昨年末ごろ、我が家に宿泊中のかたつむりたちが産卵しました。卵を産んだのは、コハクオナジマイマイと、ツクシマイマイの2種。本来は土の中に産むのですが、土を入れていなかったので、濡らしたキッチンペーパーの下に産んでいました。
気づいてから、そーっと卵を移動させて、コケといっしょに観察しています。それから数日後、一斉に…ではなく、ぱらぱらと孵化が始まり、今も次第に赤ちゃんが増えています。とってもかわいいのですが、あまりに小さいので、飼育ケースの掃除ができずに困ってもいます。

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かたつむりの卵はこんなふうに白いものが多いです。飼育ケースの中を見ても、割れた卵の殻はほとんど見つかりません。生まれたかたつむりが自分で食べて、殻の栄養にしているのでしょう。かたつむりの赤ちゃんは、卵殻のわずかなカルシウムも有効利用しているのです。

ちなみに、なめくじの卵の場合はたいてい透明です。カルシウム節約のために貝殻を退化させただけでなく、卵殻も退化させたのでしょうか。

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ところで、卵は卵でも、私たちにとってなじみ深いのは、鶏卵に代表される鳥の卵です。鳥類の卵も、かたつむりの卵と同じように、白い殻で守られています。鳥類の卵殻の主成分もまた、カルシウムです。まったく違う生きもののようで、卵は意外と似ています。

一方、かたつむりの天敵として代表的な生きものと言えば、それも鳥類です。なぜ鳥類がかたつむりを好んで食べるかと言うと、かたつむりの殻にカルシウムが豊富に含まれているからです。鳥類の多くはカルシウムの大部分をかたつむりから得ていると言われています。実験的に森林土壌のカルシウム分を調節して、カマドムシクイという鳥の繁殖を調べた研究によると、土壌のカルシウム分が高い方が、繁殖密度や卵の数、繁殖回数が多くなったそうです。土壌のカルシウム分がかたつむりの生息に影響を与え、それがカマドムシクイの卵形成に影響を及ぼしていると推測されています。産卵期の鳥類は、卵生成期の爬虫類や妊娠期の哺乳類に比べ、10〜15倍のカルシウムを必要とするんだとか。

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空を飛ぶ鳥は動きが俊敏で、一見するとかたつむりとは無縁の存在にも思えます。でも、カルシウムという軸で見ると、切っても切れない深い関係にあるんですね。
そういえば、人間の嗜好も、傍目にはわかりにくいことがありますね。「この人、どうしてかたつむりなんかが好きなんだろう」なんて思っていませんか。もしかするとカルシウムのような、一見してもわからない大切な何かが、その人を深く惹きつけているのかもしれません。

【参考文献】Graveland et al. 1994. Poor reproduction in forest passerines from decline of snail abundance on acidified soils. Nature. 368: 446-448.堀江明香 2014. 特集:鳥類における生活史研究 総説 鳥類における生活史研究の最新動向と課題. 日本鳥学会誌, 63(2): 197-233.