特定非営利活動法人グリーンシティ福岡 志賀 壮史

はじめに

 森林ボランティア等,NPOや市民グループ等による環境保全活動には,生物多様性や景観の保全だけでなく,コミュニティ形成,技術の伝承等様々な社会的価値がある。しかしながら,その活動は参加者数や作業面積などの単純なアウトプットで評価されることが多い。環境保全活動をより多面的な価値を持ったものと捉えるための試案として,特定非営利活動法人グリーンシティ福岡で行った環境保全活動を事例にSROIの考え方に基づいた事業評価を行った。

1.SROIとその先行事例

 SROI(Social Return on Investment)は「社会的投資収益率」と訳される。その事業への資金や労力の「投資」に対してどのような成果があったか,経済的な成果(収益)だけでなく社会的な成果を考慮して算出する指標で,次式のように表される。

 SROI(社会的投資収益率)= 貨幣価値換算された社会的価値 ÷ 投入された費用

 日本で先行する事例としては,日本マイクロソフト(株)の「ITを活用した東北就労支援プロジェクト」の第三者評価報告書1)などの他,環境保全活動の分野では損保ジャパン日本興亜による「SAVE JAPANプロジェクト」のSROI評価報告書2)がある。しかし,SROIの評価作業にはデータ収集や分析のために相応の労力がかかることもあり,小規模な環境保全活動を対象とした評価事例はほとんど見られない現状にある。


2.評価対象とした活動の概要

 評価対象とした環境保全活動は2015年度に福岡市東区志賀島で行われた「志賀島森林保全ボランティア(通称:しかボラ)」である。10年以上管理放棄された民有竹林で,枯竹処理,間伐,竹炭づくりなど竹林の手入れの活動を計4回行い,のべ68人が参加した。

表-1 平成27年度「志賀島森林保全ボランティア」概要

年 月 日 参加者 備  考
H27年11月3日(祝) 19人 竹間伐等
12月3日(木) 14人 竹間伐及び竹炭
H28年1月9日(土) 30人 竹間伐及び竹炭
1月28日(木) 5人 雨天/竹炭
  合 計 68人  

3.SROIの考え方に基づく事業評価

 以下,SROIの考え方に基づきSTAGE1からSTAGE5の順で事業評価を行った。

 STAGE1 ステークホルダー

 まず,この環境保全活動で恩恵を受ける者(=受益者,以下「ステークホルダー」)を設定する。ここでは評価内容を社会的価値に絞るため,直接の恩恵を受ける土地所有者を除外し,以下の3者をステークホルダーとした。

活動参加者:健康・体力づくり,自然や作業についての学習,交流とおしゃべり等の恩恵を受ける参加ボランティア自身が受益者と考えた。

観光客:美しく手入れされ,ごみが落ちていない志賀島で気持ちのよい体験ができる観光客・来島者を受益者と考えた。

自然環境:生物多様性保全などの自然環境としての改善を評価・計上する目的で,ステークホルダーとして「自然環境」を設定した。

 

 STAGE2インプットとアウトプット

 インプット

 対象の環境保全活動は「平成27 年ふくおか地域貢献活動サポート事業」による助成と自己資金をもとにしている。情報発信や評価作業の経費を差し引き環境保全活動自体にかかった費用は311,430円となり,これがインプット(=投資)となる。

 アウトプット

 計4回の活動のアウトプットは以下の通り。満足度は活動終了後の参加者アンケートにより6段階評価で「健康づくりになったか?」等を尋ね,その平均を算出したものである。

表-2「志賀島森林保全ボランティア」のアウトプット

項目 アウトプット 備  考
活動時間 4日間 のべ18時間
参加人数 のべ68人 各回平均17.0人
満足度 健康づくり 5.5
学び・発見 5.2
交流・会話 4.9
参加者アンケート6段階評価
作業面積 約900㎡  
竹炭生産 約450㍑ 計3回×150㍑
不法投棄ごみの回収 約10袋  

 STAGE3 アウトカム

 3者のステークホルダーが竹林の手入れを通じてどのような恩恵を受けたと評価するか,その考え方,根拠,単位価値等の流れを表-3にまとめた。「活動参加者」はフィットネスクラブ料金の料金,「観光客」は志賀島までの交通費,「自然環境」は同様の作業を行なった場合の造園工の単価を算出根拠とした。

 

 STAGE4 インパクト

 上記のアウトカムから差し引くべき影響を検討し,最終的な社会的価値を算出した(同表-3)。

 

 STAGE5 SROIの算出

 上記の結果をもとにSROIを算出した。
 3者のステークホルダーごとのインパクトを合算すると340,173円となる(活動参加者102,816円+観光客25,457円+自然環境211,900円)。これをインプット(環境保全活動自体に投資した費用)311,430円で除することでSROI=1.09を得た。1以上になったことは「投資」以上の「成果」が得られたことを表す。

 

4.考察

 貨幣換算について根拠や情報の不足,議論の余地があるものの,SROIの考え方に従って一連の事業評価を行うことができた。
 得られたSROIは仮定を重ねた上で算出したものであるため,これを重視したり他事業との比較を行うことは適切でないと考える。しかし,そのプロセスで「事業の本来の目的は?」「目指す社会的価値とは?」が言語化されるため,事業関係者内の議論,支援者や社会への発信などのコミュニケーションを促進する上で有意義な取り組みであると言える。
 個別の課題としては,ステークホルダーの設定で「地域住民」や「希少動植物」など他の候補も対象として考えられた。また,「活動参加者」の参加動機を一律に「健康づくりと交流」として簡略化したが本来はより多様なものと考えられる。「観光客」の部分では根拠となる統計資料の不足が目立ったが,考え方の提示は行えた。「自然環境」については,生物多様性保全などの機能を計測・貨幣換算することが困難なため,投下した作業量で評価を行なった。先行事例
2)では参加ボランティアの時間数に造園工の単価を乗じて算出しているが過大な評価となる恐れがある。今回は作業成果について「造園工10人日の仕事」との見立てを造園業者より得て算出した。
 小規模な環境保全活動では,記録や計測などの評価作業に労力をかけられないことが多い。実現可能な方法でその活動の多面的な価値を言語化し発信していくことが,今後の環境保全活動の展開のために重要と考える。


参考文献

1)ビズデザイン(株)「東北UPプロジェクト第三者評価報告書(最終版)」 http://www.biz-design.co.jp/blog/2013/08/28/(2019年2月15日)

2)損保ジャパン日本興亜「国内初,環境保全プログラムにおける社会的価値の算出〜『SAVE JAPAN プロジェクト』の3 年間の活動成果を見える化〜」http://www.sjnk.co.jp/topics/sj/2014/2014070201contents/ (2019年2月15日)

※志賀島森林保全ボランティアは「平成27年ふくおか地域貢献活動サポート事業」の支援を受けて実施しました。 


表-3「志賀島森林保全ボランティア」のアウトカム及びインパクト

STAGE3 アウトカム
活動参加者 観 光 客 自 然 環 境
<期待する成果>
気持ちよく体を動かし,学び,交流する
<計測の方法>
参加者数とアンケートによる満足度
<計測結果>
68 人参加/平均5.2(84%)の満足度
<貨幣換算の考え方>
フィットネスクラブ料金での換算
<単位価値と出所>
約2,000 円/回(福岡市内の民間施設を単回で利用した場合の料金) 
<期待する成果>
ごみのない美しい志賀島を体験できる
<計測の方法>
主要観光ルートの延長,作業地の延長
<計測結果>
観光ルート延長14km,作業延長40m
<貨幣換算の考え方>
観光客数×交通費,観光体験にごみのない景観が寄与する率として5%,これに作業延長/観光ルート延長を乗じる
<単位価値と出所>
福岡市統計の観光客の1%が1,000 円の交通費をかけて来島していると仮定 
<期待する成果>
生物多様性保全等のための適切な管理
<計測の方法>
作業内容,面積
<計測結果>
枯れ竹処理と竹の間伐,約900㎡
<貨幣換算の考え方>
同じ作業を造園業者が行った場合の費用
<単位価値と出所>
造園業者による人工の見立てと国土交通省の「造園工」労務単価(福岡県・当時)
STAGE4 インパクト
活動参加者 観 光 客 自 然 環 境
<死荷重(本事業が無くても生じるアウトカム)
参加者の10%が類似活動に参加と仮定
<寄与率>
100%当事業による成果と考える
<その他>
定期的にやるもの。効果は持続しない。
 ・ ・ ・ ・ ・ ・
<貨幣換算した成果>
68(人)×84(%)×2,000(円)×90(%)=102,816 円
 <死荷重>
可能性は低い。
<寄与率>

100%当事業による成果と考える
<その他>
数年で元の状態に戻る可能性。

 ・ ・ ・ ・ ・ ・
<貨幣換算した成果>
178,200(人)×1,000(円)×5(%)×(40(m)/ 14,000(m))=25,457 円
<死荷重>
可能性は低い。
<寄与率>
100%当事業による成果と考える
<その他>
15 年程度で元の状態に戻る可能性。
 ・ ・ ・ ・ ・ ・
<貨幣換算した成果>
10(人日)×16,300(円)+諸経費30(%)=211,900 円