日本造園学会九州支部「九州自然歩道における2県の比較分析」

特定非営利活動法人グリーンシティ福岡 福島優・志賀壮史

はじめに

 九州自然歩道は、環境庁(現・環境省)が設定し、1980年に全線開通した長距離自然歩道である。九州7県を通り全長は約3000kmに達する。日本における長距離自然歩道構想はアメリカのアパラチアントレイル(Appalachian National Scenic Trail)をモデルにしており、九州自然歩道は1973年の東海自然歩道に次ぐ日本で2例目の長距離自然歩道となる。東海自然歩道と違い九州は観光の色が強く、山や海だけでなく太宰府天満宮や長崎の平和公園といった歴史的名所も巡るように設定されている。
 本稿では九州自然歩道全体の課題を整理し、活性化の方策を検討する目的で福岡県及び大分県を実際に踏査し、その特徴について比較・考察する。

 

1.九州自然歩道の課題整理

 全線開通から36年が経過した九州自然歩道は、多くの課題に直面している。過去の報告1)2)をもとに、現状の課題として以下の3つを整理した。

1)コースの魅力低下
 歩道や施設の老朽化が進み環境が変化していること、周辺施設の閉鎖等の状況がある。

2)利用者の集中
 多くの登山客や来場者が訪れる場所、特にピークハント(山頂)に利用が集中し、山頂間をつなぐ縦走や山と山をつなぐ里地の利用者が減少している。

3)情報不足
 コース情報は、ポータルサイトや県発行のコースマップで知ることができる。しかし大分県は開通当初のマップしかなく、また全線を通して、歩道の状況や利便施設の状況は提供されていない。十分な情報発信が行われているとは言えない。

 

2.福岡県コースと大分県コースの踏査及び比較

(1)踏査の概要

 踏査の概要を以下に示す。

表-1 九州自然歩道・現地踏査の概要

県名 福岡県コース 大分県コース
踏査期間 2013年5/36、9/2〜4、9/28〜10/3、10/11〜12 2015年6/1419、7/17〜23
延長 本線約208km(支線を除く) 全線約163km
備考 全線約263km 支線はない

 

(2)コースの紹介

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図-1 九州自然歩道・福岡県コース

 福岡県コースは、北の発着点である北九州市の皿倉山から福智山、平尾台へと登り、赤村や添田町を通り、英彦山で西ルートと東ルートと分岐する。西ルートは、小石原から馬見山や古処山を通り、秋月に降りて夜須高原を過ぎる。再び大根地山、三郡・宝満山と登り、太宰府天満宮へと降りて、天拝山、そして基山から佐賀県へと入る。一方、東ルートは、犬ヶ岳山系を通り、大平山から大分県へと入る。 

 

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図-2 九州自然歩道・大分県コース

 大分県コースは、太平山から青の洞門を通り、耶馬渓の集落を渡り歩きながら、豊後森駅につき、伐株山・万年山を登る。そして阿蘇くじゅう国立公園に入り、飯田高原、九重連山の坊ヶツル、鉾立峠を超えて、久住高原へと降りていく。竹田市の長湯温泉、豊後大野市の神角寺から再び竹田市に入り、用作公園、岡城址を過ぎ、神原地域から祖母山へと登り、宮崎県へと入る。

 

(3)ピーク(山頂)数の比較

 主要なピークを通る数と標高を比較する。

表-2 福岡県コース及び大分県コースの主なピーク

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 福岡県コースが通過するピークは大分県に比べ4倍近くあり、圧倒的に数が多い。福岡県は、皿倉-福智山や英彦山-犬ヶ岳山系、馬見-古処山等の縦走コースを多く取り入れている。
 一方、大分県は、九重連山の中岳や大船山、由布岳、鶴見岳等多くの人気の登山スポットがあるにも関わらず、山頂を通るコースを設定していない。

 

(4)名所・観光スポットの比較

 福岡県の場合、焼き物で有名な小石原、歴史文化財が多く残る秋月、太宰府天満宮がある大宰府、二日市温泉など歴史的な名所が多い。
 大分県は温泉の湧出量が日本一ということもあり、耶馬渓や宝泉寺、筋湯、長湯など各地の温泉地を通ることが特徴と言える。また、里山景観が残る耶馬渓の集落や草原地帯の飯田高原、湧水地として有名な竹田・豊後大野市の町々も通っている。


(5)サイン整備数の比較

 現地踏査時に確認できた案内サイン等の整備数を以下に整理した。全線開通当初に500mおきに看板を設置して、その後、定期的に看板の更新を行っている。県ごとに延長からサイン個数を割ると両県とも300〜400mあたりに1基のサインが設置されていることになる。地図付きの案内サインなどを考慮すると現在でもほぼ500m間隔でサインが設置されていることがわかった。


表-3 福岡県コース及び大分県コースのサイン整備状況

県名 福岡県コース 大分県コース
サイン整備数  約616基 約514基


(6)ハイカーとしての主観的な評価

 主観的な評価ではあるが、実際に2県の歩道を歩いた利用者の立場として、評価する。
 福岡県は、登山道が多く山から山へとつながる道だった。特に三郡-宝満山の縦走コースは、晴れた日ということもあり、すれ違うことが多かった。踏査中に他者と行う会話は山中ですれ違う登山家がほとんどであった。ときおり秋月や太宰府天満宮など、降りる町で観光や物資の補給、地元の温泉に入る等を行った。修験道の道も多い福岡県は、山を楽しみ歴史を感じられるコース設定と感じた。
 大分県は、登山道が少なく、集落から集落へ渡り歩くコースだった。地元の居住者とすれ違うことが多く挨拶や世間話もあった。集落をつなげる道は、古い峠であったり林を通り抜ける細い道であったりそこに住んでいた人たちの歴史を感じられる道だった。一方九重連山では、坊ヶツルを通るのみで、山頂を目指すことがなかったのが驚きであった。その分、法華院温泉山荘等で泊まり、立ち寄りとして、周辺の山々に行くことができる広がりを感じた。県全域が、地形的なアップダウンが大きく、標高60mほどの青の洞門から標高1200mの長者原、250mの竹田を通り、1756mの祖母山まで、大きな大地のうねりを感じられた。
 現地を歩いて感じたのが、2県のコースの趣旨の違いである。同じ九州自然歩道でも違った趣きが感じられた。


3.今後の利活用の促進

 歩道を管理する環境省・各県では対応できない利活用の側面について、2012年に九州のアウトフィッターたちで立ち上げた民間団体「九州自然歩道フォーラム」がその役割を担う。九州自然歩道の活性化を目的に、利用者視点に基づいた情報発信や管理者である行政と利用者をつなぐ活動を行っている。
 利用者視点に基づいた情報発信において、地域の特徴やコースの状況など異なる点が多いことから、それぞれの特徴に応じた情報発信が重要な点になると考える。九州自然歩道という大テーマがあり、コースごとにコンセプトを定め、地域の特徴を活かした歩き方を推奨することも考えられる。



 

参考文献

1)福島優(2013)「九州自然歩道の利用者視点からの評価」造園学会九州支部研究・事例報告集Vol.21

2)福島優(2014)「九州におけるロングトレイルの比較考察」造園学会九州支部研究・事例報告集Vol.22

3)九州地方環境事務所「九州自然歩道ポータル」(http://kyushu.env.go.jp/naturetrail/、2016年10月23日)

4)九州自然歩道フォーラム「九州自然歩道フォーラムHP」(http://www.kltf.info/、2016年10月23日)