日本造園学会九州支部「福岡市共働事業提案制度による樹林地管理等を通じた地域活性化の取り組み」

特定非営利活動法人グリーンシティ福岡 志賀壮史
福岡市東区区政推進部企画振興課 古藤直樹      
福岡市総務企画局企画調整部 久田章浩      


 志賀島は福岡市東区に位置する陸繋島で「金印(漢委奴国王印)」の発見場所として有名である。多くの歴史的・文化的な魅力や独特な自然景観を楽しむことができる場所であるが、島内のアクセス道路や散策路などの樹林地管理が十分に行われておらず、観光バスが通りにくい、眺望が得られない、といった課題も見られる。特に玄界灘から博多湾までを一望できる潮見公園については、過去にこの地を訪れた鹿児島寿蔵(1898-1982/紙塑人形の人間国宝・歌人)も、「也良の岬見下すところ鬱々と繁れるトベラ伐りなば良けむ」と詠んでおり、樹木が繁りせっかくの眺めを楽しめないと嘆いている。
 これに対し、特定非営利活動法人グリーンシティ福岡と福岡市は、「福岡市共働事業提案制度」に基づき、平成21年度より3年間の計画で「志賀島歴史と自然のルートづくり事業」を実施している。樹林地管理等を通じた地域活性化の取り組み事例として現時点での成果を報告する。

 

 

1.福岡市共働事業提案制度の概要

 福岡市共働事業提案制度は、平成20年度から始まった制度である。NPOから事業の提案を公募し、NPOと福岡市が企画の段階から一緒に取り組むことで、市民に対するきめ細かいサービスの提供、地域課題の解決、都市活力の向上を目指している。
 応募資格は福岡市内に事務所を置き、かつ福岡市内で1年以上の活動実績を有すること、営利を目的とせず公益の増進に寄与する活動を行っていること等であり、NPO法人格の有無は問わない。事業経費は、福岡市の負担を5分の4以内とし、1事業あたり400万円を限度としている。
 平成20年度から毎年、提案の公募と選考が行われ、実施が決定された事業について次年度から事業実施される仕組みである。応募事業数及び実施事業数を下表にまとめる。

表1:共働事業提案制度の事業数

年度 応募事業数 新規事業数 継続事業数 実施事業計
H20 36 - - -
H21 13 -
H22 25 11

 

 2.志賀島歴史と自然のルートづくり事業の概要

 (1)事業概要:本事業は平成20年度に提案し、平成21年度から平成23年度まで継続して実施している。志賀島の歴史的・自然的資源を活用し、市内外からの来訪者にとって魅力的な周遊ルートを保全し、広報していくことで、交流人口の増加と地域の活性化を図ることを目的としている。同時に、地元ボランティア等との共働作業を行うことで、「地域の誇り」や「来訪者を迎えるマインド」を醸成することも目指している。 
 事業の具体的な事業は、下記に説明する「ルートづくり事業」と「案内・広報事業」の二つである。

 (2)ルートづくり事業:地元ボランティアや島外からの一般ボランティア、造園技術者との共働作業により、アクセス道路や散策路、潮見公園展望台周辺の樹林地管理を実施するもの。
 主な作業内容は、道路沿いに枝を張りだした高木の剪定、中低木の除伐、竹林の間伐などで、場所に応じて、眺望の確保や保全したいヤマザクラやクリ等の周囲の除伐、ツル切りを行っている。高所や傾斜地での作業や動力(チェーンソー、刈り払い機)を使った作業は造園技術者が行い、ノコギリなどの手道具で比較的安全に実施できる作業をボランティアが行っている。なお、空き缶や粗大ごみなどの不法投棄も多く見られ、その回収も併せて行った。
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図1:ルートづくり事業の実施状況(竹林管理)

 道路沿いの樹林地はほとんどが民有地で、その所有は多数の地権者に細かく分かれている。作業の事前準備として地権者の特定及び作業への承諾が必要となったが、これには地元自治会の協力(地権者の紹介、承諾のお願いなど)が不可欠であった。

 (3)案内・広報事業:既存サインや案内マップ等の現況調査を行った上で、島内の周遊ルートの案内・広報について検討を行った。一般向けの広報イベントとしては、ルートづくり事業で整備した散策路を使って史跡や万葉歌碑などを巡る「史跡ガイドツアー」を実施している。これはルートづくり事業による作業成果のお披露目も兼ねて行うもので、NPO法人志賀島歴史研究会を講師に実施した。
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図2:案内・広報事業の実施状況(史跡ガイドツアー)

 また、平成22年度には、おすすめの散策路や見どころ、食べ処などの情報をまとめて散策マップを作成した。 

 

3.事業の成果と考察

 (1)実施回数及び参加者数:以下にルートづくり事業及び案内・広報事業の実施回数と参加者数を整理した。2年間でのべ483人(事務局含む)の地元住民、島外のボランティア、造園技術者等が作業やガイドツアーに参加したことになる。

表2:ルートづくり事業の実施回数及び参加者数

  H21 H22 合計
現況調査(回) 5回
ボラ作業(回) 11回
専門作業(回) 16回
参加者数(人) 地元ボラ 42 26 68人
一般ボラ 38 52 90人
造園技術者 77 83 160人
事務局 41 44 85人
合 計 198 201 399人

表3:案内・広報事業の実施回数及び参加者数

  H21 H22 合計
現況調査等(回) 3回
ガイドツアー(回) 2回
参加者数(人) 一般参加者 23 27 50人
ゲスト講師 13 18人
事務局 10 16人
合 計 34 50 84人

 (2)樹林地管理と来島者の評価:ルートづくり事業で樹林地管理を行ったアクセス道路ないし散策路の延長は、のべ3.5kmになる。この間の路面部分に張り出した枝や枯木等は高所作業車等も使用して剪定・撤去している。ボランティア作業では隣接する竹林の間伐や不法投棄の撤去などを行った。また、ルート沿いの小さな見どころ(ヤマザクラの大木、モミジの群落など)の見映えや生育を改善する作業や、散見される外来種の刈り取りなどの作業も造園技術者とボランティアが一緒に行った。
 潮見公園展望台周辺では一帯の眺望確保のための高木剪定や除伐を行った。これは副次的に駐車場から公園内への見通しを確保することにもなり、これまで何度か報告されていた車上荒らし・置き引きの件数が格段に減少したという効果があった。
 地元住民や来訪者へのヒアリングでは、「ルート沿いが明るくなって歩きやすくなった」、「潮見公園から見事な景色が楽しめる」といった声が聞かれた。特に潮見公園展望台周辺では、展望台の階段を上らなくても眺望が楽しめるようになったため、年配の方や車椅子の方にも喜ばれている。

 (3)民有地の樹林地管理の一手法:地権者の不在や高齢化により管理放棄された民有地の樹林は、志賀島だけでなく多くの場所で課題になっている。本事業では、市とNPOが共働し、さらに地元自治会の協力を得ながら地権者の特定や同意を得て民有地内の樹林地管理を試みた。中には地権者の了承が得られず作業に至らなかった箇所もあるが、今後の民有地の樹林地管理を考えていく上で一つの進め方であると考える。

 (4)多様な人の参加:本事業には市とNPOスタッフだけでなく、地元住民や島外からの一般ボランティア、造園技術者が参加している。「行政職員とNPOスタッフ」、「地元住民と来訪者」、「造園技術者とボランティア」など、意識や考え方の違う人が出会う場になった。地権者との話し合いでは、来訪者の増加を望むか望まないかの考え方が異なった。ルートづくりの作業では、造園技術者とボランティアの作業テンポが異なった。それだけに事前準備や作業現場の運営には難しい場面があるが、多様な人が対話するきっかけになっていると考える。

 (5)「共働事業」による効果:本事業の実施を通じて感じた福岡市共働事業提案制度の特徴を2点挙げる。一つ目は、業務委託よりも内容面で、かつ一般的な助成・補助より予算使途の面で「柔軟な対応」ができる点である。関係者や現場の状況が変わる中で、随時相談を行いながら事業を進めることができている。二つ目に、会計事務やその他の面でNPOの技術や信頼の向上が期待できる点である。共働事業の実施を通じて、「新しい公共」の担い手の一つとしてNPOが成長していくことが期待される。