かたつむりはその定義自体あいまいな生きものですが、なかでも特にあいまいなのが、
ヤマタニシという陸貝です。
「タニシ」と名が付きますが、タニシとは本来、原始紐舌目のタニシ科に属する貝類のこと。
一方、ヤマタニシはタニシ科ではなく、独立したヤマタニシ科に属するので、タニシとは
見なされていないのです。 じゃあ、陸の貝だから、かたつむりなのかというと、そうとも
限りません。一般的なかたつむりが属するのは、貝類の中でも「柄眼目」というグループ。
ヤマタニシは「原始紐舌目」というグループです。
したがって、「かたつむりは、柄眼目の陸貝である」という立場からは、ヤマタニシは
かたつむりとは認めてもらえないのです。

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ヤマタニシは、外見的にも一般的なかたつむりとは趣が異なります。
一般的な柄眼目のかたつむりには、ツノが2対(4本)あり、2本の大きなツノ(大触角)
の先に眼がついています。
一方、ヤマタニシはツノが1対(2本)しかなく、眼はツノの付け根に、ちょこんと
くっついているだけです。 そして、もう1つのヤマタニシの特徴が、フタです。
ヤマタニシには、貝殻にフタがあるのです。ここはタニシといっしょですね。

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かたいフタがぴっちり閉まるので、外敵の侵入を防ぐことができるというわけ。
こんな強力なガードがあるなら、柄眼目のかたつむりも使えばいいのに、と思いませんか。
入り口から侵入するマイマイカブリなどの外敵から身を守るにはもってこいです。
でも、実際にはフタをもつかたつむり(陸貝)は少数派。
いったいどうしてなのでしょう。 ぱっと思い浮かぶのは、フタがないと、くっついて休む
ことができないということがあります。
以前このコラムで、粘液が乾くと、エピフラムという薄膜をつくるということを書きました。
同時に、エピフラムは接着剤の機能も果たします。
葉っぱの裏などで休むときに、ぴったりくっつきながら休めるわけです。
ところが、かたいフタをもってしまうと、下の写真のコベソマイマイのように、ぴったり
くっついて高いところで休むことができないというわけです。
また、フタが体にくっついているために、殻の奥の方までひっこんで、外敵や乾燥から
身を守ることもできなくなります。
結果として、結局は外敵に狙われやすくなってしまいますね。

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私にとって、かたつむりの大きな魅力は、そのあいまいさと多様性にあります。
そう思うと、ヤマタニシも「かたつむり」に含めていいんじゃないかという気がします。
かたつむりか、タニシか、どちらに含むかを決めるのは、私たちヒトの勝手な都合なのですから。 ヤマタニシは「タニシだからタニシらしく生きなきゃ」とか、「かたつむりだからかたつむりらしく
しなきゃ」とか、そんなことはちっとも思っていないんだろうなぁ。