2006.9.1 日本造園学会九州支部「都市内残存緑地の現状と保全・活用の方向性」

  平成18年度造園学会九州支部(長崎大会)で
口頭発表を3件、行いました。発表要旨を掲載します。

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都市内残存緑地の現状と保全・活用の方向性

                                         志賀 壮史 特定非営利活動法人グリーンシティ福岡
                                          水落 啓介 福岡市都市整備局公園緑地部緑化推進課
                                          松本伸三郎 福岡市都市整備局公園緑地部緑化推進課

はじめに

 都市の緑の景観、防災、生物多様性を考える上で、都市内残存緑地の
果たす役割は大きい。周囲にうるおいある緑の景観を提供し、火災の際
には被害の拡大を抑え、野生生物のビオトープともなっている。
 ここで言う都市内残存緑地は、四方を市街地に囲まれた島状もしくは
帯状の緑地を指す。個人の庭園や果樹園といった例もあるが、ほとんど
は宅地造成などの開発行為を免れ、結果的に残存した緑地である。その
ため、尾根部、急傾斜といった地形的特徴を持ち、面積も小規模なもの
が多い。
 一方、都市内残存緑地では、ごみの不法投棄や近隣住民からの苦情
(落ち葉、暗くて恐い)といった問題も出ており、必ずしもその存在意
義が理解され有効に保全・活用されているとは言えない状況にある。
 本稿では、都市内残存緑地の現状を植生を中心に把握し、その保全・
活用の方向性を検討することを目的とする。

1.調査対象
 過去の調査資料や空中写真をもとに、福岡市の市街化区域内から残存
緑地計115箇所を選定した。内訳は、緑地保全地区(当時)か緑地保全
林地区(当時)に指定済み、もしくは指定予定の所が34箇所、指定外の
緑地から81箇所である。

表1 調査対象緑地の面積分布(省略)
※指定外の緑地7箇所は、宅地造成のため消失した。 

2.調査方法
 下記の項目で現地調査を行った。「項目別ランク判定」では、4項目で
5段階の評価を行った。「森林植生の発達度」では、出現種の多様さと階
層構造の発達程度、地形環境の多様さを判定要素とした。「植生管理の必
要性」では、竹林・ササ類の繁茂状況を最も重く扱い、落葉樹の枯死、林
床状況等を加味して判定を行った。「地形状況」は、平坦地と傾斜地の割
合で判定した。「アクセス性」は、視認性と接道状況を重視し、出入り口
の有無を加えて判定した。

表2 調査項目と内容
 ・主な高木種  樹林地内に出現する主な高木種
 ・その他の高木 緑被率5%未満と判断される主な高木種。
 ・亜高木緑被率 亜高木層全体のおよその緑被率。
 ・亜高木種名  亜高木層の主な出現種。
 ・中低木緑被率 中低木層のおよその緑被率。
 ・中低木種名  中低木層の主な出現種。
 ・林床状況   林床の植生状況を図面に記録した。
 ・項目別ランク判定 「森林植生の発達度」
  (5段階)    「植生管理の必要性」
           「地形状況」
           「アクセス性」

3.調査結果
 植生調査のうち箇所ごとに最も緑被率の高かった高木種を表3に示す。
スダジイやクスノキ、アラカシといった常緑広葉樹が優占する緑地がほ
とんどであった。コナラやハゼノキなどの落葉樹林もあるが、亜高木層
まで常緑樹が生長しつつある箇所が多い。
 クヌギやクリノキ、カキ、シキミ、ソメイヨシノなどが見られるのは
栽培地や庭園として管理されてきた箇所であるが、多くは管理放棄され
植生は徐々に変化しつつある。なお、この集計からは、高木層の発達が
見られなかった8箇所の緑地を省いている。
 次に、項目別ランク判定の集計結果および高木における竹類の緑被率
を表4に示す。「森林植生の発達度」では、指定済み(予定)の緑地が
指定外の緑地より評価が高いことを示す。これは質の高い緑地から先に
緑地保全地区等の指定を行ってきたことを表している。
 「植生管理の必要性」では「判定4、5」の箇所を合計すると、指定
済み(予定)、指定外の両者ともに4〜5割にのぼる。これに関連して高
木におけるタケ類の緑被率が20%以上となった箇所は、指定済み(予定)
で7箇所、指定外で23箇所あった。
 「地形状況」や「アクセス性」の判定は、各ランクに分散する結果と
なった。想定される利用者の数や林内活動の可能性は箇所ごとに大きく
異なってくると言える。また、林内では大小のごみの投棄が見られた。
粗大ごみもしくは多量の空き缶等が投棄されていた緑地はのべ15箇所、
他にも小規模なごみの投棄はいたるところで見られた。

4.考察
 都市内残存緑地を良好な状態で保全していくためには、まず緑地の
「面積(量)」の確保が必要である。今回、過去の資料から選定した対
象地115箇所のうち、7箇所が宅地開発により消失、さらに18箇所では
部分的な改変が行われていた。今後も継続して、市街地内に残された緑
地を効果的に担保していくことが求められる。
 一方で、常緑樹林化や竹林化により緑地の「質」が変化しつつあるこ
とが明らかとなった。常緑樹林化の進行は、落葉広葉樹種および下層植
生を被圧し、枯死を引き起こす。また、竹林化も他の高木類の枯死、下
層植生の貧化につながる。これらは安定した植生へ移行しているという
見方もできるが、景観や生物多様性の観点から見れば問題も多い。
 この緑地の「質」的な変化に対しては、間伐や竹切りなどの保全管理
作業を適切に行う必要があるが、建築材や燃料としての木竹の価値が低
下した現代では、経済的に非常に困難である。
 これらの問題に対して、実際に行われている二つの事例を紹介し、保
全・活用の方向性を述べる。
 一つは、近年活発になってきている「里山保全活動」である。雑木林
や田園地帯をフィールドとした活動をイメージしがちであるが、都市内
残存緑地での活動も少なくない。例えば、里山保全活動が盛んな横浜市
では、「森づくりボランティア団体制度」を設け、19団体(平成15年
度)を対象に活動場所の仲介などの支援を行っている。福岡市内では、
「こうのす里山くらぶ」、「長尾の里山を守る会」、「舞松原校区まち
づくり実行委員会」の3団体が都市内残存緑地を対象に活動している。
「こうのす里山くらぶ」の例では、鴻巣山特別緑地保全地区において管
理者である福岡市の許可を得た上で、常緑樹の間伐、竹切りなどを行っ
ている。また保全作業だけではなく、小中学校の総合学習への協力や観
察会、どんぐりクッキングなども行っている。ボランティアにより保全
できる緑地面積は限られるが、市民や子どもたちを巻込みながら理解や
協力、地域への愛着を醸成しつつある。
 二つ目に、間伐材の環境保全資材としての活用である。外国産材やプ
ラスチック製品を使わずに、地元で間伐した木竹を土留め工や階段工、
ビオトープづくりといった地域の環境保全に活用していく方法である。
具体例の一つとして、福岡市職員有志による研究会「博多湾生態系活性
化プロジェクト」がある。ここでは、竹林化が進む残存緑地の竹を間伐
し、その竹竿を干潟に打ち込むことでアサリの定着をすすめる実験を行
っている。
 個々の都市内残存緑地の植生や地形・アクセス性などに配慮しながら、
これらのような保全・活用の動きを活性化していくことが、良好な都市
の緑を保全していくことにつながると考える。