野島智司さんのコラム、はじまりました

糸島市で「マイマイ計画」を主催する「のじー」こと、野島智司さんのコラムがはじまりました。
かたつむりやコウモリに詳しくて、小さないのちへのあたたかいまなざしを持つ野島さん。一緒に身近な自然を大切にする気持ちを届けていけたらと思います。(2018年6月GCF事務局)

野島さんの著書:
『ヒトの見ている世界 蝶の見ている世界』青春出版社
『カタツムリの謎:日本になんと800種! コンクリートをかじって栄養補給!?』誠文堂新光社
『マイマイ計画ブック かたつむり生活入門』ele-king books(Pヴァイン)

第7回 ぐるぐる成長する殻と心(2018年12月)

我が家には2歳の息子がいます。
2歳になると、その子の性格というのがおぼろげながら見えてきます。
なんでも自分でやりたがったり、絵本が好きだったり、
冗談をよく言ったり、料理が好きだったり…。

大人になると小さな頃のことなんて覚えていませんが、
それでもきっと、心の中心部分はこのくらいのころにできているんだろうなぁと思います。

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かたつむりの殻は、ぐるぐるうずまきです。

かたつむりは卵から孵化した直後は1巻き半の小さな貝殻を背負っています。
この貝殻は、かたつむりの成長とともに大きくなります。
付加成長と言って、殻の出口が少しずつ継ぎ足され、2巻き、3巻き、4巻き…と、
だんだん巻き数が増えていくのです。

つまり、殻の中心はずっと孵化直後の子ども時代のまま。
これってなんだか、人の心の成長に似ていませんか。

また、殻の成長は出口が継ぎ足されるだけではありません。殻の厚みも継ぎ足されます。
孵化直後のかたつむりは、とても薄い殻しかもっておらず、簡単に壊れてしまいます。
けれど、大きく成長するにつれて、分厚く頑丈な殻になるのです。

これも心と似ています。
傷つきやすかった子どものころに比べ、大人になると多かれ少なかれ、図太くなりますよね。

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もし人の心を目で見ることができるなら、
それはきっと「うずまき状」なんじゃないかと思います。
かたつむりの殻と人の心が違うのは、
かたつむりの殻は自分一人の力で合成し、修復するのに対して、
心は他者の心に触れて成長し、他者の心に触れて修復するところなのかもしれません。

ちなみに、かたつむりの殻は何らかの衝撃でヒビが入ったり、割れたりしても、
多少のことなら修復できます。
まったく元通りとはいきませんが、独特のあじわいのある殻になっていきます。

第6回 かたつむりとの相性診断(2018年11月)

人には、かたつむりとの相性とでも言うべきものがあるような気がします。
今回は私の独断と偏見に基づき、かたつむりとの相性が良い人のポイントを
3点にまとめてみます。

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1つ目は、待つ力。
かたつむりは、動きがゆっくりです。
長いあいだ殻に引っ込んでしまうこともあります。
何か観察したい行動があっても、早く姿を見たいとか、早く動いてほしいなどと
思って無理に急かすと、むしろ逆に殻に引っ込んでしまいます。
興味を持った対象をじっくり待って観察できるという人は、
かたつむりを見ていても飽きることはないはずです。

2つ目は、雨を楽しむ才能。
雨の日は、外で遊びづらくなります。
ですが、たとえば子どもは、水たまりをチャプチャプしたり、
雨の音を楽しんだりするのが大好きです。
子ども時代に雨の日を楽しいと思えた人は、
かたつむりと出会う機会も多かったのではないでしょうか。

3つ目は、小さなもの、弱いものへの関心。
かたつむりは、ゾウのように大きくも、ライオンのように強くもありません。
軟らかい身体はもちろん、殻だって人の手で簡単に壊せるくらいの薄いもの。
多くの動物の餌になってしまう小さく弱い生きものです。
そのような小さなもの、弱いものに関心を持てる人は、
かたつむりとの相性もさぞ良いことでしょう。


「待つ力」「雨を楽しむ才能」「小さなもの、弱いものへの関心」
こう考えると、かたつむりと相性が良い人って、
なんだかおとなしい人なんじゃないかと感じます。

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ところで、民俗学者の柳田国男は「でんでんむし」「まいまい」のような
かたつむりを表す方言がかつて多様だったことを明らかにしています。
柳田は「デェラボッチャ」「マイマイドン」「カッタナムリ」「ツングラメ」
「イヘカエル」「ゼンマイ」など、全国各地のかたつむりの呼び名を
240種類以上も収集しました。
そして、これほど方言が多様化した理由を「童児の力」だと言っています。
子どもたちが「つのだせ、やりだせ」のようなわらべ唄を通して、
かたつむりと遊びながら呼び名を多様化させたと言うのです。

つまり、かたつむりともっとも相性が良いのは、どうやら子ども。

そう考えると、上に挙げた3点も「おとなしい」というより、
むしろ本来は「こどもしい」(?)性質なのかもしれません。

【参考文献】柳田国男『蝸牛考』岩波文庫

第5回 コアオハナムグリのもぞもぞ感(2018.10)

カタツムリやコウモリ、ナメクジなど、なんだか暗いジメジメしたところにいる
生きものばかり好きな私ですが、例外もいくつかあります。

その1つが、コアオハナムグリ。
10円切手の図柄にもなったことのある、身近でありふれた、おなじみの昆虫です。
このコアオハナムグリのことが、私は大好きです。
ざっくり言えば、毛むくじゃらさ、つかまえやすさ、もぞもぞ感、という3点が大好きなポイントです。

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1.毛むくじゃらさ
子熊のような毛むくじゃらさが、とってもかわいいポイントの1つ。
ハナムグリは漢字で書くと「花潜」で、その名の通り、もぞもぞと花に潜って花粉や
花の蜜を食べます。ノアザミやハルジオン、タンポポはじめ、さまざま花に訪れます。
毛むくじゃらな身体に花粉をまとって、ポリネーター(花粉の運び屋)の役割も果たしています。
毛むくじゃらなところには、かわいさだけじゃなく、生きものとしての機能が隠されているのです。

2.つかまえやすさ
子どものころ、コアオハナムグリを見かけるたび、よく捕まえていました。
あまり人を警戒しないので、手づかみで簡単に捕まえられます。
ハナムグリ類は上翅を開かずに下翅だけを広げて飛べるという特性があるので、
多くのコガネムシよりも素早く飛び立てるはずなのですが、なぜだか飛んで逃げるということは
あまりありません。どちらかと言えば、脚を縮めてコロリと転げ落ちて逃げていきます。

3.もぞもぞ感
なんといっても、コアオハナムグリの醍醐味はこれです。
コアオハナムグリをつかまえると、もれなくもぞもぞ感が味わえます。
手のひらに乗せると、手指の隙間をグリグリと潜り込もうとするのです。
このもぞもぞした感触がたまらなく良いのです。

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コアオハナムグリ。
見かけたときはぜひ「もぞもぞ感」を味わってみてください。

第4回 カタツムリと掃除機 (2018.9)

掃除機をかけていると、かたつむりを思い出します。

掃除機をかけるときは、ヘッドを左右に振りながら、床全体をまんべんなく網羅して、
少しずつ移動します。これと同じことを、かたつむりは採食行動でやっています。
その証拠が、ガードレール表面に残された、この食べあと!

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よーくみるとジグザグに食べているのがわかります。
ガードレール表面にはクロレラなど藻類がたくさん生えています。
かたつむりはこの藻類をむしゃむしゃと食べて、栄養にしています。
そのとき、エネルギーを摂るために食べているのに、移動にエネルギーを
使ってしまっては効率が悪すぎます。

そこで、移動をできるだけ少なく、頭を振って効率よくごはんを食べようとするの
です。 掃除機と違うのは、何も全体をすべて網羅しなくてもいいということ。
そのため、ときどきおもしろい食べあとに出合います。

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たとえば、まるーく描いて食べたり。 からだをクルリと回転させながら食べたの
でしょうか。
もしかしたら、何らかのメッセージを伝えた「かたつむり文字」なのかもしれない…。
そんな妄想をしながら、食べあとを見るのもまた楽しいです。
注意してみると、ガードレールや看板など、いたるところにかたつむりやなめくじの
食べあとがあることがわかりますよ。

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かたつむり的世界観 第3回「なめくじの不思議」(2018.8)


「かたつむりとなめくじって、どう違うの?」

人からよく聞かれる質問の1つです。
簡単に答えるとすれば、かたつむりもなめくじも同じ仲間で、単に
殻をもっているかいないかの違いです。
ただ、詳しく説明するとなると、事情は複雑です。

そもそも「かたつむり」自体、生物学的な定義のある言葉ではありません。
軟体動物(貝のなかま)のうち、陸上に棲むものを「かたつむり」と
呼ぶことが多いのですが、それだけだとあまりに広すぎると「柄眼目」という
一定の分類群だけを「かたつむり」と呼ぶという人もいます。

ただし、これらの定義にも問題があります。
これらの定義だと、「なめくじ」も「かたつむり」に含まれてしまうのです。
一般的に「なめくじ」は「かたつむり」に含まれませんが、生物の系統としては
「なめくじ」は「かたつむり」の仲間の一部であり、さらに「かたつむり」の
仲間のたくさんの枝分かれのうち、いくつかバラバラに「なめくじ」の仲間が
いるのです。

「うーん、ややこしい! よくわからん!」
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まぁ、そうですよね。
つまりは、かたつむりの長い進化の歴史の中で、一度だけでなく、
何度か貝殻をなくす方向への変化が起きているということ。

このように貝殻をなくすという進化は、実は貝類としては珍しいことでは
ありません。専門的には「ナメクジ化」と呼ぶ、しばしば起こる現象です。
例えば、イカやタコはオウム貝の仲間がナメクジ化した生物。同様に、
アメフラシやウミウシ、クリオネも巻き貝の仲間がナメクジ化した生物です。

「ナメクジ化」にはいくつかのメリットがあります。
貝殻が不要なので、カルシウムの摂取量が少なく済み、さらに身体が
軽くなります。つまり、省エネ、低コスト。大きな殻は移動の障害にも
なりがちですが、ナメクジ化すると狭い隙間にも入り込めるようになります。

かたつむりにとっては大事な殻も、思い切ってなくしてしまうことで
大きなメリットがあるなんて、生き物って不思議です。

もしかしたら人も、ナメクジ化すると何かメリットがあるのかもしれません。
ん? 人にとっての「殻」って、いったいなんでしょう。
家? お金? 肩書き? それとも…?

かたつむり的世界観 第2回(2018.7)

かたつむり大好きな私ですが、
私の学生時代の研究対象はかたつむりではなく、コウモリでした。
コウモリもまた、私の世界観を変えた生きものです。

コウモリは言わずと知れた夜行性の動物。
奥深い森林にも大都会にも、それぞれの環境に適応した種類が生息しています。

私が6歳頃まで住んでいたのは東京の住宅地。
夕方になると、どこからともなく現れて空を舞う、アブラコウモリというコウモリがいました。
主食である虫と間違えて近づいてくるので、小さな石を空に投げて遊んだことを覚えています。

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コウモリの魅力は、ヒトとは対照的な生活スタイルにあります。

▼昼間に寝て、夜に活動する
コウモリはヒトに気づかれにくい生きものです。
夕方から飛び始めるので薄暗い時間帯なら目に見えるのですが、
生きものに興味が無いと「ただの鳥」と思ってしまうかもしれません。

▼地上を歩かず、空を飛ぶ
ヒトは地上を歩く生きもの。
両眼を使って立体視のできる生きものではありますが、移動はあくまで平面的。
コウモリは翼を使って空を飛べるため、空間的な移動が可能です。
一方、地上を歩くのがとても苦手です。

▼目よりも耳で「見る」
ヒトは視覚に頼った生きもの。
一方コウモリは、視覚はあまり使っていません。
鼻と口からヒトの耳には聞こえない超音波を発して、反響した超音波を耳で知覚して、
周囲の環境を知覚するのです。

▼休むときはさかさま
コウモリは空を飛ぶため、体重が軽くなるように進化しています。
骨は細く、ヒザの関節はヒトとは逆向きになっていて、立ち上がることはできません。
あしの爪が発達しているので、壁などに爪を引っ掛けて、ぶら下がって休むのです。

▼でも、ヒトにけっこう近い
ヒトとは対照的な生活スタイルの一方で、近い部分もたくさんあります。
何より、ヒトと同じ哺乳類であることが大きいです。
鳥類とは異なり、赤ちゃんを産んで、母乳で育てます。
翼は羽根ではなく、よく見るとヒトと同じ5本指であることがわかります。

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さらに、アブラコウモリという市街地に適応したコウモリは、
人工建造物をねぐらとして利用します。
ヒトの暮らしと密接に関わっている生きものなのです。

<見えづらい夜空に、超音波を交わしながら暮らしている生命が、私たちのすぐそばにいる>
それがわかると、自分の見知っている世界が、世界のほんの一部に過ぎないんだと実感します。
同じ世界を共有する生きものは、きっとまだまだたくさんいるということも感じます。

かたつむり的世界観 第1回(2018.6)


私は物心ついた頃には、かたつむりが大好きで、今でも「かたつむり見習い」を名乗るほど。
「どうしてかたつむりが好きなの?」と聞かれることがよくあります。

以前は「それはこうこうこういうわけで」と理由を説明していたのですが、説明したあとでやっぱり違ったかも…と後悔するばかり。
最近ではもう「理由はわからないんです」と、素直に答えるようにしています。

どうして好きなのかはともかく、かたつむりが魅力的なおもしろい生物であることは確かです。

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何より、かたつむりのことを知ると、世界が違って見えてきます。

かたつむりは目の良い生きものではありません。
皮膚感覚で環境情報の多くを知覚し、大きなツノ2本と、小さなツノ2本で触れて、光を感じて、匂いや味を感じます。
時間感覚も、人よりずっとゆっくり。
オスとメスの区別はなく、雌雄同体の生きもの。

人とはあまりに違う生きもの。
彼らはどんなふうにこの世界を見て、感じているのでしょうか。

かたつむりを見ていると、ついついそんなことを考え始めてしまいます。


かたつむりは日本におよそ800種というほど、たくさんの種類がいます。
ご存知の通り、ゆっくりと這って歩むことしかできないため、ちょっとした小川も越えることができません。
そのため、集団が分断されやすく、多様な種類に分かれやすいと考えられています。

小川も越えられないくらいなので、人の暮らしに影響を受けやすいことも確かです。
たとえば、道路。
横断歩道で信号が青になるのを確認して進むなんてことはもちろんできないですし、車の往来に気づいて引き返すことさえもできません。
もっとも、信号が青になるのがわかったとしても、赤になる前に渡りきれるとは思えませんが……。


自分の知っているつもりの世界に、自分とは違う見方があるということを、私たちはしばしば忘れがちです。
でも、かたつむりの見え方を想像すると、世界の見え方が1つではないと思い出します。

好きな生きものがいると、世界が豊かになるように思います。