニタリング調査と管
理作業を行ってきた。今回、モニタリング調査の結果と管理の影響を
検証し、メダカ池周辺の適切な維持管理について考察することを目的
とした。
 また、モニタリング調査は、平成14年度の調査項目を継続し、基本
的に月1回行った。


2.管理の基本方針と作業内容
 平成14年度の1年間のモニタリング調査の結果と、施設の目的を踏
まえ、目標テーマ、管理の基本方針などを以下のように設定し、維持
管理作業を行うこととした。
 1)メダカ池の目標イメージ
「いろいろな身近な草花が咲き、メダカが泳ぎ、トンボが飛び立つ、
どこにでもあるけどだんだん見られなくなっている田んぼの水路とあぜ道」
 2)管理方針
 ・継続的な維持管理をもとに多様な生きものの生育・生息環境を維
  持する。
 ・不用意な動植物の移入は避け、在来種・郷土種を中心とした、安
  定した生態系の創出を目指す。
 ・施設の安全性や観察のしやすさ、美観を確保する。
 3)管理の作業内容
 ・面的草刈り(年4回程度)範囲ごとに時期をずらしたり、生きも
  のの避難場所として一部刈り残すなど、多様な草地とする。
 ・水際の草刈り(適宜)安全性と観察場所の確保のため、水際の草
  を刈り陸地との境界を明確にする。
 ・間引き(適宜)繁殖力旺盛なガマなどを間引き、水面を確保する。
 ・ヨシの芽摘み(適宜)草丈を低く抑え、安全性、美観を確保する。
 ・繁殖力旺盛な外来種の除去(適宜)セイタカアワダチソウ、オオ
  カナダモなどを除去する。
 ・堆肥ヤードの切り返し(1回/2ヶ月程度)
 ・池干しと泥上げ (平成17年10月実施)

3.調査結果
 その年の気候、草刈りの時期や作業の内容などが作用し合い、常に
植生が変化している状況が明らかになった。
 1)年間の出現種数は、120種程度でほぼ安定
 前年確認されたが確認できなくなった消失種、新たに確認された種
 など、毎年変化しながら、H14年度は119種、H15年度は126種、
 H16年度は118種、H17年度は119種、4年間の確認種数はのべ
 166種であった。草本類の出現種数はほぼ一定である。
 2)在来種と外来種の割合は、7:3と変わらず
 H14年度は119種のうち在来種85種(約72%)、外来種34種
 (約28%)、H17年度は119種のうち在来種84種(約71%)、外
 来種35種(約29%)であった。(表?2)4年間の調査で、在来種
 と外来種の割合に大きな変化は見られなかった。
 3)イネ科、キク科、カヤツリグサ科の3種で約5割を占める構成種も
   変わらず

 種数の多い順にイネ科、キク科、カヤツリグサ科で5割を占め、他
 にマメ科、タデ科、ゴマノハグサ科など、4年間の調査で変わらず、
 全29科を毎年確認した。
 4)生育環境別にみた構成種の割合も特に変わらず
 生育環境に応じて分類すると、平成17年度では水中6種(5%)、
 水中から水際6種(5%)、水際2種(2%)、湿性を好む24種
 (20%)、陸地81種(68%)であった。この割合は、4年間の調査
 でほぼ同じである。
 5)全体に分布の範囲を広げ、個体数が大きく増加した種がある
  (外来種3種、在来種6種)

 平成15年度は外来種のアメリカフウロ、オランダミミナグサ、平
 成16年度は外来種のタチイヌノフグリ、在来種のキュウリグサ、ケ
 キツネノボタン、オオジシバリ、ジシバリ、ギシギシ、H17年度で
 は、在来種チドメグサの個体数が増えた様子が観察された。
 6)小群落をつくる種は、個体数や場所が年々変化する傾向がある
 1.0〜1.5平米程度の小群落をつくるものとして、シロツメクサ、
 クサネム、カラスノエンドウ、スズメノエンドウ、テンツキ、ヒデ
 リコなどが上げられる。これらは、年に応じて個体数の増減や群落
 の移動が観察された。クサネムやノエンドウ類は、結実と草刈りの
 タイミングが大きく影響すると思われる。
 7)移設された生育環境に合わない種が、適した環境へと移動し
   ていく様子がみられた 

 シロバナサクラタデ、キシュウスズメノヒエ、ケキツネノボタン
 などは、より水辺に近い場所に群落が移りつつある。
 8)池の泥上げにより、水際の植生が復活した
 泥上げした土から、スズメノテッポウ、カズノコグサ、タガラシ
 などが復活した。土砂とともに池底に流れた種子から発芽したもの
 と思われる。

4.考察
1)草刈りを年4回程度行うことで、1年草を含む多様な植生を維持
  し、安定した生物の多様な生育・生息環境を維持することがで
  きる。
2)部分的に草刈りの時期をずらしたり刈り残しを行うことで、多
  様な草丈の草地を生み、バッタ・キリギリス類などの隠れ場、
  エサ場を確保する。
3)小群落をつくるノエンドウ類、クサネムなどの1年草は、種が落
  ちる前に刈ることで、効果的な抑制ができる。
4)チガヤ、アシ、ヨモギなどの多年草は、優占し他の草本種を駆
  逐しがちであるが、草刈りの回数によりこれを抑制することが
  できる。
5)ガマ類は旺盛な繁殖力で生育範囲を拡大していくため、8月頃地
  下茎ごと引き抜き、10月頃刈り取る作業が必要である。
6)ヨシは芽摘みをすることで草丈を抑えることができるが、葉先を
  巻込んだ形状に生長する点に注意が必要である。
7)繁殖力旺盛な外来種であるセイタカアワダチソウは、根から引き
  抜くことで効果的に抑制できる。しかし、オオカナダモは、千切
  れたものから広がるため抑制は難しい。水生植物の外来種は、十
  分な注意が必要である。
8)池の泥上げをすることで、土砂とともに池底に流失した水際の植
  生の種子が再生した。植生管理の観点からも池の泥上げは有効である。

5.おわりに

 草本種の変化は、管理による影響の他に、土壌、気候などの環境的
条件、植物の性質などの生態的条件を受け、年々変化していく。しか
し、草刈りなどの管理により、単独で優占しやすい草本種を適宜除去
し、被圧されやすい草本種の生育を助長することで草本種の多様性を
維持し、安全性や美観を確保することに効果があることが分かった。
しかし、一部では、ノエンドウ類が優占し、それ以外の春に花をつけ
る草本種が減少・消失するといった状況もみられる。今後も、種ごと
の開花・結実の時期などに注目しながら、効果的な草刈り管理の方法
と時期を検討していくことが必要である。
 このように目的や緑地のイメージに応じて適切に管理を行うことで、
単なる緑地を多様な生きものが生育・生息する豊かな緑地に再生・維

持することができると考える。