第30回 好き嫌い(2020年11月)

人それぞれ、嫌いな食べ物ってありますよね。ピーマンが苦手とか、シュンギクがダメとか、キノコ類は全部ダメとか…。 かたつむりは移動能力が低いことから、あまり食べ物の選り好みはしないとされています。草木やコケなどの植物はもちろん、地衣類、きのこなどの真菌、昆虫やミミズなどの死骸、それから土壌も食べることがあります。 手あたり次第なんでも食べると言えますが、それでも大なり小なり好き嫌いがあります。

まずは、かたつむりがどんなプロセスで食べ物を見つけ、食べているのか、考えてみましょう。

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1.食べ物さがし

とりあえず、かたつむりは歩き回ります。何を意図して動いているのか、私にはよくわかりません。どこからか漂ってくる何らかの魅力ある匂いを感じれば、匂いの源となる食べ物へと向かいます。ガードレールなどに残っているかたつむりの食べあとを観察する限り、ふと気まぐれに空腹を感じて、足元が食べられるかどうか調べてみる、という状況もありそうです。

 

2.とりあえず食べてみる

食べられそうな物を見つけたら、まずはツノ(小触角)で、それから唇で、感触や味を確認します。
それが食べ物として魅力的であれば、さっそく食べ始めます。 ある程度満腹になれば食べるのをやめますし、あるいは何らかの不快感があると、途中で食べるのを止めます。


3.嗜好が変化する

食べたものが栄養豊富でおいしければ、その匂いや味を覚えて好きになります。
一方、苦みなど刺激があれば、その匂いや味を覚えて嫌いになります。
また、食べた後で毒性を感じて嫌いになることもあるようです。たとえば、植物の防御物質であるシアン化合物が含まれていると、食べません。たとえば、アジサイは代表的な毒性のある食べ物です。(でも、隠れ場所として都合が良いのか何なのか、アジサイ周辺にかたつむりがいることはよくあります)
こうして食べ物の嗜好性は、経験によって変化していくのです。

 

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飼育しているかたつむりは、紙をよく食べます。紙の主成分はセルロース。セルロースは糖類で、人間とっては消化できないただの繊維ですが、かたつむりは消化できるので、紙も重要な栄養源です。紙には炭酸カルシウムも添加されているので、殻の栄養もあります。
また、市街地にすむチャコウラナメクジというなめくじは、雑食と言えるほど何でも食べてしまいます。生きもののフンや死がいを食べることもありますし、カラスノエンドウについている生きたアブラムシを丸のみしているのを見たこともあります。

とは言え、紙やアブラムシが食べられるものだと、彼らはいったいどうして気づいたのでしょう。 それも、たまたまちょっとかじってみて、おいしいと学習したということなのでしょうか。
なんという、行き当たりばったり…。

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まぁ、人間も似たようなものです。

私に特別嫌いな食べ物はありませんが、それはたまたま「出合っていないだけ」とも思っています。別の文化圏に入れば、たちまち嫌いな食べ物ができるかもしれません。
今は好きな食べ物でも、何らかの嫌な出来事と結びつくと、途端に嫌いになる可能性もあります。たまたま一度食中毒に当たってしまって、もう食べられないという話はありますよね。
この場合は、「嫌い」というよりむしろ「怖い」ですね。まんじゅうを食べてお腹を壊したら、「まんじゅう怖い」と本気で思うことでしょう。

そう考えると、反対に好きな食べ物があるって素敵なことですね。 その食べ物の味がおいしいのはもちろん、匂いや見た目、食べたときの状況なども含めて、それが好きだと思えたのですから。


【参考】B. Speiser (2001) "6 Food and Feeding Behaviour" ("The Biology of Terrestrial Molluscs" ed. G.M.Barker) 259-288.