野島智司さんのコラム、はじまりました

糸島市で「マイマイ計画」を主催する「のじー」こと、野島智司さんのコラムがはじまりました。
かたつむりやコウモリに詳しくて、小さないのちへのあたたかいまなざしを持つ野島さん。一緒に身近な自然を大切にする気持ちを届けていけたらと思います。(2018年6月GCF事務局)

*一部のバックナンバーを野島さんの「note」にて公開することとなりました。
 お読みになりたい方はこちらへどうぞ!
 ⇒https://note.com/maimaikeikaku/m/mddb64fe1ce21

野島さんの著書:
『ヒトの見ている世界 蝶の見ている世界』青春出版社
『カタツムリの謎:日本になんと800種! コンクリートをかじって栄養補給!?』誠文堂新光社
『マイマイ計画ブック かたつむり生活入門』ele-king books(Pヴァイン)

第22回 外に出てマイマイをさがそう!(2020年3月)

かたつむりをさがしに、散歩に出てみませんか?
昨年秋の「ふくおかマイマイさがし」の実施期間は終わってしまいましたが、新型コロナウイルスの影響でイベントごとが中止になり、博物館なども閉まってしまい、家にこもってばかりで退屈な思いをしている方も多いのではないでしょうか。
そんな今こそ、外に散歩に出て、かたつむりを探してみましょう。

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●マイマイさがしの6つのポイント

1.住宅地や市街地にもいる「ふくおかマイマイさがし」でもっとも報告が多かった場所は、住宅地です。「近くでは見かけたことがない」という方も、意外と気づいていないだけで、探してみたらいるかもしれません。都会過ぎてかたつむりなんて見たことない!という方も、あきらめてはいけません。天神の中心部でも、花壇にはウスカワマイマイというかたつむりがいるんです。キセルガイという細長いかたつむりのなかまや、ナメクジのなかまは特によく見つかります。


2.自然のある神社や公園も公園はもちろん、神社には自然がそのまま残っていることが多く、ツクシマイマイやコベソマイマイなどの大型のかたつむりがよく見つかります。自然度が高いところは理想的ですが、都市公園でも、花壇などに隠れているかもしれません。


3.ブロック塀は要チェックカルシウムを補給するため、かたつむりは雨の日のブロック塀によく集まります。庭のある民家の周囲や、あじさいなどの緑の植えられた道沿いのブロック塀で見かけることが多いです。


4.ガードレールの食べあとチェックガードレール表面にはたくさんの藻類が生えていて、かたつむりやなめくじが食べた痕跡がよく目立ちます。食べあとを観察するだけでも楽しいですが、食べあとがあるということは、近くにいるのかも?!


5.朽ち木や石をめくってみよう雨の日なら見つかりやすいですが、晴れているときなどは、何も見つからないかもしれません。そんなときは、いろいろめくってみましょう。朽ち木や石などをめくると、かたつむりやナメクジが隠れています。キセルガイなどもよくいます。


6.今なら卵もあるかも今の時期なら卵もあるかもしれません。ナメクジの卵は透明で、かたつむりの卵は白い殻があります。直径3〜5ミリくらいのまんまるの卵が、数十個まとまっています。

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●見つかったらやってみよう

1.その場で観察見つかったら、その場で観察するのが基本です。殻から出てこないようなら、霧吹きなどで湿らせてましょう。そのまま気長に待っていると、顔を出してくれるかもしれません。(顔を出さなくても、おこらないでね)

透明の下敷きなどがあれば、乗せてみるのもオススメです。おなか側から見て、もぐもぐしている口を見たり、どうやって移動しているのか観察したりすると楽しいです。


2.調べてみる『カタツムリハンドブック』(後述)などを見て、種類を調べてみてもいいですね。カタツムリはとても種類が多く、同じ種でも変異が大きいので、判別はけっこう難しいかも?


3.飼ってみる飼育ケースにキッチンペーパーなどを敷いて、霧吹きなどで湿らせます。エサは野菜くず。いろいろあげてみて、何をよく食べるか調べてみましょう。キノコも食べるかも?また、殻の栄養となるカルシウムも必要なので、卵の殻やカトルボーン(イカの甲)を忘れずに。
耳を澄ますと、野菜を食べている音も聞こえてくる……かも?かたつむりのフンの色は、食べたものの色がそのまま出てきます。掃除は、なるべくこまめにするようにしましょう。

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●オススメかたつむり本
4つかたつむりに関するオススメの本を紹介します。

1.武田晋一・西浩孝『カタツムリハンドブック』(文一総合出版)数少ないかたつむり専門の図鑑です。しかも、標本写真ではなく、生体の写真を使っているので、体全体の様子がわかって良いです。これに載っていないかたつむりも多いですが、まずは入門書としておすすめです。

2.いとうせつこ・島津和子『あかちゃんかたつむりのおうち』(福音館書店)幼児にオススメなのは、こちらの絵本。かたつむりの糞のことや、成長の仕方がかわいくておもしろいです。

3.エリザベス・トーヴァ・ベイリー『カタツムリが食べる音』(飛鳥新社)こちらは大人向け。難病に苦しむ筆者が、かたつむりに出会い、絆を深めていくノンフィクションです。

4.野島智司『カタツムリの謎』(誠文堂新光社)最後に、拙著です!カタツムリの生態をさまざまな角度から紹介しています。すべての漢字にはふりがながついています。

●注意点
最後に一点だけ。かたつむりには、広東住血線虫という寄生虫がいることがあります。アフリカマイマイという外来種とナメクジ、スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)では特に注意が必要です。かたつむりに触れた後は、顔などに触れないようにして、石けんでよく手を洗いましょう。(新型コロナ対策と、おなじですね)

第21回 マイマイマイ (2020年2月)

兵庫県豊岡市にコウノトリ米、正式には「コウノトリ育むお米」というお米があります。コウノトリの野生復帰のために考案された「コウノトリ育む農法」で作られたお米です。

福岡県でも、たまにコウノトリがやってきて話題になることがありますね。生息環境の悪化により昭和46年に野生絶滅したコウノトリが、平成、令和の日本の空を舞っている背景には、この「コウノトリ育むお米」の存在があります。

環境悪化で絶滅したコウノトリの野生復帰を成功させる上で必要なことは、コウノトリが育つ環境を取り戻すことです。そこで考えられたのが、田んぼのあり方を変えること。無農薬や減農薬で、冬にも水を張る田んぼがあれば、コウノトリの食料となるドジョウやカエルなど、多様な生物が育ちます。そうした田んぼがあれば、コウノトリも食べ物に困りません。

「コウノトリ育むお米」は、そのようなコウノトリの食べる生き物が育つ農法で作られたお米。つまり、「コウノトリ育むお米」は、食べるとコウノトリの野生復帰を支えることにもなる、ある種のブランドというわけです。

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※コウノトリは写っていません

そんなお米を参考に、かたつむりでも何かできないかなぁとぼんやり考えることがあります。理由は何より、語呂がいいからです(!)だって、たとえばツクシマイマイを育むお米だったら、ツクシマイマイまい(米)になるわけですよ。つまり、マイマイマイになるわけです。

ただ、ツクシマイマイと田んぼは直接的には関係が薄いので、ツクシマイマイ米というのは、ややこじつけなのが現実。むしろ田んぼなどの水辺にかかわりが深い種類は、オカモノアラガイのなかまです。

福岡には、ナガオカモノアラガイという種が生息しています。ナガオカモノアラガイは、環境省のレッドデータブックで準絶滅危惧、福岡県のレッドデータブックで絶滅危惧U類に指定されているので、生息環境を守る必要性も高いです。これは、マイマイ米にぴったりなマイマイかもしれない…!なのですが、名前に「マイマイ」がつかないので、肝心の「マイマイ米」という語呂の良さが活かされません。同様に、ヒメオカモノアラガイというのもいますが、やはりマイマイがつきません。
うーん、なかなか良い案が浮かびません。

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ナガオカモノアラガイ

こうなったら、オカモノアラガイ類を含めた多様なかたつむりを大切にする農法として、「マイマイ米」にしてしまうのはどうでしょうか。

・農薬を極力使わない
・オカモノアラガイ類の好むエコトーン(水際のこと)を維持している
・冬も水を張っている

そんな農法を実践し、かたつむりの生息地となっている田んぼで作られたお米を「マイマイ米」として認定する、という感じでしょうか。地域名をつけて、「ふくおかマイマイ米」「いとしまマイマイ米」という感じでもいいかも。

いやいや、そんなブランド化の前に、私のお米「myマイマイ米」づくりから始めようかな。マイマイが育ち、昼は鳥が舞い、夜はコウモリが舞う。そんな私のお米だから、マイマイマイマイマイマイ…。


【参考】「コウノトリ育むお米のひみつ」https://www.city.toyooka.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/004/053/okomenohimitu.pdf

第20回 かたつむりと鳥とカルシウム (2020年1月)

昨年末ごろ、我が家に宿泊中のかたつむりたちが産卵しました。卵を産んだのは、コハクオナジマイマイと、ツクシマイマイの2種。本来は土の中に産むのですが、土を入れていなかったので、濡らしたキッチンペーパーの下に産んでいました。
気づいてから、そーっと卵を移動させて、コケといっしょに観察しています。それから数日後、一斉に…ではなく、ぱらぱらと孵化が始まり、今も次第に赤ちゃんが増えています。とってもかわいいのですが、あまりに小さいので、飼育ケースの掃除ができずに困ってもいます。

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かたつむりの卵はこんなふうに白いものが多いです。飼育ケースの中を見ても、割れた卵の殻はほとんど見つかりません。生まれたかたつむりが自分で食べて、殻の栄養にしているのでしょう。かたつむりの赤ちゃんは、卵殻のわずかなカルシウムも有効利用しているのです。

ちなみに、なめくじの卵の場合はたいてい透明です。カルシウム節約のために貝殻を退化させただけでなく、卵殻も退化させたのでしょうか。

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ところで、卵は卵でも、私たちにとってなじみ深いのは、鶏卵に代表される鳥の卵です。鳥類の卵も、かたつむりの卵と同じように、白い殻で守られています。鳥類の卵殻の主成分もまた、カルシウムです。まったく違う生きもののようで、卵は意外と似ています。

一方、かたつむりの天敵として代表的な生きものと言えば、それも鳥類です。なぜ鳥類がかたつむりを好んで食べるかと言うと、かたつむりの殻にカルシウムが豊富に含まれているからです。
鳥類の多くはカルシウムの大部分をかたつむりから得ていると言われています。実験的に森林土壌のカルシウム分を調節して、カマドムシクイという鳥の繁殖を調べた研究によると、土壌のカルシウム分が高い方が、繁殖密度や卵の数、繁殖回数が多くなったそうです。土壌のカルシウム分がかたつむりの生息に影響を与え、それがカマドムシクイの卵形成に影響を及ぼしていると推測されています。産卵期の鳥類は、卵生成期の爬虫類や妊娠期の哺乳類に比べ、10〜15倍のカルシウムを必要とするんだとか。

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空を飛ぶ鳥は動きが俊敏で、一見するとかたつむりとは無縁の存在にも思えます。でも、カルシウムという軸で見ると、切っても切れない深い関係にあるんですね。
そういえば、人間の嗜好も、傍目にはわかりにくいことがありますね。「この人、どうしてかたつむりなんかが好きなんだろう」なんて思っていませんか。もしかするとカルシウムのような、一見してもわからない大切な何かが、その人を深く惹きつけているのかもしれません。

【参考文献】Graveland et al. 1994. Poor reproduction in forest passerines from decline of snail abundance on acidified soils. Nature. 368: 446-448.堀江明香 2014. 特集:鳥類における生活史研究 総説 鳥類における生活史研究の最新動向と課題. 日本鳥学会誌, 63(2): 197-233.

第19回 ヤマナメクジ(2019年12月)

ヤマナメクジというナメクジをご存知ですか?
体長15〜20cmにもなる、茶色くて大きなナメクジです。福岡の住宅地では見かけませんが、山間部ではしばしば見かけます。

私は幼少期を大分県の竹田市、それも竹田市のさらに山手の荻町の奥地で過ごしました。そこでもっともなじみ深いナメクジが、ヤマナメクジでした。家の周辺でも見ましたし、きのこを好んで食べるので、栽培していたシイタケを収穫するときにも見かけました。

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一般に、ナメクジは塩をかけると「とける」と言われています。ナメクジを見つけて、実際に塩をかけたことがある人は多いでしょう。
やってみずにはいられないのが、子どもというもの。ご多分に漏れず、私たち兄弟も子ども時代にナメクジに塩をかけました。ただし、その相手は大きなヤマナメクジでした。
そのとき、ちっとも「とけた」という印象はありません。ただ、粘液を大量に出していたことは覚えています。実際、塩をかけても浸透圧の関係で細胞内の水分が体外に出てしまうだけで、「とける」わけではないのです。細胞が壊れてしまうので、水をかけても元には戻れず、死んでしまいます…。今から考えると、そのときのヤマナメクジは懸命に粘液で塩を洗い流していたのだろうなぁと思います。

……そんな黒歴史もあり、成長したヤマナメクジは大きく立派な風貌なので、今ではなんだか呼び捨てにすることさえおこがましく「ヤマナメクジ様」とあがめたくなります。

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一方、ヤマナメクジも幼い頃は見た目が違います。なんだか明太子のような姿。
糸島にある妻の畑には、このヤマナメクジのこどもがよくいます。実はこれがヤマナメクジのこどもだと知ったのは、つい数年前のこと。ナメクジの専門家の方に伺うまで知りませんでした。成長したヤマナメクジはよく見知っていたのに、こどもナメクジに見覚えがなかったのです。「ただのナメクジ」として、印象に残らなかったのかもしれません。一方、最近は畑でヤマナメクジのこどもをよく見るものの、畑でおとなのヤマナメクジを見ることはありません。

そのせいか、私はこれがヤマナメクジのこどもなのだということを知った今でも、なんだか腑に落ちていないようなところがあります。冒頭に「ヤマナメクジというナメクジをご存知ですか?」と書きましたが、この記事を読んで「ヤマナメクジを知っている」と言えるかどうかは微妙ですよね。自分で見たり、触れたり、やってみたり、実際に体験して初めて納得できることってたくさんあります。

そんなわけで、現在、このこどものヤマナメクジを飼育してみています。うっすらヤマナメクジっぽい模様が出てきて、今後の成長が楽しみです。

第18回 かたつむりの居場所(2019年11月)

「かたつむりって、やっぱり減ってるんですか」よく聞かれることの1つです。
実際に「かたつむりを見なくなった」とおっしゃる方も少なくありません。

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大人は子どもに比べて目線が高かったり、自然に触れる機会が減る傾向にあるために、かたつむりを見なくなるという面があります。というのも、実際にはウスカワマイマイのように、都市部の花壇などの植え込みに、土に紛れて移動しながらあちこちで繁殖しているかたつむりもいるし、オオクビキレガイのように移入種として生息地を広げているかたつむりもいるからです。そんなわけで、一概に「かたつむりが減っている」とは言えません。

ただし、多くの種で、かたつむりが減少していることは事実でしょう。それは、生息環境、いわば「かたつむりの居場所」が、失われているからです。

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私の暮らすまちの周辺も、急速に土地開発が進んでいる印象です。8年前に暮らし始めた当初には残っていた草地や広場が、どんどん宅地や駐車場に置き換わっています。さみしく感じる一方、私が今住んでいる家だって、かつてはかたつむりが暮らしていた場所に建てられたのかもしれないと思うと、複雑な気持ちです。

以前はいつもかたつむりがいた場所でも、ある時からなぜか見なくなってしまったということがあります。それはもしかすると、殺虫剤や農薬によるものかもしれません。

人の暮らすまちでは、何でもない草地や何でもない林など、意味のあいまいな場は失われていくように思います。逆説的ですが、意味のあいまいな場にもちゃんと意味をつけていかないと、こうした流れには逆らえないのかもしれません。

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近所にある、舗装されていない、あじさいの植えられたこの細道が好きです。雨の日に歩くと、いつもかたつむりがいます。

私は遠回りしてここを通るのが好きです。かたつむりの居場所がなくなるということは、私の好きな場所も、なくなっていくということです。

第17回 はう 後編(2019年10月)

ふだんは足の裏だけで、それもたいていは靴下や靴を通して、間接的に世界に触れている私たち。ヘビはウネウネ、ミミズは伸び縮みしながら、からだのところどころを地面にひっかけながら移動します。一方、かたつむりは、からだ全体をぺったりと地面にくっつけたまま。いったいどのように移動しているのでしょうか。

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かたつむりやサザエなどの巻貝は、軟体動物の中でも「腹足類」というグループに含まれます。文字通り、おなかの部分が接地して、「足」としての機能を果たしているのです。透明なアクリル板などにくっつけて、かたつむりの移動を裏側から観察すると、波状に黒っぽい線が動いていくのがわかります。(写真ではちょっとわかりづらいですが…)

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ミミズには、地面にひっかかる剛毛がありましたが、かたつむりには剛毛などありません。代わりに役割を果たすのが、軟体部(からだ)をおおっている粘液です。

じつは、この粘液が、あなどれません。粘液は特殊な性質を持っていて、あるときには滑りを良くしたり、あるときには粘着力を発揮したりします。それが移動のときに欠くことができない大切なものなのです。

からだと地面のあいだに粘液が入っていることで、自然に摩擦力が変化して、ある部分では摩擦が生まれ、ある部分ではすべりが良くなって、足波が自然と前進する力に変わるのです。すべすべしたり、ねばねばしたり、相矛盾するような気もして、にわかには理解しがたいところもあります。こうした性質を粘弾性と言います。ねばねばの力はなんとも不思議です。

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かたつむりは、この移動様式のおかげで、複雑な環境を自由自在に移動することができます。細いツタを伝ってさかさまになっても大丈夫。バラ科のトゲもなんのその。探してみると、高い木の上にもいたりします。

シンプルなようで奥が深い「はう」という移動様式。もしも人間がかたつむりのように縦横無尽に動くことができたなら、環境もずいぶん違うでしょうね。壁も歩けるし、天井も歩けるから、狭い土地でも広く活用できます。

鳥になって空を自由に飛びたいという人がよくいますが、意外とオススメなのは、かたつむりになることかもしれません。空中では翼が休まりませんが、かたつむりは壁や天井にくっついたまま、殻にこもって眠ることもできるんですから…。

 

【参考文献】岩本真裕子(2016)腹足類の這行運動に見る運動メカニズムと制御 応用数理 Vol.26(2) 14-21.

かたつむり的世界観 第4回以降について

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こちらで公開していた「かたつむり的世界観」の以下のページは、作者の野島さんの「note」で公開することとなりました!お読みになりたい方は、是非覗いてみてください。
 ⇒https://note.com/maimaikeikaku/m/mddb64fe1ce21

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第16回 はう(前編) ・・・ 以降随時
第15回 赤ちゃんはかわいい
第14回 ぬるぬるねばねば
第13回 ツノ
第12回 時間感覚
第11回 フンのはなし
第10回 少しずつ違って 少しずつ同じ
第 9 回 いろいろな世界
第 8 回 不気味な寄生虫
第 7 回 ぐるぐる成長する殻と心
第 6 回 かたつむりとの相性診断
第 5 回 コアオハナムグリのもぞもぞ感
第 4 回 カタツムリと掃除機


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かたつむり的世界観 第3回「なめくじの不思議」(2018.8)


「かたつむりとなめくじって、どう違うの?」

人からよく聞かれる質問の1つです。
簡単に答えるとすれば、かたつむりもなめくじも同じ仲間で、単に
殻をもっているかいないかの違いです。
ただ、詳しく説明するとなると、事情は複雑です。

そもそも「かたつむり」自体、生物学的な定義のある言葉ではありません。
軟体動物(貝のなかま)のうち、陸上に棲むものを「かたつむり」と
呼ぶことが多いのですが、それだけだとあまりに広すぎると「柄眼目」という
一定の分類群だけを「かたつむり」と呼ぶという人もいます。

ただし、これらの定義にも問題があります。
これらの定義だと、「なめくじ」も「かたつむり」に含まれてしまうのです。
一般的に「なめくじ」は「かたつむり」に含まれませんが、生物の系統としては
「なめくじ」は「かたつむり」の仲間の一部であり、さらに「かたつむり」の
仲間のたくさんの枝分かれのうち、いくつかバラバラに「なめくじ」の仲間が
いるのです。

「うーん、ややこしい! よくわからん!」
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まぁ、そうですよね。
つまりは、かたつむりの長い進化の歴史の中で、一度だけでなく、
何度か貝殻をなくす方向への変化が起きているということ。

このように貝殻をなくすという進化は、実は貝類としては珍しいことでは
ありません。専門的には「ナメクジ化」と呼ぶ、しばしば起こる現象です。
例えば、イカやタコはオウム貝の仲間がナメクジ化した生物。同様に、
アメフラシやウミウシ、クリオネも巻き貝の仲間がナメクジ化した生物です。

「ナメクジ化」にはいくつかのメリットがあります。
貝殻が不要なので、カルシウムの摂取量が少なく済み、さらに身体が
軽くなります。つまり、省エネ、低コスト。大きな殻は移動の障害にも
なりがちですが、ナメクジ化すると狭い隙間にも入り込めるようになります。

かたつむりにとっては大事な殻も、思い切ってなくしてしまうことで
大きなメリットがあるなんて、生き物って不思議です。

もしかしたら人も、ナメクジ化すると何かメリットがあるのかもしれません。
ん? 人にとっての「殻」って、いったいなんでしょう。
家? お金? 肩書き? それとも…?

かたつむり的世界観 第2回(2018.7)

かたつむり大好きな私ですが、
私の学生時代の研究対象はかたつむりではなく、コウモリでした。
コウモリもまた、私の世界観を変えた生きものです。

コウモリは言わずと知れた夜行性の動物。
奥深い森林にも大都会にも、それぞれの環境に適応した種類が生息しています。

私が6歳頃まで住んでいたのは東京の住宅地。
夕方になると、どこからともなく現れて空を舞う、アブラコウモリというコウモリがいました。
主食である虫と間違えて近づいてくるので、小さな石を空に投げて遊んだことを覚えています。

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コウモリの魅力は、ヒトとは対照的な生活スタイルにあります。

▼昼間に寝て、夜に活動する
コウモリはヒトに気づかれにくい生きものです。
夕方から飛び始めるので薄暗い時間帯なら目に見えるのですが、
生きものに興味が無いと「ただの鳥」と思ってしまうかもしれません。

▼地上を歩かず、空を飛ぶ
ヒトは地上を歩く生きもの。
両眼を使って立体視のできる生きものではありますが、移動はあくまで平面的。
コウモリは翼を使って空を飛べるため、空間的な移動が可能です。
一方、地上を歩くのがとても苦手です。

▼目よりも耳で「見る」
ヒトは視覚に頼った生きもの。
一方コウモリは、視覚はあまり使っていません。
鼻と口からヒトの耳には聞こえない超音波を発して、反響した超音波を耳で知覚して、
周囲の環境を知覚するのです。

▼休むときはさかさま
コウモリは空を飛ぶため、体重が軽くなるように進化しています。
骨は細く、ヒザの関節はヒトとは逆向きになっていて、立ち上がることはできません。
あしの爪が発達しているので、壁などに爪を引っ掛けて、ぶら下がって休むのです。

▼でも、ヒトにけっこう近い
ヒトとは対照的な生活スタイルの一方で、近い部分もたくさんあります。
何より、ヒトと同じ哺乳類であることが大きいです。
鳥類とは異なり、赤ちゃんを産んで、母乳で育てます。
翼は羽根ではなく、よく見るとヒトと同じ5本指であることがわかります。

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さらに、アブラコウモリという市街地に適応したコウモリは、
人工建造物をねぐらとして利用します。
ヒトの暮らしと密接に関わっている生きものなのです。

<見えづらい夜空に、超音波を交わしながら暮らしている生命が、私たちのすぐそばにいる>
それがわかると、自分の見知っている世界が、世界のほんの一部に過ぎないんだと実感します。
同じ世界を共有する生きものは、きっとまだまだたくさんいるということも感じます。

かたつむり的世界観 第1回(2018.6)


私は物心ついた頃には、かたつむりが大好きで、今でも「かたつむり見習い」を名乗るほど。
「どうしてかたつむりが好きなの?」と聞かれることがよくあります。

以前は「それはこうこうこういうわけで」と理由を説明していたのですが、説明したあとでやっぱり違ったかも…と後悔するばかり。
最近ではもう「理由はわからないんです」と、素直に答えるようにしています。

どうして好きなのかはともかく、かたつむりが魅力的なおもしろい生物であることは確かです。

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何より、かたつむりのことを知ると、世界が違って見えてきます。

かたつむりは目の良い生きものではありません。
皮膚感覚で環境情報の多くを知覚し、大きなツノ2本と、小さなツノ2本で触れて、光を感じて、匂いや味を感じます。
時間感覚も、人よりずっとゆっくり。
オスとメスの区別はなく、雌雄同体の生きもの。

人とはあまりに違う生きもの。
彼らはどんなふうにこの世界を見て、感じているのでしょうか。

かたつむりを見ていると、ついついそんなことを考え始めてしまいます。


かたつむりは日本におよそ800種というほど、たくさんの種類がいます。
ご存知の通り、ゆっくりと這って歩むことしかできないため、ちょっとした小川も越えることができません。
そのため、集団が分断されやすく、多様な種類に分かれやすいと考えられています。

小川も越えられないくらいなので、人の暮らしに影響を受けやすいことも確かです。
たとえば、道路。
横断歩道で信号が青になるのを確認して進むなんてことはもちろんできないですし、車の往来に気づいて引き返すことさえもできません。
もっとも、信号が青になるのがわかったとしても、赤になる前に渡りきれるとは思えませんが……。


自分の知っているつもりの世界に、自分とは違う見方があるということを、私たちはしばしば忘れがちです。
でも、かたつむりの見え方を想像すると、世界の見え方が1つではないと思い出します。

好きな生きものがいると、世界が豊かになるように思います。