人からつつかれて、つい自分の考えを引っ込めてしまうことってありませんか。私には、よくそんなことがあります。あぁ、もっと主張しても良かったのかなぁと後で悩むことになるのですが。うーん…。
それはそうと、かたつむりのツノ(触角)も、つつくとすぐに引っ込みます。
ツノが引っ込むのは、陸上の貝類のなかでも柄眼目(マイマイ目)という仲間に属するかたつむりに限られます。
たとえば、ヤマタニシなどの基眼目という仲間のツノは、ツノだけを引っ込めることはできません。引っ込むときには、ツノは出したまま、軟体部全体を殻の中に引っ込めていきます。
ツノ自体が引っ込められるというのは、じつは特殊な能力なのかもしれません。

伸縮するツノ写真1.jpg

では、どんなメカニズムでツノが出たり引っ込んだりするのでしょうか。
出てくるときと引っ込むときで、メカニズムは違います。おもちゃの「ピロピロ笛」(吹き戻し)の仕組みに、ちょっと似たところがあります。 下の適当な図を見ながら、イメージしてみてください。「ピロピロ笛」を伸ばすのは空気の力ですが、ツノを出すときには体液を使います。「ピロピロ笛」に息を吹き込むように、ツノの内部に体液を流し込んで、ツノ全体を押し出していくのです。「ピロピロ笛」を縮めるのはバネの力ですが、ツノを引っ込めるときは、ツノの内側にある筋肉を使います。ツノの先端を内側から引っ張って裏返すようなイメージで、ツノ全体を引っ込めるようです。 


 ツノが素早く引っ込むというのは、狭いところに入ったり、高いところに登ったり、縦横無尽に移動するには有利です。 目があまり良くないかたつむりは、ツノという感覚器官で触れながら周囲の環境を知覚します。そのとき、ツノのような突出した部分というのは、どこかにひっかかったり、外敵に突かれたりして、傷つきやすいものです。たとえば、ノラネコの耳を見ると、傷だらけになっていることが多いですよね。ネコの耳も、突出した部位と言えます。 まして、ツノは身体の部位でもっともパイオニア精神の強いところです。なんでもツノで触れて確かめるのですから、リスクがあっても未知のものに積極的に触れることが、ツノの使命と言えるです。
だから、何かに積極的に触れつつも、すぐに引っ込むことで、傷つく危険をできるだけ回避するのです。
ちなみに、ツノは切れても再生しますが、時間がかかります。しかも、片方だけ切れると、左右の感覚がおかしくなって、しばらくくるくる回ってしまったりするそうです。

伸縮するツノ写真2.jpg

かたつむりも種によって、あるいは個体の状態によって、触れたときの引っ込み具合が異なります。ちょっと触れただけで身体全部引っ込めてしまうかたつむりもいれば、ツノの先だけちょっと引っ込んで、すぐにまた元に戻るかたつむりもいます。全部引っ込んだあと、なかなか出てこないかたつむりもいますね。

つつかれたらすぐに自分の考えを引っ込めてしまいがちな私の性格も、もしかしたら、自分を守るために必要なことなのかもしれません。 とは言え、引っ込めたことを後悔するより、かたつむりのように、柔軟に自分の「ツノ」を伸ばせるようになりたいものです。