特定非営利活動法人グリーンシティ福岡 志賀 壮史

はじめに

公共空間や施設のデザイン、地域活性化のためのイベント、防災、教育・人材育成等、様々な場面で多様な主体が対話しながら進める「参加型まちづくり」が実践されている。そこで行われるワークショップ等の対話の場を進行する技術や在り方のことを「ファシリテーション」と呼ぶ。

造園分野の技術者が業務の対象とする公園や街路、緑地、公共施設の外構等は、とりわけ多様な主体が利用し関心を寄せる空間であるという特徴がある。そのため、その計画・設計や管理・活用等においても、市民、行政、企業、NPO等の多様な主体が参加し対話することが求められると考える。

質の高い参加型まちづくりを実践していくためにも対話のための技術である「ファシリテーション」について整理し、発信していくことには意味があると考える。本稿では、既往資料及び著者自身によるワークショップ等における実践経験をもとに、主にその技術面の整理と考察を行ったものである。

1.ファシリテーションの位置付け

ファシリテーションという語のもともとの意味は“容易にする・促進する”である。堀1)は、「集団による知的相互作用を促進する働き」としている。会議やワークショップ等の場面において、参加者同士の関係づくりや意見の可視化・整理等を行い、各人の経験や持ち味を活かしつつより大きな学びや成果を得るための働きかけと言える。

ファシリテーションが活用される参加型まちづくりの場面で、特に造園・緑地・環境分野に関するものを表-1に挙げる。

表-1 ファシリテーションが活用される場面の例

・行政計画策定のワークショップや委員会

・公園の計画や改修案づくりワークショップ

・緑地の保全活用のためのワークショップ

・環境や観光分野のボランティア養成研修

・協働プロジェクトや啓発イベントの会議など

これらの対話の場をよりよいかたちで実現するには、浅海ら2)が整理したとおり、事前のデザインとして、以下の三つが不可欠である。

○プロセスデザイン:計画策定や設計、イベント等の全体工程の中で、どのようにどんな頻度で対話の場を設けるか?

○参加形態のデザイン:参加者数やどのような層に参加してもらうか?時間や場所の設定は?

○プログラムデザイン:その回の対話の場をどのような議題、進め方、役割分担、会場設営で行うか?

最後のプログラムデザインに関しては、当日の参加状況や進捗により、その場で手を加えられることも多い。しかし、基本的には事前にこれら三つのデザインができていてこそ、当日のファシリテーションが効果を発揮するものと言える。ファシリテーションだけで、よい対話の場を成立させることは困難である点に留意したい。

2.代表的なファシリテーション手法

一般にワークショップ等のプログラムは、いくつかのファシリテーション手法を組み合わせてデザインされる。参加型まちづくりの現場でよく使われるファシリテーション手法を表-2に挙げた。

表-2 代表的なファシリテーション手法

名  称

説    明

自己紹介・

他己紹介

参加者同士が安心して意見交換できるよう互いを紹介する。

ウィッシュポエム

「(対象の公園等が)○○だったらいいな」の形式で、望む将来像を数多く出し合う。

フィールドワーク

対象となる公園や緑地を歩き、写真撮影や地図の確認、自然観察や利用状況の確認等を行う。

ブレイン

ストーミング

「批判無し」、「質より量」、「(他人の意見に)便乗歓迎」のルールで、数多くの意見を出す。

(簡略型)KJ法

カードや付箋紙に書き出した多数の意見を、似たもの同士集めていくことで整理・構造化を行う。

バズマッピング

3人組の雑談形式の意見交換と、出てくる意見の付箋紙による掲示・整理を並行して行う。

カードを使った

ディスカッション

意見やアイデアをカード化しておき、優先順位や組み合わせ等を考えながら話し合う。

ファシリテーション・グラフィック

参加者からの意見をホワイトボードや模造紙に書き出し、可視化する。

ワールド・カフェ3)

46名程度にわかれ、席替えしながら20分程度の対話を繰り返し、対話と交流を行う。

OST(オープンスペーステクノロジー)4)

参加者自らが話したい議題を出し、その議題ごと分かれて意見交換できる場を提供する。

これらの手法のうち、ワールド・カフェやOSTは、日本国内では2007年頃以降、特に九州地域では2010年代に入ってから盛んに活用されるようになってきた。これらの手法は、ホールシステム・アプローチと総称されており、多様な関係者が集まって大規模で創造的な対話を行うことが特徴である。

それ以前のファシリテーション手法は、問いや進め方が事前に組み立てられていたり、個々の発言にファシリテーターが介在したりすることで、「構成的」な印象を持つものが多い。これに比較して、ホールシステム・アプローチと呼ばれる手法は、全体的な流れは決まっているものの、個々の対話自体は参加者の自発性・主体性に任され「非構成的」な印象を持つ。自由な対話からこそよいアイデアや課題解決の糸口が生まれ、さらには参加者自身も成長するという考え方である。

このような手法を実施する際、主催者やファシリテーターが「参加者だけでうまく対話が行えるか?」、「衝突や混乱が起きのではないか?」という疑問や不安を抱いてしまうことも多い。近年のワールド・カフェの広まりは、参加者を信頼する主催者やファシリテーターが増えつつあるとの解釈もでき、その点で素晴らしいことと考える。一方で、主催者やファシリテーター側が十分に準備せず安易に実施する事例や、交流と意見出しのみに終始し意見の収束や共有を省く事例も耳にする。

いずれのファシリテーション手法も、その効果や向き不向きを考慮して、参加型まちづくりのプロセスの適切な場面に用いることが重要と考える。

3.ファシリテーションの基礎技術

前項に挙げたような手法も、どう会場を設営するか?どんな問いを投げかけるか?といったより単純な動作や働きかけの組み合わせであると言える。そのような動作や働きかけ、言わばファシリテーションの基礎技術について以下に整理を試みた。

既往資料では、堀がファシリテーション技術について整理しており、「場のデザイン」、「対人関係」、「構造化」、「合意形成」と大きく四つの項目に分類している。また、吉田6)は会議の進行役の役割として「アジェンダをこなす」、「時間の管理」、「よく聴くこと、よく観察すること」等を挙げている。さらに中野7)は、自身のファシリテーター8か条の中に「その場その時にしっかりと在れ!」、「丁寧に耳を傾けよく聴こう」、「一番大事な『場』を読む力」といった言葉を入れている。

これらを参考に著者自身の経験を加え、ファシリテーションの基礎技術として表-3に整理した。

これらの7項目のうち、「しつらえる」、「場を読む」、「問いかける」、「受けとめる」、「整理する」の5項目については、既往資料等でも類似する内容の項目が立てられている。本稿では、これらに加え「待つ」、「任せる」の2項目を立てた。

参加型まちづくりの現場では、多様な主体が参加するため各人が対話するスピード感も様々である。そのため、相手のスピード感を尊重し「待つ」ことが重要な技術の一つであると考える。また、ワークショップ等では意見聴取だけでなく各主体の合意による意思決定や動機付けが期待されている。対話内容への介入や過度な責任感を持つことを避け、「任せる」技術が求められると考える。

表-3 ファシリテーションの基礎技術

しつらえる

居心地のよい会場をつくり、席の配置や室温などで安心できる場を提供する。目的やこの時間の進め方を全員で共有し、参加意欲を高める。参加者同士の関係づくりで仲間意識や安心して発言できる雰囲気をつくる、など。

場を

読む

参加者同士の関係性や、この集まりが置かれた状況を知る。対話に使える残り時間や参加者が持つ情報量・体調などを把握する。その集まりに求められる成果や品質の高さを把握する、など。

問い

かける

話し合いを進め、学びを深める問いを参加者に投げかける。発言の少ない人や少数派に発言の機会をもうける。発言の理由や背景を尋ね、意見を深掘りする、など。

待つ

参加者に対する問いかけが全員に共有される時間をとる。一人ひとりが思考し、思いを言葉にする時間をとる。参加者が考えをまとめ、決断する時間をとる、など。

受け

とめる

参加者に身体を向け、うなずいて聴く。真意を理解するよう努め、時には要約して確認する。参加者からの意見をホワイトボードや模造紙に書き出し、可視化する。

整理

する

参加者の発言や思いを簡潔な文章に表す。KJ法や図表を使った板書で意見の相互関係を示す。意見の評価軸や意思決定の方法を提案し、合意を得る、など。5)

任せる

意思決定は参加者に委ねられていることを確認する。ファシリテーターが不要と考える時は、その場を見守る。参加者の成長やお互いの関係づくりを促す、など。

1)堀公俊著(2004)『ファシリテーション入門』日本経済新聞社

2)浅海義治、伊藤雅春、狩野三枝著(1993)『参加のデザイン道具箱』世田谷まちづくりセンター

3)アニータ・ブラウン著、香取一昭訳(2007)『ワールド・カフェ』株式会社ヒューマンバリュー

4)ハリソン・オーエン著、株式会社ヒューマンバリュー訳(2007)『オープン・スペース・テクノロジー』株式会社ヒューマンバリュー

5)川喜田二郎著(1970)『続・発想法』中公新書

6)吉田新一郎著(2000)『会議の技法』中公新書

7)中野民夫著(2003)『ファシリテーション革命』岩波アクティブ新書