飲酒運転による死亡事故は年々減少してきました。特に2007年の改正道交法施行の前後で612件(2006年)から305件(2008年)に半減。このきっかけとなった2006年の福岡市の海の中道大橋の事故をご記憶の方も多いと思います。ただ,この数年は200件前後が続いて「下げ止まり傾向」です。

    
ところで,みなさんお酒はどれくらい飲みますか?
全く飲まない人から「ザルの人」までいろいろと思いますが,私は居酒屋だったら,生を2杯,芋のロックを3-4杯という感じかなあ?最近は周りにつられて焼酎の代わりにハイボールを飲むこともあります。
さすがに飲酒直後に運転する人はもういないんじゃないか,と。たぶん。微妙なのは飲んだ翌日の運転です。

アルコール摂取量の基準として「お酒の1単位」という言い方があります。純アルコールに換算して20gのことで,ビール中瓶なら1本(500ml),日本酒なら1合(180ml),焼酎なら0.6合(110ml)が1単位の目安です。さっきの「生を2杯,芋のロックを3-4杯」であれば合計5〜6単位になりますね。

で,アルコールの分解にかかる時間は(体質や体重によって違いますが)1単位なら約3〜4時間,2単位なら約6〜7時間とされています。居酒屋で生2杯+焼酎3杯(計5単位)を飲んだら,覚めるまで15〜18時間かかる計算。21時で飲み会終了としても,早くても次の日の正午までお酒が残ってる計算に…!!
これは朝から運転する予定がある人は前日はお酒を飲めないということですね。

運転が仕事の業界には飲酒運転防止のマニュアルやガイドラインがあります。
「(公社)日本バス協会」や「(公社)全日本トラック協会」などの飲酒運転防止対策マニュアルでは,二日酔いの防止に関して以下のようなルールが定められています。
 ・勤務時間前8時間は飲酒禁止。
 ・飲酒後8時間たてばアルコール血中濃度が必ず平常値に戻るものではないことの指導を徹底する。
 ・行先地及び宿泊地における飲酒禁止。

飲酒運転による交通事故は,重大事故につながる危険性が高いです。
次の日に飲酒運転をすることがないよう,お酒の量や飲み会の時間をお互いに気をつけていきたいですね。

参考文献:
 警察庁「みんなで守る『飲酒運転を全体にしない,させない』」
 https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/insyu/info.html
 (2020.01.19.閲覧)
 公益社団法人アルコール健康医学協会「飲酒の基礎知識」
 http://www.arukenkyo.or.jp/health/base/index.html
 (2020.01.19.閲覧)
 公益社団法人日本バス協会「飲酒運転防止対策マニュアル」   

 https://www.mlit.go.jp/common/000168539.pdf
 (2020.01.21.閲覧)
 公益社団法人全日本トラック協会「飲酒運転防止対策マニュアル」
 http://www.jta.or.jp/member/pf_kotsuanzen/inshuunten_boushi_1909.pdf
 (2020.01.21.閲覧)

今年12月1日から「ながら運転」が厳罰化,違反点数は「携帯電話使用等(保持)」が1点から3点に,「携帯電話使用等(交通の危険)」が2点から6点になりました。6点と言えば一度で免停です。

「ながら運転」に関する警察庁の発表では,スマホ等を見ていたことによる交通事故の件数は増加傾向。交通事故全体の件数は減少傾向なのに,です。さらに,スマホ等見ていなかった場合の事故と見ていた場合の事故を比べると,死亡事故の確率は2倍以上になるらしく,事故の深刻度が高いそうです(平成30年実績)。

思い出されるのは2016年10月に起きた事故。トラックのドライバーがスマホゲームのポケモンGOをやりながら運転し,集団下校中だった小学生をはね,4年生の男児が亡くなりました。

ポケモンGOは世界的なブームになりましたが,アメリカでは交通事故との関係を調べた調査も報告されています。"Death by POKEMON GO(ポケモンGOによる死)" というなかなかストレートな表題のレポートです。
アメリカのパデュー大学の二人の教授が,ポケモンGOリリース後,インディアナ州ティピカヌー郡でに起きた交通事故,約12,000件を調査・分析したものです。「ポケストップ」の周囲100メートル以内で起きた事故を集計したり,走行しながらでも利用できる「ポケストップ」とそうでない「ポケジム」を比較したりしつつ,結果,約12,000件の事故のうち134件が,ポケモンGOが原因だったとしています。これから「推論」すると全米におけるポケモンGOによる事故は14万5千件以上,死亡件数は256人になるとのこと。
あくまで推論だと思いますが,ちょっと衝撃を受ける数字です。これはポケモンGOによる影響だけを考察していて,メールやSNS,動画やコミックなどのアプリによる影響は含まれていないのでなおさらです。

私自身が気をつけたいのは,Googleマップなどのナビアプリの使用です。目的地の入力や高速を使うか使わないかの条件設定を済ませてから,車を動かすように徹底しないといけませんね。

厳罰化がはじまった2019年12月上旬のある日,福岡市中央区薬院の交差点で信号待ちをしてる間になんとなく通り過ぎる車のドライバーを見てました。20台ほど通り過ぎるのを数えた中で1人,スマホをハンドルに重ねて持ちながら運転してる人がいました。
うーん,意外とまだいるのかもしれません。


参考文献:
 日本経済新聞 2018/10/26「愛知・ポケGO事故2年 遺族『ながらスマホやめて』」 

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191201/k10012197481000.html(2019.12.19.閲覧)
 警察庁「やめよう!運転中のスマートフォン・携帯電話等使用」 https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/keitai/info.html(2019.12.19.閲覧)
 Mara Faccio, John J. McConnell (2017) Death by Pokémon GO: The Economic and Human Cost of Using Apps While Driving.  https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3073723(2019.12.19.閲覧)

 GIZMODO 2017/11/28「ポケモンGOで増えた米国での交通事故は、推定約10万件以上」 https://www.gizmodo.jp/2017/11/pokemon-go-caused-traffic-accidents.html(2019.12.19.閲覧)

先日,屋外イベントで20人ほどの参加者を先導する途中,森に沿ってカーブした道路を横断することがありました。見通しが悪い割には40km程度のスピードで通過する車もあり,交通事故が心配な場所でした。
無事にみんなで横断できたのですが,イベント後のふりかえりではスタッフから「あの時はこう誘導するとよかった」など,いろいろ意見が出てきました。その様子を見て,事故が無かったからとスルーするのでなく,交通事故をきちんと意識してふりかえりや情報共有をするのはいいことだなあ,と感じました。

警察庁が今年はじめに発表した2018年の交通事故死者数は3,532人。1948年に統計を開始して以降もっとも少なくなったそうです。平成に入った頃は1万人前後で推移していましたが,この20年間は減少傾向が続いています。運転マナーや車両の安全性の向上,取締りの強化や道路などのインフラ整備などの効果が現れているのだと思います。人口動態(若者が減るとか)も影響しているかもしれません。
ちなみに同じ交通事故でも厚生労働省の統計は集計対象が異なります。直近のデータである2017年では交通事故による死亡数は5,004人となっています(事故発生から1年以内に亡くなった方)。その内,歩行者の交通事故,つまり歩いていて自動車やバス等と接触して亡くなった方は1,872人でした。

全体的に減少傾向ではありますが,現在でもこれほど多くの方が交通事故の被害に遭っているのはとても残念で悲しいことです。

そもそも自動車は重量が大きくスピードも出せるので危険性の高い道具です。ただ身の回りに溢れているので,その危険性に鈍感になっている気がします。1m横でチェーンソーを振り回されたら驚いて逃げ出しますが,車が1m横を通り過ぎても大して驚きませんよね?

ところで,自然体験や環境保全活動のリスクとしては,熱中症や溺水,落雷,スズメバチ ,作業道具による怪我などをよく挙げます。厚生労働省の人口動態統計での,これらに関係する2017年の死亡者数は以下の通りです。


 熱中症___635人(自然の過度の高温への暴露)
 川や海での溺水___676人(自然の水域内での溺死及び溺水)
 落雷___1人(落雷による受傷者)
 スズメバチ___13人(スズメバチ ,ジガバチ及びミツバチとの接触)
 作業道具___27人(無動力手工具,動力芝刈り機,動力手工具の合算)

 歩行者の交通事故___1,872人

それぞれの事故が起きる状況は異なるので単純に比較することはできませんが,これらを見ても交通事故は頻繁に起こり得る,常に意識しておきたいリスクであると感じます。
寄生獣ミギーも眠りにつく前に言っています。
「……それより交通事故に気をつけろ」

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令和1年7月7日,高知市で行われた河川清掃イベントで3歳の男の子が亡くなる事故がありました。
報道によると,父親と男の子が2人で高知市秦南町の久万川(くまがわ)の河川清掃イベントに参加。朝6時半くらいから町内会の関係者など40人くらいで河川敷のごみ拾いや草刈りをしていたとのこと。7時過ぎに男の子の姿が見えなくなったと通報が行われました。捜索の結果,男の子は川の中で発見。その後,死亡が確認されたそうです。


とても悲しい事故です。男の子のこと,親御さんのことを思うとたいへんつらい。
ネット上では,小さい子どもから目を離してはいけないとか,水辺ではライフジャケットを着用させるべき,といったコメントを目にしました。確かにその通りかもしれませんが,一番悲しんでいるのが誰かと考えると,保護者の責任ばかり追及するのも心情的にきびしい…。


保全作業やイベントの運営者としては,参加者がお互いに知った者同士か?ということもかなり大きいと思っています。

地域活動的なイベント(町内の一斉清掃や農村の草刈りの共同作業など)では,日頃から顔を合わせている人で行うことが多いです。そのため,程度の差はあれ,お互いに声をかけあったり目を配ったりが行われやすい。
一方で,参加者を一般募集するようなイベントでは,知らない者同士なので,お互いの声かけや目配りを期待することはまずできません。その分,オリエンテーションで進め方や安全のことについてしっかり説明を行い,スタッフやグループリーダーが見回って安全管理を行います。


地域活動では,参加者が三々五々集まって五月雨式に清掃や草刈りを始めたりします。全員が見知った仲で,お互いのコミュニケーションが取れているのであればそれも構いません。しかし,住人の入れ替わりがあったり,日頃の交流が少ない地域だったりする場合は,そのやり方では不十分です。

活動を始める時にみんなで集まって「今日は20人での作業だな」「わからないことはあの人に聞けばいい」「ご年配の方は無理しないように」「自分で歩き回りたい盛りの小さい子がいる」といったことを共有し,参加者同士で声をかけたり目配りしやすい状況を作りましょう。特に子どもたちの安全は周りにいる大人全員で気にかけていきたいと考えています。

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夏の時期に多い落雷事故について。

1996年8月の大阪府高槻市の落雷事故。同市で開催されたサッカー大会に出場して被災した男子高校生は重度後遺障害を負いました。その後の訴訟の結果,高槻市体育協会などは3億円を超える賠償金を支払うことになりました。裁判所が「落雷事故の責任を認めた」=「落雷事故は防ぐことができるものであると判断した」ということだと思います。

この訴訟にも一部関わった弁護士の望月浩一郎氏は,「落雷は防げないが落雷事故は防げる」と題した資料を公開しています。
※2022.08.08.追記 リンク先が変更されていたので最新版のページに更新しました。

ここで紹介された落雷事故防止の方法はとてもシンプルです。

 1)ピカッと光ったら逃げる。

 2)ゴロッと聞こえたら逃げる。

 3)雷雲が完全に消えるまで避難し続ける。

の3点です。
他にも訴訟の経緯や落雷事故の事例などがまとめられていて,スポーツに限らず野外活動を行う指導者にはぜひ読んでいただきたい資料です(2010年作成)。

個人的に注意したいと思っているのは「雨宿りの場所」。
濡れない場所で雨が止むのを待っている時,そこが安全な場所かどうか?建物の軒先や木の下などは危険です。例えば雷が建物に落ちた場合,電流は建物の壁に沿って流れます。その時に軒先に人がいると「側撃雷」と呼ばれる壁からの放電に撃たれるおそれがあります。木の下にいる場合も幹からの側撃雷があります。木の場合は幹から2m以上離れること。建物の場合は,外ではなく室内に入ることが大事です。

もう一つは,避雷針の有効半径は案外狭いということです。
2014年8月に愛知県扶桑町で起きた高校野球部の練習試合中の落雷事故。グラウンドのバックネットの支柱には避雷針12本が設置されていましたが,マウンド上のピッチャーは守れませんでした。通常,避雷針はその高さ分の半径しか有効ではありませんし,グラウンドや公園の全域をカバーするほどの避雷針を立てるのは難しい。避雷針があるからといって油断はできません。


ついでに,メガネや時計などの金属類を身につけているからといって雷が落ちやすくなるわけではありませんし,ゴム長靴やレインコートを着ているからといって落ちにくくなるわけではありません。雷ほどの電圧になると多少の金属や絶縁体はほとんど関係ないようです。

近年,落雷による事故やその死傷者数は減少傾向にあるそうです。落雷事故を防ぐための知識が広まりつつあるのだと思います。

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森林ボランティア限定の話題かもしれませんが,枯れ木伐採の注意点をまとめました。

いわゆる里山的な森の手入れは昭和30年代くらいまで普通に行われていました。その後,電気・ガスや化学肥料の普及に伴い,次第に管理放棄されていきます。現在,都市緑地や特別緑地保全地区になっているまちなかの森は,だいたい放棄されて半世紀ほど経った「かつての里山」と言えます。そんな「かつての里山」の多くは現在,枯れ木が非常に多い状態です。放棄されて数十年経って,常緑樹に負けたハゼノキやヤマザクラなどの落葉樹,寿命が短い傾向にある亜高木のクロキ,込み合いすぎてヒョロヒョロになった高木の常緑樹などが次々に枯れていく段階に入ったからです。

遊歩道や園路が通った緑地ではそんな枯れ木が事故の原因になることも考えられます。森林ボランティアでも枯れ木を伐採することがあります。通常の伐採とも重複しますが,以下のようなポイントには特別に注意したいところです(ノコギリなどの手道具での作業を想定しています)。

1)近づく前に,上方の枯れ具合をチェック。
全体的に枯れていて倒れそうな状態なのか,一部の枝が枯れて落ちてきそうなのか確認します。もしかすると,折れた枯れ枝が途中で引っかかって宙ぶらりんになっていたりするかもしれません。

2)足元の落ち枝の片付け。落ち枝で足元が散らかっていることも多いです。とっさの時に足にひっかけたりするかもしれませんし,伐倒した木に当たって跳ね上がったり飛び散ったりするかもしれません。事前の片付け,大事です。

3)全方向で樹高以上の距離,退避する。枯れ木は思いがけない方向に倒れることがあります。伐倒の担当者以外で見学やサポートを行う人は,倒そうと思っている方向からだけでなく360°全ての方向で樹高以上の距離をとって退避します。

4)伐倒のきっかけはロープで与える。伐倒の瞬間までノコギリを引いているのはマズイ。枯れ木は倒れる時の加速度で枝や幹が折れます。特に幹が「く」の字に折れて根元に落ちてきた場合が危険です。加えて,地面に倒れて枝が飛び散ることも多いため,伐倒時に周囲に人がいないようにすることが原則です。そのために,伐倒の担当者は慎重に受け口・追い口を作りつつ,樹冠が動きそうになったら速やかに退避します。退避を確認した上で,事前に張っておいたロープを引き安全な距離から伐倒のきっかけを与えます。引いても倒れないようなら,ロープを緩めた上で再度,慎重に追い口を進めて,退避とロープの牽引を繰り返します。このため,事前のロープ設置は不可欠です。

5)伐採中は常に上を確認。ノコギリの振動で枝や幹が折れる場合があります。樹冠が動きそうかどうかを確認する必要もあるので,伐倒の担当者は2,3回ノコギリを引いては上を見る,みたいな感じになると思います。もう一人が安全係として離れた場所から木の全体を見ておき「大きく揺れる枝がある」とか「樹冠が動き始めた」などの注意喚起をするのがよいと思います。ノコギリなど手道具での作業は大変ですが,お互いに声を掛けあえるという最大のメリットを活かしましょう。

6)ツルがほとんど機能しないことがある。もともと枯れ木は材に粘り気ががなく「ボキッ」「ボソッ」という感じに折れてしまいます。さらに部分的にグズグズに腐朽が入っていることもあります。通常の伐採は,受け口・追い口で切り残した「ツル」が蝶番のような役割を果たして,伐倒方向とスピードをコントロールするという考えですが,これがほとんど機能しないかもしれません。そのため,上記の360°退避,ロープで伐倒,常に上を確認が重要となります。

7)大風の後,雨の後の注意。
台風などの後,枯れ枝がよく折れています。途中で引っかかっていることもあります。また,腐朽が入ってグズグズになった箇所は雨が染み込みやすいので,雨が降った後は枯れ枝は水を含んで自重で落ちやすくなっています。大風や雨の後は作業前のチェックを念入りにしたいところです。


と,いろいろ書きましたが結局は「無理しない」のが一番。「枯れ木は通常の伐採の倍は危ない」と考えて,自分たちの手に負えない作業はやらないという判断が森林ボランティアにはもっとも大切だと思います。

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ガイドレシオ(guide ratio)という言葉があります。登山などでガイド1人が何人の参加者(顧客)を連れていくかという比率です。ガイド1人に対して参加者が10人の場合はガイドレシオ1:10です。例えば(公社)日本山岳ガイド協会の「ガイド対顧客標準人数比率に係る規定」では,

 里地里山の整備された自然観察路等___1:15
 安心して歩ける初心者向けの登山道___1:12
 縦走も含む中級者向け登山道________1:10
 岩尾根なども含む上級者向け登山道___1:5

などと定められています(積雪のない時期)。
現場のリスクの大小によってガイド1人が目配りできる人数は変わるという考え方ですね。他にも(一社)日本アルパイン・ガイド協会やガイド会社などで定めた規定があります。

グリーンシティ福岡はいわゆる山岳ガイドは行なっていませんが,自然観察会では1:15,近郊の低山を含むハイキング等では1:12を超えないような定員やスタッフ体制にしています。
このように登山以外の体験プログラムでも,ガイドレシオの考え方は役立つと思います。

例えば,小学生の子どもたちとの里山保全体験で,ヘルメットをかぶって手ノコで中低木(樹高2mから5m程度)の伐採を行うような場合。現場スタッフ1人あたり何人の参加者が適正でしょうか?
うーん,難しい。学校団体などで参加者が子どもだけの場合と,親子体験で保護者が付いている場合では違うでしょうし,貸し出す道具の種類や数によっても変わってきそう。あえて目安を設けるとしたら,子どもだけの場合1:8程度。親子連れなら3,4組(保護者と子どもが半々くらい)を担当するということで1:12程度でしょうか?

別の例では刃物を使ったクラフト体験。グリーンシティ福岡では,切り出しナイフで小枝を削る「森のえんぴつ」づくりを行ないます。15分程度の短い体験ですが,指を切るなどのリスクがある内容です。実際にこれまでは,小学校高学年なら1:3程度。小学校低学年なら1:1での指導してきたように思います。

活動内容や対象,周辺の状況によって一人のスタッフが対応できる人数は変わるので,一様に決めることは困難です。とは言え,上限としてガイドレシオを設けておくことは安全管理にもなりますし,体験プログラムの適正な単価・料金を守っていく上でも一つの根拠になると思います。

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参考文献:
(公社)日本山岳ガイド協会. http://www.sakura11.com/kmga/reshio.pdf
(一社)日本アルパイン・ガイド協会. 
 http://www.agsj.org/kyoukai/kiyaku/NAIKI_RATIO(h250115kai).pdf
(一社)日本旅行業協会. https://www.jata-net.or.jp/membership/info-japan/climbing-tour/pdf/201303tourclimb_guiderecio.pdf

環境保全を行なうNPOの活動に,企業が社会貢献やCSRとして参加されることがあります。例えば海岸清掃だったり,植樹や草刈など。そんな場合は,事前に保険についてお互いで確認しておきましょう,というお話です。

企業であれば,労災保険や勤務中の事故に対して掛けている各種保険で補償がきく場合もあります。参加した社員本人が怪我をした時の医療費(傷害保険),活動中に誤って人や財産を傷つけて発生した示談金・賠償金(賠償責任保険)の両方について,補償されるかどうか確認します。林業体験などリスクの高い活動は,補償の対象外になる場合があるので注意したいところです。

間違いがないのは,受け入れ団体側が加入しているボランティア保険や行事保険に加入すること。林業体験であれば「グリーンボランティア保険」など,それぞれ団体が活動にふさわしい保険の情報をお持ちのことと思います。

半年ほど前(2018年秋頃),企業の社会貢献を進める某全国組織から「企業ボランティアを受け入れてほしい」と依頼がありました。「無償で」ということだったので,最低限の条件として「参加企業側でボランティア保険に加入することが『必須』」と伝えると「それでは参加のハードルが高いので『必須』ではなく『推奨』にしてほしい」との回答がありました。内心「ちょっと何言ってるかわからない」と思いながら「保険料をお支払いいただければこちらで手続きしますので,ぜひ加入を」と返すと「それでも難しい」とのことで,受け入れ自体が見送られることになりました。

結局,物別れに終わったので私の伝え方が悪かったかなあ?と反省しかけましたが… いや,保険が「推奨」とかやばいでしょ。それは「フィランソロピー」じゃないなあ(笑)!

知らない間にリスクを背負い込んだり,相手に押し付けたりしないように気をつけたいですね。

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参考文献:
 加納社会保険労務士事務所「ボランティア活動中の事故〜労災保険給付との関係」
  http://www.sr-jinji.com/news26.html
(2019.05.15.閲覧)

何人かで活動する現場では,想定されるリスクや注意事項を共有することが重要。その意味では「話し方」や「伝え方」も安全管理の技術の一つです。
先日,建設分野の安全教育ビデオを見る機会がありました。場面は建設現場の朝礼。現場監督が作業員に対して,作業上の危険や注意を伝える時の「良い例」や「悪い例」を役者さんが演じたものです。建設現場の朝礼での「伝え方」では,次のようなポイントがありました。

(1)「言ったから伝わる」は間違い。
「ベラベラ早口で一方的にしゃべる」「メモから目を離さず読みあげるだけ」「しゃべる順番が前後したりバラバラになったりでわかりにくい」。これでは,言ったけど伝わってない,言いっぱなしの自己満足です。
大切なのは,ゆっくり,具体的に言うこと。担当等があれば名前を呼びかけつつ伝えること。作業員の表情を見たり返事を待ったりして,伝わったかどうかの確認をすることです。
例:「○○さん,○○をお願いします。先月△△があったので,□□に気をつけてください。」

(2)マンネリになると伝わりにくい。
同じ作業が続くこともあります。連日同じ注意事項だと「いつも通りです」的な雰囲気になり,危機感や積極性が薄れてしまいがち。マンネリ打破のためには,伝え方やしゃべり方を変えるのも一つの手かもしれませんが,考えてみれば現場の状況が全く同じということはあり得ません。作業員の入れ替わり,作業の進捗,天候や気温の変化,作業者の体調,週のはじめと終わりなど,現場を取り巻く状況は日々変化しています。むしろ大事なのは現場を巡り,作業者の様子を見て日々の変化を捉えること。その上で,その日に必要な指示内容を伝えることだと言えます。

(3)「この人の言うことは聞きたくない」。
人間関係は大きく影響します。現場監督と作業員の個人的な関係性から「この人の言うことは聞きたくない」となることも起こります。そうなると,どんなに大切な内容であっても伝わりません。怒鳴ったり,頭ごなしに否定したりすることで関係が悪くなることもあるでしょうが,そうでなくても小さなことの積み重ねで人間関係がこじれることもあります。
「あいさつをすること」「他愛もない雑談をすること」「職種でなく名前で呼びかけること」などで,日頃からよい関係を作っておきたいものです。

ということで,建設分野の安全教育ビデオから学んだ「伝え方」のポイントでしたが,「作業員」を「参加者」に変えたら,自然観察のガイドやインタープリテーションにも共通することだな,と思います。安全な場づくりの基本はコミュニケーションかもしれません。

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失敗知識データベース」には,産業や科学技術分野を中心にいろんな分野の事故や失敗事例が蓄積されています。それらの事例から得られた知識やノウハウを発信しているありがたいサイトです。多くが工場や建設現場などの事例ですが,社会的にも話題となった「こんにゃくゼリー事故」や「六本木回転ドア事故」などの事例も入っています。
いろいろ経緯があってここ10年程の事例は入っていませんし,私たちに関係する野外活動や自然体験分野の事例はほとんどないのですが,それでもぜひ一度ご覧いただきたいサイトです。

このデータベース構築の中心となったのは東大名誉教授の畑村洋太郎先生。2000年に出た著書「失敗学のすすめ」は当時,話題になりました。「失敗学」とは,起こってしまった失敗に対し、責任追及に終始せず原因を究明し今後に活かしていく取り組みです。特に,同じ過ちを繰り返さないための対策やノウハウをどう社会に広めるか?を重視しています。

2005年に「失敗知識データベース」は当初,独立行政法人科学技術振興機構(JST)のプロジェクトとして立ち上がりました。その後2011年3月に事業仕分けによって「規模縮減」とされ,JSTによる運営は終了。2011年4月から畑村先生のサイト「畑村創造工学研究所」が引き取り,その後2017年に「NPO法人失敗学会」に移管され現在に至ります。

いくつか思うことがありますが,一つ目は「事故事例研究」や「ヒヤリハット研究」は「失敗学」のNPO・自然学校向けアレンジ版といった感じだなあ,ということ。いかに無理なく,日常の活動や業務の中に「失敗から学ぶ仕組みを織り込んでいくか」が肝心だと思っています。

二つ目は,いろんな分野を横断した大規模な失敗事例のデータベースは(有益だけれど)構築が大変だろうな,ということ。状況や組織文化などが様々であることに加え,営業秘密や個人情報の関係もあり,十分な情報を集めて記載することは相応のコストがかかるものだと思います。

三つ目は余談かもしれませんが,畑村先生は2011年6月から2012年9月,福島原発の事故調査・検討委員会の委員長を務めました(政府事故調の方)。このコラムを書いているのは震災から8年となる2019.03.11.。福島第一原発事故は「失敗知識データベース」のどの事例よりも大きな被害と影響をもたらしました。その教訓が今後に活かされることを願っています。

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「失敗知識データベース」. http://www.shippai.org/fkd/index.php(2019.03.11.閲覧)
畑村創造工学研究所. http://sozogaku.com/hatamura/index.php(2019.03.11.閲覧)
特定非営利活動法人失敗学会. http://www.shippai.org/shippai/html/index.php(2019.03.11.閲覧)

1990年頃から欧米の医療や安全管理の分野では「事故」を意味する単語として"accident"ではなく"injury"が使われるようになっているそうです。もともと"accident"は「思わぬ出来事」「神様のいたずら」「不可避の運命」といったニュアンスとのこと。「事故を思わぬ出来事のように捉えるのでなく,予測・予防するものとして捉えよう」という考えが背景にあります。

 一つの例が下記の参考文献の中でも引用されていました。医学の専門誌である「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(イギリス医師会雑誌:British Medical Journal)」の2001年の論説記事です。その記事のタイトルは「BMJ bans “accidents” / Accidents are not unpredictable」で「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルは"accident"(の語を使うこと)をban(禁止)する」と言っています。事故は予測不可能ではない,という強いメッセージですね。野外での体験活動や保全作業に関わる私たちも心にとめておきたい認識だと思います。

 一方,日本語で"accident"に近い言葉といえば「不慮の事故」。「思いがけない,予測不可能な事故」といった意味合いで一般的に使われています。
 ちなみに政府統計の人口動態調査では死因のカテゴリーとして「不慮の事故」があります。平成29年に「不慮の事故」で亡くなった方の数は40,329人でした。具体的にどんな事故が含まれているかと言うと「交通事故」「転倒・転落・墜落」「不慮の溺死及び溺水」「不慮の窒息」「自然の力への曝露」などです。溺死は浴槽での事故が多く,窒息は誤嚥など,自然の力への暴露は低体温症の割合が高いです。また,保険業界の「不慮の事故」とは「急激かつ外来かつ偶然の事故」と定義されていますので,業界によって多少意味は異なります。

 「不慮の事故」という表現が一般的に使われる場合,事故の被害者やその周辺の方々を慮っている面もあるかと想像しています。事故の原因や経緯を探っていくことは,誰かの(もしかしたら被害者自身の)責任や落ち度を追及したり,ともすれば被害者やご遺族を傷つける場合もあります。「思いがけない出来事だった」と包み込むような気持ちが現れた言葉なのかもしれません。
 とは言え,今後,同じような事故を起こさないためには「思いがけない出来事だった」で終わってはマズイ。警察の方は交通事故が「不慮の事故」だとは思ってないでしょうし,介護事業者の方は浴槽での事故や誤嚥を「不慮の事故」と考えていないと思います。冒頭の欧米の例のように,冷静に事故の原因を探り,予測・予防に努めていく姿勢が必要です。

 ちょっととりとめのない散文になりましたが,あえて「不慮の事故」という表現を選ぶ気持ちと,冷静に原因を探っていく姿勢。どちらもあってほしいと感じています。

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参考文献:
「「事故」という言葉を変える―accidentからinjuryへ」Medical Note. https://medicalnote.jp/contents/160318-014-XQ
(2019.02.06.閲覧)
「BMJ bans “accidents” 」PMCアーカイブ.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1120417/(2019.02.06.閲覧)

「事故死の予防とCDR」小児保健研究.https://www.jschild.med-all.net/Contents/private/cx3child/2017/007606/023/0574-0577.pdf(2019.02.12.閲覧)

1月9日に厚生労働省は,12月24-30日の全国のインフルエンザの患者数が1医療機関あたり11.17人となり,注意報レベルになったと発表しました。

ちなみに福岡県だと同じ週で13.59人。この定点医療機関の1週間のインフルエンザ患者の平均人数である「定点あたり報告数」が10人を超えると「注意報レベル」で,4週間以内に大きな流行が発生する可能性が高いとされています。さらに30人を超えると大きな流行と解釈され「警報レベル」となります。

福岡県内のインフルエンザの流行情報はこちら。(2019.01.09.閲覧)
http://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/seasonal-flu-alert-2018-2019.html
少しスクロールすると過去5年間の流行状況のグラフがありますね。2017-2018シーズンの「定点当たり報告数」は1月下旬の時点で80人を超えており大変な流行だったことがわかります。また2015-2016シーズンは全体的に時期が遅れて2月に入って本格化,3月でもまだピークが収まっていなかった様子がわかります。
いずれにしても1-2月はインフルエンザの流行期。体験プログラムや会議・ワークショップなどを企画運営する立場としては,目の前で「アウトブレイク」を起こさないように気をつけることも安全管理の一つと言えます。

そのためには参加者やスタッフ一人ひとりが予防に努め,体調が悪い時は出席しないというのが基本ですが,イベントの事務局としてできることもいくつかありそうです。
例えば,手洗い場所をアナウンスしたり,マスクしていてもOKと伝えたりすること。たまに気兼ねしてマスクを外す方もあります。室内のイベントであれば,休憩時間に窓を開けて空気の入れ替えをすること。グリーンシティでは経験がありませんが,施設管理者だったら加湿器の設置もアリかもしれません。湿度を高めることでウイルスの飛散が抑えられるそうです。

体験プログラムならではなのが,アイスブレイクを非接触系のものにすることです。ワークショップの冒頭で行う,短いゲーム形式の自己紹介や仲間づくりのことをアイスブレイクと言います。いろんな種類のワークがありますが,ペアを見つけて握手するなど,接触を伴うワークは流行期に行わない方がいいんじゃないかと思っています。

また「お茶コーナー」について。ワークショップの内容や長さによっては,クラッカーにジャムを乗せて食べられるようにしておくとか,ちょっとした軽食程度のものを用意することもあるでしょう。しかしインフルエンザ時期は,スプーンや取り箸を共用しないように市販の個包装のものにしておくのが無難。ただ,お茶コーナー自体はこまめにお茶を飲むことがインフルエンザ予防に効果があると思っています。

お茶コーナーの一角にはアルコールスプレーと使い捨てマスクを置いておき「ご自由にどうぞ」としておくのもアイデアです。スタッフが気が付いた時に,ドアノブやポットのボタンなどをアルコールで拭くのもよいかもしれません。使い捨てマスクは救急セットの中ではなく,使ってもらいやすい場所に出しておくとよいです。このあたりは,会場の雰囲気や出席者数にもよるので,どこまで準備するかはそれぞれだと思います。

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小さなお子さんに大人気の「きかんしゃトーマス」。その舞台であるソドー島のノース・ウェスタン鉄道では,シャレにならないくらい事故が多発しています。機関車たちが負けん気とかいたずら心とかを出して,ちょくちょく脱線したり鉄橋から落ちたり床屋に突っ込んだりするのです。局長であるトップハム・ハット卿は何度引責辞任をしなければいけないでしょう?そんな感じ。

テレビ版のトーマスには「じこはおこるさ」という挿入歌がありますが,なんかじわじわ面白い。トーマスやパーシーら機関車たちの事故が延々繰り返される映像にのせて「事故がほらおきるよ,突然さ。運が無いときはしょうがない,なんとかしよう」と少年合唱団が歌っています。
気になってネット検索したら,ブログで取り上げている方もありました。

機関車トーマスに見る日米の危機管理意識の差、あるいは「そんなのどうでもいいからこの歌を聞け」
https://yusato.exblog.jp/17823930/
(2018.11.19.閲覧)

日米,というか日英の危機管理意識の差かなるほど。
確かに,事故が起きるよに続く歌詞が英語では "Make sure you learn your lesson. You'll know better next time" となっていますが,同じ箇所が日本語で「二度とやらなければいいけど」と訳されていて,だいぶ雰囲気が違います。もともとは「そこから学べ,次はマシになる」くらいの意味ですね。全般に英語では「どうあっても事故は起こるものだから,そこから学んで次に活かせ」というメッセージがあったのに,それが薄れて日本語では「事故が起きるぞー事故が起きるぞー」という雰囲気に(笑)。それがじわじわ面白い理由の一つな気がします。

事故から学んで次に活かすには,このコラムでこれまで紹介してきたヒヤリハットの収集と研究,事故事例の収集と研究,SHEL分析やなぜなぜ分析などを使って是正報告書を書くことなどが効果的。いずれも「過ちから学ぶための仕組み」です。ヒヤリハット収集や是正報告書は自分たちの過ちから学んで次に活かすため,事故事例を集めるのは他の場所で起きた過ちから学んで次に活かすためです。

「事故は起きるべきでない」と強く思いすぎると,過ちを認められなくなったり,隠蔽したり,「想定外だ」とか言い出したりしそう。「事故が起きてもいい」と言いたいわけではありません。最大限の努力をしつつ,けれど時には「じこはおこるさ」と割り切って,事故時の対応やダメージの低減,その後の改善行動のための備えをしておきたいものだ,と思います。

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他のメルマガ・コラムに比べてマニアック過ぎると大変好評(!)の「安全管理のコラム」ですが,この路線で邁進する所存であります。
 今月は「なぜなぜ分析」について。トヨタ自動車が行なっていることで有名です。「なぜ?」を5回くりかえして,事故やヒヤリハットの原因を深掘りするというもので,英語でも「5Why」と呼ばれています。

 「なぜなぜ分析」でよく紹介されるのはある生産工場で「機械が止まった」という事例です。

  なぜ?(1回目)→「機械に強すぎる力がかかった」
  なぜ?(2回目)→「軸の潤滑が十分でなかった」
  なぜ?(3回目)→「ポンプが潤滑油を汲み上げてなかった」
  なぜ?(4回目)→「ポンプの部材が摩耗してガタガタだった」
  なぜ?(5回目)→「金属の切り粉が潤滑油に入っていた」
  では対策は?→「潤滑油系にろ過器を設置する」

というものです。1回目から4回目のなぜ?の段階で対策を考えてしまうと,部材やポンプの交換など安易な対症療法になり近いうちに再発してしまいます。なぜ?を5回くりかえしたことで「ろ過器の設置」という,より長持ちする対策にたどり着くことができた,というものです。

 里山保全活動や自然体験の最中の事故やヒヤリハットについても「なぜ?」を複数回くりかえして,原因を深掘りすることは効果的だと思います。けれど,うーん,あんまりうまくいかないこともあります。

 うまくいかないこともある理由の一つは,野外活動での事故やヒヤリハットはいろんな要素や原因が重なって起きるから,ではないかと思っています。例えば「ナタで左手を切った」事例に対しては,

 なぜ?(1回目)→「初心者がナタを使った」,「指導者が見過ごした」,
          「(使わない予定の)ナタを見える場所に置いた」,
          「直前の雨で材が濡れていた」,「時間不足で急いでいた」,,,

…など,いろんな原因が考えられ,続く2回目のなぜ?では,それぞれの原因にさらに複数の原因が考えられ…とツリー状に枝葉が広がっていきます。上記の機械が止まった事例のように一列に因果関係が並ばないのでややこしいですね。団扇のホネや葉っぱの葉脈のように広がっていくもんだとあきらめた上で,紙やホワイトボードに書き出しながら整理するのがよいと思います。

 うまくいかないこともあるもう一つの理由は,わりとヒューマンエラー(人によるミス)だからではないでしょうか。上記の「初心者がナタを使った」「指導者が見過ごした」などに対して「なぜ初心者なのに使ったのか?」「なぜそれを見過ごしたのか?」と本人に問いかけるのも,問いかけられるのも両方キツイ(笑)。起こしたミスへの向き合い方や,活動へのモチベーションは人によって違います。言い訳したり,自己嫌悪に陥ったりということもあるでしょうし,そんな状態でなぜ?をくりかえすのもなかなかできません…。
 ヒューマンエラーにたどり着いた場合,無理に「なぜ?」をくりかえさずに「対策」に移った方がよい場合も多いと感じています。対策の方向性も「A.どうすればそのヒューマンエラーが起きないか?」「B.そのヒューマンエラーが起きても大丈夫にするには?」の二つあります。

 「初心者がナタを使った」
   →×「なぜ,初心者なのにナタを使ったのか?」
   →A「どうすれば,初心者が(誤って)ナタを使わなくなるか?」
   →A「どうすれば,ナタの経験を積むことができるか?」
   →B「経験不足でナタを使っても,手を切らずに済むには?」

 「指導者が見過ごした」
   →×「なぜ,見過ごしたのか?」
   →A「どうすれば,見過ごさないか?」
   →B「指導者が見過ごしても,手を切らずに済むには?」

 「ナタを見える場所に置いた」
   →×「なぜ,見える場所に置いたのか?」
   →A「どうすれば,見える場所に置かないようになるか?」
   →B「見える場所に置いても,手を切らずに済むには?」

 「なぜなぜ分析」はすぐれた手法ですが「なぜ?」という問いは人の責任を追及しがちです。人は必ずエラーを起こしますし,機械の部品のように交換するものでもありません。そのエラーを減らす or 見過ごさない or 起きても大丈夫にする仕組みを作っていけたらいいと思います。

事故やヒヤリハットの原因を分析する時に参考になる考え方の一つが「SHELモデル」です。
SHELは"Software(ソフトウェア)", "Hardware(ハードウェア)", "Environment(環境)", "Liveware(人)"の頭文字。その事故の背景や原因,つまりリスク要因にどんなものがあるのか,ソフトやハードなどいろんな側面から洗い出しましょうというお話。(SHELモデルにはSHELL→mSHELL→P-mSHELLといろんな発展・派生があります。)

例えば,子どもたちのキャンプ活動を例にリスク要因を挙げてみます。

「S:ソフトウェア」は活動内容やプログラムにあたります。「休憩を取らずに外遊びするスケジュール」は暑い時期だと熱中症の原因になりますし,「ナイフを使ったクラフト」は刃物に慣れてない子どもたちだと怪我のリスクを高めるでしょう。練習や指導の時間を十分とらなければなおさらです。

「H:ハードウェア」は使う道具や施設のこと。「古くて傷んだアスレチック遊具」は飛び出た金具やササクレでの怪我を起こすかもしれませんし,「適切なサイズのヘルメットがない」といったことが事故につながる場合もあります。

「E:環境」は周辺の状況や気候などのこと。「気温と湿度が高い」と熱中症のリスクが高まります。「滑りやすい斜面」が滑落や転倒,「車の往来」が交通事故,「スズメバチやかぶれる植物」による被害などもここに該当します。

「L:人」については,「指導者や先生」「事故の当事者(怪我をした子ども)」「周りにいた子どもたち」など,立場で分けた方がわかりやすいです。「指導者が活動内容をあまり理解していなかった」「当事者の健康状態が優れなかった」「周囲がふざけたり邪魔をして集中できない状況だった」などが「人」に関するリスク要因として考えられます。

私たちは気をぬくと事故の原因を単純化して考えてしまいがちです。例えば,熱中症の事故だったら「今年は例外的に暑かったから起きた」とか「指導者の目配りが足りなかったから起きた」とかです。
しかし実際の事故は背景や原因がいくつも重なって発生することがほとんど。熱中症を例にすれば「今年は例外的に暑かった上に(E),当事者が朝から体調が優れず(L),指導者が目配り不足な状態で(L),日陰のない芝生広場で(E),水筒を持参せず(H),屋外遊びを1時間以上した(S)」から起きたのかもしれません。

なにより,いろんな側面からリスク要因を洗い出すと,具体的な対策や改善行動を立案しやすくなります。事故原因を単純化してしまうと,対策が「根性論」や「お題目」になりやすいので注意しましょう。

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万が一,事故が起きてしまった場合,その状況を記録し今後の対策に活かしていくことが大事です。グリーンシティ福岡では「是正報告書(事故)」という書式を用意して,状況の記録と対策の立案を行っています。建設業や施設管理などの現場では当たり前ですが,小規模なNPOや事業者,ボランティア団体などにも広まってほしい取り組みです。

 私たちの書式はA4判1枚にまとめています(画像参照)。組織によってA3判だったり数ページに及ぶこともあるでしょう。
 項目は基本的な事柄として「件名」「主催者」「発生場所」「発生日」「報告者と報告書の作成日時」。
 報告事項として「概要」「被災者」そして「発生状況」を分刻みで,事故の発生前からその後の対応の過程を記録します。発生状況があやふやなままだと,だれかに責任を押し付けたり,安易な解決策に飛びついたりしがちです。事実に基づいた有効な対策を立案するためにも,発生状況はきちんと残しておきたいものです。また,現場の見取り図や状況写真,イラストや文章での状況説明は下段に記載します。

 中ほどの「背景・原因」と「対策」の欄は,左右で対応させながら記入します。活動環境にどんな背景・原因があったかを左側に書き,矢印を引っ張って右側にそれを防ぐための対策を。現場のスタッフにどんな背景・原因があったかを書き,その右側に対策を,という具合に,様々な切り口から背景・原因を挙げ,対応する対策を立案していきます(改めて見るとうちの書式,「背景・原因」&「対策」の欄と図面等の欄を上下入れ替えた方が,考える順番としては正しいですね。なんでこのまま使ってるんだろう?)。

 この書式,私たちは「病院を受診するような事故・怪我」やそれ以外でも重大だと考えた場合に記入し,スタッフミーティング等で検討するようにしています。実際の出番はそんなにないはずですが(年に1回あるかないか程度?),このような書式を準備しておくことをお勧めします。

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 建設業界では安全管理についての取り組みが様々に行われています。研修のための教材DVDが充実しているのもスバラシイ。先日,某公園の運営スタッフで一緒に安全教材DVDを観る機会がありましたが,自然体験や保全活動を行う私たちにもとても参考になりました。その中から「健康KY」についてご紹介。

 KYとは危険予知の略です。一般的なKY活動では主に作業環境や内容,道具から想定される危険を洗い出し,対策や対応を検討します。一方,関係者(スタッフや参加者など)の心身の状態にも危険が潜んでいることがあります。「健康KY」は活動の前にスタッフや参加者などの健康状態を観察し必要に応じて個別に問いかけることで,事故を無くしていこうとする取り組みです。

 まず,リーダーや指導者は活動前にスタッフや参加者の健康状態を観察します。会場設営時のスタッフの動きや受付に集合した際の参加者の表情などです。具体的には以下の5項目が挙げられています。建設現場を対象にした項目なので表現や程度でそぐわない部分はあるかもしれません。

 <健康観察 5項目>
  1. 姿勢 シャンとしているか、うなだれていないか
  2. 動作 キビキビしているか、ダラダラしていないか
  3. 表情 イキイキしているか、明るいか、むくんでいないか
  4. 目玉 キリッと澄んでいるか、血走っていないか
  5. 会話 ハキハキとしているか、声の大きさ・ハリは
  (一人ひとりよく観察して異常をつかむ)

 次に,気になる人がいた場合は,直接問いかけて確認します。プライバシーに関わる内容ですので個別に尋ねることが重要です。また訊き方によっては尋問にもなりかねないので,「親が子を思う気持ちで具体的に問いかける」と記してある資料もあります。

 <健康問いかけ 7項目>
  1. よく眠れましたか?すっきり起きられましたか?
  2. どこか痛いですか?だるさはありますか?
  3. 食欲はどうですか?食事はおいしいですか?
  4. 熱はありますか?動悸がありますか?
  5. 医者に診てもらいましたか?くすりを飲んでいますか?
  6. 夜更かしましたか?疲れはとれましたか?
  7. 遅くまで飲みましたか?飲みすぎていませんか?

 健康KYを行なった上で,必要に応じて水分補給や休憩,持ち場の変更などを行います。場合によっては病院の受診や帰宅を促すということもあるでしょう。ボランティアだったり参加費を払ったお客様だったりする場合は言いにくいですが,ご本人や周りの人,主催団体のためになるかどうかを考えて判断することが大切です。

(財)中小建設業特別教育協会「健康問いかけKY」, <https://www.tokubetu.or.jp/kyk/kyk05-1.html>(2018.08.15.閲覧)

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夏から秋はスズメバチの個体数が増える季節。この時期の屋外イベントで起きたスズメバチによる刺傷事故を3件ご紹介します。

 一つ目は平成26年8月24日(日)午前10時15分ごろ,神奈川県横浜市緑区にある「新治市民の森」での事例。現場は森をぬける遊歩道です。川崎ウォーキング協会主催のウォーキングイベントに参加した約300人のうち約15人がスズメバチ(種名不明)に刺されました。うち13人が病院搬送されましたがいずれも軽傷だったとのこと。

 二つ目は平成27年8月22日(土)午後14時前,現場は同じく横浜市緑区にある「三保市民の森」。NPO法人町田ウォーキング協会が主催するイベントで,参加者数約80人のうち10人がスズメバチ(種名不明)に刺され病院搬送されました。当日の報道では10人全員が軽傷となっていましたが,翌朝の新聞ではうち2人が入院の必要な状況と報じられました。

 三つ目は平成28年9月11日(日)午前10時20分ごろ。岐阜県飛騨市で行われた「第18回山の村だいこんマラソン大会」で,出場者697人のうち115人がキイロスズメバチに刺されました。そのうち30から40人が棄権,8人が病院搬送されましたがいずれも軽傷だったとのこと。コース中の橋の下にキイロスズメバチの営巣が確認されました。

 これらの事例が発生したのはいずれも8月下旬から9月上旬。現場には普段から人通りがあったけれど,イベントで特に大勢の人が通ったタイミングで起きたという点で共通しています。数十人数百人が歩くときの音や振動,不用意な参加者が与える刺激などが影響しているでしょう。主催者や事務局の方もコースの下見をしていたと思いますが,当日の音や振動が予想以上だったのかもしれません。下見では,音や振動が響きそうな場所にスズメバチが営巣できる空間(橋やデッキの下,軒先き,密な植え込みなど)がないか気をつけておき,巣や働き蜂の出入りがないかチェックするのがよいと思います。

 ガイドや指導者が帯同しない,もしくは目が行き届かないほどの大人数が参加するイベントでは,事前の下見がより重要です。夏から秋にかけてウォーキングや遠足,マラソン大会などを企画している方はぜひ丹念な下見を!

産経ニュース「スズメバチに刺され13人搬送 横浜・緑区」
https://www.sankei.com/affairs/news/140824/afr1408240020-n1.html (2018.06.19.閲覧)
若葉台2丁目南自治会のブログ「三保市民の森でスズメバチの襲撃?警戒情報です」
http://blog.livedoor.jp/imajun2011/archives/8941793.html (2018.06.25.閲覧)
防犯・防災 事件・事故・災害Archive「マラソン大会で『スズメバチ』に刺される事故(岐阜県)」
https://www.teguchi.info/dlt/18203/ (2018.06.19.閲覧)

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熱中症に注意する季節がやってきました。人口動態統計によれば,2016年に熱中症で亡くなった方は全国で621人。発生する場面で見ると15から19歳はスポーツ,30から59歳は労働,65歳以上は日常生活が多い傾向があります。
建設など屋外労働の場面で熱中症に気をつけたい人を対象とした資料「熱中症4つのパターン」が,里山保全活動や登山・トレッキングなどの野外活動にもあてはまると思ったのでご紹介します。

<熱中症4つのパターン>
 1.昨日のツケ型
   前日の飲み過ぎ,夜遊び,夜更かしで体調不良を起こすパターン。飲み
   過ぎの場合は体内の水分も不足しがちです。この場合,午前中から発症
   することもあるでしょう。午前中を静かに休養するのが大事。
 2.北極ハワイ型
   暑い屋外とエアコンを効かせすぎた室内・車内を行き来することで発症
   するパターン。激しい温度差は体調機能の低下を招いてしまいます。エ
   アコンの温度設定を室外と5度程度に調整することが望ましいとのこと。
 3.熱帯砂漠型
   そもそも作業や活動を行う場所が高温・多湿で通気性も無い場合。いく
   ら水分や塩分を補給しても対応できません。日除けや風通しの改善も考
   えられますが,そもそもの場所やプログラムの再検討が必要でしょう。
 4.飲み助の性(さが)型
   ビールを美味しく飲みたいがために午後の水分補給をしないパターン。
   ちょっと冗談っぽく聞こえますが,もし汗が止まるほどの状態になった
   ら危険信号。水分補給は午後もしっかり行いましょう。決して「昨日の
   ツケ型」へループしないように…。

この資料,安全教育ビデオや個人のブログなどに引用されているのを見かけますが,原典はわかりません。調べた範囲では熊谷組首都圏支店さんが製作したポスターが元かなあ?と思いますが,もしご存知の方があったらお教えください。

参考文献:
 環境省環境保健部環境安全課(2005発行-2018改定)熱中症環境保健マニュアル2018.
 厚生労働省「あんぜんプロジェクト」. http://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzenproject/
(2018.06.11.閲覧)

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 1960年代にトヨタ自動車とヤマハ発動機によって共同開発されたスポーツカー2000GT。1967年から70年の3年半に生産されたのは337台で,国内に現存するのは100台程度。映画「007は二度死ぬ(1967年)」ではショーン・コネリーが乗るボンドカーとしても採用された「幻の名車」と言えます。販売当時の価格で238万円で,現代の感覚では1,500万円から2,000万円程度に相当。しかし,それ以上の価値を感じる人は多いと思います(車に詳しくない私が語るのもアレですが)。

2014年6月に富山県南砺市の国道156号沿い,走行中の2000GTにブナの木が倒れてきて直撃しました。車は大破。倒れてきたブナの木は高さ30m,直径1.9mの大木だったそうです。

運転していたのは車のオーナーとは別の方で,打撲等はあったものの命に別状はなく何よりでした。とは言え,修理費用は1億円とも2億円とも報道されており,車のオーナーは修理を断念しています。
2016年4月,富山県の道路管理に問題があったとして,車のオーナーと運転者の2人が県を相手取り,車代と治療費など計約3,900万円の損害賠償を求めて富山地裁に提訴しました。今年2018年3月に和解。原告側に富山県が約1,787万円を支払うこととなりました。富山県道路課のコメントは「道路管理に問題はなかったと考えているが、事故が起きたのも事実。これまで以上に、道路のパトロールに努めていく」というものでした。

緑に関するNPOとしては,今後全国的に増えていくであろう「枯木や倒木のリスク」が気になりますが,この事故はそれに加えて,倒れた先が偶然にも幻の名車であったことで報道にも大きく取り上げられました。販売時の価格は238万円。それを現代に換算すると1,500万円から2,000万円。車のオーナーがこの2000GTを購入した金額は3,500万円。和解金額が1,787万円。
うーん…「幻の名車」のように特別な価値があるものの評価や判断って難し
そうです。特に損害保険会社による査定は趣味性を基本的に考慮せず、一般的な中古車として査定するという話も聞きます。賠償責任保険でカバーできるものなのかどうか勉強しておきたいと思います。

私たちも,森の手入れで樹木を伐倒する時や車の運転の時など,人様の財産を傷つけないように十分注意していきたいと思います。

参考文献:
 ウィキペディア. https://ja.wikipedia.org/wiki/トヨタ・2000GT (2018.05.15.閲覧)
 ITmediaビジネス「倒木直撃『トヨタ2000GT』、今も保管するオーナーの無念…
 訴訟和解も2億円の修理は断念」.
 http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1804/17/news043.html(2018.05.15.閲覧)

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