野島智司さんのコラム、はじまりました

糸島市で「マイマイ計画」を主宰する「のじー」こと、野島智司さんのコラムがはじまりました。
かたつむりやコウモリに詳しくて、小さないのちへのあたたかいまなざしを持つ野島さん。一緒に身近な自然を大切にする気持ちを届けていけたらと思います。(2018年6月GCF事務局)

野島さんの著書:
『ヒトの見ている世界 蝶の見ている世界』青春出版社
『カタツムリの謎:日本になんと800種! コンクリートをかじって栄養補給!?』誠文堂新光社
『マイマイ計画ブック かたつむり生活入門』ele-king books(Pヴァイン)

このコラム、「かたつむり的世界観」とタイトルを付けています。

今更ですが、かたつむり的世界観って何なのでしょうか。

ここで、あらためて考えておきます。

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私たちはついつい、自分の物の見方を当たり前のものと感じてしまいます。

そして、自分の見えている世界が唯一で絶対のものだと思ってしまいがちです。

 

でも、本当はそうではありませんよね。

私の目の前に見えている世界だって、それが唯一絶対のものとは限りません。気分の穏やかなときと、悲しいときと、焦っているときとでは、見える物も見え方も全然違います。

自分自身の状態によって、簡単に世界は変わります。

 

同じ人間同士でも、思いのほか世界は違います。

たとえば私の見ている赤という色は、あなたの見ている赤という色とは違っているかもしれません。

違っていたとしても、どちらが正しいというわけでも、どちらが優れているというわけでもありません。

 

まして、かたつむりの見ている世界と、私の見ている世界はまったく違いますし、どちらが正しいとか、どちらが優れているということはありません。

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人によって多様な見え方があるし、生きものによってさらに多様な世界の見え方がある。

(「見え方」と言っても、かたつむりの場合は触覚と嗅覚が中心の「見え方」なわけですが。)

 

かたつむりという、私の憧れの生きもの。

その憧れの生きものからどんなふうに世界が見えているのだろうと想像すると、不思議なことに私自身の世界が広がります。

それが、人の想像力のおもしろいところです。

 

私はあくまでヒトという生きものですが、かたつむりという生きものを通して、私も豊かに想像力を膨らませ、世界を広げたいものです。

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・・・さて、唐突ですが、今回でこのコラムはこれで最終回となります。

まだまだ書きたいなぁと思っていたことはあるのですが、実はこのコラムを土台に書籍を出版することが決まっていて、現在そのためのリライトと書き下ろしなどの作業を進めています。

今後は書籍の方に注力することにいたしますので、それまで、しばしお待ちください。


とは言え、来月からは子育てとリモートワークをテーマに、新コラムをスタートする予定です。

こちらもお楽しみに!

SNSが普及し、ネットでいろいろな情報が広まるようになりました。
ネットで広まりやすい情報の代表的なものが、「(一般に信じられている)〇〇は実は誤り」という情報。
なにせ、疑ったこともないような常識的なことを「実は誤り」だともっともらしく指摘されると、人は誰でも不安になりますし、ついついシェアやリツイートをしたくなりがちです。

 

しかし、そんなふうに出回った「実は誤り」という情報が誤りだったとしたら、訂正するのはなかなか厄介です。

まず、「『〇〇は誤り』というのは誤り」だというのは、それだけでもややこしいですし、わかりにくいですよね。そこに根拠を示そうとすると、さらに難解になります。
さらに、結局は常識的な結論なので、わざわざシェアやリツイートするほど、心を揺さぶられる人もいません。

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そんな誤情報の例が、かたつむりに関してもいくつかあります。

毎年梅雨時になるとネット上で散見されるのが、「かたつむりはアジサイが好きというのは嘘」という情報です。


たとえば、Googleなどで「アジサイ カタツムリ 毒」と検索してみましょう。「カタツムリがアジサイを好きというのは単なるイメージ。アジサイには毒があるので自然界でカタツムリが乗ることはない」なんていう情報がすぐに見つかります。


情報がもっともらしく聞こえる理由の1つが、アジサイには毒があるという事実。
確かに、アジサイは人間にとって有毒なので、初めて聞く人の心を揺さぶるには十分です。
飲食店で装飾用にアジサイの葉が出され、誤って食べてしまった客が嘔吐、めまい、吐き気などの症状を呈したという事例もあります。

 

しかし、脊椎動物のヒトにとって毒があるのは確かですが、軟体動物であるかたつむりにとってアジサイが有毒かどうかはわかりません。
そもそもかたつむりがアジサイのそばにいたとしても、食べるためにいるのかどうかは定かではありません。

 

私は実際、アジサイの植えられた場所にかたつむりがよく来ていることを知っていますが、そんな「実感」というのは、誤情報を訂正する根拠としては弱いものです。
なんだか、もやもやしますね。

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桜井・森(2016)は、そんなもやもやが嫌だったというわけではないかもしれませんが、かたつむりのアジサイへの選択的な利用が見られるかどうかの検証を行っています。

週2回、合計105回の野外観察を実施し、さらに57回の室内実験を行いました。情報を検証するというのは、大変ですね…。その結果、ミスジマイマイというカタツムリは一貫してアジサイを好み、アジサイのないところではサクラを好んでいたとのこと。一方、ウスカワマイマイというカタツムリは、特にアジサイを好むわけではなかったそうです。

 

ミスジマイマイは関東では代表的なカタツムリ。同じマイマイ属では、福岡ではツクシマイマイが知られています。

そんなミスジマイマイについては、確かにアジサイのあるところを好むというのです。ただし、すべてのかたつむりに当てはまるわけではないようです。

 

また、室内実験により、ミスジマイマイもアジサイの葉を好むわけではないことを明らかにしています。
つまり、ミスジマイマイは、アジサイの葉というより、アジサイのある場所が好きだったということ。

筆者らは、アジサイが有毒であるがゆえに植物食の動物と競合しないことや、捕食者に見つかりにくいことなどを、ミスジマイマイがアジサイのある場所を好む理由として考えているようです。

 

そもそもかたつむりは樹木の表面に生えた藻類をよく食べます。

木本であるアジサイの表面にもそうした藻類は生えているでしょうから、もしかすると目当ての1つなのかもしれません。

今後アジサイのところにかたつむりがいたら、何を食べているのかよーく観察する必要がありそうです。

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さて、桜井・森(2016)の検証によって「ミスジマイマイはアジサイのある場所が好き」ということがわかりました。
そこは常識的な結論に落ち着いたわけですが、一方で何が目的なのかなど、謎は増すばかりです。

 

たとえば、ツクシマイマイについてはどうなのでしょう。

実感としては、福岡でアジサイのあるところにいるのはたいていツクシマイマイです。
また、つい先日、ユズリハという有毒の木にたくさんのツクシマイマイがいる様子も観察しました。
たまたまなのでしょうか? それとも、あえてユズリハを選んでいるのでしょうか?

 

興味を深めるのは楽しいことなので、これからも注意深く、観察していきたいです。

【参考】桜井雄太・森隆久,2016 梅雨の風物詩「カタツムリがアジサイに付いている」は本当か? 陸産貝類による植物選択頻度と植物被度との比較. 帝京科学大学紀要, 12, 11-15.

以前も書いたような気がしますが、数年前、家の近くのナメクジを観察していて驚いたことがあります。

ナメクジが生きたアブラムシを丸のみしていたのです。

そのとき撮影した動画はこちら。苦手な人は閲覧注意です。



カラスノエンドウについているアブラムシを、まるごと飲み込んでいる様子がわかるでしょうか。

飲み込んだアブラムシが頭部から透けて見えています。アブラムシの踊り食い状態…。

調べてみると、Fox&Landis(1973)もナメクジが生きたままアブラムシを食べていたという報告をしています。植物の汁を吸ったアブラムシは、ナメクジにとっては絶好の獲物なのかもしれません。

 

ちなみに、このナメクジはチャコウラナメクジというナメクジ。市街地でもっともよく見かけるナメクジです。

ヨーロッパ原産の外来種ですが、本州以南の日本各地、さらには汎世界的に分布しています。

日本では最初は1950年代後半に米軍の物資に紛れて侵入し、それが広がったと考えられています。
 

これだけ市街地に多く生息しているのは、比較的乾燥に強いことに加え、食性が広いというのがあるのでしょう。

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チャコウラナメクジは、市街地にいる代表的なナメクジであるがゆえ、嫌われ者でもあります。

ですが、赤ちゃんはとってもかわいいんです。(詳しくは、第15回「赤ちゃんはかわいい」


そこで、私が特にチャコウラナメクジを好きになってしまった瞬間をご紹介します。

チャコウラナメクジが卵から孵化する映像です。

3分ほどありますが、2:00から2:30あたりが見どころです。※BGMあり

実はこれ、孵化するのではなく「やっぱりやめた」と言わんばかりに、孵化の途中で卵に戻ってしまう瞬間なんです。撮影しながらキュンとしました。

ナメクジが「殻に戻る」だなんて、やっぱり彼らもかたつむりの仲間なんだなぁ。

 

動画集と言いつつ2つだけでしたが、どちらも私にとっては衝撃映像なのでした。

 

【参考】

Fox, L. and Landis, B.J.(1973) Notes on the predacious habits of the gray field slug, Deroceras Laeve.
Environmental Entomology 2, 306-307.

「チャコウラナメクジ / 国立環境研究所 侵入生物DB」(2021年5月18日閲覧)https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/70390.html

よく聞かれる質問の1つに「どうしてかたつむりを好きになったんですか?」というものがあります。

これは、物心がついた頃、すでにかたつむりを好きになっていた私には答えられない質問です。ただ好きなだけなのです。


とはいえ、記憶に残っていないだけで、好きになるきっかけは何かあったのかもしれません。
先日、手がかりを1つ発掘しました。この作文です。

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     かたつむり

        のじま さとし

かたつむりとあそんでいたらめ
をさわってしまいました。そうした
らめをひっこめました。おにいちゃ
んといきました。ゆうすいちの
ちかくのすいどうのところにいま
した。ちっちゃいかたつむりでした。
1ぴきでした


東京の小学校に入学して間もない頃に書いたと思しきこの作文、あいにくもう私の記憶にはありません。

「かたつむりとあそんでいた」という表現が最初に出てくるところが、我ながら興味深いところです。「かたつむりであそんでいた」とか「かたつむりをつかまえた」ではないのです。

 

私にとってかたつむりは、遊び友達だったのでしょう。

「めをさわった」ではなく「めをさわってしまった」と書いていることからも、当時から敬意を持っていたことが伝わります。

 

身近な場所に居て、直接触れることができて、リアクションがあるということが、重要だったのかもしれません。
そんな体験があったからこそ、かたつむりを遊び仲間として意識できたのでしょう。

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(これも発掘したねんど作品)

 

生きものを遊び仲間として感じられるような環境や機会づくりを、これからも大切にしていきたいものです。
子どもの頃の作文を発掘して、あらためて思い直しました。

 

ところで、私、野島はこれまでグリーンシティ福岡の外部のサポートスタッフでしたが、4月から正式なスタッフとなりました。
あらためまして、よろしくお願いいたします。

先日、糸島市内の住宅地から、可也山の登山口に近い、山寄りの古民家へ引っ越しをしました。さっそく、新居の周りでちょこっとマイマイ探しをしてみました。

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見つかったのは、計6種類。
さすがは田舎の古民家。市街地より簡単に多くの種類が見つかります。まだナメクジ類や微小マイマイを発見していないので、いずれもっと見つかることでしょう。
ツクシマイマイ、トクサオカチョウジガイ、ナミギセルなど、市街地でも見つかるマイマイもいれば、フリイデルマイマイ、ダコスタマイマイと思しき種もいました。最後が、ウスイロオカチグサ。水辺の近くにいるマイマイで、ここでも枯れた池の底にたまった落ち葉の下にいました。ウスイロオカチグサはもともと南西諸島が生息地とされていて、それ以外の各地でも見つかっていますが、移入なのか在来なのか議論があります。

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まだナメクジ類や微小かたつむりは見つかっていませんが、きっともっと探せば、ほかにも多くのマイマイが生息していることでしょう。これから暖かくなって、さらにいろいろな生きものが出てくるのが楽しみです。


かたつむりの仲間は、どんなところにも何かしら生息しているものです。
市街地にいる種類は少ないですが、いないとは限りません。
いろんな地域で自宅周辺のちょこっとマイマイ探しをしたら、きっとおもしろい分布地図が作れそうです。
どんなかたつむりがいるかを知るだけで、いつも暮らしている環境が、ちょっと違って見えるかもしれません。

アオキやイヌビワなどの、低木の大きな葉をめくると、小さなかたつむりが見つかることがあります。よくいるのが、マルシタラガイという4ミリほどのかたつむり。

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マルシタラガイ

軟体の頭のところが赤っぽいのが、かわいいポイントです。葉っぱの裏によくいて、見つけると顔が赤いので、シャイなマイマイだと勝手にキャラ設定しております。

さて、こうした殻が数ミリの小さな貝類のことを「微小貝」、あるいはかたつむりに限定して「微小陸貝」と言うことがあります。微小貝はよく赤ちゃんかたつむりだと誤解されます。

実際、同じように小さなかたつむりでも、大きな種類の赤ちゃんかたつむりという場合があります。

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赤ちゃんかたつむり

ただ、赤ちゃんかたつむりの場合は、殻のうずまきが2巻き半くらいしかありません。うずまきを見れば、小さい種類なのか、大きい種類の赤ちゃんなのかを区別できるというわけです。

一方、微小貝だとわかっていても、種を判別するのは簡単ではありません。何せ小さいので、じっくり観察して特徴をつかむのが難しいですし、特徴をつかんでも、微小貝を網羅した図鑑がありません。

そんなわけで、私も見つけたはいいけれど、なんだかわからないままの微小かたつむりがいくつかいます。うむむ…。

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なんだかわからん

こうした微小貝、意外と身近な場所にもいるんです。市街地の庭先でも、プランターや植木鉢の下に、ヒメコハクガイなどの2ミリくらいの微小貝がいることがあります。


目をこらしてみると、あなたのすぐそばにも、微小貝が隠れているかもしれません。

4歳の息子は生きものが大好きです。
あいにく、かたつむりにはあまり興味がないようで、興味を示すのはもっぱらスズメバチ、カブトムシ、クワガタムシ、ハヤブサ、チーター…。さらにはティラノサウルス、モササウルス、タルボサウルス、サーベルタイガーなど。最近はドラゴンのような想像上の生きものにも興味を持つようになりましたが、どれも強くて大きい、かっこいいものばかりです。


そんな息子が魅力を感じる生きものの1つに、マイマイカブリがいます。言わずと知れた、かたつむりの代表的な天敵です。

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※お尻から毒液を噴射するので注意

マイマイカブリはオサムシという地上を徘徊する甲虫のなかま。羽は退化していて、空を飛ぶことができません。多くのオサムシは昆虫やミミズを主食としますが、マイマイカブリの主食はかたつむりです。子ども時代の私にとって彼らはかたつむりを食べる憎き昆虫でしたが、金属光沢のある特徴的な造形は、色彩や形に多様な地域変異があって、ファンが多いとか。


そんなマイマイカブリは、大きく「巨頭型」と「狭頭型」という、2つのタイプに分けられます。巨頭型は頭部と胸部が横に肥大したタイプ。狭頭型は頭部と胸部が縦に伸張したタイプです。この2タイプは、かたつむりに対する攻撃戦術の違いがもたらしたと考えられています。巨頭型はアゴの力が強く、かたつむりの殻を壊すことが得意な一方、殻の開口部に頭を突っ込んで食べることは苦手。一方、狭頭型は、かたつむりの殻の開口部に頭を突っ込んで食べることが得意な一方、殻を壊すことは不得意です。


うまく殻も壊せて頭も突っ込めるようにできないものかと思いますが、Konuma(2013)の実験によれば、中間的なタイプは殻も壊すのも苦手で頭を突っ込むのも苦手な、かたつむりを食べるのに向かないマイマイカブリになってしまうんだそう。二兎を追う者は一兎をも得ず、なのですね。

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マイマイカブリは昆虫好きの間では人気のある甲虫の1つ。ずっと嫌いでしたが、いざ調べてみると、なかなかおもしろい特徴があって、生きものとして興味がわいてきます。


とは言え、「マイマイカブリを飼ってみたい」という息子。もしほんとうに飼うことになったら、いったい何をエサにするつもりなのでしょうか……。


【参考】https://www.lab2.toho-u.ac.jp/sci/bio/geoeco_lab/

Konuma et al. 2013 A maladaptive intermediate form: a strong trade-off revealed by hybrids between two forms of a snail-feeding beetle. Ecology 94: 2638-2644. 

大学院生のころ、私は夜の森でコウモリの捕獲調査をしていました。特別な許可をとってコウモリの飛行ルートに網を張り、かかったコウモリを捕獲。種の同定、性判別、齢推定、各種計測をして、腕に標識をつけて、また放すというものです。


捕獲調査を重ねるうちに、不思議な感覚が身に付きました。
網にかかった瞬間、姿を見ずに種が推定できてしまう特殊能力です。
コウモリが網にかかっただけで「あ、ヤマコウモリきた」「お、コテングコウモリっぽいな」などと、わかってしまうのです。


要素としては、網の揺れ方、鳴き声、臭い、などのヒントがあり、それらを総合してピンとくるというわけです。
正確な種の同定には、前腕の長さ、耳や鼻の形など、細かいポイントで判断することが必要なわけですが、姿を見なくても想像がついてしまうというのは、なんとも不思議な感覚でした。もっと続けていれば、幼獣かどうかとか、性別までわかるようにまで……は、さすがにならないかなぁ。
ほかに何の役にも立たない感覚ではありますが……。

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こうした感覚って、論文に載ることはないけれど、野外で生物調査をしている人にはしばしば生まれる専門性だと思います。かたつむりにしても「あれ? この種がこんなところにいる?」とか、「○○マイマイにしては、質感が違う気がする」という曖昧な感覚も、そうした感覚的な専門性の一種でしょう。ちょっとした感覚的な違和感に、新しい発見が潜んでいるというのも事実です。科学的事実の背景には、たいていそうしたふわっとした感覚があるものです。


こうした感覚的な専門性は、アート的感覚と言い換えても良いと思います。
そもそも"art"には、経験を通じて自分のものとした「わざ」という意味があります。その意味では、アート的感覚が培われるのは生物系の専門家に限ったことでもないでしょう。ほかの分野の学問、さらには子育て、音楽、家事、スポーツ、あらゆる職業、あるいは遊びや、日常生活にだって、それぞれのアート的感覚があります。


こうして広げて考えていくと、世の中の誰もがみんな、何らかのアーティストと言えそうです。
自分では当たり前の感覚と思っていることを、ほかの人から驚かれたことはありませんか。
それってきっと、アート的感覚です。

人それぞれ、嫌いな食べ物ってありますよね。ピーマンが苦手とか、シュンギクがダメとか、キノコ類は全部ダメとか…。 かたつむりは移動能力が低いことから、あまり食べ物の選り好みはしないとされています。草木やコケなどの植物はもちろん、地衣類、きのこなどの真菌、昆虫やミミズなどの死骸、それから土壌も食べることがあります。 手あたり次第なんでも食べると言えますが、それでも大なり小なり好き嫌いがあります。

まずは、かたつむりがどんなプロセスで食べ物を見つけ、食べているのか、考えてみましょう。

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1.食べ物さがし

とりあえず、かたつむりは歩き回ります。何を意図して動いているのか、私にはよくわかりません。どこからか漂ってくる何らかの魅力ある匂いを感じれば、匂いの源となる食べ物へと向かいます。
ガードレールなどに残っているかたつむりの食べあとを観察する限り、ふと気まぐれに空腹を感じて、足元が食べられるかどうか調べてみる、という状況もありそうです。

 

2.とりあえず食べてみる

食べられそうな物を見つけたら、まずはツノ(小触角)で、それから唇で、感触や味を確認します。それが食べ物として魅力的であれば、さっそく食べ始めます。 ある程度満腹になれば食べるのをやめますし、あるいは何らかの不快感があると、途中で食べるのを止めます。


3.嗜好が変化する

食べたものが栄養豊富でおいしければ、その匂いや味を覚えて好きになります。
一方、苦みなど刺激があれば、その匂いや味を覚えて嫌いになります。
また、食べた後で毒性を感じて嫌いになることもあるようです。たとえば、植物の防御物質であるシアン化合物が含まれていると、食べません。たとえば、アジサイは代表的な毒性のある食べ物です。(でも、隠れ場所として都合が良いのか何なのか、アジサイ周辺にかたつむりがいることはよくあります)
こうして食べ物の嗜好性は、経験によって変化していくのです。

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飼育しているかたつむりは、紙をよく食べます。紙の主成分はセルロース。セルロースは糖類で、人間とっては消化できないただの繊維ですが、かたつむりは消化できるので、紙も重要な栄養源です。紙には炭酸カルシウムも添加されているので、殻の栄養もあります。
また、市街地にすむチャコウラナメクジというなめくじは、雑食と言えるほど何でも食べてしまいます。生きもののフンや死がいを食べることもありますし、カラスノエンドウについている生きたアブラムシを丸のみしているのを見たこともあります。

とは言え、紙やアブラムシが食べられるものだと、彼らはいったいどうして気づいたのでしょう。 それも、たまたまちょっとかじってみて、おいしいと学習したということなのでしょうか。
なんという、行き当たりばったり…。

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まぁ、人間も似たようなものです。

私に特別嫌いな食べ物はありませんが、それはたまたま「出合っていないだけ」とも思っています。別の文化圏に入れば、たちまち嫌いな食べ物ができるかもしれません。
今は好きな食べ物でも、何らかの嫌な出来事と結びつくと、途端に嫌いになる可能性もあります。たまたま一度食中毒に当たってしまって、もう食べられないという話はありますよね。
この場合は、「嫌い」というよりむしろ「怖い」ですね。まんじゅうを食べてお腹を壊したら、「まんじゅう怖い」と本気で思うことでしょう。

そう考えると、反対に好きな食べ物があるって素敵なことですね。 その食べ物の味がおいしいのはもちろん、匂いや見た目、食べたときの状況なども含めて、それが好きだと思えたのですから。


【参考】B. Speiser (2001) "6 Food and Feeding Behaviour" ("The Biology of Terrestrial Molluscs" ed. G.M.Barker) 259-288.

シースルーと言えば、透ける素材を使った人間界のファッション。かたつむりの世界でも、そんなシースルーはとっても重要です。

 

かたつむりの殻は海の貝類に比べるとだいぶ地味ですが、よく見るとおもしろい模様をしたものがいます。

なかでも私が好きなのは、コベソマイマイの独特の模様です。

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こちらは成長途中のまだ若いコベソマイマイ。よーく見ると、黒い斑点状の模様が万華鏡のようできれいだと思いませんか。

じつは、この模様は殻の模様ではなく、殻の中に入ったからだ(軟体部)の模様が透けて見えているんです。つまり、シースルー。

 

その証拠に、死んでしまって軟体部がなくなると、殻はこんな感じです。

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全然違いますよね。ちょっと薄く黒っぽく見えるのは、内部の汚れです…。

初めて死んだ殻を見たときには、コベソマイマイとはわからなかったくらいです。

 

かたつむりのような陸の貝は、海の貝に比べて薄くて軽く、しばしばシースルーになっています。

陸の貝は水中のような浮力がなく、殻が分厚いと重たくて、移動するのがたいへんです。そのため、殻が薄くなり、シースルーが多くなったと考えられます。

 

模様のみならず、軟体部の色がシースルーになっているかたつむりもいます。

コハクオナジマイマイは、体内に蓄積したビタミンB2によって、中心部が蛍光のレモン色に見えるという特徴があります。

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紫外線から身を守るためにビタミンB2を蓄積しているのではないかと考えられています。

 

こうしたシースルー殻の良さは、生きたかたつむりでないと楽しめません。

生きものはやっぱり、生きている姿がいいなぁ。

4歳の息子は古代生物が大好きです。なかでも好きなのは、恐竜に代表される中生代の恐竜や翼竜、海竜たち。
ティラノサウルスをはじめ、トリケラトプスにイグアノドン、プテラノドンにモササウルス。そんな古代生物たちが生きていた時代、かたつむりはどんな暮らしをしていたのでしょうか。

 

近年、ミャンマー北部で産出される琥珀の中から多くの生物化石が発見されています。そのうちの1つが、かたつむり。2019年には約1億年前のかたつむりの化石が発見されました。1億年前というと、中生代の白亜紀。まさにティラノサウルスやトリケラトプスと、同時代です。 
かたつむりと言ってもツノが4本のタイプではなく、現代のヤマタニシのようにツノが2本で、ツノの付け根に目があるタイプのかたつむりだったようです。直径約6.6ミリで、殻の表面は毛で覆われていたというので、写真のツシマケマイマイ(現生種)を小さくして、毛をもっと細かくしたような感じでしょうか。

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ツシマケマイマイ

殻に毛が生えたかたつむりは現代にも多くいますが、毛のある理由ははっきりしません。白亜紀にもそんなかたつむりがいたというのは、殻に毛が生える理由を考える上でヒントになりそうです。水分を集める助けになるとか、高いところから落ちたときのクッションになるなど、いろんな仮説が考えられています。 白亜紀は花をつける被子植物が誕生した時代に当たり、かたつむりもやわらかい葉をもつ被子植物を好んで食べていたのかもしれません。大きな恐竜たちが闊歩する世界の片隅で、かたつむりたちが静かに勢力を広げていたと考えると、なんだかわくわくします。

 

現在でも世界で3万5千種もの多様な種類が発見されているかたつむり。当時だって相当多くの種類がいたと考えられます。そのころのかたつむりは、どんな種類がいて、どんな生活をしていたのでしょうか。 
小型の恐竜に食べられたものもいたかもしれません。いや、恐竜のような大型の生物よりは、当時の大きな昆虫に食べられることの方が多そうですね。そして、恐竜が絶滅するのが6600万年前ごろですから、そのときの隕石衝突による環境変化が、かたつむりにどう影響したのかも気になります。もしかしたらヤマタニシタイプのかたつむりが今よりもずっと多様だったのに、ほとんどが絶滅してしまった…ということもあるかもしれません。 さらには、殻のないナメクジに至っては化石に残りそうもありません。もしかしたら、恐竜並みの巨大なナメクジがいた…なんてことは、さすがにないでしょうか。

想像はいくらでも広がりそうです。 
化石って、詩のようなおもしろさがあります。言葉というものは物事の意味を限定し、空想の余地をなくしてしまいそうなものなのに、詩の言葉は、自由な想像を大きく広げる手がかりになります。 同じように、化石という確かな証拠から、自由に想像を広げてみるのも良いものです。


参考URLhttps://www.afpbb.com/articles/-/3249446

人からつつかれて、つい自分の考えを引っ込めてしまうことってありませんか。私には、よくそんなことがあります。あぁ、もっと主張しても良かったのかなぁと後で悩むことになるのですが。うーん…。
それはそうと、かたつむりのツノ(触角)も、つつくとすぐに引っ込みます。
ツノが引っ込むのは、陸上の貝類のなかでも柄眼目(マイマイ目)という仲間に属するかたつむりに限られます。
たとえば、ヤマタニシなどの基眼目という仲間のツノは、ツノだけを引っ込めることはできません。引っ込むときには、ツノは出したまま、軟体部全体を殻の中に引っ込めていきます。
ツノ自体が引っ込められるというのは、じつは特殊な能力なのかもしれません。

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では、どんなメカニズムでツノが出たり引っ込んだりするのでしょうか。
出てくるときと引っ込むときで、メカニズムは違います。おもちゃの「ピロピロ笛」(吹き戻し)の仕組みに、ちょっと似たところがあります。 下の適当な図を見ながら、イメージしてみてください。「ピロピロ笛」を伸ばすのは空気の力ですが、ツノを出すときには体液を使います。「ピロピロ笛」に息を吹き込むように、ツノの内部に体液を流し込んで、ツノ全体を押し出していくのです。「ピロピロ笛」を縮めるのはバネの力ですが、ツノを引っ込めるときは、ツノの内側にある筋肉を使います。ツノの先端を内側から引っ張って裏返すようなイメージで、ツノ全体を引っ込めるようです。 


 ツノが素早く引っ込むというのは、狭いところに入ったり、高いところに登ったり、縦横無尽に移動するには有利です。 目があまり良くないかたつむりは、ツノという感覚器官で触れながら周囲の環境を知覚します。そのとき、ツノのような突出した部分というのは、どこかにひっかかったり、外敵に突かれたりして、傷つきやすいものです。たとえば、ノラネコの耳を見ると、傷だらけになっていることが多いですよね。ネコの耳も、突出した部位と言えます。 まして、ツノは身体の部位でもっともパイオニア精神の強いところです。なんでもツノで触れて確かめるのですから、リスクがあっても未知のものに積極的に触れることが、ツノの使命と言えるです。
だから、何かに積極的に触れつつも、すぐに引っ込むことで、傷つく危険をできるだけ回避するのです。
ちなみに、ツノは切れても再生しますが、時間がかかります。しかも、片方だけ切れると、左右の感覚がおかしくなって、しばらくくるくる回ってしまったりするそうです。

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かたつむりも種によって、あるいは個体の状態によって、触れたときの引っ込み具合が異なります。ちょっと触れただけで身体全部引っ込めてしまうかたつむりもいれば、ツノの先だけちょっと引っ込んで、すぐにまた元に戻るかたつむりもいます。全部引っ込んだあと、なかなか出てこないかたつむりもいますね。

つつかれたらすぐに自分の考えを引っ込めてしまいがちな私の性格も、もしかしたら、自分を守るために必要なことなのかもしれません。 とは言え、引っ込めたことを後悔するより、かたつむりのように、柔軟に自分の「ツノ」を伸ばせるようになりたいものです。

かたつむりはナメクジほどではありませんが、しばしば「きもちわるい」と言われてしまう生き物です。先日、小学生向けにかたつむりの話をしたときも、「きもちわるい」を連発する子がいました。そういうときにふと、思い出すことがあります。

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私は2011年から今年はじめまで、アトリエ兼自宅のガレージを平日夕方に開放して、近所の子どもがふらっと立ち寄れるようにしていました。特に自然豊かな環境でもなく、ごくありふれた住宅地で、遊びに来る子も、自然や生き物が好きな子とは限りませんでした。
そうした場で接する子たち(特に小学高学年以上の子)にかたつむりの話をすると、必ずと言っていいほど、「きもちわるい」という言葉が返ってきていました。
ヒナ、シオン、マリカという女の子3人と遊んでいたときも、そうでした。

ヒナ「なんか、かわいい絵を描いて」
私「じゃあ、かたつむりでいい?」
ヒナ、シオン、マリカ「えぇ〜!?」
ヒナ「さとちゃん(筆者)、ぜんぜん女の子の気持ちわかっとらん。女の子はそういうのキモいとー!」
シオン「そうそう。もっとあるでしょ、ねことか、くまとか」
マリカ「うん」
私「そうかなぁ。女の子でもかたつむり好きな子いるよ」
ヒナ「ぜったいいない!」
シオン「女の子がかわいいっていうのは、そういうのじゃない!」
そんなやりとりをしばらく続けていると、マリカが小さな声でつぶやきました。
マリカ「まぁ、私はけっこう好きだけど・・・」

饒舌なヒナとシオンの勢いはその後も止まりませんでしたが、次第にマリカは別の遊びを始めました。

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人が生き物と気軽にふれあえる場を作っている方々のことを、私は尊敬しています。それはただ、生き物に直に触れる体験が特別なものだから、というだけではありません。生き物に触れられる場そのものが、特別な力を持っているからです。
そうした場は、そこに居る人にとって、生き物が好きだと堂々と言える場所です。かたつむりの観察会に集まる人は、「かたつむりが好き」って堂々と言えるのです。男とか女とかどちらでもないとか関係ありません。
好きな生き物を好きと言っている人さえいれば、最初は「きもちわるい」と言っていた子どもさえ、次第に「意外とかわいい」と言い始めたりもします。

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異質な生き物に対する感じ方は人それぞれなので、かたつむりが「きもちわるい」と感じること自体が悪いわけではありません。でも、「かたつむり」=「きもちわるい」でなければならないという「空気」のようなものは、誰がつくってしまうのでしょう。人はどうして、そんな「空気」に合わせようとしてしまうのでしょう。
マリカはその後もよく、一人でガレージに遊びに来ていました。


※登場人物は仮名です。※写真は文中のエピソードとは無関係です。

しばらく会ってなかった、特徴あるツクシマイマイさんと、ひさびさの再会を果たしました。
初めて出会った時に撮影した写真の日付を見ると、2016年5月。つまり4年ぶりの再会です。
すぐ近所の民家のブロック塀で見つけた、特徴的な色合いのツクシマイマイ。
とても美しいお方だったので、非常に印象的でした。
しばらく会えていなかったので、どこかに旅立ったか、最悪ナメクジ駆除剤でも撒かれてしまったかと思っていました。

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再会したツクシマイマイ

初めて会ったころは、まだ殻の開口部の反り返りがなく、成長途中の若いツクシマイマイでした。
今回は少し大きくなって、反り返りができています。
開口部の反り返りは、これ以上成長しないという印です。 4年前はつやつやのきれいな殻でしたが、今は風格が出てきています。
たくさん移動して、たまたま元の場所に戻ってきたのか、4年間ほとんど移動しなかったのかはわかりません。
ツクシマイマイの寿命はよくわかりませんが、もう良い歳ではないかと思います。 また会えるといいなぁ。

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2016年当時の同じツクシマイマイ

かたつむりを見ていると、こうした思い出のマイマイとの再会がときどきあります。
殻に特徴があったり、一時的に飼育したりして、愛着のできたマイマイは自然に「個体識別」ができるので、なつかしい気持ちになったり、成長が嬉しくなったりします。
車道も近いし、民家にはナメクジ駆除剤や殺虫剤、除草剤などが撒かれたりすることもあるのに、よく同じ場所でずっと生きていたなぁと思います。 ツクシマイマイの殻に個性があるということは、同種内にも個体ごとの多様性があるということ。
種の同定をするためには厄介な要素でもありますが、こうした再会があると、多様性っていいものだなぁと実感します。

かたつむりはその定義自体あいまいな生きものですが、なかでも特にあいまいなのが、
ヤマタニシという陸貝です。
「タニシ」と名が付きますが、タニシとは本来、原始紐舌目のタニシ科に属する貝類のこと。
一方、ヤマタニシはタニシ科ではなく、独立したヤマタニシ科に属するので、タニシとは
見なされていないのです。 じゃあ、陸の貝だから、かたつむりなのかというと、そうとも
限りません。一般的なかたつむりが属するのは、貝類の中でも「柄眼目」というグループ。
ヤマタニシは「原始紐舌目」というグループです。
したがって、「かたつむりは、柄眼目の陸貝である」という立場からは、ヤマタニシは
かたつむりとは認めてもらえないのです。

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ヤマタニシは、外見的にも一般的なかたつむりとは趣が異なります。
一般的な柄眼目のかたつむりには、ツノが2対(4本)あり、2本の大きなツノ(大触角)
の先に眼がついています。
一方、ヤマタニシはツノが1対(2本)しかなく、眼はツノの付け根に、ちょこんと
くっついているだけです。 そして、もう1つのヤマタニシの特徴が、フタです。
ヤマタニシには、貝殻にフタがあるのです。ここはタニシといっしょですね。

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かたいフタがぴっちり閉まるので、外敵の侵入を防ぐことができるというわけ。
こんな強力なガードがあるなら、柄眼目のかたつむりも使えばいいのに、と思いませんか。
入り口から侵入するマイマイカブリなどの外敵から身を守るにはもってこいです。
でも、実際にはフタをもつかたつむり(陸貝)は少数派。
いったいどうしてなのでしょう。 ぱっと思い浮かぶのは、フタがないと、くっついて休む
ことができないということがあります。
以前このコラムで、粘液が乾くと、エピフラムという薄膜をつくるということを書きました。
同時に、エピフラムは接着剤の機能も果たします。
葉っぱの裏などで休むときに、ぴったりくっつきながら休めるわけです。
ところが、かたいフタをもってしまうと、下の写真のコベソマイマイのように、ぴったり
くっついて高いところで休むことができないというわけです。
また、フタが体にくっついているために、殻の奥の方までひっこんで、外敵や乾燥から
身を守ることもできなくなります。
結果として、結局は外敵に狙われやすくなってしまいますね。

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私にとって、かたつむりの大きな魅力は、そのあいまいさと多様性にあります。
そう思うと、ヤマタニシも「かたつむり」に含めていいんじゃないかという気がします。
かたつむりか、タニシか、どちらに含むかを決めるのは、私たちヒトの勝手な都合なのですから。 ヤマタニシは「タニシだからタニシらしく生きなきゃ」とか、「かたつむりだからかたつむりらしく
しなきゃ」とか、そんなことはちっとも思っていないんだろうなぁ。

さて、こちらに2種類のかたつむりのイラストがあります。よく見ると、うずまきの描き方が違います。 あなたはAとB、どちらの殻のかたつむりが好みですか?

等角螺旋とアルキメデスの螺.jpg

 実は、これらはそれぞれ異なる数学的規則に基づいたうずまき(螺旋形)を描いています。
 Aはアルキメデスの螺旋呼ばれる形。Bは対数螺旋(等角螺旋、ベルヌーイの螺旋とも言います)と呼ばれます。 Aを極座標の方程式で表すと、次のようになります。

アルキメデスの螺旋.gif

 …っていうか、そもそも極座標とは、なんでしょう。
 まずは、ふつうの座標について説明します。x軸とy軸があって、(x,y)で1点を表すことのできる座標です。直交座標とも言います。 点Pが(1,1)とあれば、xが1で、yが1の点なので、点Pの位置はこんな風に示すことができます。

直交座標.gif

 一方、極座標は、x軸とy軸の代わりに、中心Oからの距離rと、回転角θで、点(r,θ)を表す座標のことです。 点Qが(√2, 45°)とあれば、中心Oから45°の角度で√2だけ進んだ点なので、こんな位置になります。

極座標.gif

 おおざっぱに言えば、ふつうの直交座標が折れ線グラフ、極座標はレーダーチャート、という感じですね。

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 さて、直交座標で、y=axのグラフを書くと、右肩上がりの直線が引けます。  同じように、極座標で、r=aθのグラフを書くと、さっきのアルキメデスのらせんになるのです。 θ=1°のときr=1、θ=2°のときr=2というように、θの値を少しずつ増やして描いていくと、結果的に幅が一定のうずまきを描くことになります。(ちなみに、a>0なら左巻き。a<0なら右巻きになります)
 それが、冒頭のAのかたつむり。マンガ的なかたつむりは、こんな螺旋が多いですね。 もう一度見てみましょう。

等角螺旋とアルキメデスの螺.jpg

 さて、Aのかたつむりに比べ、Bの方がリアリティがありませんか。 そして、なにより、かわいく見えませんか? ←主観
 Bのかたつむりの殻は、極座標の方程式で、次のように表すことができます。

対数螺旋.gif

 こちらは、b<0なら右巻き。b>0なら左巻きになります。(eは自然対数の底を表す定数で、e=2.7182818…という無理数で、特別な性質があるのですが、ここでは省略します。)  実際に、かたつむりを含む巻き貝のなかま、オウムガイやアンモナイトのなかまなどの殻は、すべてこの対数螺旋に当てはまります。 中心からの距離が角度に対して指数関数的に増大していくので、幅がだんだん広がっていくうずまきになります。 幅の広がり方はbの値によって変わります。イラストは大きめにしていますが、もっとアルキメデスの螺旋に似せることもできます。 自然界には、こうした対数螺旋が多く見られます。実は二枚貝も厳密には螺旋形で、このbを大きな値にすると、二枚貝っぽくなります。 そしてさらに、たとえば台風のうずまき、銀河系のうずまきも、対数螺旋を描いています。

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 螺旋が描ける方程式は、ほかにもいくつかあります。 興味がわいた方は調べてみてくださいね。
 数学ってこんな風に、物の形と関連しているのがおもしろいなぁと思います。 かたつむりと銀河系が同じ法則でつながっているなんて、不思議ですよね。
 これに限らず、自然界の物の形がいろいろな規則に当てはまっていることに気づくと、とてもおもしろいです。 一方で、そんな規則からちょっとずつズレているのを見つけるのもまた、自然界の面白さだと私は思います。
 ちなみに、「パスカルの蝸牛形」というのもあるそうです。

パスカルの蝸牛形.gif

 「蝸牛」とはずばり、かたつむりのこと。ただし、残念ながらこれ、うずまきではないのです。 興味のある方は「パスカルの蝸牛形」でググってみると出てきますよー。

かたつむりをさがしに、散歩に出てみませんか?
昨年秋の「ふくおかマイマイさがし」の実施期間は終わってしまいましたが、新型コロナウイルスの影響でイベントごとが中止になり、博物館なども閉まってしまい、家にこもってばかりで退屈な思いをしている方も多いのではないでしょうか。
そんな今こそ、外に散歩に出て、かたつむりを探してみましょう。

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●マイマイさがしの6つのポイント

1.住宅地や市街地にもいる「ふくおかマイマイさがし」でもっとも報告が多かった場所は、住宅地です。「近くでは見かけたことがない」という方も、意外と気づいていないだけで、探してみたらいるかもしれません。都会過ぎてかたつむりなんて見たことない!という方も、あきらめてはいけません。天神の中心部でも、花壇にはウスカワマイマイというかたつむりがいるんです。キセルガイという細長いかたつむりのなかまや、ナメクジのなかまは特によく見つかります。


2.自然のある神社や公園も公園はもちろん、神社には自然がそのまま残っていることが多く、ツクシマイマイやコベソマイマイなどの大型のかたつむりがよく見つかります。自然度が高いところは理想的ですが、都市公園でも、花壇などに隠れているかもしれません。


3.ブロック塀は要チェックカルシウムを補給するため、かたつむりは雨の日のブロック塀によく集まります。庭のある民家の周囲や、あじさいなどの緑の植えられた道沿いのブロック塀で見かけることが多いです。


4.ガードレールの食べあとチェックガードレール表面にはたくさんの藻類が生えていて、かたつむりやなめくじが食べた痕跡がよく目立ちます。食べあとを観察するだけでも楽しいですが、食べあとがあるということは、近くにいるのかも?!


5.朽ち木や石をめくってみよう雨の日なら見つかりやすいですが、晴れているときなどは、何も見つからないかもしれません。そんなときは、いろいろめくってみましょう。朽ち木や石などをめくると、かたつむりやナメクジが隠れています。キセルガイなどもよくいます。


6.今なら卵もあるかも今の時期なら卵もあるかもしれません。ナメクジの卵は透明で、かたつむりの卵は白い殻があります。直径3〜5ミリくらいのまんまるの卵が、数十個まとまっています。

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●見つかったらやってみよう

1.その場で観察見つかったら、その場で観察するのが基本です。殻から出てこないようなら、霧吹きなどで湿らせてましょう。そのまま気長に待っていると、顔を出してくれるかもしれません。(顔を出さなくても、おこらないでね)

透明の下敷きなどがあれば、乗せてみるのもオススメです。おなか側から見て、もぐもぐしている口を見たり、どうやって移動しているのか観察したりすると楽しいです。


2.調べてみる『カタツムリハンドブック』(後述)などを見て、種類を調べてみてもいいですね。カタツムリはとても種類が多く、同じ種でも変異が大きいので、判別はけっこう難しいかも?


3.飼ってみる飼育ケースにキッチンペーパーなどを敷いて、霧吹きなどで湿らせます。エサは野菜くず。いろいろあげてみて、何をよく食べるか調べてみましょう。キノコも食べるかも?また、殻の栄養となるカルシウムも必要なので、卵の殻やカトルボーン(イカの甲)を忘れずに。
耳を澄ますと、野菜を食べている音も聞こえてくる……かも?かたつむりのフンの色は、食べたものの色がそのまま出てきます。掃除は、なるべくこまめにするようにしましょう。

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●オススメかたつむり本
4つかたつむりに関するオススメの本を紹介します。

1.武田晋一・西浩孝『カタツムリハンドブック』(文一総合出版)数少ないかたつむり専門の図鑑です。しかも、標本写真ではなく、生体の写真を使っているので、体全体の様子がわかって良いです。これに載っていないかたつむりも多いですが、まずは入門書としておすすめです。

2.いとうせつこ・島津和子『あかちゃんかたつむりのおうち』(福音館書店)幼児にオススメなのは、こちらの絵本。かたつむりの糞のことや、成長の仕方がかわいくておもしろいです。

3.エリザベス・トーヴァ・ベイリー『カタツムリが食べる音』(飛鳥新社)こちらは大人向け。難病に苦しむ筆者が、かたつむりに出会い、絆を深めていくノンフィクションです。

4.野島智司『カタツムリの謎』(誠文堂新光社)最後に、拙著です!カタツムリの生態をさまざまな角度から紹介しています。すべての漢字にはふりがながついています。

●注意点
最後に一点だけ。かたつむりには、広東住血線虫という寄生虫がいることがあります。アフリカマイマイという外来種とナメクジ、スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)では特に注意が必要です。かたつむりに触れた後は、顔などに触れないようにして、石けんでよく手を洗いましょう。(新型コロナ対策と、おなじですね)

兵庫県豊岡市にコウノトリ米、正式には「コウノトリ育むお米」というお米があります。コウノトリの野生復帰のために考案された「コウノトリ育む農法」で作られたお米です。

福岡県でも、たまにコウノトリがやってきて話題になることがありますね。生息環境の悪化により昭和46年に野生絶滅したコウノトリが、平成、令和の日本の空を舞っている背景には、この「コウノトリ育むお米」の存在があります。

環境悪化で絶滅したコウノトリの野生復帰を成功させる上で必要なことは、コウノトリが育つ環境を取り戻すことです。そこで考えられたのが、田んぼのあり方を変えること。無農薬や減農薬で、冬にも水を張る田んぼがあれば、コウノトリの食料となるドジョウやカエルなど、多様な生物が育ちます。そうした田んぼがあれば、コウノトリも食べ物に困りません。

「コウノトリ育むお米」は、そのようなコウノトリの食べる生き物が育つ農法で作られたお米。つまり、「コウノトリ育むお米」は、食べるとコウノトリの野生復帰を支えることにもなる、ある種のブランドというわけです。

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※コウノトリは写っていません

そんなお米を参考に、かたつむりでも何かできないかなぁとぼんやり考えることがあります。理由は何より、語呂がいいからです(!)だって、たとえばツクシマイマイを育むお米だったら、ツクシマイマイまい(米)になるわけですよ。つまり、マイマイマイになるわけです。

ただ、ツクシマイマイと田んぼは直接的には関係が薄いので、ツクシマイマイ米というのは、ややこじつけなのが現実。むしろ田んぼなどの水辺にかかわりが深い種類は、オカモノアラガイのなかまです。

福岡には、ナガオカモノアラガイという種が生息しています。ナガオカモノアラガイは、環境省のレッドデータブックで準絶滅危惧、福岡県のレッドデータブックで絶滅危惧Ⅱ類に指定されているので、生息環境を守る必要性も高いです。これは、マイマイ米にぴったりなマイマイかもしれない…!なのですが、名前に「マイマイ」がつかないので、肝心の「マイマイ米」という語呂の良さが活かされません。同様に、ヒメオカモノアラガイというのもいますが、やはりマイマイがつきません。
うーん、なかなか良い案が浮かびません。

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ナガオカモノアラガイ

こうなったら、オカモノアラガイ類を含めた多様なかたつむりを大切にする農法として、「マイマイ米」にしてしまうのはどうでしょうか。

・農薬を極力使わない
・オカモノアラガイ類の好むエコトーン(水際のこと)を維持している
・冬も水を張っている

そんな農法を実践し、かたつむりの生息地となっている田んぼで作られたお米を「マイマイ米」として認定する、という感じでしょうか。地域名をつけて、「ふくおかマイマイ米」「いとしまマイマイ米」という感じでもいいかも。

いやいや、そんなブランド化の前に、私のお米「myマイマイ米」づくりから始めようかな。マイマイが育ち、昼は鳥が舞い、夜はコウモリが舞う。そんな私のお米だから、マイマイマイマイマイマイ…。


【参考】「コウノトリ育むお米のひみつ」https://www.city.toyooka.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/004/053/okomenohimitu.pdf

昨年末ごろ、我が家に宿泊中のかたつむりたちが産卵しました。卵を産んだのは、コハクオナジマイマイと、ツクシマイマイの2種。本来は土の中に産むのですが、土を入れていなかったので、濡らしたキッチンペーパーの下に産んでいました。
気づいてから、そーっと卵を移動させて、コケといっしょに観察しています。それから数日後、一斉に…ではなく、ぱらぱらと孵化が始まり、今も次第に赤ちゃんが増えています。とってもかわいいのですが、あまりに小さいので、飼育ケースの掃除ができずに困ってもいます。

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かたつむりの卵はこんなふうに白いものが多いです。飼育ケースの中を見ても、割れた卵の殻はほとんど見つかりません。生まれたかたつむりが自分で食べて、殻の栄養にしているのでしょう。かたつむりの赤ちゃんは、卵殻のわずかなカルシウムも有効利用しているのです。

ちなみに、なめくじの卵の場合はたいてい透明です。カルシウム節約のために貝殻を退化させただけでなく、卵殻も退化させたのでしょうか。

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ところで、卵は卵でも、私たちにとってなじみ深いのは、鶏卵に代表される鳥の卵です。鳥類の卵も、かたつむりの卵と同じように、白い殻で守られています。鳥類の卵殻の主成分もまた、カルシウムです。まったく違う生きもののようで、卵は意外と似ています。

一方、かたつむりの天敵として代表的な生きものと言えば、それも鳥類です。なぜ鳥類がかたつむりを好んで食べるかと言うと、かたつむりの殻にカルシウムが豊富に含まれているからです。鳥類の多くはカルシウムの大部分をかたつむりから得ていると言われています。実験的に森林土壌のカルシウム分を調節して、カマドムシクイという鳥の繁殖を調べた研究によると、土壌のカルシウム分が高い方が、繁殖密度や卵の数、繁殖回数が多くなったそうです。土壌のカルシウム分がかたつむりの生息に影響を与え、それがカマドムシクイの卵形成に影響を及ぼしていると推測されています。産卵期の鳥類は、卵生成期の爬虫類や妊娠期の哺乳類に比べ、10〜15倍のカルシウムを必要とするんだとか。

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空を飛ぶ鳥は動きが俊敏で、一見するとかたつむりとは無縁の存在にも思えます。でも、カルシウムという軸で見ると、切っても切れない深い関係にあるんですね。
そういえば、人間の嗜好も、傍目にはわかりにくいことがありますね。「この人、どうしてかたつむりなんかが好きなんだろう」なんて思っていませんか。もしかするとカルシウムのような、一見してもわからない大切な何かが、その人を深く惹きつけているのかもしれません。

【参考文献】Graveland et al. 1994. Poor reproduction in forest passerines from decline of snail abundance on acidified soils. Nature. 368: 446-448.堀江明香 2014. 特集:鳥類における生活史研究 総説 鳥類における生活史研究の最新動向と課題. 日本鳥学会誌, 63(2): 197-233.