第17回 はう 後編(2019年10月)

ふだんは足の裏だけで、それもたいていは靴下や靴を通して、間接的に世界に触れている私たち。ヘビはウネウネ、ミミズは伸び縮みしながら、からだのところどころを地面にひっかけながら移動します。一方、かたつむりは、からだ全体をぺったりと地面にくっつけたまま。いったいどのように移動しているのでしょうか。

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かたつむりやサザエなどの巻貝は、軟体動物の中でも「腹足類」というグループに含まれます。文字通り、おなかの部分が接地して、「足」としての機能を果たしているのです。透明なアクリル板などにくっつけて、かたつむりの移動を裏側から観察すると、波状に黒っぽい線が動いていくのがわかります。(写真ではちょっとわかりづらいですが…)

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ミミズには、地面にひっかかる剛毛がありましたが、かたつむりには剛毛などありません。代わりに役割を果たすのが、軟体部(からだ)をおおっている粘液です。

じつは、この粘液が、あなどれません。粘液は特殊な性質を持っていて、あるときには滑りを良くしたり、あるときには粘着力を発揮したりします。それが移動のときに欠くことができない大切なものなのです。

からだと地面のあいだに粘液が入っていることで、自然に摩擦力が変化して、ある部分では摩擦が生まれ、ある部分ではすべりが良くなって、足波が自然と前進する力に変わるのです。すべすべしたり、ねばねばしたり、相矛盾するような気もして、にわかには理解しがたいところもあります。こうした性質を粘弾性と言います。ねばねばの力はなんとも不思議です。

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かたつむりは、この移動様式のおかげで、複雑な環境を自由自在に移動することができます。細いツタを伝ってさかさまになっても大丈夫。バラ科のトゲもなんのその。探してみると、高い木の上にもいたりします。

シンプルなようで奥が深い「はう」という移動様式。もしも人間がかたつむりのように縦横無尽に動くことができたなら、環境もずいぶん違うでしょうね。壁も歩けるし、天井も歩けるから、狭い土地でも広く活用できます。

鳥になって空を自由に飛びたいという人がよくいますが、意外とオススメなのは、かたつむりになることかもしれません。空中では翼が休まりませんが、かたつむりは壁や天井にくっついたまま、殻にこもって眠ることもできるんですから…。

 

【参考文献】岩本真裕子(2016)腹足類の這行運動に見る運動メカニズムと制御 応用数理 Vol.26(2) 14-21.