特定非営利活動法人グリーンシティ福岡  牛嶋麻里子
福岡教育大学教育学部技術教育講座    大内  毅
特定非営利活動法人グリーンシティ福岡  志賀 壮史

はじめに

近年、多くの里山においては管理放棄が問題となっており、ボランティア等の保全活動が行われているものの、その状況を改善するまでには至っていない。また、一般市民に対して里山の現状が伝わっておらず、未だ関心が低い状況にある。

 そこで本研究では、一般市民に里山への理解と関心を持ってもらうことを主な目的として、里山の保全体験と、そこで発生した広葉樹材を使った日用品づくりを行う「森のワークショップ」を実施したので、その活動内容を報告する。

s-image001.jpg

図1:森の中でのワークショップ体験の様子

1.「森のワークショップ」の概要

「森のワークショップ」は、平成24年4〜6月に福岡市内の里山(鴻巣山特別緑地保全地区)において、幼児から小学生までの子どもとその親、保育士等を対象に、「森のめぐみを暮らしの中へ」をキーワードにして全4回行った(図1、表1)。そこでは、森と暮らしのつながりを実感できるよう次の四つの考え方で実施した。

1.森を知る:鴻巣山がどんな森か、地形や樹木などの観察会を行った。第1回から第3回までの活動のはじめに、毎回小さな観察会を行い、これから使う材や森について深く知るための時間とした。

2.森を守る:第1回目の活動で、里山の保全体験を行った。枯木や常緑の低木等を除伐し、また、過去の保全作業跡の見学も行った。

3.森の木で作る:保全活動で発生した広葉樹材で日用品づくりを行った。ただし、伐って日の浅い木は加工に適さないため、1年以上前に伐り、乾燥させた材を準備した。

4.持ち帰って使う:製作したものは、参加者が各自持ち帰り、実際に使ってもらった。

「森のワークショップ」では、一般的に木の実等を使ったクラフトとしてよく作られている置物や飾りではなく、実際に暮らしの中で使えるものを目指した。日々、手に触れることで、暮らしの中で実感してもらうためである。全4回を通じて、ヤマザクラを使った「森のスプーンづくり」(図2)、森の小枝を使った「森のえんぴつづくり」(図3)、様々な樹種の木目や手触りの違い、香りなどを楽しめる「森のつみきづくり」(図4)を行った。

表1:全4回の内容

月 日

内 容

第1回

4月24日

・森の観察

・里山の手入れ体験

・そだの秘密基地づくり

・森のえんぴつづくり

第2回

5月12日

・森の観察

・森のスプーンづくり

第3回

5月26日

・森の観察

・森のスプーンづくり

第4回

6月23日

・森のつみきづくり

2.材の準備

[樹種と入手経緯]

材には、マテバシイ、アラカシ、クスノキ、ヤマザクラ、コナラ、ハリギリの6樹種を準備した。これらは鴻巣山特別緑地保全地区で保全活動を行う任意団体「こうのす里山くらぶ」の活動で発生した材を譲り受けたものである。いずれも1年以上前に伐採し、乾燥させた後、事前にある程度加工したものを用いた。

マテバシイ、アラカシ、クスノキは林内の光環境を改善させるために伐採したものを、また、ヤマザクラとハリギリは、被圧され枯死した個体があったため活用したものである。コナラは同団体において保全対象としているが、混み合っていたため間伐したものである。

[事前準備]

まず、切り出した樹木を丸太の状態から大型バンドソーや丸のこ盤を用いて厚さ3cmの板材と、スプーンやつみきサイズの小さなブロックに加工した。

その上で、以下の事前準備を行った。

森のえんぴつづくり:枝材を適度な大きさに揃え、電動ドリルを使って枝に穴をあけた。

森のスプーンづくり:ヤマザクラの材をミニバンドソーで大まかなスプーンの形に整えた。

森のつみきづくり:大きさを切り揃えたものに、ヒーティングツールで樹名を書いた。

3.成果と考察

(1)参加人数と参加者層:募集段階では、定員25名に対し、短期間で40名以上の申し込みがあった。各回20〜22名、のべ82名が参加した。森のめぐみを活かした日用品づくりという取り組みは、非常に人気があったと言える。また、これまでの里山保全の経験層とは異なる、一般市民層からの参加が得られ、関心を持つきっかけとなった。活動後のアンケートでは「木に触れる楽しさを知った」「近くの森のめぐみに気づいた」等のコメントが多く寄せられ、森の木々と、人の暮らしが結びつく体験をさせることに成功したと言える。

(2)里山保全活動で発生した広葉樹材の活用:保全活動で発生した材が日用品づくりの体験に十分活用できる事が分かった。活動で用いた里山の樹種について、材としての特徴や加工しやすさを表2に示す。広葉樹材は硬くて加工が難しいが、事前の準備を行えば初心者でも実用に耐えるものを製作することができると言える。

表2:樹木の材としての加工しやすさと特徴

 

 

加工し

やすさ

特徴

実施した体験

マテバシイ

×

目が細かい

森のつみき

アラカシ

×

目が細かい

森のスプーン

森のつみき

クスノキ

目が荒い

軽い

香りが強い

森のつみき

コナラ

×

重い

森のつみき

ハリギリ

軽い

森のつみき

ヤマザクラ

香りがある

森のスプーン

表3:材の形状による適した体験プログラム例

 

適した体験プログラム

枝材

(太さ)

10〜15mm

森のえんぴつ

25〜40mm

森のハンガー

板材

(厚さ)

15mm程度

森のバターナイフ

30mm程度

森のスプーン

その他

焚き火

ロケットストーブなど

s-image003.jpg

図2:森のスプーン

s-image005.jpg

図3:森のえんぴつ

s-image007.jpg

図4:森のつみき

4.展開への課題

「森のワークショップ」で活用した樹種は、九州の里山でよく見られるものである。身近な里山で得られる広葉樹材で日用品を作るという体験は、市民に新たな楽しみや参加意欲を感じてもらえ、里山への関心や愛着をより強く持ってもらえるようになるものと考えられる。

 このような広葉樹材の活用体験を子どもを含めた一般市民に提供していくにあたって、特にこれまで環境教育や里山ボランティアに取り組んできた団体が直面すると考えられる課題を整理した。

製材と乾燥:手道具では丸太の製材は困難なため、製材所や大型の機械を持った施設の協力が必要となる。また、乾燥させる期間のストックヤードも確保しておく必要がある。

事前の加工:堅い広葉樹材の場合、ナイフ等だけでは加工してもらうのは非常に時間がかかる。森のスプーンの場合は、事前にミニバンドソーでスプーンの形状に切り出したものを用意した。ワークショップの時間に合わせ、事前にどの程度まで加工しておくかが重要となる。その際、特に市街地で活動する団体にとって、ミニバンドソー等の電動工具から発生する騒音が課題となった。電気が使えて、騒音や粉塵が発生してもよい場所が必要となる。

安全管理:ワークショップ中、参加者には切り出しナイフや丸ノミ等の刃物を扱ってもらう場合がある。その際は、刃物のケガも適用される保険への加入、十分な事前説明、治具なども含めた安定した作業スペースの提供、スタッフの目配り、救急セットの準備等が不可欠である。

メンテナンス:森のスプーンはクルミ油による仕上げを行った。日常、何度も使っていくうちに油が抜け、カサカサになっていくので、家庭でできるメンテナンス方法を伝えることや、場合によってはメンテナンスのためのワークショップを行うことも効果的である。

謝 辞

本ワークショップは、ローソングループを通じていただいたご寄付をもとにした(公社)国土緑化推進機構の「緑の募金」のご支援をいただき実施しました。皆様のご支援に感謝いたします。