第13回 ツノ (2019年6月)

2歳の息子は、親しい人との別れ際に「バイバイ」ではなく「タッチ」をしたがります。
触れるということに何か特別な価値があると、子どもなりに感じているのかもしれません。

かたつむりにとっても、触れるというのは重要な行為です。
周辺環境についての情報を、おもにツノ(触角)で触れることで得るからです。
ツノの役割は、凹凸などの触覚を感じるというだけではありません。
「見る」「味わう」などのさまざまな感覚もまた、ツノで触れることで得ています。
かたつむりにとってツノは、ヒトにとっての手足であり、目であり、鼻であり、口でもあるのです。

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かたつむりのツノは、頭部にある大きな2本と、口元にある小さな2本の、計4本。
それらのツノをくねくね動かすことで、障害物や食べ物をはじめ、身の回りのいろいろな
情報を得ています。

ツノの代表的な機能は、周囲に触れて、身の回りの物理的な形状を知ること。
私たちが暗闇を手さぐりで歩くように、ツノをくねくねと動かすことで、障害物を発見し、
歩きやすいルートを探ることができるのです。
そして、ツノは嗅覚や味覚の感覚器でもあります。

おもに口元の2本のツノで、匂いを感じたり、触れて味わったりします。
さらに、頭部の大きな2本のツノには、先端に「眼点」と呼ばれる感覚器があります。
「眼点」はヒトで言う眼に相当する感覚器ですが、ヒトの目のように、身の回りの状況を
ぱっとつかめるようなものではありません。おそらく明るさの強弱がわかる程度。
私たちが目で見て世界を知るように、かたつむりはきっと、ツノで触れることで世界を
知ります。

さまざまな感覚器のついたツノを、くねくねと動かして世界に触れることで、かたつむりは
身の回りの世界を描いているのです。
ちなみに、かたつむりには人間の耳に相当する聴覚の器官がありません。
とは言え、もしかすると「肌感覚」で、空気の振動も多少は感じることができるのかも
しれません。


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私たちは主に目で見るということを通して、世界を描いています。
けれど、触れるという行為は、人間にとってもまた重要です。
きっと私がかたつむりを好きになった理由のひとつは、幼いころにかたつむりに触れて
遊んだからです。
私たち人は、心が発達した生きものです。同時に、心と体は分かちがたいほどに
結びついています。感情で表情が変化することはもちろん、緊張すると手に汗をかいたり、
嘘をつくときに無意識のうちに口元を手で隠していたり、心の動きと体の動きはいつも
共鳴し合っています。

そして、大事な人に手を握ってもらうと安心するように、体の感覚を通して、心も動きます。
つまり、私たちにとって体に触れるということは、同時に心に触れることでもあると思うのです。
触れるということは、もしかすると、感覚のまったく異なるかたつむりと人間が互いに心を
通わせられる(ほぼ唯一の)貴重な手段なのかもしれません。

※ちなみに、かたつむりに毒などはありませんが、広東住血線虫という海外から
来た危険な寄生虫がいるおそれがあります。触れた後には手洗いをしましょう。