息子が学校の授業で「目標達成シート」を書いてきたようです。

あれは強力な図ですね。大谷選手も使っていたということでも話題になりました。

 

ある達成したい目標に対して「その実現に必要なこと」を8個出す。その8個それぞれに対してさらに「その実現に必要なこと」を8個ずつ出す。これをマンダラ状に四方に展開しながら書いていくという図です。

「目標達成シート」の元になったのは、1979年に松村寧雄さんが開発した「マンダラチャート(一般社団法人マンダラチャート協会の登録商標)」、1987年に今泉浩晃さん考案した「マンダラート」、の二つあるようですが両者の関係はわかりません。

どんなものか?やり方は?に興味がある方はこのあたりをどうぞ。

「マンダラート」wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/マンダラート

「マンダラチャートとは?」Miro. https://miro.com/ja/brainstorming/what-is-a-mandala-chart/

「d's JOURNAL/目標達成シート(マンダラチャート)とは」パーソルキャリア. https://www.dodadsj.com/content/230831_goal-achievement-sheet/

(全て2024.09.27.閲覧)

 

 

「目標達成シート」が強力なフレームワークである理由を挙げてみると…。

 

1)8個、出すこと。

 何かのお題に対して2、3個のアイデアを出すのはわりと簡単。けれど、8個出そうと思うと、ちょっと考え込んだり、あれこれ発想を広げたりする必要があります。その負荷の具合が絶妙な数じゃないかなと思います。

 

2)2段階で具体化すること。

 目標に対して「その実現に必要なこと」を8個出す作業を2回繰り返します。最初の目標が多少抽象的であっても、2段階具体化することで、すぐに取りかかれそうなタスクにまでかみ砕くことができます。抽象的な目標を行動につなげる点が強みです。

 

3)「マンダラ」なこと。

 2段階で8個ずつ出す作業は箇条書きで書くことも可能です。文字情報としては全く同じものでも、マンダラ型に書かれたものと箇条書きで書かれたものでは、印象がかなり違います(下イラスト)。マンダラ型では全体を把握しやすかったり、新たな気づきが生まれやすい利点があると感じます。

 

やー、よい図ですね。発表されて何十年も経っていますが、根強く活用されているのはその効果を実感する方が多いからだと思います。

そして、「ちょっと頑張って多めにアイデアを出してみること」「2段階、3段階とかみ砕いて具体化すること」「マンダラ状に記録して発想を広げること」などは、日頃から応用が効く考え方だと思います。

 

使えそうで使えないちょっと使えるフレームワークの第6回。

今月は「事前検死(pre-mortem/プレモーテム)」です。

なんか物騒な言葉ですね。

 

「事前検死」とは、なにかのプロジェクトをやろうとしている時、事前に失敗パターンを洗い出して、対策を具体化させておくことです。手順で言えばこんな感じ。

 ①プロジェクトが失敗したとしたら、それはどういう状況か?考えられるものを挙げる。

 ②それぞれの「失敗した状況」に対して、原因を挙げる。

 ③原因を踏まえて対策を考える。

 ④対策の中から優先順位や期限、担当を決めて実行していく。

 

「失敗するかも?」と悲観的になることではありません。

「失敗するとしたらこれ。だから対策しとこ。」という考え方です。

 

この事前検死の話し合いを板書する時は、

シンプルに三つのスペースで「失敗した状況」「原因」「対策」を書き出していくのが簡単です。

「失敗した状況」は、3、4行スペースを空けつつ挙げていくと、後で見やすくなります。一つの状況に対して、原因や対策は複数考えられることが多いからです。

こんな感じ。あくまで雰囲気ということで、内容は細かく見ないでください(笑)。

ちなみに、新企画「まちなかの森をめぐるガイドツアー」を想定して書いてます。

 

フレームワーク自体は、安全管理のコラム第11回「事故事例研究」や、このコラムの第26回「原因・対策系マトリクス図」とほとんど同じです。事実と考えを分けて考えることや、それを踏まえて対策を出すことでは共通しているからですね。

 

事前検死の場合は、事故や課題が発生した後ではなくて、あらかじめ行うのがポイント。

プロジェクト運営の精度を上げることが目的です。

 

参考文献:

 山崎裕二(2018)先にしくじる 絶対に失敗できない仕事で成果を出す最強の仕事術.日経BP

  【knowledge】プロジェクトの成功率を高める事前検死(pre-mortem) https://zenn.dev/bules/articles/a36ca13666ad34(2024.02.03.閲覧)

 

 

 

 

使えそうで使えない少し使えるフレームワークをご紹介するコラム、5回目。

 

何かの問題や困りごとがあって、その対応策を考える時に、二つの面から考えたらいいね、という図です。図というほどのものではありませんね(笑)。真ん中に1本、縦線を引くだけです。

左側が「離脱」。問題から離れる方向でアイデアを出すエリア。代わりになるものを見つけたり、縮小・中止しても大丈夫にするアイデアを出します。

右側が「発言」。問題に取り組み改善する方向でアイデアを出すエリア。効率化や活性化を試みたり、修正点、改善点を出していきます。

 

元ネタはハーシュマンの「離脱・発言・忠誠」です。

 離脱:地域や組織に問題が生じた時にそこから離れる行動。

 発言:地域や組織に問題が生じた時に解決のために働きかける行動。

といったことだと理解してます(詳しい方あればツッコミを…)。

 

「離脱」と「発言」の例を挙げると…。

<商品の品質が悪くなった時の顧客の行動>
 離脱:その商品を買うのをやめること。
 発言:不満や改善提案を企業に伝えること。

<地域コミュニティに問題がある時の住民の行動>
 離脱:引っ越すこと。移住すること。
 発言:住民で話し合うこと。投票すること。

<会社の労働環境が過酷な時の社員の行動>
 離脱:退職して別の仕事を見つけること。
 発言:労働環境の改善のために行動すること。

 

何かの問題に対して対応策を考える時、ついつい「とどまって問題を改善すること」に囚われてしまうことがあります。そもそもこれって必要だったのか?代替案はあるか?といった「離れて代わりを見つけること」も選択肢として持っておくと視野が広がります。

「離脱」することが賢いとか、「発言」することが尊いとか言うつもりはありません。その両者を行ったり来たり、見比べることで気づくことが出てきそうだな、という気持ちです。

 

 

 

 

 使えそうで使えない少し使えるフレームワークをご紹介する第4弾。

 モヤモヤしたことや悩み、問題などを書き出して、自分で相談する時用の枠組みです。

 

0)ノートか紙を準備します。下の図はノートの見開きを使っているイメージですが、A4用紙を横向きに使ったりしてもよいです。左半分はそのまま全体を使う、右半分は下寄りに「T」の字の線を引いて3分割します。

1)まずは左半分が「荷下ろしゾーン」。モヤモヤしている内容を思いつくまま書いていきます。誰に見せるものでもないので、落書きのように、浮かんできたことを書き殴るイメージ。きれいに書くことは目的ではありません。頭の中の「荷下ろし」が目的なのでそれで十分。

2)右半分の上のあたりに「現状のまとめ」を箇条書きにします。「荷下ろしゾーン」に書いたものをジッと見つめて、今のモヤモヤした状況はつまりどういうことか?自分なりに要約してみます。

3)右半分の下側は左右二つに分かれます。まず右側は「予防策」のエリア。今のモヤモヤした状況を避けたり、今後起こさないためにできる「予防策」を考え、書き出します。

4)残る右半分の左下のエリアは、現状のモヤモヤに対する見方を変えて、なるべくポジティブな見方をして気づいたことを書きます。自分自身の強みに気づいたり、相手への理解が深まったり、状況を逆手にとったアイデアが生まれたりするかもしれません。

 2010年頃から個人的にやっているのですが、似たようなワークは他にもありそうです。ご存知の方は教えてください。

 まあ、必ずしもこの枠組みで書かなくてもよいですし、自分もたいてい左半分を書くとスッキリしてそれでOKとなったりします。この書き方の目標は、モヤモヤした現状が少しでもすっきりし、何かしら行動が起こせるようになること、です。そのための提案は「頭の中でグルグル悩まず、荷下ろししよう」と「それを避けるための予防策も大事だけど、良い面もあるかもしれない」の二つです。

 

 

 

 FG本執筆リハビリ第3弾。使えそうで使えない少し使えるフレームワークをご紹介しています。

 2015年にボランティア活動に関するシンポジウムを行った時。後半の質疑応答で、ゲストの西尾雄志さん(日本財団学生ボランティアセンター代表理事・当時/近畿大学総合社会学部教授・現在)からこんなお話がありました。

 「学生のボランティア団体のリーダーにはいろんなタイプがあって、四つに分けられそう。名前を付けるとすれば『事務処理タイプ』『カリスマタイプ』『民主的リーダータイプ』『なぜか愛されるタイプ』」。

 なるほど面白いです!学生に限らずいろんな組織のリーダーにも通じる気がしますね。

 

 さて、何事も「四つある」と聞くと「2×2の2軸で整理できるんじゃね?」と考えるのが「ファシグラ脳」。ファシグラ脳とかそんな言葉ありませんけども。

 西尾さんの四つのリーダータイプを2×2で分けてみると…こんな感じでしょうか?

 うちの団体のリーダーはどのタイプかな?とか、自分にとって難しいリーダーシップはどの部分かな?とか、うちに足りない部分を補ってくれる人はいないかな?とか考えると面白いです。

 話し合いで使うことは…あんまり無いかもですが(笑)、グループの人選を考える時などに手掛かりになりそうです。

 

 

FG本を書くリハビリを兼ねた短期復活連載の2回目。使えなさそうだけど、もしかしたらどこかで役立つ(かもしれない)フレームワークをご紹介。
今回は「戦術・作戦・戦略・思想」です。

 「戦術・作戦・戦略」は、検索するとビジネス系のブログが多数ヒットします。もとは軍事用語ですが、経営や事業計画などの場面で使われますね。人によって微妙に解釈が違いますが、ざっくりこんなイメージで捉えています。

 

 戦術:具体的で、短期間に実行できる手段や方法。
    (数時間から数週間程度)

 作戦:ある程度続く、ひとまとまりの事業やプロジェクト。
    (数週間から数年程度)

 戦略:長期的な視点からの経営方針。団体のビジョン・ミッション・バリュー。
    (数年から数十年程度)

 

 長期的な「戦略」を土台にして、その上に○○プロジェクト、○○事業といった「作戦」が立てられる。それらの作戦はたくさんの「戦術」によって遂行される、というイメージ。団体の経営方針の見直しや事業計画の立案、人材育成のポイントの洗い出し、そんな場面で役立つフレームワークだと思います。

 

 私はこの三つのレイヤーの下には、もっと個人的で、好き勝手に変えることができないレイヤーがある気がしています。

 

 思想:その人が自然に持つことになった姿勢や世界観。
    (数十年以上?一生続くこともある)

 グリーンシティ福岡の事業と、それに関わる私を一例に書き出すとこんな感じ。

 まあ、「個人の思い」ってやつですね。「戦術・作戦・戦略」は組織で共有するものですが、「思想」の部分は人それぞれだと思います。時には思想も含めて「教育」しちゃう企業や団体もあるけど…笑。

 会議や話し合いの板書で使う機会はあまりないフレームワークですが、自分自身でノートや裏紙に書きながら考えることはあります。「そもそもなんでこんなことやってたんだろう?」と初心に返ったり、自分が納得して事業や活動に取り組むために考えを整理したりする場面。

 戦術・作戦・戦略・思想と並べることで、自分の気持ちに対して、実行している「作戦」や使っている「戦術」が食い違ってないか、確認にもなります。

 

 蛇足かもですが「思想」ってぶっちゃけ、その人が囚われた思い込みですよね(笑)。その意味では「呪い」と呼んでもいいかもしれません。組織や社会では、みんなそれぞれの「思想 or 呪い」を抱いたまま、戦略レベルや作戦レベルでは協働しているのが普通だし面白いってことだと思います。

 

 

市民の板書術(38)「カネコネウデユメ」2023.07.

 あまりにFG本を書くのに苦労していて、いろんなあがきをしています。

 その一環としてのリハビリと、グリーンシティ福岡のサイトが復活したお祝いも兼ねて、「短期集中(6回だけ)」「本には載せない(よそでつかえない)」「フレームワーク」のコラムをこっそり復活!2年半ぶりのFGコラムどうぞー。

 

 その1回目は「カネコネウデユメ」。

 「この仕事の依頼、受けようかな?どうしようかな?」と悩んだ時に、その依頼で得られるもの、期待できる成果を四つの項目で挙げて整理する図です。

 カネ:お金。売上額というより、利益率がどうかを考えた方がいいんだろうなと思います。

 コネ:コネクション。その依頼を通じてどんな人と知り合いになれるか?です。

 ウデ:技術力。どんな経験ができ、技術が身につくかどうか?

 ユメ:ミッション。団体のミッションや個人的な夢の実現に近づくものかどうか?

 頻繁に使うフレームワークではないですし、なんとなく「カネ」とか「コネ」とかの響きがちょっと下品。「ユメ」って真顔で言うのも気恥ずかしい、ということもあって、どこにも公表してませんでした(笑)。もう少し精度を上げたり、言葉づかいをよそ行きにしたら「事業評価」の場面でも使えるかもしれません。

 

 ちなみに環境教育業界で伝わる魔法の言葉「ジンジキンコン」。その真似をしてなんか語呂のいい合言葉作れないかなー、と20年ほど前に作ったものです。それにしても「ジン(人)・ジ(時間)・キン(金)・コン(コンセプト)のマネジメント」は大切ですね。

「都市はツリーではない」とクリストファー・アレグザンダーさんが言いました。1965年です。
この場合の「ツリー」は「木」ではなく「階層構造」の意味です。幹から太い枝に分かれて,その先に中くらいの枝が何本か出て,その先がさらに細い枝に分かれていくような関係性のこと。
図で表してみるとこんなイメージ。横から見たら樹形図,上から見たら線が交わらないベン図になります。

201214-01.jpg

身近なツリー(階層構造)と言えば,パソコンのフォルダとファイルの関係です。
「○○プロジェクト」のフォルダの中に,「打合せ」や「写真」などのサブフォルダがぶら下がって,それぞれのサブフォルダの中に複数のファイルやさらに下の階層のサブフォルダが収まっている様子。
階層構造とは,大項目-中項目-小項目のように枝分かれしながら整理・分類されている構造です。すっきりしてわかりやすいです。


冒頭の「都市はツリーではない」とのアレグザンダーさんの言葉は,都市はツリー構造(街は幹線道路で地区に分けられ,その中は道路で街区が区切られ,その中にいくつかの区画がある,など)で計画される。だけど,実際の都市,特に自然に大きくなった都市はそうじゃないだろ?ということです。
いろんな使われ方をする露地やどこまでが範囲か微妙な広場があったり,街区の境界があやふやだったりします。
およそ自然のものはきれいに階層構造に整理されることはなく,あいまいで重複があり,複雑な関係性を持っています。そんな様子をアレグザンダーさんは「ツリー構造」に対して「セミラチス構造」と呼びました。図で表してみるとこんなイメージ。

201214-02.jpg

パッと見でわかりにくいですね。
アレグザンダーさんは,人間の頭の働きそのものが落とし穴。複雑なものを考えやすいかたち(ツリー構造)に置き換えてしまう傾向があるのだ,と言っています。
私たちは身の回りのこと,目に見えるものをありのままで把握,理解することができないので,つい簡単にしてわかったつもりにしちゃいますよね。


会議でいろんな意見を「大項目」「中項目」「小項目」に分けたりするのはわかりやすい方法だし,「ロジカル」に見えます。しかし,私たちをとりまく世界はそんな単純なものではない,というのが悩ましいところ。分担や共同作業のために「ひとまずの共通認識として採用する」くらいの気持ちでいるのが良いと思っています。

ところで,実際のツリー(樹木)にしても,枝分かれしていった先で再び癒着結合すること(連理/れんり)があります。また,土の中で張り巡らされた根っこの先では菌根菌のネットワークが付近の樹木同士を網の目のようにつないでいて,栄養を融通しあっているということもわかってきました。

樹木も単独で生きているのではなくてお互いが絡み合って重複し,複雑な関係を作っています。
つまり「ツリーだってツリーじゃない」ということなんだなあ,と思います。

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たくさんの著作があり,テレビ出演もたびたび。そんな著名なY先生の目の前で板書したことがあります。

生物多様性の保全や子どもたちの自然体験がテーマの委員会。環境分野で有名な大学の先生や,長年教育活動を行ってきた方など,10名弱の委員がいらっしゃいました。Y先生はその座長でした。
私は福岡から日帰りで東京へ,模造紙を書くためだけの出張です。
そんな機会をいただき,お声がけくださった方にはとても感謝しています。


委員会は,まず自然体験の価値や意義を整理することから始まることになっていました。
私は板書をはじめる前「山や海,公園などいろんなフィールドの話が出るだろう」「学校教育,放課後の遊び,食を通じた体験など場面がいろいろ出るだろう」など,いろんな切り口の意見が多種多様に出てくるだろうから,とにかく自由になんでも書き留めていくつもりでした。
模造紙を2枚ずつ重ねながら8面。計16枚まで書ける準備をして臨みました。


意見交換が始まった冒頭のY先生の発言は予想外でした。
私の意訳ですが,自然体験は言葉にすることができないから価値がある。実際に体験してみないとわからないから体験してもらう必要がある。それを言葉で整理していくことには矛盾があるのでは?ということだったと思います。
まさにその時,自然体験の価値や意義を言葉で書き留めようとしていた私には,これからやることをひっくり返されたようにも思えました。


そんな時,グラフィッカはどうするかというと,ただその通りに書く。
「矛盾がありますね」「これで伝えられるのかな?」「わかった気になるのも…」と書いていきました。
その後,委員会は素晴らしいファシリテータの進行もあり,それぞれの委員の経験やエピソードを重ねながら,実際の体験につながる取り組みを行っていく方向で話は進んでいきました。


グラフィッカとしての教訓めいたことを一つ挙げるとすれば「ただ,話し合いに付いていく」ということかもしれません。
発言が事前に想定したレールや枠組みをはずれたと感じられても,自分がそう思い込んでるだけかもしれません。勝手なフィルタリングをして発言を取捨選択したり,無理に準備した枠の中に収めようとすると,途端に話し合いは嘘っぽくなります。
ファシリテーショングラフィックは,発言の意味を汲み取りながら,なるべくその人の言葉を生かして書いて,書いたものを本人が見て納得しているか確認する,の繰り返しです。


委員会が終わった後,Y先生と雑談する時間がありました。
「自然体験の価値と一緒で,会議の発言も全部は言葉にできない。だから人前で書くのは難しい。」みたいなことを言いました。そうするとY先生から「だから,ああいう書き方してるんでしょ?」と。


その日の板書も「マンダラ型」で,いつもどおり文章はあっちこっちに散らかり,斜めになったり縦になったり,グニャグニャした線で結んだりしていました。
それを見て「だから,ああいう書き方してるんでしょ?」と言っていただいたのは,見透かされたようで恥ずかしいような,うれしいような。
自然相手と同じで,会議でも発言の真意を理解したり書いたりすることはできない。だから「まとめすぎない」「解釈の余地を残す」ような書き方をしてるんでしょ,と良いように受けとめています。いや,もう数年経つので思い出補正してるだけかもですが(笑)。


ここからもう一つ教訓めいたことを挙げるとすれば「言葉になってない部分に大事なことがある,と思いながら書く」でしょうか。精神論っぽくてわかりにくいですけれど,大切じゃないかなと思います。

後日,Y先生と蕎麦をいただきながらした話はまた改めて。 

 

ちょっと短縮版です。

 

ファシリテーショングラフィックの研修で二宮金次郎の話になることがあります。

昔の小学校の正門前あたりには銅像があったそうですね。今でも残っているところはあるのでしょうか?薪を背負いながら本を読んでいる勤勉な少年の図です。

 

「勤勉になろう!」という趣旨ではなく,「重いものを背負ってると集中できないからおろそう」という話なので,二宮金次郎(尊徳)を尊敬している人に怒られそう…。いや,私も尊敬しているのですが,あの銅像のイメージはわかりやすいので許して…。

 

ファシリテーショングラフィックの鍵となるイメージは「背負ってるものを下ろして眺める」です。

人は自然といろんな思いや悩み,タスクを背負い込んだまま,話し合いをします。重い荷物を持ったまま話し合いに集中するのは至難の業。背中のバックパックに詰め込んだいろんなものを一旦,下ろして机や地面の上に広げて,大事なものや必要なものを選びましょう,という作業がファシリテーショングラフィックです。

 

そういう意味で,脱線は歓迎だし当然。

議題に沿った内容でなくても,発言することでそれを「下ろす」ことになります。書いておくことで「眺める」ことができるようになります。あちこち発言が飛んでしまっても,板書することで気が済んだり,かえって新しい発見があったり,全体像が見えてきたりします。

 

もちろん,話し合いに無限の時間が使えるわけではないので,どのくらい長く時間をとるかは,終了時刻や出席者の体力との兼ね合い。それが難しい部分でもありますが,例えば「今日は7割は自由。まとめるのに3割の時間は残しておこう。」くらいのおおざっぱな予定を立てておけばやりやすいんじゃないかと思います。

 

むしろ,脱線せずに本題のまっ芯だけの(と感じられるような)発言だけでトントンと話し合いが進んだときは,あれ?大丈夫かな?と立ち止まるくらいの気の持ちようがちょうどいいように思います。

2010-01nino.jpg

ファシリテーショングラフィックではイラストを入れることよりも,出席者の発言を聴いて書くことが優先です。かわいく&見た目よく仕上げることではなくて,話し合いをよりよくすることが目的なので。

とか言いながら

・文字で書くよりイラストの方が早かったり,わかりやすい場合

・時間の余裕がある場合

には,人のイラストを手早く描いたりします。場が和んだり,印象に残ったりします。
どういったイラストを描くか決まりはありませんが,私の例をご紹介します。
鏡餅みたいな頭だな,と思うので「もち人形」と呼んでいます。簡単です。

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まず頭から書きます。まんまる(左)より,ちょっと横につぶれた方(右)がかわいく見える気がします。丸を描いたら,目をチョンチョンと打って,口をクイっと描いたらそれでOK。

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目をチョンチョンと打つ時,どのくらいの高さに打つかで印象が変わります。哺乳類に共通する傾向ですが,大人の目の位置は高く,子どもは低い。なので目の高さの違いで大人(左・中央)と子ども(右)を描き分けることができます。ちょうど真ん中より,キモチ低めくらいが子どもの位置。かわいい。

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目を打つ場所と口の位置を上下左右にずらすことで,見上げたり,うつむかせたりできます。

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頭ができたらそこから2本,線を下ろすことで肩や体を表現することができます。左上がノーマルな状態だとしたら,少し上から線を下ろすと猫背or肩を落とした雰囲気に。また右上のように,左右でバランスを変えても動きが出て面白いです。下の段のように手を出したり,グッドサインや腕組みなども使えそうですね。

2007-05mochi.jpg

頭には毛を3本生やしています。これ結構便利で顔の向きをはっきりさせることができます。3本の毛は後頭部に生えてるイメージ。もち人形が向こうを向いてほとんど顔が見えなくても,3本の毛が左に生えていたら体は右を向いている,右に毛が生えていたら体は左を向いている,と見えてきます。

2007-06mochi.jpg

ということで,もち人形が何人か集まってワイワイやっていたり,歩いていたり,踊っていたりする様子を描くと,文字だけでは表現しにくい場の雰囲気を表すことができます。2,3人のもち人形であれば,慣れれば数秒から10数秒で描けるんじゃないかと思います。

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日本にいる人は結構,漫画を読んでいるので漫画独特の記号的表現(漫符・まんぷ)がほとんどの人に通じます。実際は汗が空中に飛び散ったり,十字に血管が盛り上がったりすることはなさそうですが意味は通じます。さまざまな漫符や目や口のかたちなどを真似すると表現の幅が広がります。ただ,このような表現が国外でどの程度通じるかは試してみないとわかりません。

 


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イベント終了後や団体の節目など,過去をふりかえる話し合いに向いた書き方があります。
いくつかタイプがありますが「KPT」「田の字法」「年表」の3種を並べてご紹介します。


<KPT(ケプト)>

以前,紹介したので簡単に。
数時間〜数日程度のイベントやプロジェクトのふりかえりに向いています。
線で区切った三つの枠に,それぞれ「K(Keep: よかったこと)」「P(Problem: 問題点)」「T(Try: 改善点)」を書き込んでいくやり方です。
ポイントは,現場の声や小さなヒヤリハットなどの記憶が薄れないうちに関係者で集まって出し合うこと。「よかった」もしくは「問題点」のどちらかに片寄らず意見を出す&アツいうちに次回に向けた改善点を出す,という優れた枠組みです。

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<田の字法>

こちらも既に紹介済みなので短めに。
数ヶ月〜数年間のプロジェクトや組織運営をふりかえり,今後の方針を話し合う場面に向いています。
2本線で十字に区切った四つの枠。左が「現在」,右が「未来」。上が「肯定的な意見」,下が「否定的な意見」です。

・まず左上の「現在×肯定的」の枠に,これまででよかったことや達成したこと。

・次に左下の「現在×否定的」の枠に,これまでで悪かったことやできなかったこと。

・続いて右下の「未来×否定的」の枠に,これからこれは避けたい,望まないこと。

・最後に右上の「未来×肯定的」の枠に,こうなりたいという将来像。

を書いていきます。それぞれ付箋に書いて出すのも効率的。
ポイントは順番で,ポジティブな成果を確認し,現状の課題や避けたい未来を共有した上で「ではこうしましょう!」という将来像を話す点。もちろん,話す順番は行ったり来たりしてもよいですが,現状の成果も課題も踏まえた上で「未来」を話すことができる点でとてもよい枠組みです。

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<年表>

さらに長期間,数年間以上のプロジェクトや組織運営をふりかえり,スタッフ間の共通認識を作ったりチームビルディングをするのに向いているのが年表です。
多少時間はかかります。おそらく1〜1時間半程度。メンバーやスタッフの入れ替わりがあったとか,組織や事業の目的があやふやになってきた時がそのタイミングです。
教室にあるような横長のホワイトボードを使ったり,模造紙を何枚か貼って横長のスペースを確保します。上部に年度や月を書いておき,それぞれの時期について「この頃の出来事や考えたことは?」と尋ねて書き加えます。印象的なシーンや名セリフ,出会った人物などが書き込まれても面白い。

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この時に大事なのが(板書全般にも言えることですが)「豊かに書こう!」ということ。
「その頃,○○イベントがあったね。あれはよくやったね!がんばった。」との発言を受けて「○○イベントを開催」とだけ書くのは味気ない。歴史の資料集のような年表を作ってもあまり意味はありません。発言の中に,その時の感情やふりかえっての感想が含まれていれば,ぜひそれを捉えたいところです。書き方の例としては「○○イベント,あれは頑張った!」とか「○○イベント,□□さんオツカレ!」ですが,まあ,それは現場の雰囲気やその人の話し方次第です。
先ほどの「その頃,○○イベントがあったね。あれはよくやったね!がんばった。」という発言に対して,感情や感想が表れている「よくやった」「がんばった」の部分をくり返して声に出しながら,発言者ご本人を向いたり他の参加者を見渡してもよいと思います。よくやった理由やがんばった内容の補足をいただけるかもしれません。

もう一つ大事なのが「なるべく多くの人に発言してもらう」です。
過去の話になるとどうしても代表や年長者,経験者がしゃべりまくり,新人や若手は遠慮してしまいます。それはたいへん面白くない場になるかもしれません。
単純に「みんなから話を聞きたい」と言ったり,一人ずつ順番に発言してもらうのもオーソドックスですがいい方法。新人や若手から話し始めてもらうのもよいと思います。その際は「この団体に興味を持ったのは何がきっかけ?」など答えられる問いにするのがよいと思います。
また,時間はかかりますが,代表や年長者に事前にヒアリングしておいて,主だった出来事はあらかじめ整理して年表に書き込んでおく手もあります。その上で,当時感じたことや,一部の人しか気づいてなかった小さな出来事などを書き加えていくイメージです。

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「歴史は歴史家がつくる」という言葉があります。いわゆる「歴史」は事実の羅列ではなく,ある歴史家が自分の視点で意図を持って構成した物語であるという意味だと解釈しています。
みんなでおしゃべりしながら年表をつくるのは,視点や思い出を持ち寄ってみんなで歴史をつくるような作業ですね。年表を埋めていきながら「ああ,一緒にやってきたんだなあ」とか「いや,言えなかったけど俺もそう感じてたんだよ」とか「知らなかったけど苦労させたねえ」とか…。

そんな話し合いは,組織の目的をあらためて確認したり,過去のモヤモヤを解きほぐすきっかけになったりします。頻繁に行う話し合いではありませんが,組織や事業の節目に行う長いスパンのふりかえりとして効果的です。

先日,ほぼイラストのみのファシグラをやりました。

zoomを使ったオンライン会議で10名弱が出席。その街の川辺でどんな楽しいことができるか?ブレストの雰囲気でアイデア出しをする場でした。「カヤックしたい」とか「河岸でリモートオフィス」とかいろんなアイデアが出てきます。そんなたくさんのアイデアを,文字で書くのでなくリアルタイムで1枚のイラストに入れ込んでいくやり方。ちょっと「ウォーリーを探せ」の絵にも似てました(笑)。

普通のA4コピー用紙を机に置いて,スマホ用の三脚にUSB接続のウェブカメラを養生テープで固定。真上から手元を撮影しているので,三脚の左右から両手が回り込む姿勢で描いていきます。即席の「書画カメラ」ということですね(笑)。出席者の発言を聞きつつ,モニターに見える皆さんの表情をチラ見しつつ手を動かしました。

その街の川辺の地形や街並みをうっすら鉛筆で描いた後,出てくるアイデアを「この辺でいいですか?」「何人くらいいるイメージ?」とか確認しながら鉛筆で軽く描いていきます。「いや,そこじゃなく」「もうちょっと大きく」などの声があれば消しゴムで消して描き直す。「そうそう!そんなイメージ!」「いいねえ」など場所や内容が固まったら,強い線でなぞって色えんぴつで彩色していきました。

こんなグラフィックも楽しいですね。
解像度を落とした作業状況の画像をアップしておきます。

mizube-resize.jpg

この経験はいくつか面白いポイントがありました。

◯イラストだけというのもいいなあ!

 ブレスト的なアイデア出し,批判なしで意見を膨らませていく時に向いてそうです。特にまちづくり分野やデザイン分野などは,形や空間に落とし込むことでグッと話が前に進みます。さらに,それを1枚の鳥瞰図(パノラマ図)としてまとめることで,一体感が出たり,個々のアイデアの位置関係やつながりを表現できると思います。

◯いろいろ予備知識を引っ張り出した。

 川辺の土手から川べりの地形,水際にどんな植物が生えているか,カヤックの形や色,サクラとヤナギの枝ぶりの違い,コーヒーショップっぽい店構え,ウッドデッキの構造,鉄道の高架のつくり…などいろんな予備知識を引っ張り出しながら描くことになりました。

◯オンラインでは手元ファシグラもありだなあ!

 書画カメラかなければ三脚とウェブカメラ等の多少の機材は必要ですが,後は普通の紙とペンさえあれば十分。模造紙やホワイトボードの代わりとして,これはこれでありかもしれません。何より机の上で書けるのが楽です。おそらく学校などの教育分野では書画カメラがよく使われてるんじゃないかと思いますが,オンライン会議では再度流行ったりするでしょうか?

◯ファシ(リテートする)グラ(フィック)だった

 この日,イラストを描いていく時にもっとも意識したのは,うっかり,不用意に,どんどん描いていくことでした。そのため,鉛筆を使い,アイデアが出たら極力すぐに描きはじめ,違ったら消して描き直す。紙は部分的にクシャクシャになりましたが,そうすることで出席者のアイデアを取りこぼさず,発想を刺激し,発言意欲を高めることができたんじゃないかと考えています。逆に失敗しないように描こうとすると,描き手による発言の取捨選択が強まりますし,それは出席者に伝わって発言内容を抑えつけるような影響を与えると自戒しています。

◯オンラインでは「有効サイズ」が小さい

 一番の反省はウェブカメラの解像度が低く,出席者にはボヤけて見えていたことです。終わった後に気づきましたが,これスマホで別にサインインした方が断然,画面の解像度が高かったはず。次回からそうしようと思います。ただ学んだのは,オンライン会議のファシグラは,ウェブカメラの解像度やモニターの大きさがネックになって「有効サイズが小さい」,つまりあまり書き込めないことが多そうだということ。カメラの解像度や写り具合を見ながら,どのくらいの文字の大きさや線の太さで書くべきか,調整するとよいと思います。

この1ヶ月間で,zoomなどを使ったオンライン会議が急速に普及してきました。
そんなモニター越しの会議でのファシリテーショングラフィックはどんなものになるでしょうか?

リアルの模造紙やホワイトボードをそのままカメラで写すのもアリです。マウスで描く画面上のホワイトボード機能とかもあったりします。
しかし,それらがダメなわけではありませんが,ちょっとしっくりこない気もします。
おそらくオンライン会議でのファシリテーショングラフィックは,今のところGoogleドキュメントがもっとも効果的です。

「ファシグラっぽくなーい!」と思う人もいそう(笑)。
マンダラ型やマインドマップのように四方八方に展開して書いたり,複数のマーカーの色で仕分けしたり,時にはイラストを入れたりというのがいわゆるファシグラのイメージです。
けれど,それらは対面型の話し合いで進化してきたスタイル。模造紙ないしホワイトボードの大きさやお互いの距離感だったり,一人がマーカーを握って手書きすることだったり,出席者全員が見えることが必要だったりといった制約下での技術です。

ファシグラで大切なのは「見た目」や「らしさ」よりも,出席者の発言をよく聴いて受けとめ,話し合いを進めること。オンライン会議では,オンライン会議の環境にふさわしい技術があると思います。私もまだまだ練習中ですが,現時点で考えている「オンライン会議でGoogleドキュメントを使ったファシリテーショングラフィック」をする時のポイントを挙げてみます。


(準備)オンライン会議アプリとGoogleドキュメントを開き共有する

zoomなどの出席者を表示したウインドウの横にGoogleドキュメントを開いて出席者全員に共有しておきます。私はモニターの左2/3をzoom,右1/3をGoogleドキュメントにしますが,この辺はそれぞれの好みかと。とにかく,出席者の声と表情に加えて,文字で話し合いの内容が確認できる環境を作っておきます。


1. 速さを活かしてどんどん書く

手書きではどうしても発言全部は書ききれません。一部を選んで抜き出すことになりますが,ここが板書でもっとも悩むポイントではないでしょうか。
当たり前のようですが,キーボードは手書きの数倍のスピードで文字を入力できます。これを活かさない手はありません。感嘆詞やくり返しの言葉なども含めて,発言者の言葉使いや感情,ニュアンスなどを書きとめることができます。タイプが速い人は発言全部を書くこともできるかもしれません。
オンライン会議は対面型の話し合いに比べて他の出席者の反応や手応えを感じにくいです。そんな中,発言が取捨選択や評価されたりせず,カジュアルに書き留められていく様子は「意見が届いている」という実感や手応えを生むと考えています。対面型の話し合いではグラフィッカが発言者の方を向いてうなずいたり,相槌を打ったりするのですが,オンライン会議のグラフィックではどんどん書いて「聞いていること」を示す,みたいなことかと思っています。


2)消したりコピペしながら整理する

とは言え,たくさん書くだけではまるでテキスト起こし原稿。文章が羅列されるだけのわかりにくい文書になります。いちいちスクロールして内容を追うのも大変。
発言者が本当に言いたかったことや何度も繰り返されること,合意した内容などを残しつつ,その他の部分を消していくことで,話し合いの流れや構図が見やすくなります。
また,この発言とあの発言似てるな,と思ったらコピペして並べたり,消してどちらか残したり。
ファシグラは,パッとひと目で全体像がわかる「一覧性」が大事です(その点,リアルの模造紙やホワイトボードは面積が広くていいなあ!)。議論の全体像が見渡せるような文書にできるとよいと思います。


3)立ち居振る舞いの代わりに「つぶやく」

オンライン会議では視線や表情,立ち居振る舞いが伝わりにくいです。
「おー」「うんうん」というつぶやきが「あなたの発言を聴いています」というメッセージになったり,「あ,ちょっとここ…」というつぶやきが「文章を修正します」の宣言になったり,「…て,こと?」というつぶやきが「こんな書き方で合ってる?」の確認になったりします。
その組織の文化や人間関係によって全く違う言葉になるかもしれませんが,オンライン会議では意識してつぶやくことで,意思疎通がスムーズになると感じます。


4)みんなで書ける

この点はちょっと面白いなと思っています。アナログでは出席者一人ひとりが付箋を書いて意見を集めるといったことをやりますが,Googleドキュメントでは編集権限を持った全員で一斉に書き込むことができます。ブレインストーミング的なアイデア出し,今後のタスクの洗い出し,ふりかえりKPTの表に記入するなど,いろんな場面が考えられます。ぜひやってみてください。


他にもいくつかあるのですが,ひとまずこのあたりで。
まだ練習中ですが,環境や道具が変わると新鮮で面白い。一方で,ファシリテーショングラフィックの本質ってなんだ?を考えるよい機会でもあります。


どちらも縦横に十字を引いた図なので見た目が似てるのですが,違いを意識して使えるといいです,というお話。

まず2×2マトリクス図は,対になる概念(「内・外」とか,「よい・わるい」とか)を2種類組み合わせた図です。2×2で計4つの枠ができるので,その中に意見を書き込んでいきます。Excelのセルが4つあってその中に入力するイメージ。
一方の2軸マップは,縦横に2つの評価軸が直行している図です。グラフのイメージなので場所によって意味が変わります。板書では直接書き込んでもいいですが,付箋に書いて貼り付けると位置を調整できて便利ですね。

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例えば,ある町にあまり有名ではないけれど由緒正しい神社がありました。ここを舞台に有志が観光客向けのガイドツアーを企画しようとしていると想定して,2×2マトリクス図と2軸マップをご紹介します。

2×2マトリクス図で代表的なのはマーケティングでお馴染みの「SWOT(スウォット)分析」です。新規事業を検討するために自団体の資源や世の中の状況を整理するような場面で使われます。
「内部・外部」と「よい・わるい」を組み合わせたマトリクス図で,「内部×よい」は自団体の強み(Strength),「内部×わるい」は自団体の弱み(Weakness),「外部×よい」は好機(Oportunity),「外部×わるい」は危機(Threat)。四つの頭文字が名前の由来です。
実際の会議では「私たちのグループの強みや特技は?」「反対に,私たちが苦手だったり弱かったりする部分は?」「世の中の状況で今,チャンスと思うことは?」「反対に,ちょっと悪い流れだなと思うことは?」と一つずつ意見を出していきます。
神社ガイドツアーでは,神社自体の歴史とアクセスの良さ(強み),広報の経験不足(弱み),メディアに取り上げられたことやウェブサービスの充実(好機),競合の存在(危機)などが挙げられています。「SWOT分析」は,自分たちのことも世の中のことも,有利なことも不利なことも,広い視野で事業を取り巻く状況を洗い出すための図です。

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一方の2軸マップでよく使われるのは「重要度×緊急性」の図。
右に行くほど重要度が高く,上に行くほど緊急性が高いグラフを書いて,その上に洗い出した「やること」を書き込んだり貼り付けたりしていきます。
ガイドツアーの実現に向けて「やること」を整理しようとしている場面。ツアーのタイトル決定,弁当の注文,計画書の作成,神社の使用許可,近隣へのあいさつ,広報サイトへの登録…やることを挙げていき付箋に1枚ずつ書きだします。その後,ホワイトボードないし模造紙に重要度×緊急度の2軸を引き,より重要度が高いものを右側に,より緊急性が高いものを上側に貼り付けていきます。この辺はあくまで感覚なので「このあたりですか?」と尋ねながら位置を調整していくとよいです。
こうやって「やること」が一覧できるようになると,なにより安心感が生まれます。その上で「重要で緊急のもの」から取り掛かろうという優先順位決めに役立ったり,「緊急でないけど重要なもの」を忘れず実行するためのスケジュール作成につながったりします。「重要度×緊急性」の2軸マップは,どれからやるか?どんな手順でやるか?を決めるための図です。

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同じく2軸マップでもう一つ。「ペイオフマトリクス」は「効果×コスト」の2軸による図です。
何かの問題や課題に対して複数の対応策が考えられる時。例えば,神社のガイドツアーの参加者からの評判や満足度が思ったほど高くない時です。どんな対応策が考えられるか意見を出していきます。ガイドのトレーニング,写真サービス,広報内容の再検討,絵馬体験,地元のカフェを紹介…。いろんな対応策が考えられますが,それらを付箋に書き出し「期待される効果」と「コスト・難易度」の2軸を基準に貼り出していきます。こちらもどのくらいの効果が期待されるか?コストがかかるか?は意見が様々と思いますので,みんなとおしゃべりしながら貼る位置を調整することになります。
全て貼り出した上で,大きな効果が期待される対応策に頑張ってチャレンジするのか,コストが小さくて済む対応策からとりかかるのかは出席者の考え方次第。「ペイオフマトリクス」は,複数の候補の中から,有望で実現可能な選択肢を選び出すための図です。

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最後に,事業をふりかえり,今後を考える場面で使う2×2マトリクス図「田の字法」です。
まちづくりプランナーの岩崎博さんの開発で,ファシリテータの青木将幸さんの著書「ミーティング・ファシリテーション入門」で詳しく紹介されています。
「現在・将来」と「肯定的な考え・否定的な考え」を組み合わせた図です。「よくやったな,成果だなと思うこと(現在×肯定的な考え)」→「イマイチだな,改善したいなと思うこと(現在×否定的な考え)」→「こうはなりたくないな,避けたいなと思うこと(将来×否定的な考え)」→「こうなりたい,目指したい未来(将来×肯定的な考え)」の順に意見を出していきます。
神社ガイドツアーを1年間で○回実施してみてのふりかえりの会議。「○○人の観光客が参加。地元商店からも喜ばれた。」→「40代以下の参加が少ない。経済的な効果はまだまだ。」→「くたびれてやめるのは避けたい。」→「ガイド本に載る,地元商店と連携したツアーにしたい。」といった内容が挙げられています。「田の字法」は現在の到達点をポジティブ・ネガティブ両面から確認し,一緒に目指したい将来像を話し合うのにぴったりです。

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見た目が似ていてごっちゃになりがちですが,
 2×2マトリクス図は,手早く広い視野で意見を洗い出したい時
 2軸マップは,たくさんある選択肢の仕分けや重み付けをしたい時
に向いています。
実際の会議ではそんなに使用頻度が高いわけではないのですが,いざというときに使えると便利です。

冬は焚き火が楽しい季節。

バーベキューなどに使う木炭は煙が出にくかったり,安定して長時間燃えたりして便利です。けれど,枯れ枝や薪を使った焚き火には変化や味わいがあります。
そんな焚き火と会議はよく似ているなあ,と火を起こすたびに思います。


<技術よりも「どんな場所でやるか」が大事>
 焚き火は,火を起こしたり薪をくべたりする技術よりも,どんな場所でやるかが大事です。そもそも焚き火をしていい場所かどうか,ふさわしくない場所なこともあります。会議では,話し合いができるような環境か?場所やタイミングはふさわしいか?を考えて実施することが大事です。

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<風通しが決め手>
 酸素が無ければ木は燃えません。風向きや強さを考えて適度に風が通るように小枝や薪を組んで準備します。逆に風速が7mを超えると焚き火には危険な風の強さ。焚き火は中止です。会議だったらどうでしょう?文字通り,「組織の風通し」がよくなければ,自由な意見交換は起きにくい。また「他の出席者からの風当たり」が強ければやる気が削がれたり萎縮することもありそうです。ちょっとダジャレっぽいですけれど…。

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<いきなり太い薪には火がつかない>
 淡路のファシリテーター青木将幸さんも言っていたと思います。火を起こす時,最初は「火口(ほくち)」。スギの枯れ葉や松ぼっくりなど燃えやすいものに火をつけ,その後「焚きつけ」として枯れた小枝や細く割った薪を燃やします。その炎に炙りながら太い薪に火をつけて,ようやく焚き火の本格スタートです。会議でも,いきなり大きな本題から話すことは難しかったりします。前提の確認や情報共有,短時間で終わる議題などから始めるとうまくいくことが多いです。

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<3つで暖めあうと安定する>
 太い薪が1本だけだとなかなか燃えません。冷えてしまうためです。2本だとだいぶマシですがきびしいこともあります。同じくらいの薪が3本以上あるとお互いが熱を反射しあって火が安定します。1人だけが発言する会議はどんな感じでしょうか?2人だけでも…うーん?3人以上が発言すると意見に幅が出てきて活発な話し合いになります。

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<煙は不完全燃焼のサイン>
 焚き火からモクモクと白い煙が出てきたら,不完全燃焼です。酸素が足りないか,薪が乾いてなかったかで温度が十分に上がっていないということ。その煙の正体は薪から出てきた可燃性のガスと水蒸気です。目が痛くなってやっかいな煙ですが,本当は燃えるのに燃えることができなかったガスなので,空気を送り込んだり細かい焚きつけを加えたりするとうまく燃え始めます。もし仮に会議で「やっかいな意見」「場違いだと感じる意見」と感じることがあっても,燃えてないだけで可燃性のガスかもしれません。その意見が燃えるためには,なにをすればよいでしょうか?

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<いじりまわすと育たない>
 焚き火の前に火バサミやトングを持って座っていると,つい薪の向きを変えたり,風通しの穴を開けたりいじりまわしたくなります。けれど,ようやく薪同士が暖め合う関係ができたり,こちらから見えない位置が高温で燃焼したりしているのに,それを崩して冷やしてしまってはもったいない。太い薪に火が着いたら,時々薪を追加したり,燃え残った端切れを寄せたりする程度で十分。同じように,会議の進行役が出席者にこまめに介入し過ぎると,じっくり考えられなかったり,出席者同士の関係が育たなかったり,自らの発案ややる気が削がれたりするように思います。

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<後じまいが大事>
 焚き火に上から水をぶっかけて消火するのはまあまあ無粋です。基本はなるべく薪を燃やしきること。最後の太い薪が燃えきるまで,着火時と逆に中くらいの枝から細い枝へ,少しずつ加えながら火を小さくしていき,全てを灰にします。時間がない場合は,なるべく燃やした後,火消し壺などに入れて消火します。会議も前半ではいろんな意見が出てきて話題が広がっていきますが,後半ではそれらの意見を分類したり,選んだりして収束していきます。最終的には一つの結論にまとめて持ち帰ります。

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今回は技術論でなく例え話でした。
ファシリテーション修行として焚き火オススメです。

最近「ファシグラとグラレコとの違いはなんですか?」と聞かれることがありました。

ファシリテーショングラフィックとグラフィックレコーディングは,人前に立って発言をリアルタイムに書いていくという点では似ています。違いを挙げるとすれば,その場で出席者をファシリテートすることを重視するか,後で記録として役立つことを重視するかという点です。

ファシリテーショングラフィックをする時,つまり出席者をファシリテートする板書をしたい時に意識するとよい点がいくつかあって,そのうちの1つは下絵や素描のように書くことです。完成品を作ろうとする気持ちよりは,本番前のラフスケッチや準備メモを書く気持ちでいる方がうまくいくと思います。

下絵や素描を表す美術用語にも「デッサン」や「エスキス」「クロッキー」などいろいろありますが,それぞれに意味合いが違います。

 デッサン___静物などを対象に,時間をかけて,そのテクスチャーや立体感を表現する
 エスキス___風景や人物などを対象に,比較的短時間で,その構成やバランスを表現する
 クロッキー___人体などを対象に,数分程度のごく短時間で,大まかな形や動きを表現する

ファシリテーショングラフィックも,話し合いの内容や雰囲気によって書き方は変わります。

一つの課題を掘り下げながら丁寧に紐解いていくような話し合い,もしくはケースワークなど個人の経験や思いなどを傾聴しながら行う板書は「デッサン」的な板書だな,と感じます。対象をよく観察しながら繰り返し鉛筆を入れたり,消しゴムで消したりしながら丁寧に描く様子と似ています。

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いろんな話題や要素が飛び交う話し合いの板書は「エスキス」的です。あの意見,この意見を書きとめながら矢印で結んで関係付けたり,グループ分けしたりします。風景画や地図,建築物のパース図のように,たくさんの要素の配置やバランスが見渡せるように全体像を描き出します。

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いちばんスピード感があって,その場,その時の発想を書きとめるのは「クロッキー」的な板書だと思います。あふれ出るアイデアを消えてしまう前に素早く書きとめたり,盛り上がる出席者をスピードダウンさせず,必死で追いついていくような板書です。

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これらの三つ,雰囲気に違いはあれど大切なのは「間違えたら修正すればいい」「くりかえし書いていい」「書いてるうちに全体像が見えてくる」「全体が見えてきたら大事なところがわかってくる」「その上で大事なところを強調したり,際立たせたりしてもいい」といったことです。

反対に「間違えないように慎重になる」「一発で書こうとする」「最初から全体の配置を決めておく」「大事なことだけを書こうとする」「あちこちに強調や装飾を入れる」というのは,ファシリテーショングラフィックとしては,うまくいきにくいんじゃないかと思います。

書いたホワイトボードや模造紙が完成品なのではなく,書いたことで活性化した「話し合い」やたどり着いた「結論」,やる気の高まった「出席者」,生まれた出席者同士の「関係性」が成果です。ファシリテーショングラフィックは,それにたどり着くための下準備みたいなものだと考えています。

事業の目的や手段を整理したい時の書き方です。
「あれ?これなんのための事業だっけ?」となった時や「目的や方法をあらためて整理しよう」という話し合いで効果的です。

カスケードとは「滝」の意味ですが,大きな落差のある滝(fall)というより,小さな落差が連なって何段にもなって落ちているような滝(cascade)のこと。目的と手段の連なりはまるで小さな滝のようです。上から下に向かって枝分かれしたり,まとまったりしながらつながっています。

例えば,ある団体が自団体の会報の発行について目的から見直そうとしている場面。
真ん中に「会報の発行」と書くところからスタート。「目指す目的はなんですか?」「必要な手段はなんですか?」と尋ねながら,目的は上に向けて,手段は下に向けて書き足していきます。それぞれ丸で囲んで線で結ぶと見やすいですね。

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「会報の発行」の目的として,例えば「会員との情報共有」や「新規会員の獲得」などが出てくるかもしれません。目的が複数あることはよくあります。それぞれについて,さらにその目的を尋ねると「会員の継続」や「運営の協力を得ること」,「会員数・支援者数の増加」などが出てきそうです。さらに重ねてその目的を尋ねると「安定した団体運営」や「団体のミッションの達成」とだんだん大きな目的になっていきます。「○○な社会の実現」などのビジョンが出てくるかもしれません。「よりよい社会」とか「よく生きる」とか哲学っぽい領域に入ってきたら一旦終了です。
反対に「会報の発行」の手段には「取材と原稿執筆」や「寄稿のお願い」「編集・レイアウト」などが挙げられると思います。さらにそれぞれの手段として「パソコンやソフトの準備」「会員名簿の管理」「印刷費の準備」などが下に加えられそうです。手段については,具体的過ぎて当たり前に感じられる内容が出てきたら終了です。

こんな風に書き出すだけでもずいぶん頭が整理され,出席者間で事業目的やそれに至る手段の共有が進むと思います。すっきりするだけでなく,日頃の地道な作業が,確かに大きな目的につながっていると実感できるというのもよい点です。

ご覧の通り,目的と手段は相対的な関係です。「会報の発行」は「会員との情報共有」から見たら手段ですが,「取材と原稿執筆」から見たら目的です。ただ,業界や組織によっては「目的」や「手段」の語の示す範囲が定義されていることもあるのでご注意ください。

また,ほとんどの場合,目的と手段は一直線に並ぶことはなく,枝分かれしたりくっついたりします。これを図に書いていくと,たくさん枝分かれして見えにくくなったり,混乱してゴチャゴチャしてきますが気に病む必要はありません。むしろそれが実態を表しているとも言えるので,まずは「棚卸し」のつもりで出てくる意見を書き出してしまうことをお勧めします。その上で必要があれば,ペンの色を持ち替えて,どの目的や手段を重視するかなどの話し合いを行うとよいと思います。

カスケード状の書き方は,「目的と手段」をどういうものかと捉えているかが土台になっています。

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困りごとや問題に対する対策や今後の対応を考える「対策会議」の時に役立つ,マトリクス図の応用編「原因・対策系マトリクス図」です。

困りごとや問題が起きているという時は不安・モヤモヤした状態。早く安心したい,このモヤモヤを解決したいと感じるのも無理ありません。しかし,よく考えずに誰かの責任だと決めつけたり,安易な解決策に飛びついたりしないようにしたいですね。落ち着いて順を追って話したり,いろんな角度から対策を考えるための書き方です。

まず,板書の一番上にテーマとなる困りごとや問題点を書き出しておきます。
その下は縦線3本で区切って,左から右に向けて「事実」「原因」「対策・対応」「目標」の四つの枠を作ります。

一番左の「事実」の枠には,その困りごとや問題について確認できる事実を挙げていきます。誰が言っていたか?いつわかったのか?現在はどうなっているか?などです。その問題が出席者同士で十分共有されていないこともあるでしょうし,それぞれの解釈や印象は異なるのが普通です。冷静に事実を確認・共有することは大切。よくよく考えたら大した問題じゃなかった,ということも十分あり得ます。

二つ目の「原因」の枠には,考えられる原因を列挙します。原因は一つとは限りません。プログラムやスケジュールかもしれませんし,使用した道具や資材に問題があることも考えられます。当日の気候や周辺環境,参加者・関係者などの体調や人間関係,立ち居振る舞いなど,いろんな視点から原因を挙げていきます。

次の枠は置いておいて,先に右端にある四つ目の「目標」の枠に飛びます。どんな状態を目指したいのか,目標やゴールとなる状態を共有しておくことで対策や対応が絞られてくるからです。例えば「イベント申し込みが定員の半分だった」のが問題になっている場合。それに対する「目標」が,「次回は定員越えを目指す」のか「次は今回より10名増やす」のか「定員割れでも構わないがとにかく続ける」のかで,かなり違います。

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その上で,三つ目の「対策・対応」の枠に戻ります。これまでの事実,原因,目標を踏まえて対策・対応の案を出していき,それらの選択肢の中から優先度が高いものや妥当なものを選んでいく,という流れになると思います。ちなみにここで言う「対策」は「その問題を起こさないように事前に行う予防策」。「対応」は「その問題が起きてしまった後,とるべき対応策」の意味です。
対策・対応の案は,「原因」の枠に挙げた背景や出来事と対になるように出てくることが多いので,この「原因・対策系マトリクス図」は真ん中あたりだけが,縦横に区切られたマトリクス図っぽい見た目になります。

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「原因・対策系マトリクス図」の横軸には「落ち着いて順を追って話そう」という意図。縦軸には「いくつかの背景や出来事が重なってるかもしれないので,多面的に考えよう」という意図が込められています。

「マトリクス図」は縦横のマス目でできた表形式の図です。
私たちが子どもの頃から知っているのは学校の時間割。左側に1時限・2時限・3時限…,上部に月から金までの曜日が並んでいて,マス目の中には国語や算数といった教科名が入ります。
マトリクス図のポイントは縦軸・横軸をどんな項目にするか。時間割の場合は縦軸が「時限」,横軸が「曜日」です。他にも,身の回りにはバスや電車の時刻表をはじめ,成績表や年表,売上の集計や在庫表など様々なマトリクス図があるので,どんな縦軸・横軸でできているかあらためて注目してみると参考になります。

会議や話し合いの板書としてマトリクス図が効果を発揮するのは,いろんな種類の意見が出てくるのを整理して全体像を把握したい時,また,その上で抜けや漏れをチェックしたい時などです。個人的には,多種多様な意見を縦軸と横軸に展開して整理する様子は,くしゃくしゃに丸まったハンカチを両手の指でグッと広げて四角に伸ばすようなイメージだと思っているのですが,どうでしょう?

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例えば,イベントの準備会議。公民館で行う地域のお祭りの計画を話し合っていて,役割分担や準備作業の洗い出しをしているとします。そのまま意見を出していくと,ステージの担当者の話や広報の締め切りの話,去年の反省など話があっちこっちに飛んだ上,会議の終わりも見えなくなるかもしれません。
そんな時はホワイトボードに大きくマトリクス図を用意します。上部の横軸には「全体統括」「広報」「ステージ」「テント出店」など,お祭りを持ち場や役割に分解した項目を。左側の縦軸には「担当者」「今後やること」といった,その日に話し合いたい議題を項目としてを挙げます。このマトリクス図に「広報の担当者は○○さん」「テント出店で今後やることは○○と○○」などと書き込みながら話し合うと,会議の進み具合や検討の抜けや漏れが一目でわかるようになります。さらに,特定の人に仕事が集中しているなどの問題点に気付くことができるかもしれません。

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さらに,このお祭りが無事に終了し,「おつかれさまでした,次年度に向けてふりかえりをしましょう」という場面。ただ反省会をすると,一部で起きたトラブルの話に終始したり,良かった良かったという雰囲気ばかりで課題や反省点が出てこなかったりすることもありそうです。
それぞれの持ち場について,良かった点や問題,今後に向けた改善点などを出してふりかえりを行いたい場合。横軸は同じ「全体統括」「広報」「ステージ」「テント出店」のままですが,縦軸には「よかった点」「問題点」「今後の改善点」の項目を挙げておきます。全体像を確認しながら,「ステージの○○が良かった」「全体統括としての課題は○○」などそれぞれの持ち場の成果や課題等を出し合うことができます。

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少し違った例として研修や勉強会の場面。3人の話題提供者が話した後,最後の30分間,質疑応答やディスカッションをして深めていくとします。横軸には「話題1」「話題2」「話題3」と3人の話題提供者のテーマを。縦軸は「感想」と「質問」に分けておきます。参加者からの発言を当てはまるマス目に書き込みながら質疑応答やディスカッションを行いますが,参加者が10人以上になる場合は付箋を使うのも手です。個人で感想や質問を付箋に記入(数分間),その後,各自で該当する場所に貼り出してもらいます。その後は,付箋を読み上げながら質疑応答やディスカッションを進めます。

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これらの三つとも,縦軸・横軸が「話し合いたいこと(議題や問い)」×「話し合う対象(持ち場や話題)」だという点では同じです。会議で使うマトリクス図によくあるパターンです。
他の縦軸・横軸のパターンとしては,「時間(時刻・年月日)」×「持ち場・役割」によるマトリクス図(進行表や役割分担表)が使いやすいと思います。

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マトリクス図の強みは「たくさんの情報を整理して全体像を見渡せる」「抜けや漏れ,重複に気付きやすい」という点にあります。また図表全般に言えることですが,特にマトリクス図はそれ自体が出席者に「今日はこれだけ話しますよ」「現在これだけ進みました」「ここが空いています,意見はありませんか?」というメッセージを発します。時には「ここのマス目は埋まってしまったのでもう出さなくて結構です」ととられることもあります。その意味では強力な進行ツールとは言えます。。

気をつけたいのは,どんな縦軸・横軸や項目を設定するか,それぞれのマス目をどのくらいの大きさにするかというのは,進行役や板書役の恣意によるという点。なので,

 ○あんまり綿密な軸や項目にせず,出席者がすんなり納得できる大まかな項目にする。

 ○当てはまらない意見だと感じた時は,用意した軸や項目が間違っていたということ。
  図の方を修正したり,マス目をまたいだり,欄外に書いたりして柔軟に対応する。

などを心がけたいと考えています。

次回も引き続きマトリクス図ですが,より特定の場面で使用する例をご紹介する予定です(たぶん)。