特定非営利活動法人グリーンシティ福岡 志賀壮史
1.オンライン型自然観察会の実施の背景
2020年の新型コロナウイルス感染症の拡大を背景に,外出やイベント等の自粛要請がなされた。加えて2月27日の「休校要請」により,地域によって異なるがおおむね5月末までの3ヶ月間,児童・生徒も自宅で過ごすこととなった。これにより,自宅でできる体験や学び,交流に対するニーズが高まっていった。
一方で,リモート勤務等の必要性から,オンライン会議ツールが急速に広まった。休校期間中に小中学校でもzoomを使った朝礼やクラスの交流を行う学校があり,企業等だけでなく一般家庭でも,オンライン会議に必要な機材やその使用についてのリテラシーも急速に普及していったと考えられる。
そのような中,特定非営利活動法人グリーンシティ福岡では zoomによるオンライン型自然観察会を企画・開催した。目的は休校中の児童がいる家庭に自然体験や気分転換の時間を届けることであったが,そのノウハウは休校や自粛期間中のみでなく,今後の体験プログラムや自然環境教育等に活用していけるものと考えた。
本稿では,上記の実施結果を整理した上で,オンライン型自然観察会におけるインタープリテーションの技術や特徴について考察を行った。
2.実施結果
(1)概要
名称:ZOOM de かんさつ会
主催:特定非営利活動法人グリーンシティ福岡
実施時期:2020年4月23日6月27日
実施回数:19回/参加費:無料/参加組数:376組
備考:第9回(5/22)以降は「令和2年度福岡市NPO活動推進補助金(新型コロナウイルス対策支援特別募集)」の支援を受けて実施。
当初は主催団体の自主事業として実施し,途中から新型コロナウイルス対策の補助金の支援を受けた。
月日とテーマ,参加組数を表-1に示す。テーマは身近にある自然とした。観察会が終わった後,参加者が自宅から遠出せずに追体験や確認ができることを目指したためである。
広報はSNSを中心に行った。その結果,参加者は福岡近郊だけでなく関東や北海道等,全国各地から得られた。
(2)実施体制と当日の流れ
スタッフは一部の回を除き,観察する現地に1名,それぞれ自宅からのリモートで3名の計4名で実施した。
表-1「実施テーマと参加組数」
回 | 月日 | テーマ | 参加数 |
1 | 4/23 | 春の芽吹き | 22 |
2 | 4/24 | 道ばたのちっちゃな花 | 25 |
3 | 5/1 | かぶだちの木 | 12 |
4 | 5/5 | 夜のちいさんぽ | 27 |
5 | 5/8 | そこらへん de ツルグレン | 26 |
6 | 5/13 | 里の生きものさんぽみみずいづる | 16 |
7 | 5/15 | 蜜腺って甘いの? | 15 |
8 | 5/20 | 里の生きものさんぽたけのこしょうず | 14 |
9 | 5/22 | クラウンシャイネス | 19 |
10 | 5/27 | 里の生きものさんぽべにばなさかう | 18 |
11 | 5/29 | 葉っぱ5種類を比べる | 21 |
12 | 6/3 | カタツムリ探しさんぽむぎのときいたる | 14 |
13 | 6/6 | 道ばたのちっちゃな花2 | 13 |
14 | 6/10 | 里の生きものさんぽかまきりしょうず | 14 |
15 | 6/13 | 三浦さんと歩く | 39 |
16 | 6/17 | カタツムリ探しさんぽ2うめのみきばむ | 18 |
17 | 6/20 | ダンゴムシとあそぼう | 18 |
18 | 6/24 | 夜の生きものなつかれくさかるる | 30 |
19 | 6/27 | はがきスペシャル | 15 |
4名のスタッフの役割分担は以下の通り。
・現地インタープリタ:現地で撮影と解説等。
・ファシリテータ:進行や参加者とのやりとり等。
・オペレータ:zoomの操作や参加者チェック等。
・チャット担当:解説の記録や書込みの確認等。
以下におおまかな当日の流れを示す。
10:30 参加者入室,オリエンテーション
10:40 はじめのあいさつ,前半の観察タイム
11:00 (画面を動かさない)休憩コーナー
11:05 後半の観察タイム
11:20 おわりのあいさつ,希望者は残って雑談
11:30 雑談の時間終了
(3)使用機材
主な使用機材は下記の通り。
・スマートフォン:iPhone8を機内モードで使用。
・モバイルWi-Fiルーター:HUAWEI-E624。
・zoomの有料アカウント契約:「プロ」プラン。
・スマホ用マクロレンズ:小さな花や虫の接写用。
・カメラスタビライザー: osmo mobile3を使用。
・2m程度の棒:Wi-Fiルーターを高く掲げるため。
・モバイルバッテリー:スマートフォンの充電用。
・スケッチブックとスマホ用三脚:タイトル等。
・ひざあて:低い位置を撮影する際の保護具。
・レンジャーベストと腕章:身分を明示するもの。
・マイク付イヤホン:周囲の騒音状況に応じて使用。
・白黒カード:小さい対象にピントを合わせるため。
(4)アンケート結果
実施後のアンケートは毎回は行わず,週に1度,その週の観察会の参加者に対してメールでオンラインアンケートへの回答を依頼した。結果118件の回答が得られた。376組の参加者に対して回答率は31.4%となる。
参加者属性は三択で尋ね,以下の結果が得られた。
「子ども・親子連れ」 24件(20%)
「大人(楽しみのため) 39件(33%)
「大人(仕事や活動のため)」 55件(47%)
当初のねらいと異なり,仕事や活動の参考にしたい層の参加が多かった。「子ども・親子連れ」の回答が少なかったのは,6月以降は学校が再開したことも理由として考えられる。
自由回答の内容から参加の満足度は高かったことが推察された。主なコメントを引用する。
・すごく楽しかったです。自宅にいる子供の為にオンラインで一緒に学習する皆さんに感動しました。
・つぶやきに反応してもらえ娘は楽しそうでした。
・思っていた以上に楽しめました。事務局スタッフのフォロー,ガイダンス,チャットで参加する参加者,それぞれが役割を果たしたからだと思います。
・生き物を伝えるだけならきれいな映像がいくらでもありますが,皆様と共感しながら時間を共有することでワクワク感が生まれるのが発見でした!
3.オンラインにおけるインタープリテーション技術
(1)対面型とオンラインの違い
テレビ番組やYoutube動画など一方通行のコンテンツと比べてオンライン型自然観察会は参加者との双方向のやりとりが可能である。とは言え,一緒に現地に出かける「対面型のインタープリテーション」との違いも多い。その違いを以下の3点に整理した。
1)参加者の反応が見えづらい
インタープリテーションは,参加者の関心やモチベーションをその表情や態度から読み取りながら行うことが重要である。しかし現地インタープリタが使用するスマホの画面から参加者の反応を確認することは難しい。 これに対して,ファシリテータ(進行役)のスタッフがPCの画面で参加者の表情を確認しながら,現地インタープリタに対して相槌や質問など「参加者の代弁」を行うことが効果的だった。
2)安全管理や誘導がほぼ不要
参加者は自宅や職場等の安全な場所にいるため一般的な安全管理や参加者の誘導はほぼ不要である。 一方で,誤操作や「zoom爆弾」と呼ばれる部外者によるいたずら等を防ぐ意味で,オペレータ(zoom操作)のスタッフが行う参加者チェックや使い方説明がその代わりを担ったと言える。
3)画像と音声しか伝えられない
自然体験では「五感を使うこと」が大切にされるが,オンラインでは手触りや匂い,味覚は伝えられない。そのため,解説者はいろんな言葉や例えで表現したり,参加者に想像してもらう問いかけを行うことになる。 一方で,むしろ文字情報は伝えやすい。解説内容をチャット担当スタッフがタイプすることで,聞き取りにくかった動植物の種名を正確に知ることができたり,参加者からの質問に対応しやすくなる等の強みがある。
(2)現地インタープリタのカメラワーク
参加者の目線は現地インタープリタのカメラに固定されているため,そのカメラワークはインタープリテーション技術の一部として重要と言える。
1)参加者の画面酔いを防ぐ
「画面酔い」を防ぐためにスマホ用スタビライザーを使用するほか,移動やパン(左右にカメラを振る動き)をゆっくり行う必要がある。目を休めるためにあえて画面を動かさない「休憩コーナー」を設けることも効果的と考える。
2)「ミクロの世界」や「足元の自然」を伝える
オンライン型自然観察会の強みの一つは,小さな花や虫を大勢で共有できることにある。マクロレンズを使用した接写や,地面すれすれのアングルから足下を撮影する等,普段とは異なる視点を提供することができる。
3)全景と接写を行き来する
PCやタブレットの画面は狭いため,全体像や位置関係,周辺環境などがわかりにくい。全景と接写を行き来することで,参加者の理解や安心感が高まると考える。
4.今後の展開
実施期間中,全国各地の自然学校やNPO等の関係者の参加があった。今後の体験プログラムや自然環境教育において,オンラインによるプログラム提供の可能性を考える層は多いと考える。
本稿でまとめたインタープリテーションの技術や特徴を自然学校やNPO,教育関係者等と共有し,お互いに情報交換していくことで,密閉・密集・密接を避けざるを得ない状況下でも、身近な自然についての体験や学びを継続していくことができると考える。
「小さな対象を大勢で見る」「全国各地の人と一緒に体験する」「参加者がリラックスできる場所で学ぶ」などの強みを活かした体験と学びの場が広まることを期待したい。なお,本稿の内容の詳細は「オンライン観察会はじめてガイド」として下記URLから配布している。
<参考文献>
特定非営利活動法人グリーンシティ福岡:「ZOOM de かんさつ会」<http://www.greencity-f.org/article/16263271.html>,2020.10.26 参照