NPO法人グリーンシティ福岡 福島優NPO法人グリーンシティ福岡 志賀壮史

 1.九州自然歩道の現状
 九州各地の魅力ある地域や自然公園等をめぐる九州自然歩道は、1980年に整備されて、今年で33年になる。自然とのふれあいの場としてだけでなく、地域活性化のツールとして期待が高まっているが、歩道や諸施設の老朽化また自然災害等による通行止めといった問題もある。
 その背景には、利用者数の低迷や関心の低下がある。本稿では、九州自然歩道約3000㌔のうち福岡県内のコースを取り上げ、約92㌔の現地踏査や公募型のイベント実施を通じ、利用者視点に立った九州自然歩道の評価を試みる。

2.調査方法と結果

1)資料調査

 九州自然歩道の現地踏査を行う前に、利用者向けマップやウェブサイトを調査した。ここでは、比較的容易に入手閲覧できる下記の2件について整理した。

■九州自然歩道ポータル
 http://kyushu.env.go.jp/naturetrail/
 環境省が作成した九州自然歩道のコースが閲覧できるサイト。今年5月には大分コースと五島コースが公開され、全コース閲覧できるようになった。しかしながら、現時点では各県ごとのコースしか表示することができない仕様になっている。

■九州自然歩道福岡県内コースマップ
 福岡県が2013年4月に発行したマップで、福岡県内のコースが地域ごとに記されている。下図には国土地理院の5万分1地形図を使用。地域ごとの名所や見所がおおまかに書かれているため、初心者でも見ていて楽しく行ってみたい気持ちになれる。しかし歩いてみると、5万分1地形図では分かりにくい箇所が散見されるため、現場で参照する地図としては若干使いづらいのが現状である。国土地理院等の地形図を使用することはその正確さから望ましいことではあるが、実際の歩道の状況や眺望などまで示されているわけではないため、九州自然歩道を歩く初心者のためにはもう少し詳しい情報が掲載されるのが望ましい。また実際のコースとマップ上のコースとに差異が生じている場所もあり、自然災害等によるコース変更にマップの更新が追い付いていない箇所があると考えられる。

 

2)現地踏査現地踏査は、下の日程、区間で行った。

表-1 現地踏査の概要

日程 地名 距離
H25年5月2日〜6日 皿倉山〜英彦山 約92㌔

 調査項目は、歩道状況の確認・サインの確認・危険個所・眺望ポイント・水場・トイレ・その他利便施設のチェック及び利用者視点からの印象である。以下に踏査結果を示す。

<歩道の状況>

 今回、現地踏査した区間では、約4割が「歩道区間」と呼ばれる山道、約6割が「標識区間」と呼ばれる舗装道路であった。

<サイン>皿倉山〜英彦山間で確認できたサインは約200基だった。最も一般的なのは、T字型の木製のサインである。方角、地名、距離、「九州自然歩道」のみ、など記されている内容はサインによって異なっていた。他にも地図付きの大型サインやトーテムポール型、緑サイン(九州自然歩道担当部署以外が整備しているため)、ステンレス製(平尾台でみられる。野焼きを行うため燃えない素材でできている)がある。設置間隔は平均すると約500mであった。また5,6キロの間隔で地図付きの大型サインが設置されていることから現在位置を把握しやすい配置であった。

<危険個所> 通行止めの箇所は2箇所、下表のとおりである。

表-2 通行止め区域

場所 状況 リルート
中哀峠 隧道の老朽化 平行して新仲哀トンネルがある
特牛ダム〜油木ダムの登山道 岩や木による歩道の妨げ 田代地区から油木ダム東側へ出るルートがある

<トイレ>
 皿倉山〜英彦山間ではトイレは11か所、その中に飲食店等のトイレは含んでいない。

<その他水場・利便施設>
 利便施設の状況は、ポータルや福岡県内コースマップからは分からないため、民間の資料や、口コミ等の情報を得てから現地踏査した。縦走ルートで水の補給場所は、福智山山頂手前の水場しかない。その後は、石原町、行橋市、みやこ町と水補給できる場所を転々とするため、水に困ることはなかった。しかし今回の踏査区間以外では、長期間にわたって水の補給ができないところもあり、注意が必要である。コンビニやスーパーなどの食品を買える場所は、みやこ町のスーパー、コンビニしかなく、食料の補給が課題となる。

 

 3)ウォーキングイベントでの参与観察
 NPO法人グリーンシティ福岡主催で、ウォーキングイベント「第1回九州自然歩道ウォーク〜四王寺歴史散歩〜」を開催。太宰府市の四王寺山周辺を歩いた。以下の表に概要を示す。

表-3「第1回九州自然歩道ウォーク〜四王寺歴史散歩〜」の概要

日時 2013年5月26日 10:00〜14:30
コース 西鉄都府楼駅前〜大宰府政庁跡〜焼米が原〜水瓶山〜西鉄太宰府駅
距離 約6.8㌔
参加者  13名
スタッフ 3名

 上記イベントにスタッフとして関わる中で、参加者の声や様子を観察した。参加者13名の中には、大学、学生、行政職員、環境コンサル会社社員、自然学校スタッフ、など多様な職業の人がいた。九州自然歩道を知っている人は、約半数。ほとんどが自然環境に関わる仕事をしており、自然歩道に直接関係する仕事をしている人もいた。一方残る半数が知らなかったことから一般への九州自然歩道の認知度は高くないことが窺える。時間に余裕を持ったコースでもあったことから「ちょうどよい距離」「気持ちが良い」等の声があり、全員が予定通り歩ききることができた。イベント後、参加者からは「また行ってみたい」「次回も参加したい」の意見があり、コースや時間設定が適切であれば、初心者や入門者にも十分楽しめることが分かった。

 

3.考察
 以下に資料調査、現地踏査、イベントでの参与観察から明らかになった点を整理した。

・九州自然歩道のコースは、ポータルサイトや県内コースマップで知ることができる。しかし、歩道の状況や利便施設の状況は、提供されておらず、十分な情報発信が行われているとは言えない。

・皿倉山〜英彦山間は平均して約500mごとに案内サインがあり、道に迷うことは少ない。トイレも十分あるが、水や食料の補給場所には注意が必要である。※山間の縦走ルートが続く英彦山から大分へ向かうルートなどはより慎重な計画と装備が求められる。

・九州自然歩道には、様々な場所、史跡、風景が含まれており、初心者や入門者でも楽しめるコース設定が可能である。

 これらのことから、九州自然歩道は登山の経験者から初心者、ファミリー層等、様々な利用者にとって、自然と触れ合える場になりうるが、より多くの利用者に親しんでもらうためにも適切な情報発信が求められていると言える。

 平成24年8月1日には利用者の視点に立った情報発信や関係者間の情報交換等を行うため、有志による任意団体「九州自然歩道フォーラム」が設立された。九州自然歩道を利用する人が増え、地域の魅力が再認識されるとともに自然への想いが深まることが大切と考え活動している。九州自然歩道の認知度を高めるために例えば、西日本新聞への寄稿、アウトドア雑誌への情報提供等を行っている。今後は、公式HPの立ち上げ、利用者視点に立った実用性のあるマップの作成、地域やボランティアとの協働による歩道管理などを取り組む予定である。九州を一周している九州自然歩道だからこそ、本フォーラムの九州一丸となった取り組みに期待したい。