夏の時期に多い落雷事故について。

1996年8月の大阪府高槻市の落雷事故。同市で開催されたサッカー大会に出場して被災した男子高校生は重度後遺障害を負いました。その後の訴訟の結果,高槻市体育協会などは3億円を超える賠償金を支払うことになりました。裁判所が「落雷事故の責任を認めた」=「落雷事故は防ぐことができるものであると判断した」ということだと思います。

この訴訟にも一部関わった弁護士の望月浩一郎氏は,「落雷は防げないが落雷事故は防げる」と題した資料を公開しています。
※2022.08.08.追記 リンク先が変更されていたので最新版のページに更新しました。

ここで紹介された落雷事故防止の方法はとてもシンプルです。

 1)ピカッと光ったら逃げる。

 2)ゴロッと聞こえたら逃げる。

 3)雷雲が完全に消えるまで避難し続ける。

の3点です。
他にも訴訟の経緯や落雷事故の事例などがまとめられていて,スポーツに限らず野外活動を行う指導者にはぜひ読んでいただきたい資料です(2010年作成)。

個人的に注意したいと思っているのは「雨宿りの場所」。
濡れない場所で雨が止むのを待っている時,そこが安全な場所かどうか?建物の軒先や木の下などは危険です。例えば雷が建物に落ちた場合,電流は建物の壁に沿って流れます。その時に軒先に人がいると「側撃雷」と呼ばれる壁からの放電に撃たれるおそれがあります。木の下にいる場合も幹からの側撃雷があります。木の場合は幹から2m以上離れること。建物の場合は,外ではなく室内に入ることが大事です。

もう一つは,避雷針の有効半径は案外狭いということです。
2014年8月に愛知県扶桑町で起きた高校野球部の練習試合中の落雷事故。グラウンドのバックネットの支柱には避雷針12本が設置されていましたが,マウンド上のピッチャーは守れませんでした。通常,避雷針はその高さ分の半径しか有効ではありませんし,グラウンドや公園の全域をカバーするほどの避雷針を立てるのは難しい。避雷針があるからといって油断はできません。


ついでに,メガネや時計などの金属類を身につけているからといって雷が落ちやすくなるわけではありませんし,ゴム長靴やレインコートを着ているからといって落ちにくくなるわけではありません。雷ほどの電圧になると多少の金属や絶縁体はほとんど関係ないようです。

近年,落雷による事故やその死傷者数は減少傾向にあるそうです。落雷事故を防ぐための知識が広まりつつあるのだと思います。

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森林ボランティア限定の話題かもしれませんが,枯れ木伐採の注意点をまとめました。

いわゆる里山的な森の手入れは昭和30年代くらいまで普通に行われていました。その後,電気・ガスや化学肥料の普及に伴い,次第に管理放棄されていきます。現在,都市緑地や特別緑地保全地区になっているまちなかの森は,だいたい放棄されて半世紀ほど経った「かつての里山」と言えます。そんな「かつての里山」の多くは現在,枯れ木が非常に多い状態です。放棄されて数十年経って,常緑樹に負けたハゼノキやヤマザクラなどの落葉樹,寿命が短い傾向にある亜高木のクロキ,込み合いすぎてヒョロヒョロになった高木の常緑樹などが次々に枯れていく段階に入ったからです。

遊歩道や園路が通った緑地ではそんな枯れ木が事故の原因になることも考えられます。森林ボランティアでも枯れ木を伐採することがあります。通常の伐採とも重複しますが,以下のようなポイントには特別に注意したいところです(ノコギリなどの手道具での作業を想定しています)。

1)近づく前に,上方の枯れ具合をチェック。
全体的に枯れていて倒れそうな状態なのか,一部の枝が枯れて落ちてきそうなのか確認します。もしかすると,折れた枯れ枝が途中で引っかかって宙ぶらりんになっていたりするかもしれません。

2)足元の落ち枝の片付け。落ち枝で足元が散らかっていることも多いです。とっさの時に足にひっかけたりするかもしれませんし,伐倒した木に当たって跳ね上がったり飛び散ったりするかもしれません。事前の片付け,大事です。

3)全方向で樹高以上の距離,退避する。枯れ木は思いがけない方向に倒れることがあります。伐倒の担当者以外で見学やサポートを行う人は,倒そうと思っている方向からだけでなく360°全ての方向で樹高以上の距離をとって退避します。

4)伐倒のきっかけはロープで与える。伐倒の瞬間までノコギリを引いているのはマズイ。枯れ木は倒れる時の加速度で枝や幹が折れます。特に幹が「く」の字に折れて根元に落ちてきた場合が危険です。加えて,地面に倒れて枝が飛び散ることも多いため,伐倒時に周囲に人がいないようにすることが原則です。そのために,伐倒の担当者は慎重に受け口・追い口を作りつつ,樹冠が動きそうになったら速やかに退避します。退避を確認した上で,事前に張っておいたロープを引き安全な距離から伐倒のきっかけを与えます。引いても倒れないようなら,ロープを緩めた上で再度,慎重に追い口を進めて,退避とロープの牽引を繰り返します。このため,事前のロープ設置は不可欠です。

5)伐採中は常に上を確認。ノコギリの振動で枝や幹が折れる場合があります。樹冠が動きそうかどうかを確認する必要もあるので,伐倒の担当者は2,3回ノコギリを引いては上を見る,みたいな感じになると思います。もう一人が安全係として離れた場所から木の全体を見ておき「大きく揺れる枝がある」とか「樹冠が動き始めた」などの注意喚起をするのがよいと思います。ノコギリなど手道具での作業は大変ですが,お互いに声を掛けあえるという最大のメリットを活かしましょう。

6)ツルがほとんど機能しないことがある。もともと枯れ木は材に粘り気ががなく「ボキッ」「ボソッ」という感じに折れてしまいます。さらに部分的にグズグズに腐朽が入っていることもあります。通常の伐採は,受け口・追い口で切り残した「ツル」が蝶番のような役割を果たして,伐倒方向とスピードをコントロールするという考えですが,これがほとんど機能しないかもしれません。そのため,上記の360°退避,ロープで伐倒,常に上を確認が重要となります。

7)大風の後,雨の後の注意。
台風などの後,枯れ枝がよく折れています。途中で引っかかっていることもあります。また,腐朽が入ってグズグズになった箇所は雨が染み込みやすいので,雨が降った後は枯れ枝は水を含んで自重で落ちやすくなっています。大風や雨の後は作業前のチェックを念入りにしたいところです。


と,いろいろ書きましたが結局は「無理しない」のが一番。「枯れ木は通常の伐採の倍は危ない」と考えて,自分たちの手に負えない作業はやらないという判断が森林ボランティアにはもっとも大切だと思います。

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ガイドレシオ(guide ratio)という言葉があります。登山などでガイド1人が何人の参加者(顧客)を連れていくかという比率です。ガイド1人に対して参加者が10人の場合はガイドレシオ1:10です。例えば(公社)日本山岳ガイド協会の「ガイド対顧客標準人数比率に係る規定」では,

 里地里山の整備された自然観察路等___1:15
 安心して歩ける初心者向けの登山道___1:12
 縦走も含む中級者向け登山道________1:10
 岩尾根なども含む上級者向け登山道___1:5

などと定められています(積雪のない時期)。
現場のリスクの大小によってガイド1人が目配りできる人数は変わるという考え方ですね。他にも(一社)日本アルパイン・ガイド協会やガイド会社などで定めた規定があります。

グリーンシティ福岡はいわゆる山岳ガイドは行なっていませんが,自然観察会では1:15,近郊の低山を含むハイキング等では1:12を超えないような定員やスタッフ体制にしています。
このように登山以外の体験プログラムでも,ガイドレシオの考え方は役立つと思います。

例えば,小学生の子どもたちとの里山保全体験で,ヘルメットをかぶって手ノコで中低木(樹高2mから5m程度)の伐採を行うような場合。現場スタッフ1人あたり何人の参加者が適正でしょうか?
うーん,難しい。学校団体などで参加者が子どもだけの場合と,親子体験で保護者が付いている場合では違うでしょうし,貸し出す道具の種類や数によっても変わってきそう。あえて目安を設けるとしたら,子どもだけの場合1:8程度。親子連れなら3,4組(保護者と子どもが半々くらい)を担当するということで1:12程度でしょうか?

別の例では刃物を使ったクラフト体験。グリーンシティ福岡では,切り出しナイフで小枝を削る「森のえんぴつ」づくりを行ないます。15分程度の短い体験ですが,指を切るなどのリスクがある内容です。実際にこれまでは,小学校高学年なら1:3程度。小学校低学年なら1:1での指導してきたように思います。

活動内容や対象,周辺の状況によって一人のスタッフが対応できる人数は変わるので,一様に決めることは困難です。とは言え,上限としてガイドレシオを設けておくことは安全管理にもなりますし,体験プログラムの適正な単価・料金を守っていく上でも一つの根拠になると思います。

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参考文献:
(公社)日本山岳ガイド協会. http://www.sakura11.com/kmga/reshio.pdf
(一社)日本アルパイン・ガイド協会. 
 http://www.agsj.org/kyoukai/kiyaku/NAIKI_RATIO(h250115kai).pdf
(一社)日本旅行業協会. https://www.jata-net.or.jp/membership/info-japan/climbing-tour/pdf/201303tourclimb_guiderecio.pdf

環境保全を行なうNPOの活動に,企業が社会貢献やCSRとして参加されることがあります。例えば海岸清掃だったり,植樹や草刈など。そんな場合は,事前に保険についてお互いで確認しておきましょう,というお話です。

企業であれば,労災保険や勤務中の事故に対して掛けている各種保険で補償がきく場合もあります。参加した社員本人が怪我をした時の医療費(傷害保険),活動中に誤って人や財産を傷つけて発生した示談金・賠償金(賠償責任保険)の両方について,補償されるかどうか確認します。林業体験などリスクの高い活動は,補償の対象外になる場合があるので注意したいところです。

間違いがないのは,受け入れ団体側が加入しているボランティア保険や行事保険に加入すること。林業体験であれば「グリーンボランティア保険」など,それぞれ団体が活動にふさわしい保険の情報をお持ちのことと思います。

半年ほど前(2018年秋頃),企業の社会貢献を進める某全国組織から「企業ボランティアを受け入れてほしい」と依頼がありました。「無償で」ということだったので,最低限の条件として「参加企業側でボランティア保険に加入することが『必須』」と伝えると「それでは参加のハードルが高いので『必須』ではなく『推奨』にしてほしい」との回答がありました。内心「ちょっと何言ってるかわからない」と思いながら「保険料をお支払いいただければこちらで手続きしますので,ぜひ加入を」と返すと「それでも難しい」とのことで,受け入れ自体が見送られることになりました。

結局,物別れに終わったので私の伝え方が悪かったかなあ?と反省しかけましたが… いや,保険が「推奨」とかやばいでしょ。それは「フィランソロピー」じゃないなあ(笑)!

知らない間にリスクを背負い込んだり,相手に押し付けたりしないように気をつけたいですね。

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参考文献:
 加納社会保険労務士事務所「ボランティア活動中の事故〜労災保険給付との関係」
  http://www.sr-jinji.com/news26.html
(2019.05.15.閲覧)

何人かで活動する現場では,想定されるリスクや注意事項を共有することが重要。その意味では「話し方」や「伝え方」も安全管理の技術の一つです。
先日,建設分野の安全教育ビデオを見る機会がありました。場面は建設現場の朝礼。現場監督が作業員に対して,作業上の危険や注意を伝える時の「良い例」や「悪い例」を役者さんが演じたものです。建設現場の朝礼での「伝え方」では,次のようなポイントがありました。

(1)「言ったから伝わる」は間違い。
「ベラベラ早口で一方的にしゃべる」「メモから目を離さず読みあげるだけ」「しゃべる順番が前後したりバラバラになったりでわかりにくい」。これでは,言ったけど伝わってない,言いっぱなしの自己満足です。
大切なのは,ゆっくり,具体的に言うこと。担当等があれば名前を呼びかけつつ伝えること。作業員の表情を見たり返事を待ったりして,伝わったかどうかの確認をすることです。
例:「○○さん,○○をお願いします。先月△△があったので,□□に気をつけてください。」

(2)マンネリになると伝わりにくい。
同じ作業が続くこともあります。連日同じ注意事項だと「いつも通りです」的な雰囲気になり,危機感や積極性が薄れてしまいがち。マンネリ打破のためには,伝え方やしゃべり方を変えるのも一つの手かもしれませんが,考えてみれば現場の状況が全く同じということはあり得ません。作業員の入れ替わり,作業の進捗,天候や気温の変化,作業者の体調,週のはじめと終わりなど,現場を取り巻く状況は日々変化しています。むしろ大事なのは現場を巡り,作業者の様子を見て日々の変化を捉えること。その上で,その日に必要な指示内容を伝えることだと言えます。

(3)「この人の言うことは聞きたくない」。
人間関係は大きく影響します。現場監督と作業員の個人的な関係性から「この人の言うことは聞きたくない」となることも起こります。そうなると,どんなに大切な内容であっても伝わりません。怒鳴ったり,頭ごなしに否定したりすることで関係が悪くなることもあるでしょうが,そうでなくても小さなことの積み重ねで人間関係がこじれることもあります。
「あいさつをすること」「他愛もない雑談をすること」「職種でなく名前で呼びかけること」などで,日頃からよい関係を作っておきたいものです。

ということで,建設分野の安全教育ビデオから学んだ「伝え方」のポイントでしたが,「作業員」を「参加者」に変えたら,自然観察のガイドやインタープリテーションにも共通することだな,と思います。安全な場づくりの基本はコミュニケーションかもしれません。

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失敗知識データベース」には,産業や科学技術分野を中心にいろんな分野の事故や失敗事例が蓄積されています。それらの事例から得られた知識やノウハウを発信しているありがたいサイトです。多くが工場や建設現場などの事例ですが,社会的にも話題となった「こんにゃくゼリー事故」や「六本木回転ドア事故」などの事例も入っています。
いろいろ経緯があってここ10年程の事例は入っていませんし,私たちに関係する野外活動や自然体験分野の事例はほとんどないのですが,それでもぜひ一度ご覧いただきたいサイトです。

このデータベース構築の中心となったのは東大名誉教授の畑村洋太郎先生。2000年に出た著書「失敗学のすすめ」は当時,話題になりました。「失敗学」とは,起こってしまった失敗に対し、責任追及に終始せず原因を究明し今後に活かしていく取り組みです。特に,同じ過ちを繰り返さないための対策やノウハウをどう社会に広めるか?を重視しています。

2005年に「失敗知識データベース」は当初,独立行政法人科学技術振興機構(JST)のプロジェクトとして立ち上がりました。その後2011年3月に事業仕分けによって「規模縮減」とされ,JSTによる運営は終了。2011年4月から畑村先生のサイト「畑村創造工学研究所」が引き取り,その後2017年に「NPO法人失敗学会」に移管され現在に至ります。

いくつか思うことがありますが,一つ目は「事故事例研究」や「ヒヤリハット研究」は「失敗学」のNPO・自然学校向けアレンジ版といった感じだなあ,ということ。いかに無理なく,日常の活動や業務の中に「失敗から学ぶ仕組みを織り込んでいくか」が肝心だと思っています。

二つ目は,いろんな分野を横断した大規模な失敗事例のデータベースは(有益だけれど)構築が大変だろうな,ということ。状況や組織文化などが様々であることに加え,営業秘密や個人情報の関係もあり,十分な情報を集めて記載することは相応のコストがかかるものだと思います。

三つ目は余談かもしれませんが,畑村先生は2011年6月から2012年9月,福島原発の事故調査・検討委員会の委員長を務めました(政府事故調の方)。このコラムを書いているのは震災から8年となる2019.03.11.。福島第一原発事故は「失敗知識データベース」のどの事例よりも大きな被害と影響をもたらしました。その教訓が今後に活かされることを願っています。

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「失敗知識データベース」. http://www.shippai.org/fkd/index.php(2019.03.11.閲覧)
畑村創造工学研究所. http://sozogaku.com/hatamura/index.php(2019.03.11.閲覧)
特定非営利活動法人失敗学会. http://www.shippai.org/shippai/html/index.php(2019.03.11.閲覧)

1990年頃から欧米の医療や安全管理の分野では「事故」を意味する単語として"accident"ではなく"injury"が使われるようになっているそうです。もともと"accident"は「思わぬ出来事」「神様のいたずら」「不可避の運命」といったニュアンスとのこと。「事故を思わぬ出来事のように捉えるのでなく,予測・予防するものとして捉えよう」という考えが背景にあります。

 一つの例が下記の参考文献の中でも引用されていました。医学の専門誌である「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(イギリス医師会雑誌:British Medical Journal)」の2001年の論説記事です。その記事のタイトルは「BMJ bans “accidents” / Accidents are not unpredictable」で「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルは"accident"(の語を使うこと)をban(禁止)する」と言っています。事故は予測不可能ではない,という強いメッセージですね。野外での体験活動や保全作業に関わる私たちも心にとめておきたい認識だと思います。

 一方,日本語で"accident"に近い言葉といえば「不慮の事故」。「思いがけない,予測不可能な事故」といった意味合いで一般的に使われています。
 ちなみに政府統計の人口動態調査では死因のカテゴリーとして「不慮の事故」があります。平成29年に「不慮の事故」で亡くなった方の数は40,329人でした。具体的にどんな事故が含まれているかと言うと「交通事故」「転倒・転落・墜落」「不慮の溺死及び溺水」「不慮の窒息」「自然の力への曝露」などです。溺死は浴槽での事故が多く,窒息は誤嚥など,自然の力への暴露は低体温症の割合が高いです。また,保険業界の「不慮の事故」とは「急激かつ外来かつ偶然の事故」と定義されていますので,業界によって多少意味は異なります。

 「不慮の事故」という表現が一般的に使われる場合,事故の被害者やその周辺の方々を慮っている面もあるかと想像しています。事故の原因や経緯を探っていくことは,誰かの(もしかしたら被害者自身の)責任や落ち度を追及したり,ともすれば被害者やご遺族を傷つける場合もあります。「思いがけない出来事だった」と包み込むような気持ちが現れた言葉なのかもしれません。
 とは言え,今後,同じような事故を起こさないためには「思いがけない出来事だった」で終わってはマズイ。警察の方は交通事故が「不慮の事故」だとは思ってないでしょうし,介護事業者の方は浴槽での事故や誤嚥を「不慮の事故」と考えていないと思います。冒頭の欧米の例のように,冷静に事故の原因を探り,予測・予防に努めていく姿勢が必要です。

 ちょっととりとめのない散文になりましたが,あえて「不慮の事故」という表現を選ぶ気持ちと,冷静に原因を探っていく姿勢。どちらもあってほしいと感じています。

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参考文献:
「「事故」という言葉を変える―accidentからinjuryへ」Medical Note. https://medicalnote.jp/contents/160318-014-XQ
(2019.02.06.閲覧)
「BMJ bans “accidents” 」PMCアーカイブ.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1120417/(2019.02.06.閲覧)

「事故死の予防とCDR」小児保健研究.https://www.jschild.med-all.net/Contents/private/cx3child/2017/007606/023/0574-0577.pdf(2019.02.12.閲覧)

1月9日に厚生労働省は,12月24-30日の全国のインフルエンザの患者数が1医療機関あたり11.17人となり,注意報レベルになったと発表しました。

ちなみに福岡県だと同じ週で13.59人。この定点医療機関の1週間のインフルエンザ患者の平均人数である「定点あたり報告数」が10人を超えると「注意報レベル」で,4週間以内に大きな流行が発生する可能性が高いとされています。さらに30人を超えると大きな流行と解釈され「警報レベル」となります。

福岡県内のインフルエンザの流行情報はこちら。(2019.01.09.閲覧)
http://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/seasonal-flu-alert-2018-2019.html
少しスクロールすると過去5年間の流行状況のグラフがありますね。2017-2018シーズンの「定点当たり報告数」は1月下旬の時点で80人を超えており大変な流行だったことがわかります。また2015-2016シーズンは全体的に時期が遅れて2月に入って本格化,3月でもまだピークが収まっていなかった様子がわかります。
いずれにしても1-2月はインフルエンザの流行期。体験プログラムや会議・ワークショップなどを企画運営する立場としては,目の前で「アウトブレイク」を起こさないように気をつけることも安全管理の一つと言えます。

そのためには参加者やスタッフ一人ひとりが予防に努め,体調が悪い時は出席しないというのが基本ですが,イベントの事務局としてできることもいくつかありそうです。
例えば,手洗い場所をアナウンスしたり,マスクしていてもOKと伝えたりすること。たまに気兼ねしてマスクを外す方もあります。室内のイベントであれば,休憩時間に窓を開けて空気の入れ替えをすること。グリーンシティでは経験がありませんが,施設管理者だったら加湿器の設置もアリかもしれません。湿度を高めることでウイルスの飛散が抑えられるそうです。

体験プログラムならではなのが,アイスブレイクを非接触系のものにすることです。ワークショップの冒頭で行う,短いゲーム形式の自己紹介や仲間づくりのことをアイスブレイクと言います。いろんな種類のワークがありますが,ペアを見つけて握手するなど,接触を伴うワークは流行期に行わない方がいいんじゃないかと思っています。

また「お茶コーナー」について。ワークショップの内容や長さによっては,クラッカーにジャムを乗せて食べられるようにしておくとか,ちょっとした軽食程度のものを用意することもあるでしょう。しかしインフルエンザ時期は,スプーンや取り箸を共用しないように市販の個包装のものにしておくのが無難。ただ,お茶コーナー自体はこまめにお茶を飲むことがインフルエンザ予防に効果があると思っています。

お茶コーナーの一角にはアルコールスプレーと使い捨てマスクを置いておき「ご自由にどうぞ」としておくのもアイデアです。スタッフが気が付いた時に,ドアノブやポットのボタンなどをアルコールで拭くのもよいかもしれません。使い捨てマスクは救急セットの中ではなく,使ってもらいやすい場所に出しておくとよいです。このあたりは,会場の雰囲気や出席者数にもよるので,どこまで準備するかはそれぞれだと思います。

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小さなお子さんに大人気の「きかんしゃトーマス」。その舞台であるソドー島のノース・ウェスタン鉄道では,シャレにならないくらい事故が多発しています。機関車たちが負けん気とかいたずら心とかを出して,ちょくちょく脱線したり鉄橋から落ちたり床屋に突っ込んだりするのです。局長であるトップハム・ハット卿は何度引責辞任をしなければいけないでしょう?そんな感じ。

テレビ版のトーマスには「じこはおこるさ」という挿入歌がありますが,なんかじわじわ面白い。トーマスやパーシーら機関車たちの事故が延々繰り返される映像にのせて「事故がほらおきるよ,突然さ。運が無いときはしょうがない,なんとかしよう」と少年合唱団が歌っています。
気になってネット検索したら,ブログで取り上げている方もありました。

機関車トーマスに見る日米の危機管理意識の差、あるいは「そんなのどうでもいいからこの歌を聞け」
https://yusato.exblog.jp/17823930/
(2018.11.19.閲覧)

日米,というか日英の危機管理意識の差かなるほど。
確かに,事故が起きるよに続く歌詞が英語では "Make sure you learn your lesson. You'll know better next time" となっていますが,同じ箇所が日本語で「二度とやらなければいいけど」と訳されていて,だいぶ雰囲気が違います。もともとは「そこから学べ,次はマシになる」くらいの意味ですね。全般に英語では「どうあっても事故は起こるものだから,そこから学んで次に活かせ」というメッセージがあったのに,それが薄れて日本語では「事故が起きるぞー事故が起きるぞー」という雰囲気に(笑)。それがじわじわ面白い理由の一つな気がします。

事故から学んで次に活かすには,このコラムでこれまで紹介してきたヒヤリハットの収集と研究,事故事例の収集と研究,SHEL分析やなぜなぜ分析などを使って是正報告書を書くことなどが効果的。いずれも「過ちから学ぶための仕組み」です。ヒヤリハット収集や是正報告書は自分たちの過ちから学んで次に活かすため,事故事例を集めるのは他の場所で起きた過ちから学んで次に活かすためです。

「事故は起きるべきでない」と強く思いすぎると,過ちを認められなくなったり,隠蔽したり,「想定外だ」とか言い出したりしそう。「事故が起きてもいい」と言いたいわけではありません。最大限の努力をしつつ,けれど時には「じこはおこるさ」と割り切って,事故時の対応やダメージの低減,その後の改善行動のための備えをしておきたいものだ,と思います。

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他のメルマガ・コラムに比べてマニアック過ぎると大変好評(!)の「安全管理のコラム」ですが,この路線で邁進する所存であります。
 今月は「なぜなぜ分析」について。トヨタ自動車が行なっていることで有名です。「なぜ?」を5回くりかえして,事故やヒヤリハットの原因を深掘りするというもので,英語でも「5Why」と呼ばれています。

 「なぜなぜ分析」でよく紹介されるのはある生産工場で「機械が止まった」という事例です。

  なぜ?(1回目)→「機械に強すぎる力がかかった」
  なぜ?(2回目)→「軸の潤滑が十分でなかった」
  なぜ?(3回目)→「ポンプが潤滑油を汲み上げてなかった」
  なぜ?(4回目)→「ポンプの部材が摩耗してガタガタだった」
  なぜ?(5回目)→「金属の切り粉が潤滑油に入っていた」
  では対策は?→「潤滑油系にろ過器を設置する」

というものです。1回目から4回目のなぜ?の段階で対策を考えてしまうと,部材やポンプの交換など安易な対症療法になり近いうちに再発してしまいます。なぜ?を5回くりかえしたことで「ろ過器の設置」という,より長持ちする対策にたどり着くことができた,というものです。

 里山保全活動や自然体験の最中の事故やヒヤリハットについても「なぜ?」を複数回くりかえして,原因を深掘りすることは効果的だと思います。けれど,うーん,あんまりうまくいかないこともあります。

 うまくいかないこともある理由の一つは,野外活動での事故やヒヤリハットはいろんな要素や原因が重なって起きるから,ではないかと思っています。例えば「ナタで左手を切った」事例に対しては,

 なぜ?(1回目)→「初心者がナタを使った」,「指導者が見過ごした」,
          「(使わない予定の)ナタを見える場所に置いた」,
          「直前の雨で材が濡れていた」,「時間不足で急いでいた」,,,

…など,いろんな原因が考えられ,続く2回目のなぜ?では,それぞれの原因にさらに複数の原因が考えられ…とツリー状に枝葉が広がっていきます。上記の機械が止まった事例のように一列に因果関係が並ばないのでややこしいですね。団扇のホネや葉っぱの葉脈のように広がっていくもんだとあきらめた上で,紙やホワイトボードに書き出しながら整理するのがよいと思います。

 うまくいかないこともあるもう一つの理由は,わりとヒューマンエラー(人によるミス)だからではないでしょうか。上記の「初心者がナタを使った」「指導者が見過ごした」などに対して「なぜ初心者なのに使ったのか?」「なぜそれを見過ごしたのか?」と本人に問いかけるのも,問いかけられるのも両方キツイ(笑)。起こしたミスへの向き合い方や,活動へのモチベーションは人によって違います。言い訳したり,自己嫌悪に陥ったりということもあるでしょうし,そんな状態でなぜ?をくりかえすのもなかなかできません…。
 ヒューマンエラーにたどり着いた場合,無理に「なぜ?」をくりかえさずに「対策」に移った方がよい場合も多いと感じています。対策の方向性も「A.どうすればそのヒューマンエラーが起きないか?」「B.そのヒューマンエラーが起きても大丈夫にするには?」の二つあります。

 「初心者がナタを使った」
   →×「なぜ,初心者なのにナタを使ったのか?」
   →A「どうすれば,初心者が(誤って)ナタを使わなくなるか?」
   →A「どうすれば,ナタの経験を積むことができるか?」
   →B「経験不足でナタを使っても,手を切らずに済むには?」

 「指導者が見過ごした」
   →×「なぜ,見過ごしたのか?」
   →A「どうすれば,見過ごさないか?」
   →B「指導者が見過ごしても,手を切らずに済むには?」

 「ナタを見える場所に置いた」
   →×「なぜ,見える場所に置いたのか?」
   →A「どうすれば,見える場所に置かないようになるか?」
   →B「見える場所に置いても,手を切らずに済むには?」

 「なぜなぜ分析」はすぐれた手法ですが「なぜ?」という問いは人の責任を追及しがちです。人は必ずエラーを起こしますし,機械の部品のように交換するものでもありません。そのエラーを減らす or 見過ごさない or 起きても大丈夫にする仕組みを作っていけたらいいと思います。

事故やヒヤリハットの原因を分析する時に参考になる考え方の一つが「SHELモデル」です。
SHELは"Software(ソフトウェア)", "Hardware(ハードウェア)", "Environment(環境)", "Liveware(人)"の頭文字。その事故の背景や原因,つまりリスク要因にどんなものがあるのか,ソフトやハードなどいろんな側面から洗い出しましょうというお話。(SHELモデルにはSHELL→mSHELL→P-mSHELLといろんな発展・派生があります。)

例えば,子どもたちのキャンプ活動を例にリスク要因を挙げてみます。

「S:ソフトウェア」は活動内容やプログラムにあたります。「休憩を取らずに外遊びするスケジュール」は暑い時期だと熱中症の原因になりますし,「ナイフを使ったクラフト」は刃物に慣れてない子どもたちだと怪我のリスクを高めるでしょう。練習や指導の時間を十分とらなければなおさらです。

「H:ハードウェア」は使う道具や施設のこと。「古くて傷んだアスレチック遊具」は飛び出た金具やササクレでの怪我を起こすかもしれませんし,「適切なサイズのヘルメットがない」といったことが事故につながる場合もあります。

「E:環境」は周辺の状況や気候などのこと。「気温と湿度が高い」と熱中症のリスクが高まります。「滑りやすい斜面」が滑落や転倒,「車の往来」が交通事故,「スズメバチやかぶれる植物」による被害などもここに該当します。

「L:人」については,「指導者や先生」「事故の当事者(怪我をした子ども)」「周りにいた子どもたち」など,立場で分けた方がわかりやすいです。「指導者が活動内容をあまり理解していなかった」「当事者の健康状態が優れなかった」「周囲がふざけたり邪魔をして集中できない状況だった」などが「人」に関するリスク要因として考えられます。

私たちは気をぬくと事故の原因を単純化して考えてしまいがちです。例えば,熱中症の事故だったら「今年は例外的に暑かったから起きた」とか「指導者の目配りが足りなかったから起きた」とかです。
しかし実際の事故は背景や原因がいくつも重なって発生することがほとんど。熱中症を例にすれば「今年は例外的に暑かった上に(E),当事者が朝から体調が優れず(L),指導者が目配り不足な状態で(L),日陰のない芝生広場で(E),水筒を持参せず(H),屋外遊びを1時間以上した(S)」から起きたのかもしれません。

なにより,いろんな側面からリスク要因を洗い出すと,具体的な対策や改善行動を立案しやすくなります。事故原因を単純化してしまうと,対策が「根性論」や「お題目」になりやすいので注意しましょう。

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万が一,事故が起きてしまった場合,その状況を記録し今後の対策に活かしていくことが大事です。グリーンシティ福岡では「是正報告書(事故)」という書式を用意して,状況の記録と対策の立案を行っています。建設業や施設管理などの現場では当たり前ですが,小規模なNPOや事業者,ボランティア団体などにも広まってほしい取り組みです。

 私たちの書式はA4判1枚にまとめています(画像参照)。組織によってA3判だったり数ページに及ぶこともあるでしょう。
 項目は基本的な事柄として「件名」「主催者」「発生場所」「発生日」「報告者と報告書の作成日時」。
 報告事項として「概要」「被災者」そして「発生状況」を分刻みで,事故の発生前からその後の対応の過程を記録します。発生状況があやふやなままだと,だれかに責任を押し付けたり,安易な解決策に飛びついたりしがちです。事実に基づいた有効な対策を立案するためにも,発生状況はきちんと残しておきたいものです。また,現場の見取り図や状況写真,イラストや文章での状況説明は下段に記載します。

 中ほどの「背景・原因」と「対策」の欄は,左右で対応させながら記入します。活動環境にどんな背景・原因があったかを左側に書き,矢印を引っ張って右側にそれを防ぐための対策を。現場のスタッフにどんな背景・原因があったかを書き,その右側に対策を,という具合に,様々な切り口から背景・原因を挙げ,対応する対策を立案していきます(改めて見るとうちの書式,「背景・原因」&「対策」の欄と図面等の欄を上下入れ替えた方が,考える順番としては正しいですね。なんでこのまま使ってるんだろう?)。

 この書式,私たちは「病院を受診するような事故・怪我」やそれ以外でも重大だと考えた場合に記入し,スタッフミーティング等で検討するようにしています。実際の出番はそんなにないはずですが(年に1回あるかないか程度?),このような書式を準備しておくことをお勧めします。

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 建設業界では安全管理についての取り組みが様々に行われています。研修のための教材DVDが充実しているのもスバラシイ。先日,某公園の運営スタッフで一緒に安全教材DVDを観る機会がありましたが,自然体験や保全活動を行う私たちにもとても参考になりました。その中から「健康KY」についてご紹介。

 KYとは危険予知の略です。一般的なKY活動では主に作業環境や内容,道具から想定される危険を洗い出し,対策や対応を検討します。一方,関係者(スタッフや参加者など)の心身の状態にも危険が潜んでいることがあります。「健康KY」は活動の前にスタッフや参加者などの健康状態を観察し必要に応じて個別に問いかけることで,事故を無くしていこうとする取り組みです。

 まず,リーダーや指導者は活動前にスタッフや参加者の健康状態を観察します。会場設営時のスタッフの動きや受付に集合した際の参加者の表情などです。具体的には以下の5項目が挙げられています。建設現場を対象にした項目なので表現や程度でそぐわない部分はあるかもしれません。

 <健康観察 5項目>
  1. 姿勢 シャンとしているか、うなだれていないか
  2. 動作 キビキビしているか、ダラダラしていないか
  3. 表情 イキイキしているか、明るいか、むくんでいないか
  4. 目玉 キリッと澄んでいるか、血走っていないか
  5. 会話 ハキハキとしているか、声の大きさ・ハリは
  (一人ひとりよく観察して異常をつかむ)

 次に,気になる人がいた場合は,直接問いかけて確認します。プライバシーに関わる内容ですので個別に尋ねることが重要です。また訊き方によっては尋問にもなりかねないので,「親が子を思う気持ちで具体的に問いかける」と記してある資料もあります。

 <健康問いかけ 7項目>
  1. よく眠れましたか?すっきり起きられましたか?
  2. どこか痛いですか?だるさはありますか?
  3. 食欲はどうですか?食事はおいしいですか?
  4. 熱はありますか?動悸がありますか?
  5. 医者に診てもらいましたか?くすりを飲んでいますか?
  6. 夜更かしましたか?疲れはとれましたか?
  7. 遅くまで飲みましたか?飲みすぎていませんか?

 健康KYを行なった上で,必要に応じて水分補給や休憩,持ち場の変更などを行います。場合によっては病院の受診や帰宅を促すということもあるでしょう。ボランティアだったり参加費を払ったお客様だったりする場合は言いにくいですが,ご本人や周りの人,主催団体のためになるかどうかを考えて判断することが大切です。

(財)中小建設業特別教育協会「健康問いかけKY」, <https://www.tokubetu.or.jp/kyk/kyk05-1.html>(2018.08.15.閲覧)

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夏から秋はスズメバチの個体数が増える季節。この時期の屋外イベントで起きたスズメバチによる刺傷事故を3件ご紹介します。

 一つ目は平成26年8月24日(日)午前10時15分ごろ,神奈川県横浜市緑区にある「新治市民の森」での事例。現場は森をぬける遊歩道です。川崎ウォーキング協会主催のウォーキングイベントに参加した約300人のうち約15人がスズメバチ(種名不明)に刺されました。うち13人が病院搬送されましたがいずれも軽傷だったとのこと。

 二つ目は平成27年8月22日(土)午後14時前,現場は同じく横浜市緑区にある「三保市民の森」。NPO法人町田ウォーキング協会が主催するイベントで,参加者数約80人のうち10人がスズメバチ(種名不明)に刺され病院搬送されました。当日の報道では10人全員が軽傷となっていましたが,翌朝の新聞ではうち2人が入院の必要な状況と報じられました。

 三つ目は平成28年9月11日(日)午前10時20分ごろ。岐阜県飛騨市で行われた「第18回山の村だいこんマラソン大会」で,出場者697人のうち115人がキイロスズメバチに刺されました。そのうち30から40人が棄権,8人が病院搬送されましたがいずれも軽傷だったとのこと。コース中の橋の下にキイロスズメバチの営巣が確認されました。

 これらの事例が発生したのはいずれも8月下旬から9月上旬。現場には普段から人通りがあったけれど,イベントで特に大勢の人が通ったタイミングで起きたという点で共通しています。数十人数百人が歩くときの音や振動,不用意な参加者が与える刺激などが影響しているでしょう。主催者や事務局の方もコースの下見をしていたと思いますが,当日の音や振動が予想以上だったのかもしれません。下見では,音や振動が響きそうな場所にスズメバチが営巣できる空間(橋やデッキの下,軒先き,密な植え込みなど)がないか気をつけておき,巣や働き蜂の出入りがないかチェックするのがよいと思います。

 ガイドや指導者が帯同しない,もしくは目が行き届かないほどの大人数が参加するイベントでは,事前の下見がより重要です。夏から秋にかけてウォーキングや遠足,マラソン大会などを企画している方はぜひ丹念な下見を!

産経ニュース「スズメバチに刺され13人搬送 横浜・緑区」
https://www.sankei.com/affairs/news/140824/afr1408240020-n1.html (2018.06.19.閲覧)
若葉台2丁目南自治会のブログ「三保市民の森でスズメバチの襲撃?警戒情報です」
http://blog.livedoor.jp/imajun2011/archives/8941793.html (2018.06.25.閲覧)
防犯・防災 事件・事故・災害Archive「マラソン大会で『スズメバチ』に刺される事故(岐阜県)」
https://www.teguchi.info/dlt/18203/ (2018.06.19.閲覧)

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熱中症に注意する季節がやってきました。人口動態統計によれば,2016年に熱中症で亡くなった方は全国で621人。発生する場面で見ると15から19歳はスポーツ,30から59歳は労働,65歳以上は日常生活が多い傾向があります。
建設など屋外労働の場面で熱中症に気をつけたい人を対象とした資料「熱中症4つのパターン」が,里山保全活動や登山・トレッキングなどの野外活動にもあてはまると思ったのでご紹介します。

<熱中症4つのパターン>
 1.昨日のツケ型
   前日の飲み過ぎ,夜遊び,夜更かしで体調不良を起こすパターン。飲み
   過ぎの場合は体内の水分も不足しがちです。この場合,午前中から発症
   することもあるでしょう。午前中を静かに休養するのが大事。
 2.北極ハワイ型
   暑い屋外とエアコンを効かせすぎた室内・車内を行き来することで発症
   するパターン。激しい温度差は体調機能の低下を招いてしまいます。エ
   アコンの温度設定を室外と5度程度に調整することが望ましいとのこと。
 3.熱帯砂漠型
   そもそも作業や活動を行う場所が高温・多湿で通気性も無い場合。いく
   ら水分や塩分を補給しても対応できません。日除けや風通しの改善も考
   えられますが,そもそもの場所やプログラムの再検討が必要でしょう。
 4.飲み助の性(さが)型
   ビールを美味しく飲みたいがために午後の水分補給をしないパターン。
   ちょっと冗談っぽく聞こえますが,もし汗が止まるほどの状態になった
   ら危険信号。水分補給は午後もしっかり行いましょう。決して「昨日の
   ツケ型」へループしないように…。

この資料,安全教育ビデオや個人のブログなどに引用されているのを見かけますが,原典はわかりません。調べた範囲では熊谷組首都圏支店さんが製作したポスターが元かなあ?と思いますが,もしご存知の方があったらお教えください。

参考文献:
 環境省環境保健部環境安全課(2005発行-2018改定)熱中症環境保健マニュアル2018.
 厚生労働省「あんぜんプロジェクト」. http://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzenproject/
(2018.06.11.閲覧)

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 1960年代にトヨタ自動車とヤマハ発動機によって共同開発されたスポーツカー2000GT。1967年から70年の3年半に生産されたのは337台で,国内に現存するのは100台程度。映画「007は二度死ぬ(1967年)」ではショーン・コネリーが乗るボンドカーとしても採用された「幻の名車」と言えます。販売当時の価格で238万円で,現代の感覚では1,500万円から2,000万円程度に相当。しかし,それ以上の価値を感じる人は多いと思います(車に詳しくない私が語るのもアレですが)。

2014年6月に富山県南砺市の国道156号沿い,走行中の2000GTにブナの木が倒れてきて直撃しました。車は大破。倒れてきたブナの木は高さ30m,直径1.9mの大木だったそうです。

運転していたのは車のオーナーとは別の方で,打撲等はあったものの命に別状はなく何よりでした。とは言え,修理費用は1億円とも2億円とも報道されており,車のオーナーは修理を断念しています。
2016年4月,富山県の道路管理に問題があったとして,車のオーナーと運転者の2人が県を相手取り,車代と治療費など計約3,900万円の損害賠償を求めて富山地裁に提訴しました。今年2018年3月に和解。原告側に富山県が約1,787万円を支払うこととなりました。富山県道路課のコメントは「道路管理に問題はなかったと考えているが、事故が起きたのも事実。これまで以上に、道路のパトロールに努めていく」というものでした。

緑に関するNPOとしては,今後全国的に増えていくであろう「枯木や倒木のリスク」が気になりますが,この事故はそれに加えて,倒れた先が偶然にも幻の名車であったことで報道にも大きく取り上げられました。販売時の価格は238万円。それを現代に換算すると1,500万円から2,000万円。車のオーナーがこの2000GTを購入した金額は3,500万円。和解金額が1,787万円。
うーん…「幻の名車」のように特別な価値があるものの評価や判断って難し
そうです。特に損害保険会社による査定は趣味性を基本的に考慮せず、一般的な中古車として査定するという話も聞きます。賠償責任保険でカバーできるものなのかどうか勉強しておきたいと思います。

私たちも,森の手入れで樹木を伐倒する時や車の運転の時など,人様の財産を傷つけないように十分注意していきたいと思います。

参考文献:
 ウィキペディア. https://ja.wikipedia.org/wiki/トヨタ・2000GT (2018.05.15.閲覧)
 ITmediaビジネス「倒木直撃『トヨタ2000GT』、今も保管するオーナーの無念…
 訴訟和解も2億円の修理は断念」.
 http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1804/17/news043.html(2018.05.15.閲覧)

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2018年2月,NPO法人自然体験活動推進協議会(略称:CONE)主催のリスクマネジャー養成研修会を受講してきました。CONEは自然体験や野外活動の推進・普及を目指す団体。その一環として安全管理の研修会にも力を入れています。

今回の「リスクマネジャー」の研修は,自然学校やエコツアーの事業者,公園の指定管理者などで「安全管理責任者」的な立場にいる人向けのカリキュラムです。そのため活動現場における事故防止以外にも,保険や日常のスタッフ育成,ヒューマンエラーの原因分析,事故後の謝罪会見など幅広い内容が取り上げられていました。
今回の受講をきっかけにグリーンシティ福岡でも日常の安全管理について以下の取り組むを行うことにしました。

1)保険内容の確認と見直し
 現在,イベントやボランティア活動の参加者を対象とした保険では,刃物を使った伐木作業に「グリーンボランティア保険」,それ以外の活動に「行事保険(年間の包括契約)」を掛けています。この行事保険の賠償責任部分の保険金額が十分でないと考えたため内容の見直しを行いました。加えてこれからはインバウンドによる訪日外国人の参加も考えられます。訪日外国人を対象とした際の保険適用範囲や保険金支払い時の懸念について確認を行いました。

2)ボランティアスタッフとの書面確認
 イベント時にご協力いただいているボランティアスタッフの皆さんにはとても感謝しています。一方で近年,参加者(特にお子さんとの)との接し方や写真撮影・SNSへの公開に関連するクレームやトラブルも耳にするようになりました。これまでボランティアスタッフの皆さんに活動内容や注意事項を説明する時は口頭のみがほとんどでしたが,イベント参加者,ボランティアスタッフ,グリーンシティ福岡それぞれの安全のために書面での確認を行うことにしました。

3)関連法規の再確認
 いわゆるコンプライアンス。私たちの活動では例えば,志賀島。その一部が国定公園なので「自然公園法」により伐木に福岡県の許可が必要な範囲があります。体験ツアーの送り迎えをしようと思った時は「旅行業法」に,応急手当ての時は「医師法」や「刑法(の傷害罪)」に抵触しないようにする必要があります。他にも「個人情報保護法」や「食品衛生法」など,これまでなんとなく知っているつもりだったものを,あらためて確認する必要があるなあと思った次第。毎月の月例ミーティングで一つずつ法律を取り上げて勉強していくことにしました。

安全管理は,指導者個人の技量に頼るのでなく,団体の仕組みや慣習にしていかないとなあ,と実感しています。

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先日(2018年2月6日),スペースX社が世界最大の推力を持つロケット「ファルコンヘビー」を打ち上げました。その動画を見ながら,宇宙開発の安全管理やチェックリストってすごそうだなあ,と考えていたら,2年前のX線天文衛星「ひとみ」の事故のことを思い出しました。

X線天文衛星「ひとみ」は2016年2月17日に打ち上げられ,3月26日に異常回転により破壊,その後,運用が断念されました。いくつもの問題やミスが重なったらしく姿勢制御できなくなった「ひとみ」。約310億円をかけたプロジェクトは宇宙の塵になりました。

JAXAは事故調査報告書の中の「今後の対策」の一つに「事業実施体制を見直す」と挙げています。その中に「プロジェクト管理に責任を持つ者と,成果の創出に責任を持つ者を別々に設ける(要約)」という趣旨の文章がありました。

分野は違いますが野外活動や環境活動でも大切な考え方かもしれません。

前者は,お金の管理や物品の準備,時間管理,参加者の心身の状態などに目を配りながら,着実に活動を遂行することを目指す役割。とても重要な存在ですが,これだけだと無事に活動はできるものの,面白みや充実感に欠けたり,モチベーションが下がっていくこともあるかもしれません。

後者は,より大きな成果を出したり,多くの参加者やボランティアに喜んでもらうために,もうひと押し!とがんばる役割。イベントを大きくしたり,次々と新しいプログラムに挑戦したりすることで,実績や話題になって良い面がある一方,安全管理が十分できなくなることも考えられます。

なんとなく「堅実な番頭さんタイプ」と「イケイケのリーダータイプ」を想像していますが,両者が一緒にいることがよい活動を行なっていくために大切なんじゃないかと思った次第。
異なる視点からの意見が得られることは,安全管理の面でも幸福なことだと思います。

参考文献:
 MONOist「『ひとみ』はなぜ失われたのか(前編)」. http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1607/08/news018.html
(2018.02.15.閲覧)
 sorae.jp「X線天文衛星「ひとみ」はなぜ失敗したか」. http://sorae.info/02/201_06_21_astroh.html(2018.02.15.閲覧)

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冬は焚き火によい季節。安全に気をつけて楽しみたいですね。

火を使う体験では着衣着火に気をつける必要があります。
着衣着火とは,着ている衣服に火が着いて燃え広がり火傷を負う事故のこと。40代以上の方は「おばあちゃんアイドル」として人気だった浦辺粂子(うらべ・くめこ)さんのことを思い出すかもしれません。朝,お湯を沸かそうとコンロに火をつけた際,和服の袂に火が移って火傷を負い,それが原因で亡くなられました。1989年のことです。また数学者でテレビにもよく出ていた森毅(もり・つよし)さんも,2009年にご自宅で料理中,着衣着火により火傷を負いました。その後の入院が長く続く中で亡くなられたそうです。

 

このように着衣着火は重度の火傷や死亡事故にもつながります。自宅で調理中の被災が多いようですが,屋外での焚き火も風にあおられたり誤って大きな火を作ってしまうことで着衣着火のリスクは高まります。
 
予防するには燃えにくい素材&作りの衣服を着ることが大事。起毛しているネルやフリースは空気を含んでいて火が広がりやすいので火を扱うには不向きです。袖や裾が広がっているものもうっかり火のそばに近づけてしまうことがあるので用心を。例えば,袖にファー素材がついた服で焚き火に薪をくべようとする人がいたら止めましょう,ということです(いないか…いや,いるかも?)。
 
万が一,衣服に火が移った時,あわてて走ってしまうとかえって風を起こして火が強くなります。その点でアメリカの子ども向け消防プログラムの一つ「Stop Drop and Roll(止まれ、倒れろ、転がれ)」は参考になります。まず,走らずに「止まれ」。そして「地面に倒れろ」。燃えているところを地面に押し付け,その上で「左右に転がれ」。顔を両手で覆って守りながら,衣服に着いた火を窒息消火させます。
 
倒れこむのは顔に火が上ってくることを防ぐ点でも意味があるでしょう。検証実験も行われていますが,回転速度は関係なく,体をなるべく地面と接触させるようにして転がるのが有効とのことです。
 
とは言えSDRはあくまで万が一の対応。そんな状況を起こさないことの方が大事です。
 ・風速計で風の強さを把握する
 ・周囲の可燃物から十分な距離をとる
 ・参加者に衣服についての情報提供や注意喚起を行う
 ・消火バケツを用意する
 ・着火剤としての落ち葉や紙類を入れすぎない
 ・火を必要以上に大きくしない
などを行いながら,焚き火を楽しみたいものです。
 
参考文献:
 ウィキペディア.https://ja.wikipedia.org/wiki/浦辺粂子(2017.12.31.閲覧)
 ウィキペディア.https://ja.wikipedia.org/wiki/森毅(2017.12.31.閲覧)
 埼玉西部消防組合「着衣着火をご存知ですか?」.
http://www.saisei119.jp/19/yobou/000867.html(2017.12.31.閲覧)
 金子公平ほか(2013)ストップ、ドロップ アンド ロールに関する検証. 消防技術安全所報50:122-128.
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寒い冬の時期の焚き火はとても楽しいです。

マシュマロは焚き火で焼くとまるで別の食べもののようにおいしい。火傷にも注意ですが,マシュマロを焼く時などに使う枝や串といったものにも気をつけましょう,というお話です。
 
1999年7月に起きた「割り箸事故」は当時メディアに盛んに取り上げられました。東京都杉並区の盆踊り大会。綿菓子の割り箸を咥えていた4歳児が転んで喉に刺し,翌日,亡くなった事故です。社会的に注目されたのは,その後の刑事及び民事訴訟で救急で対応した医師の過失が問われたからでしょう。救急医療のあり方に大きな影響を与えたと言われています。
 
焚き火や野外調理などの場面でそのような事故が起きないようにしたい。
そのためにも,枝や串,箸などを口にくわえながらはもちろん,手に握ったまま走らないように声がけしています。未就学や小学校低学年の子どもたちは,一度や二度の注意で守れるとは限りませんので,その都度,声をかけることになります。
 
枝や串の形状としては,先端をむやみに鋭くしない方がいいでしょう。
また,長さについては転んだ時に手に持った棒がちょうど顔にあたる長さ(20cm30cm)よりは,60cmかそれ以上の長さの方が安全じゃないかと考えています(そもそもマシュマロ用だとしたら短いと熱すぎて使えませんけれど…)。枝や串を使い終わった後どうするか?置き場を決めたり,回収したりするのもポイントです。
 
口に運ぶものではありませんが,オリエンテーリングやクイズラリーなどで使う鉛筆やボールペンにもハラハラしています。記入用のシートとペンを手に,各自でフィールドを歩き回ってクイズに答えたりゴールを目指したりする体験です。楽しくなったり,焦ってきたら走り出してしまうのも無理ありません。スタート地点の説明で「ゆっくり近づいて探してね」と伝えたり,刺さりにくい筆記具にしたり,タイムや順位を競わないルールにしたり,といったことに気を配っています。
 
「割り箸 事故」などで検索すると,参考文献二つ目のような記事も見つかります。発生件数や頻度はわかりませんが,現実に起こりうる事故だと言えそうです。
 
参考文献:
 ウィキペディア,
 https://ja.wikipedia.org/wiki/杏林大病院割りばし死事件(2017.11.18.閲覧)
 ヘルスプレス,
 http://healthpress.jp/2017/03/post-2851.html(2017.12.07.閲覧)
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