発言を「事実」「考え」「気持ち」の三つで整理すると、落ち着いて人の話を聞けたり、対話がスムーズになったりしますね。

板書のフレームワーク(図表)として書き出すことは少ないですが、頭の中でこんな整理をしていることがあります。

 

 事 実
 ーーー
 考 え
 ーーー
 気持ち

 

「事実」は、実際に起きた出来事のこと。他の人が確認や検証することができる事柄です。

「考え」は、事実に対するその人の評価や解釈であったり、それをもとにした提案などです。

「気持ち」は、その人が抱いている感情で、根拠や理屈では説明できないこともあります。

 

 

<例1>イベントのふりかえり

 事 実:参加者数が3名だった

 考 え:参加者が少ないのでもう辞めるべきだ
     参加者を増やすために広報に力を入れよう
     参加者と密な交流ができてむしろよかった

 気持ち:がんばって準備したのに残念だった
     気負ってたけどちょっと安心した

 

<例2>スケジュールの検討

 事 実:締め切りまであと2週間

 考 え:残り日数が少ないので他より優先して進めるべきだ
     このペースで進めたら予定通り終わるはず
     締め切りを伸ばしてもらう交渉をしては?

 気持ち:終わらせなくちゃ、焦る!
     プライベートや他のことを優先したい…

 

このあたりについて思うこと、三つ挙げておきますね。

 

たいてい「事実」の共有不足

関連する「事実」を十分に確認・共有することなく「考え」や「気持ち」を出しあうと、話し合いは衝突が起きたり混乱したりしがち。そんな時は落ち着いて事実を確認していくことが大事です。例1であれば、イベントの目的や広報実績、参加者アンケートなど。例2であれば、現在の進捗、担当者の状況などです。その点で、認定NPO法人ムラのミライさんの「メタファシリテーション」の手法はすばらしいです。https://muranomirai.org

 

どの「事実」に着目するかで違う

同じ事実であっても受けとめ方は人によって千差万別、という面も確かにありますが…むしろ実際は「どの事実に着目しているか?」の違いが大きい気がします。「参加者が3人だった」ことに着目する人と「アンケート評価が高かった」ことに着目する人では、考えが異なります。関連する事実を並べて落ち着いて眺めわたしましょう。それには板書するのが一番です。

 

それぞれ異なる態度

事実・意見・気持ちを聞くときは、それぞれ異なる態度が必要と感じます。「事実」には注目してみんなで共有する。「考え」は、いくつも考えられる選択肢or可能性の一つとして聞いておく。「気持ち」はその人の自由なので尊重して受けとめる。逆に「事実を確認しない」「一つの考えを絶対だと思う」「気持ちを評価する」のはトラブルのもとですね。

 

 

息子が学校の授業で「目標達成シート」を書いてきたようです。

あれは強力な図ですね。大谷選手も使っていたということでも話題になりました。

 

ある達成したい目標に対して「その実現に必要なこと」を8個出す。その8個それぞれに対してさらに「その実現に必要なこと」を8個ずつ出す。これをマンダラ状に四方に展開しながら書いていくという図です。

「目標達成シート」の元になったのは、1979年に松村寧雄さんが開発した「マンダラチャート(一般社団法人マンダラチャート協会の登録商標)」、1987年に今泉浩晃さん考案した「マンダラート」、の二つあるようですが両者の関係はわかりません。

どんなものか?やり方は?に興味がある方はこのあたりをどうぞ。

「マンダラート」wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/マンダラート

マンダラチャートとは?」Miro. https://miro.com/ja/brainstorming/what-is-a-mandala-chart/

「d's JOURNAL/目標達成シート(マンダラチャート)とは」パーソルキャリア. https://www.dodadsj.com/content/230831_goal-achievement-sheet/

(全て2024.09.27.閲覧)

 

 

「目標達成シート」が強力なフレームワークである理由を挙げてみると…。

 

1)8個、出すこと。

 何かのお題に対して2、3個のアイデアを出すのはわりと簡単。けれど、8個出そうと思うと、ちょっと考え込んだり、あれこれ発想を広げたりする必要があります。その負荷の具合が絶妙な数じゃないかなと思います。

 

2)2段階で具体化すること。

 目標に対して「その実現に必要なこと」を8個出す作業を2回繰り返します。最初の目標が多少抽象的であっても、2段階具体化することで、すぐに取りかかれそうなタスクにまでかみ砕くことができます。抽象的な目標を行動につなげる点が強みです。

 

3)「マンダラ」なこと。

 2段階で8個ずつ出す作業は箇条書きで書くことも可能です。文字情報としては全く同じものでも、マンダラ型に書かれたものと箇条書きで書かれたものでは、印象がかなり違います(下イラスト)。マンダラ型では全体を把握しやすかったり、新たな気づきが生まれやすい利点があると感じます。

 

やー、よい図ですね。発表されて何十年も経っていますが、根強く活用されているのはその効果を実感する方が多いからだと思います。

そして、「ちょっと頑張って多めにアイデアを出してみること」「2段階、3段階とかみ砕いて具体化すること」「マンダラ状に記録して発想を広げること」などは、日頃から応用が効く考え方だと思います。

 

使えそうで使えないちょっと使えるフレームワークの第6回。

今月は「事前検死(pre-mortem/プレモーテム)」です。

なんか物騒な言葉ですね。

 

「事前検死」とは、なにかのプロジェクトをやろうとしている時、事前に失敗パターンを洗い出して、対策を具体化させておくことです。手順で言えばこんな感じ。

 ①プロジェクトが失敗したとしたら、それはどういう状況か?考えられるものを挙げる。

 ②それぞれの「失敗した状況」に対して、原因を挙げる。

 ③原因を踏まえて対策を考える。

 ④対策の中から優先順位や期限、担当を決めて実行していく。

 

「失敗するかも?」と悲観的になることではありません。

「失敗するとしたらこれ。だから対策しとこ。」という考え方です。

 

この事前検死の話し合いを板書する時は、

シンプルに三つのスペースで「失敗した状況」「原因」「対策」を書き出していくのが簡単です。

「失敗した状況」は、3、4行スペースを空けつつ挙げていくと、後で見やすくなります。一つの状況に対して、原因や対策は複数考えられることが多いからです。

こんな感じ。あくまで雰囲気ということで、内容は細かく見ないでください(笑)。

ちなみに、新企画「まちなかの森をめぐるガイドツアー」を想定して書いてます。

 

フレームワーク自体は、安全管理のコラム第11回「事故事例研究」や、このコラムの第26回「原因・対策系マトリクス図」とほとんど同じです。事実と考えを分けて考えることや、それを踏まえて対策を出すことでは共通しているからですね。

 

事前検死の場合は、事故や課題が発生した後ではなくて、あらかじめ行うのがポイント。

プロジェクト運営の精度を上げることが目的です。

 

参考文献:

 山崎裕二(2018)先にしくじる 絶対に失敗できない仕事で成果を出す最強の仕事術.日経BP

  【knowledge】プロジェクトの成功率を高める事前検死(pre-mortem) https://zenn.dev/bules/articles/a36ca13666ad34(2024.02.03.閲覧)

 

 

 

 

使えそうで使えない少し使えるフレームワークをご紹介するコラム、5回目。

 

何かの問題や困りごとがあって、その対応策を考える時に、二つの面から考えたらいいね、という図です。図というほどのものではありませんね(笑)。真ん中に1本、縦線を引くだけです。

左側が「離脱」。問題から離れる方向でアイデアを出すエリア。代わりになるものを見つけたり、縮小・中止しても大丈夫にするアイデアを出します。

右側が「発言」。問題に取り組み改善する方向でアイデアを出すエリア。効率化や活性化を試みたり、修正点、改善点を出していきます。

 

元ネタはハーシュマンの「離脱・発言・忠誠」です。

 離脱:地域や組織に問題が生じた時にそこから離れる行動。

 発言:地域や組織に問題が生じた時に解決のために働きかける行動。

といったことだと理解してます(詳しい方あればツッコミを…)。

 

「離脱」と「発言」の例を挙げると…。

<商品の品質が悪くなった時の顧客の行動>
 離脱:その商品を買うのをやめること。
 発言:不満や改善提案を企業に伝えること。

<地域コミュニティに問題がある時の住民の行動>
 離脱:引っ越すこと。移住すること。
 発言:住民で話し合うこと。投票すること。

<会社の労働環境が過酷な時の社員の行動>
 離脱:退職して別の仕事を見つけること。
 発言:労働環境の改善のために行動すること。

 

何かの問題に対して対応策を考える時、ついつい「とどまって問題を改善すること」に囚われてしまうことがあります。そもそもこれって必要だったのか?代替案はあるか?といった「離れて代わりを見つけること」も選択肢として持っておくと視野が広がります。

「離脱」することが賢いとか、「発言」することが尊いとか言うつもりはありません。その両者を行ったり来たり、見比べることで気づくことが出てきそうだな、という気持ちです。

 

 

 

 

 使えそうで使えない少し使えるフレームワークをご紹介する第4弾。

 モヤモヤしたことや悩み、問題などを書き出して、自分で相談する時用の枠組みです。

 

0)ノートか紙を準備します。下の図はノートの見開きを使っているイメージですが、A4用紙を横向きに使ったりしてもよいです。左半分はそのまま全体を使う、右半分は下寄りに「T」の字の線を引いて3分割します。

1)まずは左半分が「荷下ろしゾーン」。モヤモヤしている内容を思いつくまま書いていきます。誰に見せるものでもないので、落書きのように、浮かんできたことを書き殴るイメージ。きれいに書くことは目的ではありません。頭の中の「荷下ろし」が目的なのでそれで十分。

2)右半分の上のあたりに「現状のまとめ」を箇条書きにします。「荷下ろしゾーン」に書いたものをジッと見つめて、今のモヤモヤした状況はつまりどういうことか?自分なりに要約してみます。

3)右半分の下側は左右二つに分かれます。まず右側は「予防策」のエリア。今のモヤモヤした状況を避けたり、今後起こさないためにできる「予防策」を考え、書き出します。

4)残る右半分の左下のエリアは、現状のモヤモヤに対する見方を変えて、なるべくポジティブな見方をして気づいたことを書きます。自分自身の強みに気づいたり、相手への理解が深まったり、状況を逆手にとったアイデアが生まれたりするかもしれません。

 2010年頃から個人的にやっているのですが、似たようなワークは他にもありそうです。ご存知の方は教えてください。

 まあ、必ずしもこの枠組みで書かなくてもよいですし、自分もたいてい左半分を書くとスッキリしてそれでOKとなったりします。この書き方の目標は、モヤモヤした現状が少しでもすっきりし、何かしら行動が起こせるようになること、です。そのための提案は「頭の中でグルグル悩まず、荷下ろししよう」と「それを避けるための予防策も大事だけど、良い面もあるかもしれない」の二つです。

 

 

 

 FG本執筆リハビリ第3弾。使えそうで使えない少し使えるフレームワークをご紹介しています。

 2015年にボランティア活動に関するシンポジウムを行った時。後半の質疑応答で、ゲストの西尾雄志さん(日本財団学生ボランティアセンター代表理事・当時/近畿大学総合社会学部教授・現在)からこんなお話がありました。

 「学生のボランティア団体のリーダーにはいろんなタイプがあって、四つに分けられそう。名前を付けるとすれば『事務処理タイプ』『カリスマタイプ』『民主的リーダータイプ』『なぜか愛されるタイプ』」。

 なるほど面白いです!学生に限らずいろんな組織のリーダーにも通じる気がしますね。

 

 さて、何事も「四つある」と聞くと「2×2の2軸で整理できるんじゃね?」と考えるのが「ファシグラ脳」。ファシグラ脳とかそんな言葉ありませんけども。

 西尾さんの四つのリーダータイプを2×2で分けてみると…こんな感じでしょうか?

 うちの団体のリーダーはどのタイプかな?とか、自分にとって難しいリーダーシップはどの部分かな?とか、うちに足りない部分を補ってくれる人はいないかな?とか考えると面白いです。

 話し合いで使うことは…あんまり無いかもですが(笑)、グループの人選を考える時などに手掛かりになりそうです。

 

 

FG本を書くリハビリを兼ねた短期復活連載の2回目。使えなさそうだけど、もしかしたらどこかで役立つ(かもしれない)フレームワークをご紹介。
今回は「戦術・作戦・戦略・思想」です。

 「戦術・作戦・戦略」は、検索するとビジネス系のブログが多数ヒットします。もとは軍事用語ですが、経営や事業計画などの場面で使われますね。人によって微妙に解釈が違いますが、ざっくりこんなイメージで捉えています。

 

 戦術:具体的で、短期間に実行できる手段や方法。
    (数時間から数週間程度)

 作戦:ある程度続く、ひとまとまりの事業やプロジェクト。
    (数週間から数年程度)

 戦略:長期的な視点からの経営方針。団体のビジョン・ミッション・バリュー。
    (数年から数十年程度)

 

 長期的な「戦略」を土台にして、その上に○○プロジェクト、○○事業といった「作戦」が立てられる。それらの作戦はたくさんの「戦術」によって遂行される、というイメージ。団体の経営方針の見直しや事業計画の立案、人材育成のポイントの洗い出し、そんな場面で役立つフレームワークだと思います。

 

 私はこの三つのレイヤーの下には、もっと個人的で、好き勝手に変えることができないレイヤーがある気がしています。

 

 思想:その人が自然に持つことになった姿勢や世界観。
    (数十年以上?一生続くこともある)

 グリーンシティ福岡の事業と、それに関わる私を一例に書き出すとこんな感じ。

 まあ、「個人の思い」ってやつですね。「戦術・作戦・戦略」は組織で共有するものですが、「思想」の部分は人それぞれだと思います。時には思想も含めて「教育」しちゃう企業や団体もあるけど…笑。

 会議や話し合いの板書で使う機会はあまりないフレームワークですが、自分自身でノートや裏紙に書きながら考えることはあります。「そもそもなんでこんなことやってたんだろう?」と初心に返ったり、自分が納得して事業や活動に取り組むために考えを整理したりする場面。

 戦術・作戦・戦略・思想と並べることで、自分の気持ちに対して、実行している「作戦」や使っている「戦術」が食い違ってないか、確認にもなります。

 

 蛇足かもですが「思想」ってぶっちゃけ、その人が囚われた思い込みですよね(笑)。その意味では「呪い」と呼んでもいいかもしれません。組織や社会では、みんなそれぞれの「思想 or 呪い」を抱いたまま、戦略レベルや作戦レベルでは協働しているのが普通だし面白いってことだと思います。

 

 

市民の板書術(38)「カネコネウデユメ」2023.07.

 あまりにFG本を書くのに苦労していて、いろんなあがきをしています。

 その一環としてのリハビリと、グリーンシティ福岡のサイトが復活したお祝いも兼ねて、「短期集中(6回だけ)」「本には載せない(よそでつかえない)」「フレームワーク」のコラムをこっそり復活!2年半ぶりのFGコラムどうぞー。

 

 その1回目は「カネコネウデユメ」。

 「この仕事の依頼、受けようかな?どうしようかな?」と悩んだ時に、その依頼で得られるもの、期待できる成果を四つの項目で挙げて整理する図です。

 カネ:お金。売上額というより、利益率がどうかを考えた方がいいんだろうなと思います。

 コネ:コネクション。その依頼を通じてどんな人と知り合いになれるか?です。

 ウデ:技術力。どんな経験ができ、技術が身につくかどうか?

 ユメ:ミッション。団体のミッションや個人的な夢の実現に近づくものかどうか?

 頻繁に使うフレームワークではないですし、なんとなく「カネ」とか「コネ」とかの響きがちょっと下品。「ユメ」って真顔で言うのも気恥ずかしい、ということもあって、どこにも公表してませんでした(笑)。もう少し精度を上げたり、言葉づかいをよそ行きにしたら「事業評価」の場面でも使えるかもしれません。

 

 ちなみに環境教育業界で伝わる魔法の言葉「ジンジキンコン」。その真似をしてなんか語呂のいい合言葉作れないかなー、と20年ほど前に作ったものです。それにしても「ジン(人)・ジ(時間)・キン(金)・コン(コンセプト)のマネジメント」は大切ですね。

「都市はツリーではない」とクリストファー・アレグザンダーさんが言いました。1965年です。
この場合の「ツリー」は「木」ではなく「階層構造」の意味です。幹から太い枝に分かれて,その先に中くらいの枝が何本か出て,その先がさらに細い枝に分かれていくような関係性のこと。
図で表してみるとこんなイメージ。横から見たら樹形図,上から見たら線が交わらないベン図になります。

201214-01.jpg

身近なツリー(階層構造)と言えば,パソコンのフォルダとファイルの関係です。
「○○プロジェクト」のフォルダの中に,「打合せ」や「写真」などのサブフォルダがぶら下がって,それぞれのサブフォルダの中に複数のファイルやさらに下の階層のサブフォルダが収まっている様子。
階層構造とは,大項目-中項目-小項目のように枝分かれしながら整理・分類されている構造です。すっきりしてわかりやすいです。


冒頭の「都市はツリーではない」とのアレグザンダーさんの言葉は,都市はツリー構造(街は幹線道路で地区に分けられ,その中は道路で街区が区切られ,その中にいくつかの区画がある,など)で計画される。だけど,実際の都市,特に自然に大きくなった都市はそうじゃないだろ?ということです。
いろんな使われ方をする露地やどこまでが範囲か微妙な広場があったり,街区の境界があやふやだったりします。
およそ自然のものはきれいに階層構造に整理されることはなく,あいまいで重複があり,複雑な関係性を持っています。そんな様子をアレグザンダーさんは「ツリー構造」に対して「セミラチス構造」と呼びました。図で表してみるとこんなイメージ。

201214-02.jpg

パッと見でわかりにくいですね。
アレグザンダーさんは,人間の頭の働きそのものが落とし穴。複雑なものを考えやすいかたち(ツリー構造)に置き換えてしまう傾向があるのだ,と言っています。
私たちは身の回りのこと,目に見えるものをありのままで把握,理解することができないので,つい簡単にしてわかったつもりにしちゃいますよね。


会議でいろんな意見を「大項目」「中項目」「小項目」に分けたりするのはわかりやすい方法だし,「ロジカル」に見えます。しかし,私たちをとりまく世界はそんな単純なものではない,というのが悩ましいところ。分担や共同作業のために「ひとまずの共通認識として採用する」くらいの気持ちでいるのが良いと思っています。

ところで,実際のツリー(樹木)にしても,枝分かれしていった先で再び癒着結合すること(連理/れんり)があります。また,土の中で張り巡らされた根っこの先では菌根菌のネットワークが付近の樹木同士を網の目のようにつないでいて,栄養を融通しあっているということもわかってきました。

樹木も単独で生きているのではなくてお互いが絡み合って重複し,複雑な関係を作っています。
つまり「ツリーだってツリーじゃない」ということなんだなあ,と思います。

201214-03.jpg

たくさんの著作があり,テレビ出演もたびたび。そんな著名なY先生の目の前で板書したことがあります。

生物多様性の保全や子どもたちの自然体験がテーマの委員会。環境分野で有名な大学の先生や,長年教育活動を行ってきた方など,10名弱の委員がいらっしゃいました。Y先生はその座長でした。
私は福岡から日帰りで東京へ,模造紙を書くためだけの出張です。
そんな機会をいただき,お声がけくださった方にはとても感謝しています。


委員会は,まず自然体験の価値や意義を整理することから始まることになっていました。
私は板書をはじめる前「山や海,公園などいろんなフィールドの話が出るだろう」「学校教育,放課後の遊び,食を通じた体験など場面がいろいろ出るだろう」など,いろんな切り口の意見が多種多様に出てくるだろうから,とにかく自由になんでも書き留めていくつもりでした。
模造紙を2枚ずつ重ねながら8面。計16枚まで書ける準備をして臨みました。


意見交換が始まった冒頭のY先生の発言は予想外でした。
私の意訳ですが,自然体験は言葉にすることができないから価値がある。実際に体験してみないとわからないから体験してもらう必要がある。それを言葉で整理していくことには矛盾があるのでは?ということだったと思います。
まさにその時,自然体験の価値や意義を言葉で書き留めようとしていた私には,これからやることをひっくり返されたようにも思えました。


そんな時,グラフィッカはどうするかというと,ただその通りに書く。
「矛盾がありますね」「これで伝えられるのかな?」「わかった気になるのも…」と書いていきました。
その後,委員会は素晴らしいファシリテータの進行もあり,それぞれの委員の経験やエピソードを重ねながら,実際の体験につながる取り組みを行っていく方向で話は進んでいきました。


グラフィッカとしての教訓めいたことを一つ挙げるとすれば「ただ,話し合いに付いていく」ということかもしれません。
発言が事前に想定したレールや枠組みをはずれたと感じられても,自分がそう思い込んでるだけかもしれません。勝手なフィルタリングをして発言を取捨選択したり,無理に準備した枠の中に収めようとすると,途端に話し合いは嘘っぽくなります。
ファシリテーショングラフィックは,発言の意味を汲み取りながら,なるべくその人の言葉を生かして書いて,書いたものを本人が見て納得しているか確認する,の繰り返しです。


委員会が終わった後,Y先生と雑談する時間がありました。
「自然体験の価値と一緒で,会議の発言も全部は言葉にできない。だから人前で書くのは難しい。」みたいなことを言いました。そうするとY先生から「だから,ああいう書き方してるんでしょ?」と。


その日の板書も「マンダラ型」で,いつもどおり文章はあっちこっちに散らかり,斜めになったり縦になったり,グニャグニャした線で結んだりしていました。
それを見て「だから,ああいう書き方してるんでしょ?」と言っていただいたのは,見透かされたようで恥ずかしいような,うれしいような。
自然相手と同じで,会議でも発言の真意を理解したり書いたりすることはできない。だから「まとめすぎない」「解釈の余地を残す」ような書き方をしてるんでしょ,と良いように受けとめています。いや,もう数年経つので思い出補正してるだけかもですが(笑)。


ここからもう一つ教訓めいたことを挙げるとすれば「言葉になってない部分に大事なことがある,と思いながら書く」でしょうか。精神論っぽくてわかりにくいですけれど,大切じゃないかなと思います。

後日,Y先生と蕎麦をいただきながらした話はまた改めて。 

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