平成18年度造園学会九州支部(長崎大会)で
口頭発表を3件、行いました。発表要旨を掲載します。

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緑化啓発事業における造園技術者およびNPOの役割

前田 准  特定非営利活動法人グリーンシティ福岡
北崎 博三 福岡市東区企画課

はじめに
 花と緑のまちづくりには行政、市民、研究者、業者など多様な主体
の理解と協働が不可欠である。各地でさまざまな協働の取り組みが行
われているが、その事例やノウハウを共有していくことには意義があ
ると考える。
 福岡市では2005年度に都市緑化フェア(愛称:アイランド花どん
たく)が実施され、市全体として花と緑のまちづくりに向けての機運
が盛り上がった。さらにフェア会場だけでなく、七つの行政区ごとに
独自に駅前や商店街で、花壇づくりが行われ(緑化フェアウェルカム
ガーデン事業)、各区ごとの特色ある花と緑のまちづくりが実践され
た。
 本報告では、福岡市東区で実施された二つの事例を紹介しながら、
花と緑のまちづくりを目指した緑化啓発事業の中で造園技術者および
NPOが担っていくべき役割について考察する。

1.事業概要
 福岡市東区の交通の結節点である千早駅および香椎駅周辺を対象に
フラワーポットづくり、花壇づくり、維持管理作業を行った。また、
植替え・播種・管理などについては、近隣の千早小学校・香椎小学校
の児童に協力してもらうことで、児童の花・緑や環境に対する感受性
を育て、さらに地域のまちづくりへの関心を高めることも目的とした。
実施内容は以下の通り。

 <千早駅前>
   対象:千早小学校6年生65人(2クラス)
   内容:フラワーポット、ヒマワリとコスモスの花壇
   日程:2005年
      3月22日 ウェルカムガーデンをつくろう
      5月31日 苗の植替え(夏)
      6月27日 ヒマワリの種まき
      7月 7日 コスモスの種まき
      9月13日 ヒマワリ、コスモスの維持管理
     10月25日 苗の植替え(秋)
     11月10日 自然観察会&スケッチ大会
     12月14日 振り返りとヒマワリ、
            コスモスの種取り
 <香椎駅前>
   対象:香椎小学校6年生103人(3クラス)
   内容:商店街沿いの街路花壇およびプランター
   日程:2005年
      3月 9日 春の花壇づくり
      5月27日 夏の花壇づくり
     11月 8日 秋の花壇づくり


2.実施体制
 主催は福岡市東区である。協力団体として千早駅前では「東区フラ
ワーボランティア」、香椎駅前では「東区マナーアップサークル『香
椎来い(かしこい)』が当日の運営・指導のサポートを行った。進行
および作業指導は特定非営利活動法人グリーンシティ福岡(以下、グ
リーンシティ福岡)が担当した。
 グリーンシティ福岡は、造園や自然・緑地、環境教育等に携わる有
志が集まり立ち上げたNPO法人である(平成15年9月認証)。

3.実施内容
 千早駅前、香椎駅前の2箇所で小学生と区職員、地域団体、NPO
で協力し、約1年間にわたって継続的に花壇管理を行った。
 千早駅前:「フラワーポット」の維持管理と「ヒマワリとコス
モスの花壇」づくりを実施した。
 「フラワーポット」の維持管理では、14基の円形プランター、7基
の四角プランターの計21基を対象とした。3月22日の活動では、ダイ
アンサスやデージーなどの一年草を11種、ラミュームやメドーセージ
などの宿根草を19種、スワンゴールドやベニバナトキワマンサクなど
の低木類を13種使用した。その後、5月31日の夏の植替えでは、枯れた
一年草を撤去し、ペチュニアやマリーゴールドなどの一年草を植込んだ。
10月25日には秋の植替えとして、ビオラを主体の植替えと低木の剪定
を行った。
 「ヒマワリとコスモスの花壇」づくりでは、千早駅前の道路沿いの
幅3m×長さ286mの敷地を活用した。6月27日のヒマワリの種まきでは
小学生が1人ずつ3〜5mの範囲を担当し、ロシア、大雪山、バレンタイ
ンの3種のヒマワリを植えていった。7月7日は同じ敷地でヒマワリの芽
生えを確認した後、コスモスを播種した。9月13日には、維持管理作業
として草取りやヒマワリの根元への土かけを行い、その後、ヒマワリの
大きさを計る、種の個数を調べるといった調査・観察の活動を行った。
12月14日には、これまでの振り返りとして、教室内で「印象に残った
こと」を発表しあい、その後、ヒマワリとコスモスの種取りを現地で行
った。
 なお、11月10日に行った「自然観察会&スケッチ大会」は、アイラ
ンド花どんたくの会場内で行った。自身で花壇を育てた経験を踏まえて、
新鮮な視点で種々の草花を観察してもらうことをねらいに、「花の神経
衰弱」などの体験学習プログラムを実施した。
 香椎駅前:商店街(通称:香椎セピア通り)沿いの街
路花壇およびプランターをグループごとに一つずつ担当し、植込み、施
肥、水やりなどの維持管理を行った。
 3月9日の春の花壇づくりではダイアンサス、ノースポールなどを主体
に植込んだ。5月27日の夏の花壇づくりではヒマワリやペチュニア、マ
リーゴールド、チェリーセージなどを用いた。11月8日の秋の花壇づく
りでは、コスモス、ナデシコ、パンジーなどを使用した。

4.アンケート調査と結果
 花壇づくり活動の終了後である12月に、参加した児童を対象にアン
ケートを実施した。有効回答数は千早小65、香椎小97である。
 全体評価(6段階)
 花壇づくり活動に興味を持てたかどうか6段階(1:全く興味が持て
ない〜6:とても楽しく充実した活動だった)で評価してもらったとこ
ろ、5ないし6と評価した割合は千早小56%、香椎小86%と半数以上
を占めた。全体的に充実した活動であったと言える。
 千早小の評価が低いのは、暑い夏や寒い冬にも管理作業を実施したこ
とが影響しているかもしれない。反面、自由意見では、月一回の定期的
な活動の中で植物の生長を感じることができたという声も多かった。花
壇づくりは楽しい部分だけでなく、苦労や大変さの部分がある。参加者
に過度の負担にならない程度に、管理の大変な部分を体験していくこと
は必要なことと考える。
 一方の香椎小では、商店街の花壇がきれいになり地域の人に喜んでも
らえてうれしかったという意見が多かった。通行量も多く、作業途中に
地域の人から声をかけられることで喜ぶ、元気づけられる、といったこ
とが作業中にも多々観察された。
 活動前後の意識の変化(6段階)
 花壇づくり活動の前と後で植物への関心は変わったか6段階(1:全
く関心がない〜6:とても関心がある)で評価してもらった。
 活動前は、1〜3のどちらかというと関心がなかった人の割合が千早
小72%、香椎小69%と約7割となった。しかし活動後はそれらが、千早
小14%、香椎小11%と大幅に減少した。このことから花壇づくりの活動
により植物への関心が高まったのは明らかである。実際に花や植物に触
れ、発見や気付きを得ること、そしてそれに連続して取組むことの効果
が明らかになったと言える。
 どんなことに興味を持ったか(選択、複数回答)
 千早小は「土や肥料、水やりなど植物の育て方」という回答がもっとも
多かった。これは、植替えだけでなく、種を播いて育てたり月一回のペー
スで現場を訪れ管理作業をしたことによると考えられる。対して、香椎小
では「友だちと協力して作業したこと」、「指導スタッフなど大人と一緒
に活動したこと」といった回答が多くなった。近隣の商店街の方に水をも
らったり、通行人の方とのやり取りがあったことなど、いろいろな人と
関わることができたことが印象に残ったと考えられる。
 楽しかったこと、印象に残ったこと(自由記述)
 下記に挙げるように、多様な意見が得られた。植物に触れたり、グルー
プで協力することの楽しさを感じたりしているうちに、初めは興味の無か
った活動もだんだんと楽しい活動になっていったと考えられる。
 ・手触りや匂い、色やかたちなどを観察した
 ・植えた植物が花を咲かせ大きく生長したこと
 ・花壇のデザインをしたこと
 ・スタッフや地域の方と関わったこと
 ・人にほめられたり、感謝されたりしたこと
 ・暑い中での種まき、寒い中での種取り(千早小)


5.考察

 二つの事例を通して「緑化啓発事業のあり方」と「その中での造園技術
者およびNPOの役割」の視点から考察を行った。

 緑化啓発事業のあり方としては、1回限りで終わるのでなく、連続した
取り組みが有効であると言える。その際、関わる指導者やスタッフが同じ
顔ぶれであれば参加者との関係性ができやすい。
 また、花植えだけでなく維持管理作業や体験学習プログラムなども加え、
バリエーション豊かな内容とするべきである。維持管理作業に時間をとっ
た千早小、地域との交流のきっかけとなった香椎小と、それぞれに特徴的
な感想が得られている。なお、維持管理作業を計画する場合は、天候や参
加者の体力やモチベーションに配慮しつつ作業量を決定する必要がある。
 造園技術者およびNPOとしては、こういった場面でいかに一般市民や
子どもたちにわかりやすく、かつ興味を引きつけながら解説(インタープ
リテーション)していけるかが求められる。植物の面白さや付き合い方を
うまく伝えていく技術を身に付けていくべきである。例えば、グリーンシ
ティ福岡の場合は、環境教育に携わるメンバーがその部分を担っている。
 また、事業の理念や目的がそのNPOと合致している場合、NPOは目
的の達成のため比較的柔軟な対応をとるといった利点もある。例えば、専
門家や地域団体など多様な人材との協働を行う、計画外の事態(緊急の水
やりなど)にも対応する、などである。
 今後の花と緑のまちづくりのために、多様な主体の連携・理解・協力が
不可欠である。その中で、造園技術者やNPOが担っていくべき役割は今
後さらに大きくなっていくものと考える。