ファシリテーショングラフィックで使うプロッキー等の水性マーカーには,8色や10色,12色といったパッケージがあります。使いこなせばそれこそ色んなカラフルな表現をすることも可能です。
 ちょっと気に留めておきたいのが,日本では男性の20人に1人,女性の500人に1人は「色覚異常」だという事実。学校の教室に1人ずつくらいいる計算になります。「色盲」「色弱」「赤緑色盲」とも呼ばれていました。「盲」や「異常」という表現が差別的ということで,2017年頃から「色覚多様性」とも呼ばれるようになりました。ここでは現時点でもっとも一般的な呼称と思われる「色覚異常」としておきます。

 色の見え方に関するバリアフリーについては,東京大学の伊藤啓先生と東京慈恵会医科大学の岡部正隆先生らが,2002年から公開されている「色覚バリアフリープレゼンテーション法(旧名称:色盲の人にもわかるバリアフリープレゼンテーション法)」のサイトがとてもわかりやすいのでご覧ください。
http://cudo.jp/cbf/

 では,水性マーカーで模造紙に書く場合はどんなことに気をつけたらよいでしょう?色覚異常を持つ知人が協力してくれて,実際に試し書きをしながらプロッキーの色の見分けについて話を伺いました。

「赤と緑の違いはわかる」
 赤緑色覚異常と呼ばれることもあるくらいなので,「赤」と「緑」の色使いには注意しないといけない,とずっと思ってきましたが,実は両者の違いは十分わかるとのこと。同じ系統には見えるものの,「赤」の方が濃く、「緑」の方が明る見えるそうです。マーカーではありませんが,細い赤(例えば赤いボールペンなど)は,むしろ黒に見えて困ることがあるそうです。筆記具では全般的に「赤」のインクは濃く強く作られているのかもしれません。

「青と紫の見分けはつかない」
 「青」と「紫」の見分けはかなり難しいということでした。プロッキーでは「青」や「紫」は「黒」ほど沈まず,しかし強く目立つ色なので見出しに使うことがあります。「青」と「紫」の違いだけで大見出し/小見出し等の階層を表現するような使い方をしないよう気をつけたいですね。

「緑と茶は一緒。橙色もかなり近い」
 「緑」や「茶」は,「黒・青・紫」ほど強く重たくないけれど,書いた文字がはっきり見えるので,とりあえず使う&たくさんの文字を書くことがあります。しかし両者の違いがわかりにくいので「緑」と「茶」で発言の種類を仕分けしたりしないようにしたいものです。そう言えば私も質疑応答の場面で,質問を「緑」,回答を「茶」で交互に書いたりしていました…。反省。

「ソフトピンクへの変更は英断」
 三菱鉛筆(株)は色覚異常への対応として2010年に「桃色」を廃止して,新しく「ソフトピンク」を開発して差し替えました。以前の「桃色」は色覚異常の人にとって「水色」との区別がつかないものでしたが,現行の「ソフトピンク」は違いがわかりやすくなっています。変更は英断でした。ただし「ソフトピンク」は,15色セットに入っている「灰色」との見分けがつかないのでご注意を。

 人によって型や程度が異なるので,上記が全ての色覚異常の人にあてはまるわけではありません。ただ,色の違いだけで意見の仕分けや重み付けをすることは避けた方がよいですし,それはきっと他の多くの人にとっても見やすくなることだとも思います。
 色覚異常の人は,周りの状況や会話の文脈,過去の記憶を手掛かりにしながら,それがどんな色か推測しながら会話に参加していることがあります。時にはそれが負担やストレスになることもあるでしょう。
 会議や話し合いの場面で,出席者が本題以外に頭を使ったり,不要なストレスや疎外感を感じなくて済むような書き方・色の使い方をしていきたいものです。

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※左側がコピー用紙にプロッキーで書いてスキャンしたもの。
 右側がphotoshopの「色の校正」機能で「P型(1型)色覚」を再現したもの。